作・演出 石丸さち子×主演 鈴木勝吾が熱く語る、S-IST Stage『ひりひりとひとり』の稽古場で見えてきたもの
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(左から)石丸さち子、鈴木勝吾
石丸さち子が作・演出を務めるオリジナル作品、S-IST Stage『ひりひりとひとり』が2022年6月10日(金)~19日(日)、東京・よみうり大手町ホールにて上演される。
本作は、とある劇団に所属する舞台俳優・春男を中心に、6人の俳優と1人の音楽家によって紡がれるひりひりとした物語。2020年に新型コロナウイルスの影響で全公演中止となったため、今回が2年越しの上演となる。
初日まで1ヶ月を切った某日。都内にて稽古真っ只中の石丸さち子(作・演出)と鈴木勝吾(主演・春男役)の二人に話を聞いた。
ーー2016年の『Color of Life』で出会ったお二人ですが、お互いの印象を教えていただけますか?
鈴木:とにかく出会えたことがすごく嬉しかったのを覚えています。ここまで全てを投げ打って作品を作り、俳優と向き合う演出家がいるのかと刺激を受けました。そんなに向き合い続けたらものすごく消耗してしまうんじゃないか、いや、実際に消耗しながら向き合ってくださっていると肌で感じたんです。演劇が好きだということはもちろん、人としてそういう熱い方なんだろうなと。だからこそ『Color of Life』のあとも「会いたいな、話したいな」と思ったし、こうして縁が続いているのだと思います。
石丸:勝吾は子どもみたいに無邪気で自由。かと思うと、ものすごく老成した人のように哲学的なことを考えている。そして演じてみると彼の中に未分化なものが混沌とあって、いつ爆発するかわからない危険物みたいなところもある。それが私には面白いから、ずっと「火をつけたいな」と思いながら一緒にやってきました。彼は年齢や立場ということで人に垣根を作らない人なので、まるで友達のような感覚がありますね。
石丸さち子
ーー現在『ひりひりとひとり』のお稽古も進んでいるようですが、石丸さんから見て鈴木さんの変化は感じますか?
石丸:グッと変化しています! 演技者として自分を開放すること、コントールすること、その両方において幅を広げてきています。あと、計り知れないものすごく良い声帯を持っているので、歌にもまだまだ可能性があると思うんです。歌声をコントロールすること、そして自分自身が気持ちよくいることがお客様にとっても喜びになるということを、作品との出会いを通じて学んできたのだろうなという印象を受けています。
ーー鈴木さんは、石丸さんと一緒のお稽古でどんなことを感じていますか?
鈴木:変な話、怖いですね(笑)。僕、自分が気に留めない他人にどう思われても全く気にならない人間なんです。でも好きな人や大切な人から自分がどう見えているのかというのは、僕にとって大問題。稽古場にいるのはものすごく楽しいし、毎日稽古場へ行くのが楽しみでしょうがないんです。でも「さち子のレンズには何が写っているのだろう」という怖さがあります(笑)。
石丸:(笑)。
鈴木:「今回の勝吾はダメだな」って思われたくないし、でも自分が思うことはやりたいし……。そういう意味でプレッシャーがあるのは、年齢を重ねたんだろうなと思います。こういう感覚って、長く俳優をやっていく中で増えていくのかもしれないですね。
石丸:私はあまりNOとは言わずに「あなたの中から出してください」というスタンスの演出家だから、彼は自分がどこまでいけるかものすごく試されているんだと思いますよ(笑)。私は見えてきたものに対してストレートに「良い」と言うし、「物足りない」と言う。技術だけではできない台本なんですよ。勝吾が演じる春男は、俳優としての自分やコロナ禍という厳しい世情でどう生きているか、ということが反映される役。だからこそ無限大の可能性があるんです。演じた後に彼の中に大きな熱があって、「これでいいのか? まだもっと別のものがあるんじゃないのか?」と、いつも稽古場で考え続けている顔をしています。
鈴木:確かに、思考は止まらないですね。
鈴木勝吾
ーー鈴木さんは企画段階から本作に携わっているとうかがっています。『ひりひりとひとり』はどのように作られたのでしょうか?
鈴木:まず、一緒にやるならどんなものがいいかなという話を僕とさち子さんでラフにしていたんです。その中で生まれる言葉や、当時の僕が発したいことを匂いや色合いとして大きく受け取っていただいて、「じゃあこういうのどうかな?」とさち子さんに提案してもらった感じですね。
石丸:そうだね。最初に私が「勝吾の言葉を聞きたい」と言って、メールで言葉をダーッと送ってもらったんです。最近ノートに書いているようなことだと言いながら、散文詩のようなものを送ってくれました。あと、彼自身の人生も反映した方がいいのかなと思ったので、下北の飲み屋で勝吾の生い立ちを聞いたこともあったね(笑)。今思えば、彼が俳優としてどういうことに飢えているのか、どう開拓をしていきたいのか、といったことが大きな引き金になったかもしれません。そこから物語を作ることに関しては私に任せてもらいました。
ーー本作はミュージカルではありませんが、音楽もポイントになってくるようですね。
石丸:そうなんです。春男の耳にはずっと音が聞こえているという設定があります。チューニングが合わないときはただの雑音、チューニングが合うときは美しい音楽が聞こえるんです。これは、イギリスの神経学者オリヴァー・サックスが書いた「音楽嗜好症」という書籍で紹介されている実例なんですよ。自分の奥歯に詰めた金属が“鉱石ラジオ”の役割を果たすことによって、脳の中に直接音が聞こえてくるというもの。それを読んだときに、春男という人物が浮かび上がってきたんです。このことが彼の特性へと繋がり、鉱石ラジオの音楽家と繋がり、この繋がりこそが春男の心に凪を呼ぶ。今回の作品にうまくハマったなと思います。
石丸さち子
ーー台本を読ませていただいたのですが、演劇や俳優というものに対する愛やあたたかい眼差しを感じました。
石丸:よかったです! あまりにも多岐にわたる作品を演出している中、自分が書いたものを演出させていただく機会に恵まれたので、今私が生きている感覚を活かしたいと思いました。今、とっても傷ついている人が多いでしょう。俳優というのは自分の心も体も舞台上に置かなきゃいけないという、ものすごく繊細な作業をしているんです。私も若いときに俳優をやっていたので、そのときの感覚が今でも役に立っています。
そこで俳優の話にしようと思ったんです。傷ついた心や体がひとりぼっちになってしまわないように、という想いを込めて。みんな仕事場では決して出さないけれど、それぞれに痛みと孤独を抱えている。私たちの仕事が“ひりひりとひとり”であることは変えられないけれど、横を見れば同じように悩み苦しんでいる人たちがいると思うと、ちょっとホッとするよ。一歩踏み出せば、同じ過去を共有した仲間がそこにいるよ。そんな感覚をこの芝居で伝えたかったんです。
鈴木:演劇をやっていると、自分がこうしたいああしたいというものは確かにあるのだけれど、それらが報われるのは世界や社会やたったひとりの目の前の人へ貢献することなんだろうなって思うんです。それが理想であり、お芝居が生まれる瞬間でもあるのだろうなと。そんなことを今の稽古場で感じています。僕が演じる春男はすごくひりひりしていて、いろんなものを抱えている青年。稽古場に立っていると、実際にそこにいるみんなもひりひりしながら、でもあたたかいものを目指しているんですよね。この感覚を共有できている稽古場の時間が、愛おしくてしょうがないんです。
ーー舞台俳優が主人公の作品って、意外とあまりないですよね。バックステージもののようでちょっと趣が違いますし。
石丸:そうですね。俳優の日常ですからね。
鈴木:ひとりの俳優の日常であり、超個人的なことが描かれています。でも個人的なことだからこそ、個人的じゃないものに昇華されるんだろうなと、この作品に関してはすごく思うんです。演劇をすることって、ある意味社会から外れていると思うんです。でも、そんな人でも一緒なんだなって思っていただける気がします。
鈴木勝吾
石丸:そう。共感は呼ぶと思うんだよね。ただ、春男はすごく痛ましい時間を過ごすので、共感を呼ぶからこそひりひりし過ぎちゃうんじゃないかという心配はあります。ひりひりしたあとにそれを昇華させてあげる必要があるので、そのために物語終盤のとあるシーンをすごく大切に作ろうと思っています。
ーー『ひりひりとひとり』は2020年にコロナ禍で中止となり、2年の時を経て上演に至ります。その間、演劇をやることの意味を考える機会があったと思うのですが、今演劇をやる意味をどう考えていらっしゃいますか?
鈴木:言い方がすごく難しいし怖いんですけど、誤解を恐れずに言うと……自分が心からやりたいと思って選んでいることだから、それが何かのためになるとはあまり言いたくないなって。ただ、何かのためであってほしい、何かに繋がってくれたら嬉しいという想いはあります。演劇という娯楽が生命に関わることなのかと言われたら、正直手は挙げにくいです。ただ言えるのは、演劇をやっている人間として、僕には必要なものでした。コロナ禍で演劇が必要ないと言われてしまったり、作りたいのに作れない、行きたいのに行けない、作ったのに中止になるということは、ものすごく悔しくて悔しくて仕方ない。それは超主観的に、僕自身が悔しいんです。
最近は公演が再開してきて自分も舞台の上に立つのですが、そのときに客席のお客様の存在がなんてあったかいんだろうって。お客様はマスクをしているけれど、それでも表情や温度がめちゃくちゃ伝わってきて「今日まで生きてきてよかった。明日死んでも構わない」とまで思えるんです。それが僕にとっての演劇で、お客様もそうであったら嬉しい。この2年はそう思わせてくれる年月だったし、そのことを忘れちゃいけないなと思います。
石丸:この2年間はコロナの影響が大きかったけれど、いろんなものが暴かれて顕になる2年間でもあったと思うんですね。様々な演劇作品がある中で私は何を届けようかと考えたとき、残ったのは「どんな形であれエンターテインメントを届けたい」ということでした。痛ましいこと、苛立たしいこと、知らなければならいこと……いろんなことがあるけれど、私は何か心温まるもの、心弾むもの、希望を感じるものを共有したいんです。
『ひりひりとひとり』では主人公・春男のひりひりとした痛ましいものも共有することになるのだけれど、劇場を出たときには必ず「ああ、劇場に来てよかった」と思えたり、世界の色が少し優しく見えたり、いつもより季節の匂いを感じられたり、そんな風になるものを届けられたら。そのためにも、俳優たちと人間らしさをどこまでも追求して、演劇人としての技術もしっかり磨いて、毎回のお客様と真剣に出会っていきたい。劇場でお客様が何かを感じ取って、人生の一瞬がキラッとしたものになったなら、それにこしたことはありません。この2年間、お客様が劇場へ来てくださることが本当に嬉しかった! だから、演劇を通してたくさんのお返しができればいいなと思います。
(左から)石丸さち子、鈴木勝吾
取材・文=松村 蘭(らんねえ) 撮影=荒川 潤
公演情報
■日程:2022年6月10日(金)~19日(日)
■会場:よみうり大手町ホール
■音楽・演奏:森大輔
■出演:鈴木勝吾 梅津瑞樹 牧浦乙葵 百名ヒロキ 周本絵梨香 塚本幸男
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■公式Twitter @sist_stage