浜田一平、個展『それぞれ まちまち』で魅せるアートと音楽と人生と「生で見るとどんな人間にでも絶対に伝わる何かがあるんです」

2022.5.29
インタビュー
音楽
アート

浜田一平

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シンガーソングライター/イラストレーターとして活動する浜田一平が、個展『それぞれ まちまち』を、6月1日(水)~30日(木)eplus LIVING ROOM CAFE&DININGにていよいよ開催する。自身最大最長となる同展では、さまざまな素材に鮮やかな色使い×いびつなバランスで描かれた25作品を展示。会期中も似顔絵ワークショップと並行し、その音楽同様、日々に潜むドラマにインスパイアされた新作をどんどん追加する予定と、溢れる創作意欲を独特のタッチで落とし込んでいく、生きた個展となっている。さらには、6月3日(金)には自身の音楽キャリアにおけるキーマンであるSundayカミデ(ワンダフルボーイズ、天才バンド)を迎えたツーマンライブを実施し、個展の幕開けを歌でも彩る。

2011年、チャットモンチーらも賞賛の声を寄せた1stミニアルバム『午前三時のグライダー』を全国リリース。2016年よりSundayカミデ主催の関西の名物イベント『Love sofa』のレギュラーメンバーに。2019年には活動の拠点を大阪から東京へ。2020年以降はイラストレーターとしても5度の個展や期間限定ショップ「PEI」を展開するなど、近年は音楽/アートの両軸で表現活動をしてきた浜田一平。飾らない言葉で紆余曲折の人生を振り返ったインタビューの端々からにじみ出る人間味と表現者としての生きざまを、ぜひ見届けてほしい。自らを称し「遅れ過ぎたルーキー」と笑う彼の行く末に、並々ならぬ予感を感じるのはきっと私だけではないだろう。

「僕にもこんな絵が描けるんや……」と思った

――シンガーソングライターとして活動しながら、30代も半ばで全く接点のなかった絵を描き始めて。ミュージシャンが自らのジャケットやグッズを手掛けることはあっても、イラストレーターとしても活動するようになる人は珍しいと思います。まずはそうなったいきさつを教えてください。

2015年に家業を継ごうと親父の経営している会社に就職したんですけど、そう思ったきっかけは結婚で。「夢を追いかけるのもええけど、一度会社に入って働いてみるのもええんちゃうか?」みたいな感じで……当時でもう35歳だったので、かなり遅いんですけどね。

――その段階で就職する=若い頃とはまた違った決断の重さにもなりますよね。

とは言え、親父からは「ぷらぷら生きてたヤツがいきなりやれと言われても難しいと思うし、2年間の猶予をやるからその間に決めろ」と言われたんです。でも、うだうだ考えてたら結局やらへんなと思って、「じゃあ来月からお願いします」って。だって、2年経ったらもう37歳でしょ? 37歳のアホのボンボンがいきなり会社に横滑りしてきて、「すいません、次期オーナーは僕です」ってヤバいじゃないですか(笑)。だから、すぐにでもやろうと。

――音楽をやめるなら、もっと早いタイミングがあったはずで。むしろ35歳まで続けたのに、よくキッパリやめようと思えましたね。

僕は親父の言うことにすごく影響されるというか、今まで全く口うるさく言わなかった人が、真剣な顔をしてここまで言ったということは、相当な覚悟やろうなと思って。でも、やっぱり……辛かった、うん。「俺はこれから重い決断をするんやな」って。

――ただ、今、僕の目の前にいるのは会社員でも経営者でもないわけで。

結果的にはもう全然、うまくいかなかったです。絵を描き始める話にしては相当イントロが長いですけど(笑)。そりゃ親父の下でアルバイトから始めて、社員になって、店長になって……とコツコツ積み上げてきたところに息子がヌルッと入ってきても解せんやろうなと思ってたし、風当りの強さは十分に覚悟して入ったんですけど、まぁ反りが合わず(苦笑)。何とか精一杯のユーモアで返したりもしたけど、最終的にいわゆるパニック障害になって、電車に乗ることも、人と会うのも怖くなってしまって。

――まぁ、人と会うのが怖いのは今でも変わってないけれど(笑)。

それのMAX状態(笑)。それから親父が家に来て、僕の顔を見て「もう辞めるか?」って……。そこで、半年間ずーっと張り詰めてたものが一気に砕けて、おいおい泣いて。結局、会社を辞めることになったものの、まだ病んでるのでひたすら体が重い。そのときにふと、子どもの頃にプラ板に絵を描いて、トースターでチンしてキュッとなる遊びを思い出したんですよ。なぜか急にやりたくなって、引きこもってちょっとぷよぷよしたヒゲまみれの男が奥さんにプラ板を買ってきてもらい(笑)、当時、住んでたマンションのベランダから見た風景を描いたんです。それは今でも家に置いてますけど、「僕にもこんな絵が描けるんや……」と思った。別に今まで絵を描いてきたわけじゃなかったのにどハマりしてしまって、プラ板に絵を描いてはInstagramに上げるのが生きがいになって。

――例えば、関西では奈良にLOSTAGEの五味(岳久)さんがいて、彼は知人のSNS用に似顔絵アイコンを描いたことから音楽とはまた違うベクトルを見いだしていきましたけど、彼には絵の素養があったからまぁ分かる。でも、浜田一平は。

全くそういうわけではない(笑)。僕は『MINAMI WHEEL 2008』でライブを見てからLOSTAGEが好きになって、アイコンのことも知ってたし、五味くんの活動が気になってて。パニック障害も落ち着いていよいよ外出できるかもとなったときに奥さんが、「外に出るいい機会やし、LOSTAGEが好きなら五味くんがやってるTHROAT RECORDSに行ってみようや」と誘ってくれたんです。それでドキドキしながら夫婦でお店に行って、五味くんと初めて話して。僕がひたすら作ってたプラ板をあげたら、すごい戸惑ってましたけど(笑)。最初は完全に五味くんのまねで、五味くんみたいな線で描きたいと思ってましたね。

――最初はコピーから始めて、いずれオリジナル曲を書いていく感じにも似てますね。そこから今の画風を確立していったのは?

最初は無印良品の何てことのないペンで、五味くんみたいに白黒の細い線で描いてましたけど、やっぱりずっとモノマネをしててもカッコ悪いし、差別化するために色を付けたら離れられるかなと思って。今は小学生のときにみんな使ってたターナーの何てことのないアクリルの絵の具です(笑)。

――浜田一平の描く人物像は極端に細長かったり、顔が異様に小さかったりする、いびつな人間というか。

細いペンで描くとコントロールも細かくできますけど、絵の具を使って筆で描くとなると難しいんですよ。でも、ちまちま描いてたらいい絵にならない気がするから、なるべく一筆で描きたい。となると、いびつなバランスになるんですよね。でも、それが面白いなと。

――色がそうさせて、道具がそうさせた。これというスタイルがなかったからこそ、筆に委ねられたのかもしれないですね。

いろいろと勉強したり練習したらそりゃうまくなるとは思いますけど、そんな絵を描きたいわけじゃなくて。それは音楽にも通じますね。誰々みたいな歌とか、音楽的にきちっとした曲を作ってても楽しくないというか、僕がリスナーやったら聴いててテンションが上がらへんと思うんで。

音楽も絵も1~2テイク目が最高

――それが今では、自分のグッズやジャケットだけでなく他のアーティストのそれも手掛けるようになり。2019年に上京して間もなくコロナ禍になって、音楽活動がままならない中では絵が生活の糧にも。

わざわざ東京に行ってまでバイトをするのは違うなと思ってたんですけど、すぐにコロナが始まって。「ライブができない、どうしよう?」となったとき、初めてやった配信ライブで、それの投げ銭と一緒に自分で描いた絵のTシャツとかをBASEで販売したら、すごく好評やったんですよ。そこで、これはもしかしたらいけるかもしれないと思って。

――ただのイラストレーターならこうはならないというか、音楽と絵の関係性が有機的で面白いですね。絵を描くようになって、音楽に対する感覚は変わりました?

絵はすごく自由で、何でもできると思えるんですよ。でも、音楽も本当はそうじゃないですか? だから今は、絵を描くように音楽を作りたいなと思ってます。音楽だけとか絵だけとか、どっちか一つだけだと視野がどんどん狭くなって、煮詰まって、思い詰める。でも今は、曲作りをしていて「あかん、もう分からへん」と思ったら絵を描けばいいし、絵を描いてて行き詰まったら曲を作ればリフレッシュする。それはすごくいいことやと思ってますね。

――音楽と絵に共通するところと、逆に違うなと思うところは?

音楽も絵も1~2テイク目が最高。曲作りでもだいたい最初に思いついたメロディが最強だし、絵も一緒で、何か不自然な感じになったと思って描き足したら、もっとおかしくなる。だから集中して、なるべく一本の線で描きたいんですよね。ただ、音楽は長くやってきた分、こう思われたいとか思われたくないとか、しょーもない考えがすごい邪魔してますね。要らない知識もぎゅうぎゅうに頭に入ってしまってるから、どの手を使っても難しい。車に乗ってて駐車場を探してるのに全部埋まってる、みたいな感じ(笑)。絵は何もない土地でどこでも停められる、っていうか停まらなくてもいいぐらい。絵は誰にどう思われてもいいと、まだ思えてるんですよね。

――絵に関しては、「見た人にほんのひとときでいいからパッと花火が上がるような、水面に波紋が広がるような、自由でいいんだというインスピレーションを湧かせたい」とのことですけど、音楽に対してもそういった思いはあります?

ありますね。例えば、ワンダフルボーイズを初めて見たとき、バックの演奏が始まって焦らしに焦らしてからSunday(カミデ)さんがステージに登場するんですけど、歌い出した瞬間に「みんな自由でいいんや」という声が聴こえてくるぐらいのオーラが出てるんです。それと同じように、音楽でも「自由でいいんだ」と伝えたいのはあります。

――でも、音楽を作るときは全然自由じゃない(笑)。いろんな経験値が渋滞中という感じですね。

そう(笑)。音楽は近くになり過ぎてるというか、自分の中にあり過ぎて。でも、東京に来てから、音楽に対する愛しさがすごく湧いてきたんです。絵をずっと描いてるときに、「ギターを弾いて歌いたい!」と思うことがあって、歌うとスーッとするんですよ。「これは自分にしか思いつかないメロディやな」と思える曲ができたときは感動するし、ライブでお客さんと一つになれてるときに、やっぱり自分には音楽が必要だと思うんですよね。

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