海洋堂のフィギュア塗装の匠が語る『わけあって絶滅しました。展』ーートイカプセルや展示物の原型製作、塗装の裏側とは
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海洋堂塗装師(原型師)古田悟郎によるフィギュア
シリーズ累計90万部突破の大人気図鑑『わけあって絶滅しました。』(丸山貴史 著)が今夏、初の大型展覧会で登場する。7月22日(金)~9月4日(日)、大阪の南港ATCホールにて開催される『わけあって絶滅しました。展』では絶滅生物の貴重な化石や標本が展示されるほか、アンモナイト掘り体験や、生き残った貴重な動物の生態展示も展開される予定だ。「無敵すぎて絶滅」、「アゴが重すぎて絶滅」など、まさかの理由で滅んだ生き物たちについて学べる、これまでにない展覧会。今回は、フィギュアの製作を担当した海洋堂の塗装、造形師の古田悟郎にインタビュー。絶滅した動物のリアルなフィギュアはどうやって作られるのか? 大人も子どもも夢中になれるフィギュアの世界の裏側をお届けする。
海洋堂塗装師(原型師)古田悟郎
――今回の『わけあって絶滅しました。展』でフィギュアの製作を担当したのは海洋堂さん。フィギュア好きなら誰もが知る、高い造形技術で有名な模型制作の会社です。現在は鉄道やフィギュア、食玩など様々な種類の模型を手掛けていますが、元は模型店が始まりなんですよね。
1960年代に模型店として始まり、80年代のはじめにプラモデルなどのガレージキットと呼ばれる模型を制作、販売するようになりました。当時はアニメや特撮系のおもちゃ、プラモデルは元のキャラクターと似ていない、あまり出来がよくないものが多かったんですね。それを自分たちで作ったほうがいい! と思って作り始めたのがキッカケで。『ゴジラ』のキャラクターは映画などの作品ごとに造形が異なりますが、そのフィギュアをよりリアルなものとして制作したのは海洋堂が初めてでした。それ以降、様々なフィギュアを手掛けるようになりました。
――90年代に「チョコエッグ」というお菓子の食玩を手掛けたことで、海洋堂は一躍有名になりましたよね。食玩ブームの火付け役として、これまでに様々なフィギュアを制作されているかと思います。小さな子どもから大人まで知っているのは、カプセルトイで出てくるオモチャ。おかげで動物やキャラクターの模型やフィギュアは、身近な存在になりましたよね。塗装、造形師として活躍する古田さんは、海洋堂ではどんなお仕事を担当されているのでしょうか。
僕は塗装師としての仕事が中心です。「原型師」と呼ばれている、フィギュアや模型の原型を作る人は海洋堂にたくさんいるんですけど、塗装もすごく大事な仕事です。ガレージキットは、お客さんがバラバラの模型から自分自身で組み立てて色を塗りますよね。でもチョコエッグや『北斗の拳』などのアクションフィギュアを作り始めた頃から、塗装されていることが当たり前になったんです。いま海洋堂には塗装師は何人かいて、僕は動物担当です。海洋堂から出ている動物のフィギュアはほぼ全部僕が塗装していますね。色塗りでフィギュアの雰囲気をどう作っていくか。僕ら塗装師が「海洋堂らしさ」を生み出しているといってもいいのかもしれません。
――確かに、フィギュアの塗装はキャラクターや動物の再現性を高める重要な仕事ですね。「海洋堂らしさ」はどんなところにあるのでしょうか。
よりリアルであることはもちろん、「カッコ良い!」と思ってもらえる塗装が海洋堂らしさを生んでいると思いますね。
――「カッコ良い」を作るため、フィギュア制作の行程について教えてください。
最初は原型師が原型を作ります。いまはパソコン上のデジタルでも作りますが、画面上だと分からないことも多いので実際に3Dプリンターなどで出力していきます。そこから型を取って原型を作る。デジタルがない時代は粘土でひとつひとつ製作していましたね。
――フィギュア制作で3Dプリントを使う、便利な時代になりましたね。
でも、デジタルといっても作業の細かさは変わらないんです。小さなパーツを作るにしても、デジタルでも粘土でもやっていることは変わらない。ただ、大きさを変えたり、ミラーリングといって左右のパーツの片方を作ることで簡単に立体像を作れたりと便利なことは多いですね。ただ、粘土だと自然と重力のある空間で像を作れますが、デジタルだと画面上での製作になる。そうなると、どうしても重力のないフワフワとした感じの造りになってしまうんです。そこをどう対応していくかが難しいところですね。
海洋堂ホビーランドで実施されているワークショップで使われる絵の具
――そして、古田さんは原型師が作った模型に色を塗っていく。そこは手作業で?
そうですね。デジタルで色付けもできるんですけど、僕はデジタルに疎くてまだまだそこには追い付いていなくって(笑)。海洋堂の塗装師はみんな手作業ですね。
――色を塗る塗料なども特殊なものを使っているのでしょうか?
戦車模型などのプラモデルを塗る、ラッカー塗料を使っています。
――そういった塗料は昔から変わらないんですね。
変わらないですね。今はいろんな塗料が出ていますが、ラッカー塗料は丈夫で劣化しないですからね。
――古田さんの担当は動物がメインとのことですが、動物の塗装作業で大事にしていることはありますか?
生きている、現生の動物に関してはその通りに塗らないといけない。例えばトラだと、アムールトラとベンガルトラでは微妙な違いがありますよね。それぞれの個体の違いを調べたりして、塗装をしていきます。さらにその模型を大量生産する際に、工場でもきちんと塗装ができるように考えながら作業をしないといけない。サンプルが工場から戻ってきたときに失敗したなーと思うこともありますからね。
――塗装の配色を決めるだけでなく、工場で大量生産できるための色塗りの指示も考えないといけないのですね。
海洋堂では「PM(ペイントマスター)」と呼ばれる、塗装のベースとなるフィギュアを作るんです。工場ではそれをもとに何万個と作られていく。塗装師の仕事はフィギュア作りにおいて、重要な役割を持っているんです。
――動物の模型造りや塗装をメインにお仕事をされている古田さん。経歴を見ると、動物の専門学校を卒業されているそうですね。そこから模型の世界に入るのは、当時でも異例だったのではないですか?
そうですね(笑)。小さい頃から動物が好きだったんですけど、当時はネットもない時代だったので、動物関連の仕事に就くにはどうしたら良いのかわからなくて。紆余曲折して海洋堂のショップ店員として入社したんですが、海洋堂の人間なら造形や塗装もできないとと、英才教育を受けました。
カプセルQミュージアム わけあって絶滅しました。立体図鑑 全5種 (c)海洋堂
――生粋の動物好きだったことが今に繋がるんですね。動物のフィギュアや模型を制作する際、現生する動物はネットや図鑑などの資料が多くありますが、絶滅動物の模型は骨格や個体の色など、再現が難しそうです……。
例えば、今回用意するカプセルトイ「カプセルQミュージアム わけあって絶滅しました。立体図鑑 全5種」の中で、僕が原型製作から担当した「プラティベロドン」は象の仲間なんですね。象は現生している動物で、今でも動物園などいろんなところで観ることができます。さらに、生態的に近いカバの雰囲気も掛け合わせて、フィギュアの色に現実味を帯びさせています。塗装を担当した「メガテリウム」はナマケモノの仲間。現生するナマケモノの茶色っぽいカラーを資料で調べたりして塗装していきました。
――絶滅して実際に目にすることはできないけど、その動物の仲間や進化した動物をたどっていくことで色を決めていくんですね。
絶滅動物も、意外と今の現生する動物と変わっていないんじゃないかと思っています。僕の持論ですが、イルカやクジラは遺伝子の元をたどればウシとかラクダの仲間なんです。イルカやクジラの色を良く観察すると、同じウシ科に属するトムソンガゼルとかの瞳の雰囲気が似ているんですよね。体の模様も過眼線(目を横切る線)があったりマイルカなど模様パターンが同じかもしれない。僕の想像でしかないですが、そういう観察から塗装の参考にしています。
――日頃から図鑑や映像を観たり、勉強が欠かせないんですね。
勉強と思っていなくて、楽しみながらやっていますね。自分の生活の一部、マンガを読むような感じですね。
『わけあって絶滅しました。展』
――今回『わけあって絶滅しました。展』に向けて制作されたカプセルトイや、イープラスで販売している特典
最終的な完成までにスタッフの監修なども入りますが、最初に作るベースとしては完成まではだいたい1日くらいですね。チョコエッグのフィギュアを作っていた時代は1日に4種類も作ることがありましたけど(笑)。
――これまでに制作したフィギュアの数はどれくらいあるのでしょうか?
……もう覚えてないですね(笑)。チョコエッグでは2~300種類は作りましたし。1,000種類は超えているんじゃないですかね。
――ベースとなる塗装は1日で完成するとのことでしたが、造形開始から完成、お客さんの手元に届くまでにはどれくらいの時間がかかっているのでしょうか?
ものによりますが、半年はかかりますね。下手したら1年かかることも。
ーー今回のカプセルトイもそれくらいの時間がかかっているんですね。
そうですね。製作そのものはかなり時間が経っているんで、作った自分が忘れちゃうこともありますね(笑)。
プラティベロドンの原型(右)と、デジタルで縮小させて塗装したペイントマスター
――今回の取材では、カプセルトイ「わけあって絶滅しました。立体図鑑」の実寸サイズを拝見しましたが、目の前にはさらに大きなサイズの原型があります。これは何に使われるんでしょうか?
実はこれが原型なんです。実寸サイズで原型を作ると、どうしても細部まで表現するのが難しい部分もあるんです。なので、大きなサイズの原型を粘土で作って、完成したものをスキャンし、デジタル上で小さくしていきます。それを制作総指揮をとる松村(しのぶ)さんにチェックしてもらって。
――これまでに1,000種を超えるフィギュアを手掛けてきた古田さんでも、原型製作にチェックが入るんですね。
昔からずっと松村さんがチェックをしています。そのチェックがまた厳しくて、胃が痛いですね(苦笑)。
――ちなみに、一発OKはありますか??
たまにありますね。でも、人とやり取りをしないと良いものは出来ないですね。僕も塗装をしているときに、赤っぽいのがいいな、緑っぽいのがいいなと考えながら作っていきますが、特に絶滅した動物は正解がないじゃないですか。実際にいる動物もいろんなタイプがあったりする。商品にするにはどうしたら良いか、僕ひとりの判断よりも他のスタッフからの意見があったほうが良いものができますからね。
海洋堂塗装師(原型師)古田悟郎とマチカネワニ
――古田さんは『わけあって絶滅しました。展』では、展覧会で販売されるカプセルトイの制作、塗装だけでなく、これまでに製作した絶滅動物の模型なども一部展示されるんですよね。
マチカネワニなど、これまでに僕が製作した模型のいくつかが展示される予定です。
――マチカネワニも絶滅していますが、現生するワニは数多くの種類が存在しています。筋肉や骨格の作りなどは参考になるものも多そうですね。
そうですね。でも、マチカネワニに関しては伝説的な面白さを取り入れてみました。実はマチカネワニは龍の正体じゃないかと言われる動物なんです。「逆鱗に触れる」の語源、龍の体の一部にある鱗に触れると激しく怒る。その逆鱗をマチカネワニのアゴの下あたりに実際に作ってみたりして。
――模型からストーリーを想像することができるんですね。
そうなんです。マチカネワニの模型も怒っているところを表現しています。動物は動くもの。動いていなくても、休憩していたり寝ていたり、餌を狙って待ち伏せしていたり。その動きを再現するようにしています。
プラティベロドン
――絶滅した動物だけど、そういったシーンを想像して観るのも楽しそうですね。古田さんが造形、塗装を担当された『カプセルQミュージアム わけあって絶滅しました。立体図巻 全5種』の中のプラティベロドン。絶滅した理由は「アゴが重すぎて」という、思わずクスっと笑える理由です。アゴを強調するような造りも面白いですね。
知らないうちに強調しまくってしまったかもしれないですね(笑)。骨の骨格をトレースして、そこに肉付けして、色は現生する象やカバを参考にして。
――今回イープラスでは数量限定で、7月に発売されるシリーズ初の絵本『わけあって絶滅したけど、すごいんです。』と、限定カラーのメガテリウムのフィギュアがつく特典
実は現生するナマケモノにもコケが生えたような白っぽい毛皮の種類もいるんですよ。それをトレースしました。
チケット特典の色違いメガテリウム (c)海洋堂 ※実際の商品とイメージが異なる場合あり。
――すでにメガテリウムは絶滅しているので、こういった毛の色だったかもしれないと想像するだけで楽しくなりますね。今回の展示は7月22日(金)から9月4日(日)まで、子どもたちにとっては夏休みにあたる期間での開催となります。生粋の動物好きで、動物のフィギュアを数多く手掛けてきた古田さんから、オススメの楽しみ方があれば教えてください。
動物は身近にいる存在ですよね。動物園にいるライオンやキリン、関西だと箕面や六甲にいけばイノシシやシカを観ることもできるし、もしかすると絶滅した動物の子孫を見ることができるかもしれない。川や海にもたくさんの虫や動物がいる。今回の展示をきっかけに動物に興味を持ってもらえたらいいですね。
――『わけあって絶滅しました。』シリーズは累計で90万部を超える人気シリーズです。この本をきっかけに動物に興味を持つ子どももいるかもしれないですよね。
このシリーズが出る前は大人が読んでも難しい、真面目で堅いイメージの本が多くて、子どもにとってはとっつきにくいものばかりでした。『わけあって絶滅しました。』は入門書にぴったりだし、ちょっと笑えてしまう。面白い要素は読んだ人の心にも残りやすいですよね。
――今回の展示では『わけあって絶滅しました。』シリーズに登場する絶滅動物の立体模型や骨格標本を観ることができます。さらに、アンモナイト掘りや触れる化石の展示もあったりと、楽しみ方も様々です。そして古田さんをはじめ、海洋堂が制作した「カプセルQミュージアム わけあって絶滅しました。立体図鑑 全5種」シリーズのカプセルトイを購入することもできます。精巧に作られたフィギュアはつい飾りたくなりますが、子どもたちにオススメの遊び方はありますか?
遊び方は自由。水の中にいた動物はお風呂で遊んだりするのもいいかもしれないですね。僕らが子どもの頃はヒーローのフィギュアを砂場で遊んだりもしていましたし。カプセルトイ、何が出るか楽しみにしてください。
カプセルQミュージアム わけあって絶滅しました。立体図鑑 全5種 (c)海洋堂
取材・文・撮影=黒田奈保子
イベント情報
■会期 2022年7月22日(金)~9月4日(日) ※45日間 ※会期中無休
・海洋堂の限定フィギュア
・サトウマサノリ著、今泉忠明・丸山貴史監修
『わけあって絶滅したけど、すごいんです。』
ダイヤモンド社刊
販売期間:5月14日(土)10:00~ ※なくなり次第、終了となります。
販売先:イープラス
※各商品は会場でのお渡しとなります。
※実際の商品とイメージが異なる場合がございます。あらかじめご了承ください。