楠木ともりインタビュー 4thEP『遣らずの雨』リリース 「情景が浮かぶ楽曲になった瞬間が、曲が完成したと思える瞬間」
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『遣らずの雨』通常版ジャケット
声優・シンガーソングライターとして精力的に活動を続ける楠木ともりの4th EP『遣らずの雨』がリリースされた。2021年12月にはKusunoki Tomori Birthday Live 2021『Reunion of Sparks』を有観客で開催し、大盛況を得た彼女。今回のEPは”雨”をテーマとし、珠玉の4曲が収録されている。果たして今回の4曲で表現したかったのは何だったのか。そして、インタビューの中で見えてきた楠木ともりならではの楽曲制作アプローチとは。大いに語ってもらった。
■雨の日、それは特別な1日
――前回のインタビューが『narrow』のリリースの時なので、その時から約半年が経ちました。まずはこの半年間を振り返っていかがでしたか?
声優としてたくさん活動させていただいた半年間だった印象があります。出演させていただく作品も増えて、多くの方に観ていただけて本当に嬉しい半年間でしたね。あとは、アーティスト活動としても大きなトピックとしてKusunoki Tomori Birthday Live 2021『Reunion of Sparks』の開催がありました。
――2021年の年末ですね。東京公演を現地で見させていただきましたが、すごく印象に残るライブでした。
ありがとうございます。メジャーデビュー以降は世の中の情勢もあり、お客さんを前にしてのワンマンライブをなかなか開催できなかったんです。なので『Reunion of Sparks』はひさびさの有観客ライブでしたね。それと同時に、あのライブは私のバースデーライブということもありましたから、皆さんに思いっきり楽しんでいただけるような構成を意識したんです。
――そんな大仕事を経て、EP『遣らずの雨』がリリースされることとなりました。制作はいつ頃から始まったんでしょうか?
『Reunion of Sparks』が終わってすぐですね。最初は「次回作のテーマをどうしようか?」と打合せからスタートしてます。
――一息つく間もなく、という感じですね。そこで決まったテーマが”雨”ということだった、と。
その打ち合わせの時に「次回のEPにこんな曲を入れたいんです」という話をしたんです。そうしたらスタッフの方から「EP全体のテーマを”雨”にしませんか?」とご提案いただいて、それを聞いて「雨をテーマに曲を作るのもいいな」と。
――”雨”と聞いてイメージが広がるものがあったということですね。
日本って”雨”というものに対して多様な呼び方を持っていたり、それにまつわる言い伝えがあったりするじゃないですか。それを考えたら”雨”っていろんな角度から描くことができる。そうすれば広がりのあるEPが作れるだろうと思ったんです。加えて、今回のEPのリリースが梅雨時を予定していましたから、それもちょうどいいかな、と思ったんです。
――確かに、タイミング的にもピッタリですね。ちなみに楠木さん自身は”雨”に対してはどんな印象を持っているのでしょうか?
ネガティブなイメージがつけられがちの雨ですけど、私は結構雨の日が好きなんです。雨の日は普段は聴かない音楽をかけて、普段とは違った過ごし方をする。雨の日は特別な1日になるな、という印象があって。
――雨の日にしか味わうことのできない特別さがある、ということですね。
そうですね、それを教えてくれたのは一つの音楽だったんです。音楽の教科書に新沢としひこさんの「雨ふり水族館」という曲が載っていたんですよ。「雨の日の景色はいつもと違って見えるよね」という歌詞で、この曲を知って、雨の日って特別な日にできるということに気づかされました。
――音楽の教科書に載っていた一曲が人生観を変えたと。この曲と出会っていなかったらEP『遣らずの雨』も生まれていなかったかもしれないわけですね。
そうかもしれないです。
『遣らずの雨』初回Aジャケット
■そっと寄り添ってくれるところを透明感あるサウンドに乗せて
――先ほどのお話で、”雨”というテーマが決まる前から構想を描いていた曲があったというお話をしていましたが、どの曲になるのでしょうか?
二曲目に収録されている「山荷葉」です。でもその時は山荷葉という花について書こうというより、和な雰囲気の曲にしたいという方向性だけ考えていて。
――ということは「山荷葉」こそがEP『遣らずの雨』の出発点だった、ということですね。
この曲の構想がなかったら”雨”をテーマにEPを作ろうと思わなかったかもしれません。
――そんな「山荷葉」ですが、雨に濡れると花びらが透明になることで知られている小さくて白い花だったかと思います。
普段はただの小さくて白い地味な花なんです。その主張しすぎない、そっと寄り添ってくれるところを透明感あるサウンドに乗せて歌いたいと感じました。
――なるほど。そんな透明感あるサウンド、編曲を担当しているのがarabesque Chocheですね。
構想の時点からこの曲の編曲はarabesque Chocheさんにお願いするしかないと思っていたんです。2nd EP『Forced Shutdown』に収録されている「sketchbook」でも編曲をお願いしているのですが、まさにあのサウンド感こそ今回の楽曲に求めているものだと思って。
――確かに、透明感のあるサウンドを、と考えたらarabesque Chocheさん以上の適任はいないと思います。お願いする時もやはり「山荷葉」の花の話をしたんですか?
花の話に加えて、私がこの花から思い描いた風景の話もお伝えしました。
――風景、ですか?
この花のことを思い浮かべると、その背景に野山が見えてくるんです。日本的な野山の中でシトシトと雨が降っているところに「山荷葉」が咲いている。まさに今回のリリックビデオに登場するような森林の風景なんですよ。
――なるほど、確かに「山荷葉」の楽曲を聴いて思い浮かべたのもまさにこういう風景でした。
こういう自然の風景って憧れがあるんです。私、東京出身で、常に都会のせせこましさに触れて生きているので…時々こういう自然に触れて癒されたいな、なんてことを思って。
――その気持ち、すごくわかります。東京で日々暮らしていると、疲れると森林浴したいな、なんて思ったり(笑)。
思うことありますよね(笑)。今はまだ出かけづらい状況が続いているので、せめてこの曲を聴いてそんな気持ちになってほしいなと思っています。
「山荷葉」
■描きたかったのは、苦しんでいる人に寄り添おうとする人の苦しみ
――改めて一曲目からお話うかがいたいと思います。今回のEP、再生開始するとまず耳に飛び込んでくるのが楠木さんの「雨が……」という言葉、早々に心を掴まれました。
「遣らずの雨」の編曲を担当して下さったラムシーニさんから、頭に何かウィスパーボイスを入れようという提案をいただいて。ただ、どういう言葉を選ぶかは迷いがあったんですよ。
――最初からあの部分のセリフ、「雨が……」に決まっていたわけではないと?
はい、最初は仮の案として「雨が……」だったので、それを吹き込んで制作を進めていったんです。ただ、結果的にこの言葉が一番想像できる余白があるし、誰が言っているかによって視点が変わる。フックがあるフレーズだったので、そのまま採用しました。
――すごくしっくりきているセリフでした。あのセリフから激しいサウンドに移行するところなんかはすごく土砂降りを感じられましたから。
そう思っていただけたのならよかったです! あそこはまさに土砂降りの雨を思い描いてもらいたい部分だったので。
――まさに狙い通りの印象を受けました。加えて、そこから続く重厚なストーリーともすごくマッチしていたかと思います。
今回の歌詞、重たい印象になったと自分でも思います。「遣らずの雨」で描きたかったのは、苦しんでいる人に寄り添おうとする人の苦しみ。苦しんでいる人に寄り添うには、その人の苦しみを理解しないといけない。でも、極限まで理解すると寄り添っている側もどんどん苦しくなってしまう。そのストーリーを考えながら歌詞を書いていきました。
――なかなかに描くのが難しいテーマなんじゃないかと思うのですが、歌詞を書くの大変ではなかったでしょうか?
とにかく夢中で自分の内側から出てきた言葉を歌詞としてぶつけていった感じで、大変だったという感じではなかったですね。出来上がったものを改めて見て、生の感情が出た歌詞になったとは感じています。
――心の底から出てきた言葉が歌詞になっている、ということですね。
「遣らずの雨」