今の時代に潜む阿修羅を掘り起こしたい 『阿修羅のごとく』演出・木野花インタビュー

2022.6.27
インタビュー
舞台

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1979年、1980年に放送された向田邦子の名作ドラマ『阿修羅のごとく』。2003年に映画化、2004年・2013年に舞台化もされた人気作が、演出・木野花、脚色・倉持裕のタッグで上演される。今回は登場人物とシーンを大幅にカットし、出演者は小泉今日子小林聡美安藤玉恵夏帆岩井秀人山崎一の6名のみ。色褪せない名作の演出を手掛ける木野花に、本作に対する意気込みや作品が持つ魅力を伺った。

令和の今、この作品に挑む意味

――木野さん自身もリアルタイムで見ていた作品ということで、まずは演出への意気込みを教えてください。

最初にプロデューサーから声をかけていただいたときは、いやいやと思いました。やっぱりプレッシャーが大きくて。なんでかと言うと、すごいドラマを見てしまったという強烈な印象が何十年経っても消えないから。感動もありましたけど、「ドラマでここまで表現するんだ」という衝撃がありました。向田さんの脚本に本気で向き合って戦おうとした役者陣もすごい。佐分利信さんがあの役で出ていたというだけで感動もので、緒形拳さんもそう。一人ひとりすごい迫力でした。あのキャスティングを超えられないと思っていたから、最初は「舞台化はないよ」と。

でもその後で、なんでダメなんだろう、なぜドラマがあんなに良かったんだろうと考え、改めて読んでみました。やっぱり名作だなと。本そのもの、そして向田さんのセリフの力が持つ鋭さや深さ、それから役者陣もインパクトがあって、当時のドラマとしてベストなキャスティングだったと思います。

描かれているのは明らかに昭和のお茶の間だけど、だからといって今回それを現代に書き換えるのはもったいない。昭和のままに今に甦らせる方法を考えました。時代を抜きにした時、この作品の大きなポイントは向田さんが“阿修羅”をお茶の間に持ち込んだことだと思うんです。それまでは『寺内貫太郎一家』のように、怒鳴ったとしても阿修羅の一歩手前でとどまって、笑いにしてた。「そこは踏み込んじゃいけない領域じゃない? どうするの?」という瀬戸際を見事に成立させた。阿修羅という言葉のもつ力強さと普遍性を感じました。阿修羅はどの時代、誰の中にも棲み着いている。今の時代の阿修羅を掘り起こしたらどうなるか、やってみる意味があるんじゃないかと思ったんです。今回はお茶の間じゃなく劇場で観ていただくので、舞台転換・構成をドラマから演劇に開いていこうと。そこで倉持さんに演劇的に脚色をしていただき、見事に書き上げてくださったので、私も腹を括りました。

ここまではうまく進んでいる自信がある

宣伝絵画:大宮エリー

――今回、キャストが6名のみというのもポイントかと思います。

キャスティングにあたっては、「自分に正直な人たち」ということを念頭に選びました。信頼できる人たちと一緒に戦いたいなと。

今回は四方をお客様に囲まれるので、逃げ場がない中でドラマが展開する。役者は大変だと思います。台本を読んでも、これはどうやるの? どうしたら成立するの? というくらい。見せ方は色々考えないといけませんが、ある意味で阿修羅と向き合う覚悟が持てるかと思います。

――令和の時代にこの作品を上演するうえで、脚本の倉持さんとはどんなお話をされましたか。

舞台にする中でどのシーンとセリフを入れたいかを、まずプロデューサーと話して、それを倉持さんに伝え、あとの流れは自由に考えてもらいました。時代性の部分は、令和といえば何かって言ったらまずコロナだなと。この芝居をやる上でも規制に次ぐ規制、束縛に次ぐ束縛の中で今までにない舞台をやろうとしている。今後も当面は窮屈だけど、それを面白がって取り組もうという覚悟をしています。

これまで演じられた『阿修羅のごとく』は、格調高いものが多かったと思うんです。今回、格調はないと思います。ただ、向田さんの胸を借りて本気で阿修羅と向き合うつもりです。今、世界中に阿修羅が蠢いているし、誰の胸にも住み着いている。その阿修羅と格闘技のように取っ組み合うのを面白がってくださる役者さんたちが揃いました。脚本もキャスティングも、ここまではうまくいっている自信がある。あとは稽古をやるだけです。

――キャストの皆さんとはもうお話になりましたか?

ビジュアル撮影の時に聡美さんと小泉さんには会いましたが、「やらなきゃって気持ちになった」とおっしゃっていました。玉恵さんは前から一緒にやりたいと言ってくれていてすごく喜んでくれましたし、夏帆ちゃんも前にKERAさんのお芝居でご一緒して。岩井さんと山崎さんは初めてですが、全面的に信頼というか期待しています。

――それぞれ二役を演じる男性陣への期待とは。

岩井さんは私立探偵と、四女と付き合っているボクサー。キャラクターは真逆ですが、どちらも社会からはみ出した人。岩井さんってちょっと奇人で、普通の役者がしない答えの出しかた、役作りをするので面白い。どんなはみ出し方をしてくれるか楽しみです。

山崎さんはどんな役でも信頼できるし安心して見ていられる。最初はすごく真面目な役が多かったけど、今は幅が広がった感じがします。山崎さんの二役はどちらも浮気する夫。現実では浮気をしなそうな山崎さんが演じたらどうなんだろうという期待があります。

向田さんのドラマは、ストーリーがすごく面白いですし、人間の描き方も深くて多面的。向田さんが書いたセリフを役者がどんなふうに言葉にしていくのか、掘り下げていきたいと思います。向田さんの脚本で色々な冒険ができるのが贅沢ですし、冒険に耐えうるセリフだからありきたりにしたくない。普通に上演しても完成度の高い作品ではあるけど、それはもう他の皆さんがやってくださっているので、令和で舞台化するにあたって違う角度から取り組んでみたいなと。ちょっと油断したらよくあるいい話で終わるかもしれない。それが嫌なので、このメンバーでどんな阿修羅が出てくるか、行けるとこまで行ってみたいですね。

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