12年ぶりに結集した〈寅組〉による第2回公演『ホーム』が、まもなく名古屋で上演

2022.6.12
インタビュー
舞台

寅組『ホーム』作家陣と演出家。前列左から・長谷川彩、にへいたかひろ 後列左から・演出の加藤智宏、新宮虎太朗、こじまけいこ

画像を全て表示(5件)


役者・スタッフ共に下は24歳から上は72歳まで、総勢40名近くの寅年生まれが結集した、その名も〈寅組〉による公演『ホーム』が、2022年6月16日(木)~19日(日)まで、名古屋・大須の「七ツ寺共同スタジオ」にて上演される。

寅組『ホーム』チラシ表  画/フジイフランソワ デザイン/小藤琴

2011年から現在に至るまで、〈perky pat presents〉として毎回プロデュース形式の公演を行なっている演劇プロデューサーで演出家の加藤智宏が、「寅年生まれであること」だけを参加資格として2010年に立ち上げたこの企画。第1回公演『もうすぐ夏だね、お父さん』(作:こじまけいこ&寅組、演出:加藤智宏)から12年の時を経て、再び寅年を迎えた今年2022年、第2回公演が行われる運びとなった。

今回の上演にあたって加藤は、まず初回メンバーの矢野健太郎喜蓮川不良坂下孝則(照明)らに相談を持ちかけ、そこから初回参加者らへ声を掛け、新規参加者の公募も実施した。また、寅年だと知った劇作家を誘い、参加を快諾した4人の劇作家──第1回公演でも劇作を担当した、こじまけいこ(爆乳シスターズ)と、以下初参加の新宮虎太朗(喜劇のヒロイン)、にへいたかひろ(よこしまブロッコリー)、長谷川彩(劇団さよなら)に劇作を依頼。同一テーマに沿って1人1作ずつ書かれた4本全体の台本構成をにへいが手掛け、演出は加藤が担当する。

今公演の全体タイトルである『ホーム』は、鉄道の「駅」や「プラットホーム」に由来し、「人々の故郷」や「居場所」の意味合いも含んでいる。立ち上げメンバーで最初に集まった際に話し合い、様々なアイデアが出た中で、“人がたくさん行き交う場所”が良いのではないか、ということで、このテーマが決定したという。

「私は最初の集まりには参加していないんですけど、たくさんの人が出入りしても不自然じゃない状況って何だろう? みたいなことで、いろんな人が集まってくるところのイメージとしても、実際の場所としても「駅」がいいんじゃないか、ということになったと聞きました。それをテーマに好きに書いてください、っていう感じで。具体的なイメージとしては、寂れすぎても栄えすぎてもいない「駅」だと」(こじま)

「その辺はたしか、にへいさんが言ったんですよ。準急が停まるような「駅」って」(加藤)

こうしたお題のもと、こじまけいこは『お月見山』、新宮虎太朗は『止めないでムーヴ』、にへいたかひろは『理由について』、長谷川彩は『パレード』を執筆。
作家本人による、それぞれの作品内容は以下の通りだ。

◇ こじまけいこ『お月見山』

「私の作品はすごく現実的な話です。“田舎の寂れた駅”というところから、そのままストレートに、遠距離恋愛をしている男女が彼の地元の駅に来ていて別れ話になる、というコメディです。本人達は大真面目だけど他人から見たら笑っちゃう、みたいな状況が元々好きなので。前回もそうですけど、今回も勝手に寅年の年齢の登場人物を想定して、24歳、36歳、48歳の人が出てくるものにしたんですけど、蓋を開けてみたらキャスト5人中4人が48歳、1人は60歳だった(笑)。最初は書き直そうかなと思ったんですけど、年齢はあくまでも最初の数字の設定なので、そこはもうあまり考えずにキャラクターとか人間性みたいなものを重視してもらって、あとは加藤さんの演出に託します(笑)。〈寅組〉という縛りがなければこうはならなかったことなので、逆にそれを面白いと思ってもらえたらいいな、と思います」

こじまけいこ作『お月見山』稽古風景より

◇ 新宮虎太朗『止めないでムーヴ』

「母と娘の親子の話です。僕は「駅」という題材をお伺いした時、出て行く人もいれば戻ってくる人もいるのが駅だなと思って、駅が無ければ「移動しないこと」は別に選択にはならないけど、駅があると「出て行けない」じゃなくて「出て行かない」になるなぁと思ったりしました。僕は24歳なんですが、今後は台本を書きたいと思いながら過ごしていた時に加藤さんからお声掛けいただいて、先輩方の皆さんと一緒にやらせてもらえることがすごく有難かったですし、強い地元グルーブ感みたいなものも感じました。同時に、周りで同じ年代で東京に出ていく人間が結構いっぱいいて、自分は「ここに居る」という選択をし続けてるんだな、ということをすごく思いました。内容を簡単に言うと、上京しようとしている娘とそれを止める母親の話なんですが、そういう構造の中で、設定だけじゃなくて何か伝わるものが生まれたらいいな、“動くものと止めるもの”という視点で描けたらいいなぁと。普段は自分と同年代の人とばかり芝居を創ってきたので、年の離れた関係性の2人のお話を創っても、今回はよりリアルな人物像が舞台上に立ち上がるんじゃないかな、という期待感を持って書き進めることができました」

◇ にへいたかひろ『理由について』

「最初に書いたのは4つのエピソードがあるオムニバスだったんですけど、最初と最後だけ残して、真ん中の2本は削りました。本当はこの2本の内容が濃くて話の大筋があったんですけど、台本構成をするにあたって、自分の作品は最初と最後のエピソードだけにした方が全体のバランスとしては正解なんじゃないかな、と捉えて。残した最初のエピソードの登場人物は写真家とモデルで、写真家が自分の出てきた街のことをモデルに語るという話です。最後のエピソードは、年老いた2人の男女の終幕を描いた作品ですね」

にへいたかひろ作『理由について』稽古風景より

◇ 長谷川彩『パレード』

「「好きに書いて」と言われことしか信じずに書いていったら、大変なことに(笑)。大まかに言うと、見えないものが見えている兄と、ちょっと頭の弱い妹の二人が駅にいて、兄にしか見えていない人達が兄に対していろいろやらかす、という話です。兄妹が旅に出る前の話で、今から旅に出ますよ、っていうところでごちゃごちゃやっている感じです」

また、作品全体についてはこんな意見も。

「私はお題をもらうと具体的に考えちゃうタイプですけど、他の方の作品を見たら、「駅」というワードでそういう捉え方をするんだ!という感じでした。自分だったらこうは出てこないな、っていう最たるものが長谷川さんの作品で(笑)。一つのお題だから似たような感じの作品になるのかなと、なんとなく思っちゃっていたんですけど、みんな全然違ってバラバラでしたね」(こじま)

実は執筆依頼の際、連絡ミスで共有されていない情報があり、ボリューム感の異なる台本が上がってくるなどのアクシデントが。結果的にそれが各作家の個性を際立たせ、バラエティ感を生んだ一因にもなったようだが、上演時間はできれば2時間以内に収めたいという意向もあり、台本構成を担当したにへいは、時間調整に少々苦労したよう。

「皆さんの作品が物語がきちんとあったので、切らなくちゃいけないところはあるけど物語のテイストは消さないようにしたのが苦労したところですね」(にへい)

同様に、演出面に於いてもさまざまな試行錯誤があったようだ。

「最初は4作品をシャッフルして組み合わせながら見せていく構成にしようと思っていたんですけど、稽古を重ねながら、ストレートに見せていった方がスッキリするし、わかりやすいなと。これだけテイストが違う作品が揃ったので、複雑に絡み合わせたらそれはそれで面白くなるのかもしれないけど、観ている方はひょっとしたら大混乱するんじゃないかなと思って、結局のところは解きほぐす形にしました。今回、ウクレレ奏者の川合ケンさんが寅年だとわかって引っ張り込んだので、それぞれの作品のブリッジに演奏してもらうことにして、一作ずつ単体で見せることに。川合さんには演奏だけでなく、役者でも出演してもらいます」(加藤)

楽器としてはウクレレの他にも、カリンバ、カズー、テナーサックス、アルトサックス、ギター、カホン、三味線などが演奏に使われるそうで、チラシの音楽担当欄には、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの名が。

「ベートーヴェンも寅年なんですよ。1770年生まれ。ジョン・コルトレーン(1926年生まれ)とマイルス・デイヴィス(1926年生まれ)もそう。ベートーヴェンとコルトレーンの楽曲を使おうと思っています」(加藤)

上記の楽器でベートーヴェンやコルトレーンの曲がどのように奏でられるのか、さらに歌やダンスも盛り込む予定というから、その辺りも楽しみにしたい。

また、今回は新たな出会いも求めて参加者公募も行なったことから、キャストだけでも19名と、前回を凌ぐ大所帯に。

「脚本を依頼された時に、たくさん出したい、って聞いた気がします」(長谷川)

「その時点では、まだどれだけ集まるかわからない段階でしたけど(笑)」(加藤)

今回の企画が立ち上がったのは新型コロナウイルスが感染拡大し始める前のことで、多くの人が参加する企画にもしたかったのだという。

「3年ぐらい前から動き始めないと、寅年ばっかりなんてそうそういるわけじゃないので…と思ったら、結構いたっていう(笑)。知らない人同士を繋ぐのが好きなんですね。ジャンルとかそうしたものを越えて、いろいろな人を出会わせていって、そこから何か新しい企画とか出てくればいいなと思って」(加藤)

出演者一同と演出家。前列左から・山口純、春田琴美、演出の加藤智宏、市岡貴子、 杉浦陽子 中列左から・神来社亘、江上定子、宮田頌子、川合ケン 後列左から・水谷正、岩田千鶴、喜蓮川不良、佐治みかこ、杏珠有

20代から70代まで、劇団や芸風の垣根を越えて多彩な顔ぶれが一堂に会する今回の公演。普段の活動領域とは異なる環境で、提示された「お題」に取り組んだ4人の劇作家たちに、今回の取り組みにあたって意識的に仕掛けたことや、挑戦してみた試みなどがあったのかどうかも尋ねてみた。

「自分で演出しないので、普段やらないことをやろうと思いました。いつもはわりとセリフを削るんですけど、今回はセリフを重ねるタイプのホンにしようと思って。1ページの1/3位ずっと一人で喋ってるみたいなところがいっぱいあって、書いていてすごく楽しかったです」(長谷川)

「いつもは登場人物の年齢をなんとなくのアバウトな設定にしているのを、はっきり決めて書いたところですね。自分は元々役者なので、脚本をもらったら自分の中にどうやって落とし込むか、という考え方でやってきてたから、どちらかというと、具体的に「あなたは何歳の人ね」って決めることが役者の足枷になると思っているので、普段なら細かい年齢設定はしないんです。それを〈寅組〉でしか出来ないと思ってやったんですけど、蓋を開けてみたら全然違うことになりました(笑)」(こじま)

「一番初めに書き上げる、ということは意識しました。いつも自分が演出することを想定して書くんですけど、なるべくそのまま見せる、ということにこだわったけど、どうなったか。あとは演出次第です(笑)」(にへい)

「いつもより幅広い層に向けて、実際上演された時には観た方がどう思うかはちょっとわからないですけど、僕としては言い回しだったり、出てくる小ネタみたいなことや固有名詞とか、そういうものはできるだけ多くの人がわかるようなものにしよう、と。言葉として、ある世代だけに通じるような偏りがないように、というようなことは意識しました」(新宮)

干支に因んだ企画だけに、12年に一度というスパンの長すぎるレアな公演だが、早くも次回、第3回公演の実施も話題には上っているとか。

「なんで他の干支の人達はやらないのかな? と思って。戌年の人達で『南総里見八犬伝』とかやればいいのに(笑)。動物の性質で言うと虎は単独で行動しますけど、寅年の人間は意外と集うな、と。他の干支組も〈寅組〉でプロデュースするのもいいですね。生態系の通り、しもべのように扱うかもしれませんけど(笑)」(加藤)

尚、今回の公演は鑑賞者にも寅年特典が用意されているとのことなので、寅年の方は観劇の際、年齢証明書の携帯をお忘れなく。

取材・文=望月勝美

公演情報

寅組 第2回公演『ホーム』
 
■作:長谷川彩(劇団さよなら)『パレード』、新宮虎太朗(喜劇のヒロイン)『止めないでムーヴ』、こじまけいこ(爆乳シスターズ)『お月見山』、にへいたかひろ(よこしまブロッコリー)『理由について』
■台本構成:にへいたかひろ(よこしまブロッコリー)
■演出:加藤智宏(office Perky pat)
■出演:杏珠有美、市岡貴子(花咲)、伊藤順一、岩田千鶴(gateau au fromage)、江上定子、神来社亘、川合ケン、喜蓮川不良(てんぷくプロ)、佐治みかこ、杉浦陽子、トラコ(座・なかむら)、長門明日香(劇団栞ちゃんのしおり)、春田琴美(劇団Harp Country)、藤井英子、ホーリー、水谷正(サンミュージック名古屋)、宮田頌子(オレンヂスタ)、矢野健太郎(てんぷくプロ)、山口純(天然求心力アルファ)

 
■日時:2022年6月16日(木)19:00、17日(金)19:00、18日(土)14:00・19:00、19日(日)14:00
■会場:七ツ寺共同スタジオ(愛知県名古屋市中区大須2-27-20)
■料金:一般3,500円、学生以下2,000円 ※寅年特典あり。学生以下または寅年の方は年齢を証明できるものを受付で提示。
■アクセス:名古屋駅から地下鉄東山線で「伏見」駅下車、鶴舞線に乗り換え「大須観音」駅下車、2番出口から南東へ徒歩5分
■問い合わせ:
090-1620-4591(office Perky pat:加藤)
寅組 toragumi.202206@gmail.com
予約 https://www.quartet-online.net/ticket/toragumi2022
■公式サイト:寅組2022 https://mobile.twitter.com/toragumi_2022