『スラムドッグ$ミリオネア』が音楽劇に! 主演の屋良朝幸が語るその魅力とは?
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屋良朝幸
クイズ番組に挑むスラム街出身の青年の半生を、インド社会が抱える問題を背景に描き出し、2009年にアカデミー賞8冠に輝いた『スラムドッグ$ミリオネア』。この映画の原作となった小説「Q&A」が、世界で初めて舞台化される。上演台本・演出は、演劇界で注目を集める瀬戸山美咲、主演を務めるのは、抜群のダンススキルと真摯な演技で観る者を魅了する屋良朝幸。さて、どんな音楽劇になるのか? 屋良に話を聞いた。
ーー音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』で主人公の青年ラムを演じる屋良さん。日本でも大ヒットした同名の映画のことは、ご存じでしたか?
はい。僕は10年以上前にボリウッド映画(インドのムンバイで製作される映画)にハマったことがあるんです。よく行っていたインド料理店の人が、面白いよと教えてくれて。めちゃくちゃ体格がよかったり、年配に見える俳優さんも、みんな歌とダンスのシーンになるとキレッキレに踊るのが僕には衝撃的で、映画『スラムドッグ$ミリオネア』も、貧しい子どもたちの厳しい状況が描かれているのに、最後はやっぱりショーアップされていて、面白いなあと思いました。今回、音楽劇にするということで、これはハマるんじゃないかなという予感があります。
ーー舞台版の上演台本は、映画の原作となった小説をもとに書かれているそうですね。どんな印象ですか?
僕は、映画よりもファンタジー要素があるなと感じました。というのも、小説版にはコインで運命を決める場面があるんです。登場人物の役名や設定もちょっと違っていますし、そういう部分を舞台でどうエンターテインメントに見せるかが、ひとつのポイントになるのかなと思います。もちろん、クイズ番組に出て難問を解いていくスラム街出身の青年が、インチキ容疑で捕まって……という大筋や伝えたいメッセージは一緒なので、自分でもインドの貧しい子どもたちのことや、その背景にある階級制度(カースト)について調べながら、考えていきたいと思っています。
ーー本作品の公式サイトの屋良さんのコメントに“「自分には何ができるのだろう」と漠然と考えていた中でこの様な作品に出演させて頂くことが決まり光栄です”とありますが、社会問題への関心は以前からあったのですか?
この作品の内容と直接関係するわけではないんですが、2年くらい前からSDGsや環境問題に関心を持つようになりました。家にいる時間が多くなった状況でもあったので、自分が好きな海の環境汚染について調べたり、そこから、ある国ではスマホを作るのに必要なレアメタルを、貧しくて学校にも行けない子どもたちが採掘していると知ったり……。そういう問題に対して、今の自分にできることはないかな? と漠然と考えていた時に今回のお話をいただいたので、自分の中では何か繋がるものを感じたんです。
ーーそうだったのですね。ラムという人物には、どういった印象をお持ちですか?
悲惨な状況の中で、自分が生きていくためにはどうしたらいいのか? と常に考えながら、いろんな知恵を身につけてきた青年、という印象です。気になるものを知らないままにしたくない性格なんでしょうね。小さい頃から、なぜこれはこうなのか? ということにすごく興味を持っていて。もちろん、生きるために知恵が必要だったことも大きいとは思うんですが、その興味の持ち方が面白いなと思います。
ーー今回の舞台には、生バンドや群舞のほかに、パルクールが取り入れられるとか?
そうなんです。僕が出るからには、ダンスはあるだろうなと思っていたんですが(笑)、パルクールは意外でした。実は、たまたま僕の知り合いにパルクールの研究をしている方がいて、しかも知り合ったのは音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』に出演が決まるほんの少し前なんです。それで、これはもう運命だなと思って、その方を僕から東宝さんと瀬戸山さんに紹介させていただいて、一緒にやらせてもらうことになりました。
ーーすでにパルクールの練習をなさっているそうですね。手応えはいかがですか?
やっぱりダンスとは全然違いますね。普段あれだけ踊っているから余裕だろうと思っていたら、まだ基礎練習なのに、次の日とか筋肉痛で歩けなくて(笑)。でも楽しいです。僕は子どもの頃から、球技よりも体操系の運動が好きだったので。とか言いながら、中学では“モテるから”というよくあるパターンでバスケ部だったんですけど(笑)、パルクールの練習をしていると、フィールドアスレチックで遊んだり、それこそ自転車置き場の屋根によじ登ったりしていた頃の感覚を思い出してワクワクします。ちょっとしたコツで壁をよじ登れたり、跳べる距離がぐんと伸びたり。そうやって、自分の知らない能力を引き出してもらっている感じも面白くて。自分で言うのもなんですけど、センスはあると思うので(笑)、そこにテクニックや魅せ方みたいなものが加わってくれば、狭い空間でも派手なパフォーマンスになるんじゃないかなと。
ーー楽しみです。初タッグとなる演出家・瀬戸山美咲さんの印象はいかがですか?
僕は演出家の方と初めて会う時、いつも「怖い人かな」「大丈夫かな」ってドキドキしてしまうんですけど、瀬戸山さんはめちゃくちゃ柔らかくて話しやすい方で、ほっとしました(笑)。パルクールを入れたいとおっしゃったのも瀬戸山さんなんですよ。きっと色々なことに興味を持ちながら舞台を作っていかれるんだろうな、楽しい稽古になるんじゃないかな、と感じています。
ーーラムの親友二役を村井良大さん、ラムと恋に落ちる娼婦を唯月ふうかさん、ラムを助ける謎の弁護士役を大塚千弘さんが演じ、人気クイズ番組「10億は誰の手に?」の司会者役は川平慈英さんと、共演陣も大充実ですね。
ふうかちゃん以外の方とは初共演なので、稽古場で色々話をしながら作っていけたらなと思います。慈英さんとは面識はあって、6年くらい前から「何か一緒にやろうよ」と言ってくださっていたので、今回やっとご一緒できて、しかも慈英さん以外に想像できないくらいピッタリの役なので、すごく嬉しいです。
音楽劇『スラムドッグ$ミリオネア』
ーーミュージカルを中心に、様々な舞台作品で活躍されている屋良さん。ご自身の強みは何だと思われますか?
ジャニーズ事務所で鍛えられた対応能力ですね。(ジャニーズ)Jr.時代に、色々な先輩のバックについて、時間がない中、振付を覚えて踊っていたので、とりあえず臨機応変にやれちゃう強さがあると思います。忘れられないのは、誰かのコンサートをJr.の仲間と観に行った時に、開演前にジャニー(喜多川)さんに挨拶に行ったら、「YOUたち出ちゃってよ」と言われて。舞台装置の図面で位置だけ簡単に説明されて、そこから30分くらいで1曲分の振付を覚えて、ステージに出て行って初めて「こういうステージなんだ」って知りました(笑)。
ーーすご過ぎます。素晴らしい対応能力ですね。
でも、それが弱みでもあることに、ミュージカル『ソング・ライターズ』の時に気づかせてもらったんです。急にセリフが増えたり、お芝居に変更があった時、僕は「まだ腑に落ちてないけど、とりあえずやらなきゃ」と思って対応していたんですが、演出の岸谷五朗さんに「やらっちは、理解できていなくても、とりあえずセリフを言えちゃうよね。それ、やめない?」「わからなかったら、芝居が止まってもいいから1回ディスカッションしようよ」と言われて、ハッとしたんです。臨機応変にやれる強みが、逆に浅い所で演じてしまう弱点にもなるんだなと、すごく勉強になって、そこから芝居に対する取り組みがガラッと変わりました。
ーーなるほど。クイズ番組で難問をクリアしていくラム同様、屋良さんご自身も緊張やプレッシャーに強いのでしょうね。
この間ソロライブをやった時は緊張しっぱなしだったんですが、基本的にはステージに出てしまえば大丈夫なタイプです。苦手なのは、舞台袖で待機している時間ですね。ソワソワしてきて、つい次のセリフのことを考えてしまうんですけど、そういう時に限ってセリフが出てこなかったり、噛んじゃったりするんです。それが舞台の怖さであり、面白さでもあるんですけど、考えなければいいのに、なぜか考えてしまう恐ろしい空間が、きらびやかなステージの外側にはあるんですよ(笑)。今回は出ずっぱりなので、よかったなと思っています(笑)。
ーー東京公演が行われるシアタークリエの印象はいかがですか?
大好きです。お客さんの空気感を感じられる距離感だし、細かいお芝居まで届けられる空間で、すごくパフォーマンスしやすくて。ほぼ毎年出させていただいてるので、勝手に“ホーム”みたいに思っています。特に好きなのがシャワー室。僕は本番前と終演後に必ずシャワーを浴びるんです。そこで発声練習したり、セリフを反復したり、歌ったりするので、たぶん、ほかの人たちには、めちゃくちゃうるさいと思われてます(笑)。
ーーありがとうございます。最後に読者の皆さんへメッセージをお願いします。
音楽劇ということで歌が入りますし、ダンスやパルクールの要素も入るので、映画『スラムドッグ$ミリオネア』をご存じの方にも、そうじゃない方にも、楽しんでいただけると思います。僕自身、舞台の世界に新しいエンターテインメントがひとつ生まれるような期待感があります。どうぞ楽しみに観にいらしてください!
取材・構成・文=岡崎 香
公演情報
日程:2022年8月1日(月)~8月21日(日)
会場:日比谷シアタークリエ
原作:ヴィカス・スワラップ「Q&A」
上演台本・演出:瀬戸山美咲
一般前売日:発売中
製作:東宝
作品公式サイト https://www.tohostage.com/slumdog/