The Songbardsの音楽はなぜ他者の存在を求め、社会性を有するのか? 聴き手の生活に浸透するグッドミュージックの根底にあるもの

2022.6.29
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――面白い作り方ですね。「オルゴールの恋人」はミヒャエル・エンデの『モモ』から着想したのかなと想像したのですが、実際にはどのようにイメージを膨らませていったのでしょう?

上野:覚和歌子さんの詩集からですね。覚さんは『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつも何度でも」の作詞をされている方なんですけど、その人の詩集を読んで……有志が教えてくれたんだよね?

松原:そうそう。

上野:ショートストーリー集なんですけど、その中の一つのお話がすごく面白くて、そこから着想しました。でも、サウンド感は結構SFで……ちょうど『TENET テネット』を観た時期だったことも影響していますね。

――『AUGURIES』のインタビューでは、同じくクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』の話が出てきましたが。

上野:宇宙的なものが自分の中ですごく旬なものとしてあった時期だったんでしょうね。

松原:ファンタジーSF的な?

上野:そうそう。そういう雰囲気をちょっと取り入れたいなと思いつつ、僕が影響を受けたいろいろな要素をぎゅっと凝縮させた曲ですね。

岩田:『モモ』の話もしてたよね?

上野:あー、そうだった。『モモ』も入っています。

岩田栄秀(Dr,Cho)

イケてるおじいちゃんになるのが夢ですね。ここ最近が自分の幸福度が一番高いんですよ。どんどん生きやすくなっているなと思っています。

――バンドのサウンドで情景を描くアプローチは『SOLITUDE』、『AUGURIES』という積み重ねによってブラッシュアップされた部分ですね。せっかくなので、収録曲のうちどの曲が特に気に入っているか、1曲だけ選んで紹介してもらえますか?

上野:僕は「シティーコラージュ」ですね。有志が作ってきた曲なんですけど、僕はこのメロディがすごく好きで。何なら僕もちょっと唄いたいなと思ったくらい(笑)。

松原:あはは!

上野:でも「シティーコラージュ」は僕が唄うよりも有志が唄った方が雰囲気が出る曲ですね。まさにコラージュのような視覚的イメージがあったので、それを音に乗せられたらということで、有志と一緒に紙を破って録音したり、シェイカーをまわす音を入れたりしています。あと2番Aメロで声がパッ、パッ、パッ、パッ、と出てきたりとか、いろいろなアイデアを入れられたのも面白かったです。

――上野さん、ありがとうございます。他の方はいかがですか?

岩田:(挙手しながら)はい!

――岩田さん、お願いします。

岩田:僕は「2076」がすごく好きですね。さっき話していたように、2人のアレンジが合体しているというのもいいし、途中で曲調が大きく変わるので、ラプソディー的な雰囲気にもなっている曲だと思います。軽やかで、健やかで……。

松原:健やかなの?(笑)

上野、柴田:あはははは!

岩田:(笑)。The Songbardsとしては今までにない感じではあるんですけど、“The Songbardsってこんなバンドなんです”と言える曲でもあると思っていて。だから先行配信したところもあるし、アルバムの1曲目としても非常にいいんじゃないかなと思っています。

――岩田さんが“これもThe Songbardsらしいな”と感じたポイントとは?

岩田:やっぱりサビのメロディが大きいですかね。ピアノは新しい要素なんですけど、それぞれの楽器のアンサンブル感や立ち位置はThe Songbardsらしいなと思います。

――分かりました、ありがとうございます。では、松原さんはいかがでしょう?

松原:僕は、完成するまでの間に印象的な出来事があった曲として「アイオライト」を挙げたいんですけど。レコーディング当日にサビのベースラインを変えることになって。しばっちゃん(柴田)だけ一人残して1時間くらい考えてもらいましたよ(笑)。

柴田:いや、もっと時間もらったよ。3時間くらい。

松原:でも、当日考えたにしては、結構(メロディが)動いているしハマっているよね。

柴田:確かに。

上野:数時間ぶりに会ったら(柴田が)ちょっとやつれてたよね(笑)。

柴田:あはははは。

松原:このベースラインによって曲の鮮やかさが一つ増しているんじゃないかと思います。

――そんな過酷な経験をした柴田さんは、1曲挙げるとしたらどれを選びますか?

柴田:僕は「ダフネ」ですね。この曲、デモ自体は『SOLITUDE』の頃からあって、今回ようやくアルバムに入れられたんですよ。すごく長い時間をかけて作った曲で、その中でいろいろなアレンジを試したんですけど、そのたびに聞こえ方が変わっていったのが印象的で。それは、アレンジが変わったから聞こえ方も変わったということではなく、曲自身がそういう力を持っているように僕は思ったんですよね。先ほど“どういうアルバムになったと思うか”という話の時に、“何度も聴き返してもらえるようなアルバムになった”と言えたのは、自分がこの曲を通してそういうふうに感じたからです。その経験も含め、すごく思い入れがある曲だし、ようやく出せて嬉しいですね。

 

――最後に、『Grow Old With Us』というタイトルや今作で唄っている内容に掛けて、歳を重ねていくことをみなさんがどのように捉えているのか聞かせてください。人は歳をとると、体力がなくなったり、精神的にもピュアな気持ちを失ったりしますよね。あと、私の場合は、“あの時の自分の言動によってあの人を傷つけてしまったかもしれない”と後になってから気づいて一人で落ち込むことが年々増えているのですが、そういうふうに、歳をとることって、ネガティブな要素も孕んでいると思うんです。みなさんはこれからも、バンドとしても個人としても歳を重ねていきますが、このアルバムを作り終えた今、歳を重ねていくことをどのように捉えていますか?

柴田:確かに、体力的な老いはまさに超感じているところです(笑)。

――ははは。精神的な変化に関してはいかがですか?

柴田:精神的な部分も、歳を重ねるにつれて変化しているなあと思いますね。その変化は微々たる差ではあるんですけど、“あの時の自分はこう考えていたけど、今はこう思っているな”というのを感じると、“この先もまた変わっていくんやろな”って思えます。それが楽しみだなあと僕は思っていて。だから体力がなくなっていくのはネガティブなことだと思っているけど、思考の変化は“フレッシュさが欠けていく”という話ではなく、別次元でのフレッシュさを手に入れているような感じがします。そういう意味で、歳を重ねるにつれて自分がどうなっていくのかが、僕自身楽しみではありますね。

――いい話ですね。他のみなさんはいかがですか?

上野:さっきおっしゃっていたように、『Grow Old With Us』というタイトルは「Grow Old With Me」からのインスパイアもあるんですけど、「Grow Old With Me」には《The best is yet to be》(最高の瞬間はまだこの先にあるよ)という歌詞があるので……ジョンが言うんなら、まあそうなんだろうなって思っています。

――上野さんらしくて素敵ですね。岩田さんはいかがでしょう?

岩田:僕は、イケてるおじいちゃんになるのが夢ですね。そもそも、老いていくことに対してネガティブな感覚がほとんどなくて。ここ最近が自分の幸福度が一番高いんですよ。どんどん生きやすくなっているなと思っていまして。

――というと?

岩田:前よりも難しく考えなくなったりとか。自分がどう足掻いても関係できないものに対して線を引けるようになったので、その分、自分が関係できる範囲に集中することを心がけられるようになったんですよね。それが生きやすさに繋がっているんだと思います。

――なるほど。では、松原さんは?

松原:僕は、歳をとるということは最悪なことやなって思っています。体力も容姿も基本的には劣っていくし、悪いことなんてほっといても起きるわけで。いいことが永遠に続かないのも、時間の流れのせいですよね。振り返って“いい人生だった”と言える人は、歳をとる過程でたまたまポジティブな出来事を積み重ねられたからそう思えただけであって、歳をとること自体は最悪だなって思います。でも、基本最悪なものを、最悪にしないために何をするかというのが自分の一つのテーマで。そのためには、人間関係に対して、ちゃんと関わっていく方がいいんだろうなあと思う瞬間が最近増えてきています。

――社会的な繋がりは喜びや幸福だけではなく、悲しみや不幸をもたらすこともありますよね。それでも人と関わっていくことが大事だと思いますか?

松原:はい。僕自身、人と関わることが一番好きというわけではないんですけど、どう考えても必要というか。ご飯を食べるにしても、例えば野菜を栽培している農家の人とか、誰かがどこかで関わったものが自分のところに届いているじゃないですか。自分が生きているのはそういう人たちのおかげ、ただ恩恵を受けているだけだから。そうなると、人間関係は絶対に切り離せないなと思うし、もちろん自分が必要としている人ばかりではなく、自分のことを必要としてくれている人もどこかにいるんだろうなあと思う。そういう人たちと関わっていくなかで、いいことを見つけたり噛みしめたりできる瞬間を増やそうとすること自体が、“歳をとる”というネガティブなことを少しでもよくできるきっかけになるんじゃないかと思っています。

――そういった考えが、人の生活に関与する音楽を鳴らそうというThe Songbardsの姿勢にも繋がっていそうですね。

松原:そうですね。僕らは人生とか“生きるか死ぬか”みたいなことを唄っていますけど、もちろんそういうことを考えるのが得意な人ばかりではないだろうし、別に深刻に考えないという人もいると思うんですよ。ただ、“みんなそれぞれに暮らしや生活がある”という部分は共通しているはずだから、娯楽としてでも、どういう形でもいいから、それぞれの暮らしや生活の中で聴いてもらえると嬉しい。今回のアルバムは生活のいろいろな場面で聴いてもらえていることを想像しながら作ったし、The Songbardsはそういう存在でありたいという気持ちが強いんだなと改めて思いました。


取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=菊池貴裕

 

リリース情報

アルバム『Grow Old With Us』

●ビクターオンラインストア限定セット 【CD+DVD+グッズ+特典CD】 [VOSF- 11285,11286 / ¥6,930 (税込)]
●完全限定生産盤 【CD+DVD】 [VIZL-2065 / \3,960 (税込)]
※CD/DVD収録内容をスマホで楽しめるプレイパス対象商品
※2面紙ジャケ仕様
 
<CD収録内容>
1. 2076
2. アイオライト
3. ガーベラ
4. ダフネ
5. シティーコラージュ
6. 窓に射す光のように
7. 夏の重力
8. 夕景
9. ゼロからはじめよう
10. 銀杏並木
11. オルゴールの恋人
12. かざぐるま
 
<DVD収録内容>
・Music Video「ダフネ」 スピンオフドラマ 〜青年と弱気なパーソナリティ〜
・「窓に射す光のように」、「夏の重力」、「夕景」、「オルゴールの恋人」、「雨に唄えば (5th Anniversary Edition)」、「ダフネ」 各ミュージックビデオ
 
<グッズ>
GOWUトートバッグ
 
<特典CD>
GOWU未発表音源集
・海月の散歩道 (映画「ただの夏の日の話」主題歌)
・ガーベラ (Demo Ver.)
・夕景 (Acoustic Ver.)
・エピソード (Demo Ver.)

ライブ情報

The Songbards 『Grow Old With Us』 Release Tour
9月3日(土) 仙台CLUB JUNK BOX w/ 長澤知之
9月4日(日) 札幌 SPiCE w/ 松室政哉
9月9日(金) 柏PALOOZA w/ 藤巻亮太
9月16日(金) 広島セカンドクラッチ w/ MONO NO AWARE
9月19日(月・祝) 京都ミューズ w/ DENIMS
10月7日(金) 金沢AZ w/ リュックと添い寝ごはん
10月10日(月・祝) 高松DIME w/ 堂島孝平
- ONE MAN-
10月21日(金) 福岡INSA
10月26日(水) 渋谷 Spotify O-EAST
11月2日(水) 名古屋CLUB QUATTRO
11日3日(木祝) 大阪・梅田CLUB QUATTRO

『Grow Old With Us』封入先行
※ONE MAN 4公演のみ対象です。
受付期間:2022年06月28日(火)12:00~07月04日(月)23:59
※詳細は『Grow Old With Us』 CDに封入されている情報をご確認下さい。
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