たなか、Ichika Nito、ササノマリイという稀有な音楽センスを持つ3人で結成されたバンドDiosの内側に迫る
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たなか
──2021年3月に「逃避行」を発表されて以降、立て続けに楽曲を送り出してきたわけですが、今回発表されるアルバム『CASTLE』の構想はいつ頃からあったんですか?
たなか:去年の11月ぐらいだったかな。まず、『CASTLE』という仮タイトルを決めたんですけど、パワポで資料作ったんですよ。
Ichika:曲ごとに、“暖炉”とか“舞踏会”とか、テーマがあって。
たなか:それも具体的なリファレンスを出すというよりは、ヴィジュアルイメージぐらい。そういう枠組みみたいなものをざっくり作って、それを2人がいい感じでやってくれたっていう。流れとしてはそういう感じですね。
Ichika:各々がイメージを膨らませていったから、最初のプレゼンのイメージからは結構離れているんですよ。だから、あくまでもとっかかりというか。起点が多すぎると、どこからやればいいのかわからなくなるから、最初にざっくりと範囲が決まっていたっていう。
──でも、なぜ『CASTLE』だったんです?
たなか:たまたま通りすがったマンションの名前なんですよ(笑)。なんか、言葉って育てていくのが大事だなと思っていて。ピンポイントでハマったというよりは、適した言葉達が何個かある中から、こいつに決めた!って育てていくというか。だからポケモンと一緒ですよね。何を選んでもストーリーはクリアできるじゃないですか。そういう意味で、僕がたまたま選んだのが『CASTLE』だったっていう。
──確かに“CASTLE”っていろんなイメージが浮かびますね。お城だけじゃなくて、それに付随するような森とか、湖とか、いろんなインスピレーションが自動的に湧くというか。
たなか:そうそう。そういう意味ではいい単語というか。引き出しが広くて、懐が深い。
Ichika:単語によってその上限が違うよね。それこそポケモンと一緒で、1進化しかしない単語もあるし。たとえば“DESK”だったら、まあ、クリアはできるだろうけど。
たなか:そうそう。それなら“COFFEE”のほうがまだ(進化)しそう。
Ichika:そうだね。“CASTLE”は3段進化しそう。
──なんかわかります(笑)。アルバムのテーマが出てきてから作った曲というと?
Ichika:「残像」とか「断面」ですね。「残像」のテーマが“暖炉”だったんですよ。そのテーマからギターのフレーズを作って、トラックを作って、そこで歌詞が乗っかったんですけど、最初にたなかが付けたタイトルが「森に火を放った日」だったんです。
たなか:まあ、木を燃やすって意味では一緒だから(笑)。
Ichika:あと、「断面」のテーマは、“深い森”で。それで深い森っぽいテーマの曲をまず作って、そこからすぐに「断面」になったんだっけ?
たなか:いや、“輪切り”。
ササノ:そうだった。
Ichika:そういう変遷を経ているけど、遠くはないよね。連想ゲーム的になってる。
たなか:むしろそれが楽しいからね。たとえば、BPMは80で、ギターはこの曲のここをリファレンスして、トラックはこうで、みたいな感じで曲が出来たとして、だから何なんだっていう気持ちに僕はすごくなっちゃうっていうか(笑)。漠然とした出発点から、気づいたら全然違うところにいるほうが、自分にとって喜びが大きいですね。
Ichika Nito
ササノマリイ
──アルバムトータルして、メランコリックで美しくて叙情的ですが、それこそIchikaさんってそういうギターを弾かれることが多いですよね。ほとんどの楽曲の発端がギターだからこそ、そういう音世界に自然となっていくところもあるんでしょうか。
Ichika:そこはあると思います。そこでリズム重視の曲ばかり作っていたら変わってくると思うし。あと、各々が美しいものは何かというテーマがあったときに、3人全員がまったく同じではないにしろ、向いているベクトルは近いから、意図せずとも寄ってくるところはありますね。
──たなかさんとしても、メランコリックで美しいものというのは、Diosとして作っていきたいカラーでもあるんですか?
たなか:アルバムを作っていく過程で、自分の意識としては、ポップスからどんどん離れて行ったんですよね。自分達がいいと思うものだったらよくない?っていうふうになっていったけど、完成したら、それこそひとつの“城”ができたなと思って。それができたことで、いつでも戻れる場所ができたから、最近は自分達の価値観を拡張していきたいという気持ちになっていて。もっと分かりやすくなっていける、攻めていけるなってすごく思っているし、次以降はそこをやっていきたいかなって。
Ichika:今回は1stだから詰め込んでいるし、そこから削ぎ落としていったものがポップスにも近くなっていくと思うし。あんまり良くも悪くも計算してなかったもんね?
たなか:それこそ自分が美しいと思うかどうかっていう。
Ichika:うん。そういうものにするための計算やこだわりはすごくあるけど、バズる曲を作ろうみたいな計算はなかったから。
──ササノさんはいかがです?
ササノ:自分としては、自分の好きなものとか、自分の音楽に対する理想像みたいなものが、ものすごく狭いところに確立されてしまっていて。そこに向けて作っていくと全部一緒になってしまうから、自分が今まで避けてきたもの、苦手だったもの、好きだけど作るのがうまくないと思っていたものに挑戦したところもあるんですよ。あと、曲を作っていると、自分が歌っても合わないだろうと思うものって必ず出てくると思うんですけど、それをやっている側面も結構あって。特に「Virtual Castle」にはそういう気持ちがありましたね。
──ササノさん的には挑戦的な部分もあって。
ササノ:そうですね。そこは、どんな曲を作っても、この3人だったらいい形になるという確信があるからできることでもあると思います。
たなか
ササノマリイ
──歌詞に関して、今回の1枚を通して描きたかったものはありましたか?
たなか:最初に出した「逃避行」でも書いたんですけど、僕は、人生は基本的に逃走であると思っていて。何かから逃げることの連続でしかないという。で、逃げるときには、たとえばテーブルの上にいろんなものが乗っているんだけど、その中のひとつしか持っていけない。つまりそれは、喪失の連続でもあるというか。選べなかったものたちがあって、ひとつだけ選んだものが手の中にある。人生はその繰り返しでしかないというのは、自分が世界に対する物の見方の根幹にあるんですけど、それがすごく色濃く反映されていると思うし、アルバムで通底している視点だと思います。
──「試作機」に〈曙光〉という歌詞が出てきますが、ぼくりり時代に「曙光」という曲を作られてましたよね。たなかさんとしても、ひとつの喪失があって、そこから芽生えてきた思いや感情みたいなものが言葉に乗っているのか。ただ、そこに関しては、聴いた人間が無理矢理こじつけようとしている感覚もあるんですけど、実際いかがです?
たなか:聴き手の方がそういうふうに連想していただけるのは、すごく嬉しいというか。それだけ記憶に残していただいているんだなと思って嬉しいなと思いつつ、そこも、人生は逃走の連続で、逃げるときにはひとつしか持っていけないという、自分の価値観が前提にあって。ぼくりりは持っていけなかったから捨ててしまったということは、出来事としてはあるんですけど、それを思い出して書くことは全然していなかったですね。もちろん聴く際にそう思っていただく分には一向に構わないし、解釈は好きに楽しむべき、開かれたものであるべきだと思っているので。
──あと、アルバムを締め括る「劇場」の〈この身体、心までを切り刻んで 歌にしようよ〉という歌詞にグっときてしまって。
たなか:これは、Diosとして頑張って売れるぞ!っていう(笑)、決意表明の歌ですね、端的に言うと。
──〈命を切り売ろう、終わったら綺麗に消えよう〉といきなり歌えるのも潔いですよね。
たなか:やっぱり自分にとってはそういうものでしかないというか。
Ichika:でも、そこも結構変わったんじゃない? 最初の頃は3年ぐらいで売れてすぐにやめようみたいな話だったから。
たなか:確かにね。もちろんずっと表舞台には立っていたいんですけど、物理的なピークみたいなものはあきらかにあるだろうと思っていて。それを分かっている上で、続けていきたいっていう。
Ichika:そのピークもある程度コントロールすべきなんだろうね。精神的な健康のために。
たなか:うん。健やかに生きていきたいですね!
ササノ:そうだねえ。
たなか:だから逆説的というか。エンタメという劇場の仕組みをわかった上で、ちゃんと踊るのが大事なんだろうなって。
──誰かに無理矢理踊らされるわけではなく、あくまでも自分のステップで踊ることが大切であって。
たなか:そうです。能動的に踊って、能動的に退場しようっていう気持ちはすごくあるかなぁ。
──ササノさんとしても、このバンドを続けていくのは、目標みたいなものとしてあったりします?
ササノ:そこは目標という意識もなく、ずっと続いていくんだろうなぁっていう感じですかね。僕は基本的に人見知り体質なんですけども、たなかとはぼくりり名義の頃から一緒にいるとはいえ、Ichikaといるときも僕は自然体でいられるんですよ、珍しく。そういう3人でいるっていうことは、たぶん、僕が大失敗をやらかして、それを繰り返さない限り、この関係は崩れないのかなって(笑)。
Ichika:たぶんね、繰り返しても大丈夫だと思う。結構経験してるというか。
たなか:すごい。フォローと見せかけて、実はあんまりフォローじゃない(笑)。
Ichika:いや、だから何回失敗してもいいってことよ。気にすんなってこと。
ササノ:ありがとう。
たなか:でもそうだと思う。失敗するしね、人間は。
ササノ:だから続けていこう!っていう気持ちではないですね。勝手に続いていくだろうな、楽しいしっていう感じです。
Ichika Nito
──続いていく要因って、楽しいこともそうですけど、Ichikaさんがおっしゃられた「何回失敗してもいい」と思えることがすごく大切ですよね。
Ichika:うん。こうやってササマリが言ってくれたことが嬉しいですよね。僕らに対する信頼があるっていうか。
──それも含めて、いいバンドだなって思いました。1stツアーも決まっていますけど、ライヴもここから定期的にやっていきたいと考えているんですか?
たなか:まあ……そうですね。うん。どうだろう……(笑)。
Ichika:ライヴに関してはぶっちゃけそこまで構想がないんですよ(笑)。目先のツアーはしっかりやろうということは考えているけど、この先、こういうライヴがしたいっていうのはあんまりなくて。
ササノ:そういう意味では、ライヴに今まで憧れがなかったし、理想のライヴ像がないから。
たなか:難しいよね。
ササノ:うん。そこはいまも探っている状態ではあるんだけど。だから楽しみだよね。
たなか:そうだね。ライヴをやること自体は楽しいので。ただ一方でね、正解っていうものがないから。なんか、僕は長いライヴを見るのってそもそも苦手なんですよ。あれは結構選ばれた人向けのコンテンツというか、敷居が高いというか。
──確かに、同じ場所に何時間か拘束されて、ひとつのものを見続ける行為って、言われてみるとそうなのかも。
たなか:そうなんですよ。特にスタンディングとなると、それってすごいことじゃないですか。だから、自分の中ですごく気負っちゃうというか、それを観にきてくれるってすごいことだと思うので。だからお客さんにはすごく感謝してます。
──そうだ。Ichikaさんとしては、冒頭で出てきた「音楽のフェーズ」について、どの行程が好きですか?
Ichika:僕は弾くときですかね。作ったときとまったく同じことはできないけど、いかにそれをリアルタイムで超えていくかというのがすごく楽しいし、聴いてくれている人の反応を生で見れるのも楽しいし。僕は最後が一番好きかも。
たなか:人前で弾くってことが?
Ichika:そう。
たなか:そうなんだ!? おもしろい!
Dios
──いろんな価値観がひとつのバンド内であるのもいいですね。あと、今日のお話の中で「売れたい」という発言がありましたけど、その意味が時期によって変わっている感じがあって。ビジネス的に売れたいのか、アーティストとしての地位を確立したいのか、この先ずっとやっていくために売れておきたいなのか。そこはリンクしているところもあると思うんですけど、いかがです?
Ichika:度合いは違えど、どれも少しずつありますね。
たなか:僕は、なんていうか、すごく傲慢なんですけど、あるべき場所にありたいというか。多くの人に聴いてもらうほうが自然……っていうか、それを自然って言うのヤバいな(笑)。
Ichika:いや、そこは同じだよ。
たなか:なんか、ナチュラルにそう思ってるんですよ。普通にやったら普通に多くの人に届くだろうし、届くための物をちゃんと作っていたら、正当な場所に置かれるだろうから、そうでありたいな、という。
──Ichikaさんも、たなかさんと同じ感覚だと。
Ichika:うん。一緒ですね。正しい評価をされたいよねっていう。それをすごく簡単に言い方にすると、売れたいっていう。
たなか:だから、見返したいっていう感覚でもないんですよ。
Ichika:うん。「フツーにめちゃめちゃいい曲だからみんな聴いてよ」みたいな感じ。
──ササノさんも同じく?
ササノ:そうですね。当初の気持ちで言えば、活動の大きさや知名度でいうと、このなかでは僕が一番その度合いが少ないという自覚があって。でも、こんないい素材が揃っているんだから、それはいいものに決まっているじゃんっていう確信はあったし、いまでこそおこがましいですけど、自分自身が作るものにも自信がついてきて。いい作品になっている自信があるからこそ、それが聴かれないのはもったいないし、聴かれるべきだと思っているし、いや、絶対に聴いたほうがいいって!っていう気持ちになってますね。
取材・文=山口哲生 撮影=大塚秀美
リリース情報
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¥4,800(税込)