『ヤングタイガー2022』ステレオガール、オレンジスパイニクラブ、クジラ夜の街、帝国喫茶ら新鋭バンド8組が競演
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『ヤングタイガー2022』 撮影=ハヤシマコ
『ヤングタイガー2022』2022.6.26(SUN)大阪・服部緑地野外音楽堂
『ヤングタイガー2022』
関西の名物コンサートプロモーターである清水音泉が、新鋭のバンド8組が出演する若手登竜門的イベント『ヤングタイガー2022』を開催。梅雨のため天候が心配されたが、6月26日(日)の大阪・服部緑地野外音楽堂は見事に晴れ渡った。
ステージ後方に「YounGTiGER」とデザインされた大きなバッグドロップが掲げられ、ザ・タイガースの主演映画「世界はボクらを待っている」のサントラが会場BGMとして流れている。観客たちは、開場中や転換中には出演バンドの物販を手に取ったり、飲食出店されたDOCO RICEのタコライスを食べたりと自由に満喫していた。11時30分、MCのFM802 DJ・樋口大喜の挨拶によりスタート。
DOCORICE
FM802 DJ 樋口大喜
■COWCITY CLUB BAND
COWCITY CLUB BAND
そんな樋口から「メンバー全員年男」と紹介されたCOWCITY CLUB BANDがトップバッター。滋賀県愛東町出身の4人組ロックンロールバンドな彼ら。プロフィールに爆音フォークソング部の補欠と書かれたりするが、1曲目から元気よくフォーキーなナンバー「グッドラック」が披露される。
続く「恋しておくれよ」もそうだが、ただただ牧歌的なだけではなく、しっかりと激しさも感じられた。始まったばかりでありながらも、観客たちは早くも手を挙げて踊って楽しんでいる。岸川倖平(Vo.Gt)も話していたが、この青空、この緑、この人々と紛れも無く良い空間。気付くと後ろの芝生エリアで踊っている人も見受けられた。
COWCITY CLUB BAND
初野外の彼らだが、4人全員で大声で歌ったりと、とにかく伸び伸びしている。「暮らすこと」では演奏に合わせて、観客に指パッチンを促す。依然としてコロナ禍の中とはいえ、ここ2年と比べると状況はかなり良くなってきているが、まだまだ大きな声を観客は出せない。
そんな中での指パッチンという演出は、このコロナ禍で個人的に初めて観たコミュニケーションだっただけに新鮮である。特にラスト2曲の「カントリーボーイズ オン ザ ラン」、「輪立ちはつづく」は、決意表明の様に聴こえたのも良かった。ここから走り続けていくのだろうと想わせてくれるトップバッターだった。
COWCITY CLUB BAND
COWCITY CLUB BAND
COWCITY CLUB BAND
■Apes
Apes
2番手はApes。本番前リハーサルの時点で、メンバー4人の佇まいやベースのアンプと繋ぐカールコードといった何気ないところから、既に骨太ロックバンドだとゴリゴリに伝わってくる。1曲目ミドルテンポである「501」の歌い出し<「例えば」またもしもの話>というLeo Sakai(Vo.Gt)の声から一瞬で掴まれる。音源よりも少ししゃがれた声だが、そのインパクトはデカい。
Apes
そして、何とも言えない気怠さやふてこさがあるのも古き良きロックバンドを想わせて、40歳過ぎの私でさえも観ているだけでドキドキする。続く「やさしくなれない」は1曲目よりアップテンポであり、のっけから音はブリブリで、やさぐれ感や荒くれ感がたまらない。曲終わりから次の「LOSER」までをチューニングとドラムで繋ぐ流れも、誠に硬派でかっこよかった。こちらも歌い出しの<染み付いてしまったこの習性を>から掴まれる。演奏にもうねりがあり、自然に体が揺れてしまう。
Apes
「ハイライト」はギターのカッティングからして、より音に抜けがあり、拓けていく感触もワクワクする。東京のバンドであり、2週間前から大阪の天気図を気にしていたり、芝生エリアでむっちゃ踊る観客たちに「最高です!」と言ったり、とても愛嬌があるのも音とのギャップで好印象だった。
Apes
ラスト5曲目「Boying」が始まってすぐ、ギターの弦が切れて、ギタリストは袖に引っ込むが、残された3人は全く慌てず動じず止まらず、演奏をしながら待つのもまさにロックバンドだった。特筆すべきは基本ミドルテンポで全曲35分押し通したところ。そして、聴く側は、最初から最後まで引き込まれた。帰り際、Sakaiは芝生エリアの観客を指さし、「本当に最高です!」と言い放ったが、その言葉は、そのままApesに返したい。本当に最高だった。
Apes
■帝国喫茶
帝国喫茶
3番手は地元大阪の帝国喫茶。2年前の夏に関西大学で結成されて、去年の「ヤングタイガー」にはメンバーふたりが観客として普通に来ていたという。そして、今のメンバー4人として本格始動したのは去年秋からなので、すごい速さで夢を叶えていっている。
帝国喫茶
1曲目「貴方日和」と緩やかに始まり、そのままメドレーの様に「心の窓辺」へと繋がれる。よく見るとボーカルの杉浦祐輝(Vo.Gt)は裸足で歌っていた。だから何だという話だが、そんなちょっとした事からも、先程のApes同様、彼からも何事にも動じない慌てない威風堂々さを感じる。去年8月、大学のサークル活動以外での初ライブを経験した杉浦。その初ライブから観ているが、とても舞台度胸があり、何よりも声が伸びやかに響きまくる。青空に吸い込まれるなんて、よく常套句の様にライブレポートで書かれるが、そんなもんを通り越して、もはや杉浦の歌声は青空に突き刺さっていた。
帝国喫茶
もちろん初野外であり、それに野外は似合うだろうとは思っていたが、想像以上に野外が似合っていた。3曲目「and i」、4曲目「夜に叶えて」はミドルテンポながらも、アップテンポ要素もあり、徐々にグーっと盛り上がってくる感じがある。「夜に叶えて」の終盤には、この日一番の晴れ模様になり、6曲目「じゃなくて」では、より照り輝く状況に。
帝国喫茶
そのまま速いカウントから「燦然と輝くとは」という1分11秒のすごい速いナンバーへと突入する。彼らのライブの醍醐味は、ゆっくり緩やかにスタートしながら、気が付くと確実に速度が上がっており、最後はものすごい速さでフィニッシュするところ。この日も、その鉄板の流れでラストナンバー「春風往来」を叩きつけた。杉浦がギターを背中で背負ってハンドマイクで歌う姿には、狂気や色気があり、ぞくっとさせられるが、この陽に照らされた真昼間の野外でも、その魅力は充分に伝わっただろう。満点の野外ライブデビューだった。
帝国喫茶
■Dannie May
Dannie May
4番手はDannie May。マサ(Vo.Gt)、田中タリラ(Vo.Key)、Yuno(Vo.Kantoku)と3人共にボーカルであり、同期サウンドも操りながら、サポートドラムと音を鳴らしていく。1曲目「灰々」から一聴して、お洒落なサウンドであり、見た目も素晴らしくポップであり、これまでの3バンドのスタイルとは、同じバンドでありながら全然違う。だからこそ、絶対的に視界に入ってくる。
Dannie May
HPを見ると「ポップとマイナーの境界線」と謡われているが、個人的にマイナーさは全く感じなくて、ポップさ全開としか感じない。ポップと言っても、当たり前だが軽いポップさでは無く、しっかりとした音楽的な土台を感じるポップさである。シティポップ的なお洒落さ洗練さは確かに感じるが、そこに決して満足する事は無く、シティポップのポップな部分に完全に振り切れているから、観ていて聴いていて気持ち良い。
Dannie May
とにかく軽やかでグルーヴィーに転がっていく。観客ひとりひとりに歌いかける様な歌もあるし、やはり、どっしりと地に足がついている。その上で意識的に観客を煽って盛り上げようとする姿勢が野外の祭には何よりもピッタリと合っている。まさしく、その名も「ええじゃないか」はスピード感があって、ノリが良いお祭りビート。勝手にテンションが上がっていく。「ウィッフー!」という独特の言葉には、ほっといてもテンションが上がる。
Dannie May
Yunoがタオルを振り回して、それに合わせて、観客もタオルを振り回すが、もうタオルを振り回すしかないテンションに持っていけるのが凄い。ライブ終わりに、こちらもやりきった爽快感しか無かった。『ヤングタイガー2022』前半戦、最後を鮮やかに飾り、後半戦に向けての見事なターンを華やかに切ってくれた。
Dannie May
■YAJICO GIRL
YAJICO GIRL
『ヤングタイガー2022』もいよいよ折り返し地点で、MCの樋口大喜が再登壇。「これからが、ちょうどいい時間帯ですよ。みんなでゆったり踊りましょう!」それを受けて登場したのが、YAJICO GIRLだ。初っぱな「Better」からリラクシンなムードに、ハンドクラップが自然発生。リリカルな言葉の連なりがエバーグリーンな「VIDEO BOY」でも、ゆったり横揺れムードのオーディエンスたちは、何とも心地よさそうな表情だ。実はこの服部緑地野外音楽堂は、彼らにとって「超地元」だという。
「すぐそこの産婦人科で生まれたんですよ(笑)。こういう機会もなかなかないし、本当にありがとう! 帰ってきました」(榎本陸・Gt)
YAJICO GIRL
ミドルテンポながら厚みある音が疾走感を生む「どことなく君は誰かに似ている」を経て、「久々に北摂に帰ってこられたので、ぴったりな曲をやろうかなと」(四方颯人・Vo)という「ただいま」へ。シンプルなビートと共に、アコギの温かな音色が何とも心に染み入る。さらにギアを上げていくように「Airride」では言葉のリフレインに心地よく脳内を占拠され、ラスト「Life Goes On」では幾重にも重なる音と声のレイヤーで大きな一体感を生み出した彼ら。ポップな包装紙を破れば、その実像は美しくナイーブな心象風景が広がっていた……そんなYAJICO GIRLのステージだった。
YAJICO GIRL
YAJICO GIRL
YAJICO GIRL
■クジラ夜の街
クジラ夜の街
「皆さんに夢を、いえ、この天気ですから白昼夢をご覧にいれましょう。素敵な旅に」と、フロントマンの宮崎一晴(Vo.Gt)が促し、クジラ夜の街のショーが幕を開ける。1曲目「オロカモノ美学」から、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような音の洪水が客席へと押し寄せ、「皆さんの手拍子はどんな楽器にも勝る音楽です!」(宮崎、以下同)との名言も。
山本薫(Gt)が舞台の最前線で弾き倒しアゲにアゲた「ここにいるよ」、インスト「詠唱」をプレリュードに「ラフマジック」へとつなげる流れも絶妙で、息もつかせぬ展開に観客の視線は終始釘付けだ。
クジラ夜の街
クジラ夜の街
「来年も出たいです! まだ終わってないですけど(笑)」と、メンバーもこの時間を心底楽しんでいるようで、特大のアンセム「あばよ大泥棒」ではその歌世界が目に浮かぶような見事なストーリーテリングで魅了。怒涛のドラムソロであおる「夜間飛行」から強靭なステージングでの「夜間飛行少年」へと続き、クライマックスの頂点は更新するばかりだ。
クジラ夜の街
クジラ夜の街
「バンドマンの魂に捧げる曲です」と投げかけたエンディング「Golden Night」まで、9曲の物語でめくるめく音楽の旅へといざなったクジラ夜の街。その威風堂々たる佇まいに、頼もしい未来が見え隠れする一幕となった。
クジラ夜の街
■オレンジスパイニクラブ
オレンジスパイニクラブ
サウンドチェックの段階から盛り上がりを見せたオレンジスパイニクラブが、トリ前にオンステージ。可憐な白い小花の名を冠した「ガマズミ」でスタートを飾る。甘酸っぱいメロディにスズキユウスケ(Vo.Gt)のアーシーな歌声がロマンチックなムードを醸し出す一方、6月に発表したばかりの「君のいる方へ」では音に託したほとばしる衝動に、拳を突き上げずにはいられない。そのままパンキッシュな「スリーカウント」へとなだれ込み、曲が持つ青春の狂騒感が何とも胸をつかんで離さない。
オレンジスパイニクラブ
オレンジスパイニクラブ
MCでは、「音出しの時点で汗まみれで。こうなったらステージをビチョビチョにして帰ります!」(スズキユウスケ、以下同)とはにかむ。「タルパ」でも熱量たっぷりに全身で体現しつつ、芝生エリアに視線を移せば、ゆらゆらとオーディエンスが踊る、何とも多幸感に満ちた光景が広がる。そのマジカルな空気を増幅させるように、「キンモクセイ」では極上のポップネス&センチメンタルな表情を見せつけていく彼ら。
オレンジスパイニクラブ
「僕らを初めて観た人も多いと思いますが、少しでもいいなと思ったらライブハウスに遊びに来てください。最高でした!」と語り、「敏感少女」でシメへ! 汗と笑顔とちょっぴり涙にまみれた時間で、オレンジスパイニクラブがラストアクトへとバトンを託した。
オレンジスパイニクラブ
■ステレオガール
ステレオガール
「今日気になったバンドがいたら、次はライブハウスで会いましょう。この日の続きをやりましょうね」と語ったMCの樋口。最後にコールしたのは、全8組の大トリを担うステレオガールだ。「最後まで残ってくれてありがとう」とあいさつした毛利安寿(Vo)は、そのクールな面持ちとは打って変わり、歌い始めるや鋭い眼光で観客をロックオンしていく。
ステレオガール
ド頭「Angel, Here We Come」から、サイケ感あるダンサブルなサウンドを惜しみなく響かせ、Chamicot(Gt)の鮮やかなフレーズをトリガーにした「Breaking into the Space」、浮遊感あるグルーヴでたゆたう音の波へといざなう「PARADISO」と、その場にいる全員を深くトリップさせていく。
ステレオガール
ステレオガール
MCでは「(昼間のように)暑かったら、私たちは出られなかったね」(毛利)なんて、ちゃめっ気ものぞかせる彼女たち。続く「スクーター」では、健やかなアンサンブルが日が落ちて過ごしやすい時間となった野音によくフィット。毛利は透明感をたたえつつも凛としたボーカルで場を鼓舞する中、出色は最後を飾った「ランドリー、銀色の日」だった。激しさを増す音がじわじわと高みへといざない、一人ずつメンバーが退場。残ったChamicotがギターを歪ませ、底抜けにエモーショナルなエンディングに。始終規格外の音像で、揺らし踊らせ魅了したステレオガールで、宴は幕を降ろした。
ステレオガール
ステレオガール
ライブシーンで既に存在感を高めつつある8頭の若虎が集い、初めて服部緑地野外音楽堂での開催となった『ヤングタイガー2022』。音源以上のタフなパフォーマンスの連続で、改めライブ=直に音楽に触れられることへの喜びと凄みを教えてくれたイベントとなった。
取材・文=鈴木淳史、後藤愛 撮影=ハヤシマコ
イベント情報
出演:COWCITY CLUB BAND / Apes / 帝国喫茶 / Dannie May / YAJICO GIRL / クジラ夜の街 / オレンジスパイニクラブ / ステレオガール / MC:樋口大喜
会場:大阪・服部緑地野外音楽堂