情熱のフラミンゴ『ドキドキしていた』秋場清之×木村巴秋×坂本彩音×谷田部美咲×島村和秀インタビュー 「小さくドーンとした後に、心の”その他”フォルダにしまってもらえる作品に」

2022.7.19
インタビュー
舞台

左から木村巴秋、坂本彩音、秋場清之、谷田部美咲、島村和秀 写真/情熱のフラミンゴ

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情熱のフラミンゴ 第10回公演『ドキドキしていた』が2022年​7月23日より東京・こまばアゴラ劇場にて開幕する。主宰で作・演出を手がける島村和秀のタイムリーな心境が都度反映されたこれまでの作品群は、多様な表情を持ちながらもそこに存在する人間への眼差しや言葉の扱い方、それらが織りなす世界観には揺らぎないオリジナリティが光る。

前作『ちょっとまって』から約半年ぶりとなる最新作のキャッチコピーは、”空き地戯言エンターテイメント”。ある空き地を舞台に、理由あって、または理由は持たずともその地に漂着したいくつかの人間関係が「うねり」と「ひねり」を以て交わったり、交わることなく散り散りになる様を自身の持ち味である詩的なセリフとともに紡ぐ。

情熱のフラミンゴの取材時間はほとんど一般参加型のワークショップのようだ。身体性と精神性の双方に緻密なアプローチを図るウォーミングアップとその体感を共有するディスカッション。飛び入り参加した演技未経験者の筆者も言葉や身体における新たな発見を見出した。今作のキーワードの一つである「ねじれ」と「ひねり」を生み出すためのアップでは俳優によってアプローチが全く違うことも興味深く、キャストの多様な個性を改めて感じる一幕であった。

秋場清之(情熱のフラミンゴ)木村巴秋(青年団)坂本彩音西村ともね根本江理(青年団)兵藤公美(青年団)谷田部美咲の7名の出演者の中から、稽古前に秋場、木村、坂本、谷田部と主宰の島村に今作に話を聞いた。そのインタビューとともに、稽古やキービジュアルのフィルムを交えながらそのクリエーションについても言及する。

なお、本公演は観劇アクセシビリティ向上の一環として、日本語字幕付きの上演回や手話通訳を導入したアフタートークを設ける。

『ドキドキしていた』キービジュアル 写真提供/情熱のフラミンゴ

取材・文=丘田ミイ子

 

■声に出し、体を動かすことでセリフの解像度が上がる

――今回のインタビューメンバーでは、秋場さんを除いてみなさんが情熱のフラミンゴ初参加ですが、まず台本を読んだ感想からお聞かせ下さい。

島村 じゃあやっぱりここはメンバーのアキバッチョ(秋場)から!

秋場 今回は過去作品に比べてバトル感がない。そこが新鮮ではあります。音さん(坂本彩音)と僕の二人で会話するシーンがあるのですが、そのセリフに「これは誰にでも刺さる言葉じゃないか」と感じる一言を見つけました。平坦な会話が続くようにみえて、時々エッジの効いたワードや異質なニュアンスのセリフが入ってくる。そこは情熱のフラミンゴ作品ならではの魅力だと感じています。

秋場清之/小さく歌うように言葉を浮遊させながら、場の空気に呼応してその抑揚も見事にコントロールする。

島村 僕は、演劇の創作において観客と劇の関係性をいつも考えているんです。例えば、「あなたは沈黙しているだけでここに居るんですよ」というセリフがあるのですが、そのセリフが示す状態って観客にも言えることなんですよね。そんな風に観客の方が登場人物と同じ状況下に置かれるような描写を意識的に散りばめています。「劇を観ている」という状況そのものが役割を持っている。そういったスタンスをある程度提示するように意識しているんです。そこが、アキバッチョの言う「誰にでも刺さる一言」に通じているのかもしれません。

坂本 正直なところ、最初は読んでいても訳が分からなかったんです。でも、稽古が始まって、台本を読んでいた時は「意味の分からないことを延々喋ってるシーン」という印象だった部分が突然全く別のものに見えて……。台本を外して演出がついたことによって、言っていることもわかるし、なんならその登場人物の気持ちもなんとなくわかる、みたいな感覚に駆られて。不思議な体感でした。「どこかでなんとなく無意識的に自分が信じているからこそ成り立つこと」ってあるなあとも感じたり……。身体を動かして声を発した途端に解像度が上がるような、文字だけでは描けなかった風景がシーンとして浮かび上がった時に、こんなに鮮やかになるんだ!という衝撃がありました。

坂本彩音/奇妙な男と女の会話にそっと忍び込むように、緊張と緩和を軽やかに担う。

木村 音さんの言っていること、すごくよくわかります。自分がそこに立って、演出を受けて初めてしっくりくる体感があって、そういう経験は大きいですよね。あと、島村さんは稽古前のアップやディスカッションも大切にされていて、「この映画や演劇を見てみてほしい」「この情報を共有したい」といったフィードバックの時間もあるんです。作品や役柄を紐解く上でもそういったことが足掛かりになったり、想像をかき立ててくれるのでとても助かっています。

木村巴秋/心の声が漏れ出しそのまま暴れ出してしまう様を時に頓狂に時に冷静に体現する。

 

■「あるある」ではなく「ないある」”その他”にジャンルされる作品へ

――ちなみに、今回キャストの方々に共有した作品はどんなものなのでしょうか? 

島村 ダイレクトに今作のモチーフになっているわけではないんですけど、創作の背景にあった作品や影響を受けている作品を伝えるようにしているんですね。今回はトレイシー・レッツの戯曲『8月の家族たち』とサム・メンデス監督の映画『アメリカン・ビューティー』、チェコの人形劇などを共有しました。最初は、今作のイメージを「『ガラスの動物園』みたいな劇」とキャストの方にも伝えていたんですけど、書いているうちに全然違う感じになっちゃった(笑)。今作の創作において影響を受けている人や作品はたくさんあるのですが、その中でも別役実の影響は大いにあって、別役実×〇〇○な世界観を目指しています。その○○○は明確ではなく、そもそも明確にするかもまだわからないのですが。そういう意味ではいつもよりは少し日本人っぽさがあるかも?

情熱のフラミンゴ主宰で作・演出を手がける島村和秀

木村 前作の『ちょっとまって』を観客として観た時、その異邦な世界観にすごく惹かれたんですよね。いや、異邦というか、どこの、いつの話かが分からないような感じ。そこに迷い込むような独特な世界観というのでしょうか。だから、思わず原作があるのかと思って調べたんですよ。そしたらオリジナルの新作だった!

(写真右)根本江理/登場人物の「交わらずとも在る関係性」を絶妙な拒絶と受容のバランスを以て作り出す。

島村 あははは。調べたんだ!

木村 俳優さんがほとばしるエネルギーをぶつけ合っていたのも臨場感があって好きでしたね。この作品を読んだ時にも、そういった島村イズムに通じるものを感じて…。前作のイメージもあるのかもしれないですが、秋場さんや自分の役にも日本人っぽさを感じなかったです。

――たしかに、情熱のフラミンゴ作品や島村さんの戯曲の魅力は、しばしば海外文学のそれに擬えられることがありますよね。

谷田部 私も前作の『ちょっとまって』を観た時、言葉やその扱い方が独特で面白く、聞いていて気持ちいいと感じました。説明過多でなく、流れていくような言葉たちだからいつまでも浴びていられる。すごく文学的なんですよね。今回の台本を読んで改めて思ったのは、<普遍的なこと>を<具体的な言葉>で<抽象的>に表現している、ということでした。その<普遍的なこと>っていうのもいわゆるの「あるある」ではなくて、「え?その普遍性取り上げる?」っていう絶妙なところで(笑)。今作のキャッチコピーは「空き地戯言エンターテイメント」なんですけど、そういったところが個人的には空き地感や戯言感、そんな”余白”に繋がっているのかなって思ったり……。

谷田部美咲/稽古が始まるや否や声色と表情がぐっと変わり、冒頭から異様な姉妹の会話の中へと観客を誘う。

島村 いや、まさに! 谷田部さんが仰ったように「あるある」じゃなくて「ないある」を目指している部分はありますね。「そんなにはないけど、でも、あるっちゃあるよな?」みたいな(笑)。観終わった後に心の変な場所に作品が入っちゃうような、既視感があるようでないような具合を目指しています。

西村ともね/取材中不在であった西村は「言葉の核心に気付くたびに真理とバッチリ目が合うような気持ちになって…」と稽古の実感を語る。役柄的には坂本とともに「アイス」を巡る会話を繰り広げる。

――今作は「アイス」がちょっとしたキーワードになっていますよね。カナイフユキさんがイラストを手がけられているチラシも毎回楽しみにしているのですが、今作のものは、冷蔵庫の前で箱から飛び出したアイスがだらりと溶けていて。その描写もきっとどこかで内容と接続しているのかなって色々想像しました。

『ドキドキしていた』チラシビジュアル イラスト/カナイフユキ

谷田部 登場人物もたくさん出てくるけど、交わりそうで全然交わってないなっていうのがあって……。でも、「人間ってそうだよな」って思ったり。各々の人生や生活を各々のペースで生きていて、「人と繋がろう」という言葉もあるけれど、それって一生懸命生きている時ほど難しかったりして……。その「交わらなさ」みたいものと「アイス」が私の中ではリンクしました。溶けたら戻らないし交わらないけど、元は一緒のアイスだった。今回のイラストは大きなカップに入ったアイスだけど、例えば数個入りの個包装のアイスにしても、アイスというジャンルとして一緒に箱の中で共存はしているけどそれぞれが別々で交わることはない、とか……。私も色々想像しました。

『ドキドキしていた』キービジュアル 写真提供/情熱のフラミンゴ

島村 なるほど、面白い! なんでしょう、いろんな演劇を観る中で僕が常々感じていることがあって……。例えば、ある家族を描いているとか、ある事件を描いているとか、そういったそれぞれの作者が扱う特定のテーマやそこから描かれる人間関係によって受け取ったものを、観る人は「自分の落とし所」として心の中のフォルダに振り分けているんじゃないか、と思っていて。例えば、「共感」とかもその一つだと思うんですけど。そんな中、情熱のフラミンゴの演劇は「その他」ってジャンルに入れられたいな、って思っているんですよね。

(写真左)兵藤公美/行間に漂う空気の静と動を瞬時に生み出す表現力、過去作で見せた多様な活躍。座組にとって頼もしい存在。

 

■「ねじり」や「ひねり」によって生じる影響と反応

――「その他」という言葉はすごく興味深いです。「その他性」を重んじる背景にはどんな思いがあるのでしょうか?

島村 今回の物語も「一体何の話なの?」って言われたら明確な答えはないんですけど、そこにこそ「その他性」があるというか、劇作家としての自分の普遍的で本質的なテーマがある気がしています。世の中に疲れているからなのか、社会の現実を激しく突きつけられると心を閉ざしてしまったりする。それは、ある意味「心を守っている」とも言えるかもしれないんですけど。そんなガードが堅くなってきた心の隙間にひょいと潜らせていただこう、っていうのが今作の戯曲上のコンセプトだったりするんです。つまりは、自分事と他人事の比重の話になってくるんですけど。

「ねじり」や「ひねり」を生み出すためのウォーミングアップ

秋場 さらに今作は「ねじり」と「ひねり」が創作のテーマになっているんですよね。大人数でステージ上にいることが多いけど、まとまるのではなくて、ねじられ、ひねられ、うねりが生じるみたいな……。みんなが今どこにいて、そこからどこに行くのか。そこにどんなうねりが生まれていくか。いろんなパターンを試したいと思っています。

坂本 「ねじり」や「ひねり」といったところでは、私が稽古の度にそれを痛感しているあるシーンがあって……。秋場さんと私が夫婦のような出立ちで出てくるシーンなんですけど、絵として見えている図は夫婦なんだけど、喋っていることや内容は全然夫婦の会話じゃなく、初対面同士の会話なんです。見えている関係性と実際の関係性の乖離。その面白みを絶妙な塩梅で成り立たせたいなあと思っています。他にも会話と景色のアンバランスさを面白く作っていくシーンがたくさんあるので、挑戦しがいがあるなと思っています。すごく難しくて、苦戦している部分でもあるんですけど。

谷田部 日常生活がそうであるように、たとえ交わらないとしても、同じ場に人と人が居合わせる時に影響や反応って絶対生まれるものだと思うんです。だから、舞台上でも他者からの影響を全部ちゃんと拾って、自分の居場所や声の居所、言葉の出し方や投げ方に反映させたいと思っています。一人きりの時、二人の時、複数でいる時。それぞれに応じて変動していくような。広い意味合いで、全員で影響しあって存在することが今の目標です。

木村 言いたかったこと、みんなに全部言われちゃった(笑)。僕は稽古中に自分や周囲の人たちが、ふいに踊っているように感じたり、見える瞬間があって……。波動というのかな、なんか互いが受けた影響へのリアクションとして「踊る」というのがしっくりきていて。それが、「うねり」なのだとしたら、どんどんそういう風になっていきたいと思っています。「影響し合う」って「影響させられざるをえない」ということでもあると思うんですよね。今はやることに追われてまだ余裕がないんですけど、いろんな人と踊れたらって思います。

秋場 踊るの、いいですね。僕は好きです、「ねじり」や「ひねり」の世界。交わらない、重ならない、そんなすれ違いの中にも自分のベスポジを探していきたい気持ちもありますね。前回は死人役だったのですが、今回は色々しゃべりますので。

島村 確かに、前作は冒頭で盛大に踊り歌った後に死んじゃって、そこからずっと死人として存在してたもんね(笑)。前作観ていただいた方は、引き続き出演してくれている俳優のギャップも楽しんでもらえると思います。なんかみなさんが『ドキドキしていた』という作品についてこんなに色々と語ってくれて、感慨深いです。どうしよう、結末すら言いたくなってきちゃった……。

『ドキドキしていた』キービジュアル 写真提供/情熱のフラミンゴ

――そこはまさに、「ちょっとまって」ですね!(笑)。 情熱のフラミンゴのいち観客としても、「今度はどんな新しいことをやるんだろう?」という”ドキドキ”が高まるようなお話でした。情熱のフラミンゴは言葉の独自性も魅力ですが、俳優の身体性もまた大きな見どころだと感じています。最後に島村さんが思う今作の魅力を教えてください。

島村 僕はいつも「自分が今観たい作品を」と思っていて、その時の自分の心境がダイレクトに反映されるので、毎回カラーの違うものが出来上がるんです。今回は、順当な道順や手順で入っていくのではなく、秘密のルートを辿って心に入り込んじゃう作品。例えるならば、『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造のように心の隙間にお邪魔して、こっそりとドーン!しちゃうみたいな、そんなものができたらと思っています。あ、「ドーン!」って言いましたが、そんな大きなものではなく、決して激しく掻き乱したりはしない小さなドーン、です。みなさんの心の隙間に、「その他」のジャンルに入れていただけたらと思います。ド、ドーン……。

 

写真/情熱のフラミンゴ

公演情報

情熱のフラミンゴ第10回公演『ドキドキしていた』

 
■日程:2022年7月23日(土)~31日(日)全12ステージ
■会場:東京都 こまばアゴラ劇場
■料金:前売/3300円 当日/3500円 学生/2500円
■上演スケジュール
7月23日(土)19:00   
7月24日(日)13:00 
※ アフタートーク有 ゲスト/今井ミカ氏
7月25日(月)14:00 /19:00
※19:00回のみアフタートーク有 ゲスト/山田玲司氏
7月27日(水)14:00/19:00
※14:00回のみアフタートーク有 島村和秀ソロトーク
7月28日(木)14:00/19:00
※14:00回のみアフタートーク有 島村和秀ソロトーク
7月29日(金)19:00
7月30日(土)14:00/19:00
7月31日(日)13:00
※受付は開演30分前、開場は20分前
※7月24日は上演に日本語字幕、 アフタートークでは手話通訳がつきます
 
■作・演出:島村和秀(情熱のフラミンゴ)
■出演(五十音順):秋場清之(情熱のフラミンゴ)、木村巴秋(青年団)、坂本彩音、西村ともね、根本江理(青年団)、兵藤公美(青年団)、谷田部美咲
■スタッフ
舞台監督:石田律子(プーク人形劇場) 舞台美術・照明:小駒豪 音楽:Coff サウンドデザイン:丹野武蔵 演出助手:藤聖也(劇団 翊) 音響協力:櫻内憧海 撮影:(株)UZUSHIO 受付手話通訳:村山春佳 チラシデザイン:カナイフユキ、藤本麻衣 制作:島村和秀、秋場清之、西村ともね 、池田きくの、安多香子
■協力:青年団、プーク人形劇場、(有)ヘッドロック、SQUAD、(有)レトル、MIKI the FLOPPY
■提携:(有)アゴラ企画 ・こまばアゴラ劇場
■助成:芸術文化振興基金助成事業
■情熱のフラミンゴ公式HP:https://www.passionflamingo.com
■公式twitter:@wait_a_bird
 
<あらすじ>
溶けたアイスがもとに戻るまで……。埼玉の新興住宅地から離れた空き地で足を止める他人たちは、少しの時間をそこで過ごす。どうやってここに来たのかわからないのに、行き先はわかる。そうでしょ? 
人々の交わす言葉が夜空に四散する、空き地戯言エンターテインメント!
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