東京デスロック・多田淳之介インタビュー~意欲作『再生』が三重に登場! 劇団+現地Ver.ツアーの2都市目は、上演史上初の試みも
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『再生』《三重Ver.》出演者と演出家。前列左から・雛野あき、谷川蒼、岡本理沙、川上珠来 後列左から・藤島えり子、日下七海、重実紗果、森菜摘、作・演出の多田淳之介
演出家・多田淳之介が主宰する〈東京デスロック〉が2006年に発表した『再生』。“30分の同じ物語を3回繰り返す”という特異な構造で大きな話題を呼んだこの作品は、初演以来たびたび、国内外の各地で上演されてきた。2003年頃より増加し当時の社会問題ともなっていた「集団自殺」をモチーフに、大音量で流れる音楽に合わせて躍動する登場人物たちの身体を通して、現実には決して再生することの出来ない【時間】と、今ここにある【生】を克明に浮かび上がらせた作品だ。
2011年〜12年には、多田は全国各地で本作の現地制作バージョンにも積極的に取り組み、2017年以来5年ぶりの再演となる今回は、3都市ツアーを決行。2022年7月に北九州と三重、2023年2月には愛知・長久手に於いて、各地域のオーディションで選出した出演者と共に2週間の滞在制作で創る現地Ver.と、劇団Ver.の両方を上演する試みだ。
3都市ツアーの2都市目となる三重公演は、2022年7月23日(土)と24日(日)の2日間に渡り、津市の「三重県文化会館」で上演。ここで現在新たに制作されている《三重Ver.》は、本作上演史上初となる、女性のみの座組という点も要注目だ。公演両日とも、昼公演で《三重Ver.》を、夜公演で《劇団Ver.》を上演するプログラムとなっている。
果たして5年ぶりの『再生』は、そして《三重Ver.》はどのような作品になるのか。北九州公演を無事に終え、「三重県文化会館」での滞在制作が始まった稽古場を訪問し、多田淳之介に話を聞いた。
東京デスロック『再生』劇団+三重バージョン チラシ表
── 今作『再生』では、見知らぬ者同士による「集団自殺」をモチーフにされていますが、元々はどういった経緯でこの作品を創られたのでしょうか。
僕らは〈東京デスロック〉という劇団を2001年に立ち上げましたが、“デスロック”=“死の鍵”という意味で、例えば「死」のような逃れられないものに対峙した時にどうするのか、どうポジティブに生きていくのかに関心があり、旗揚げ時はそういう戯曲を書いていたんですね(現在は演出に専念)。人の死をどう乗り越えていくかを、誰かに死なれた人達という視点で描いていました。『再生』を初演した頃は集団自殺が社会現象として話題になっていた時期だったので、世の中で何が起きているんだろう? という興味から、集団自殺する人達のことを書けないかと考えたのがきっかけです。
ただ、「死」を扱いつつも、ポジティブさ、みたいなところにはこだわっていて、集団自殺をモチーフにはするけれども、何かひとつ幸せに死んでいくことはできないか? ということを考えたんですね。死ぬことを書くことで生きていくことを考えてくれたらいいな、というのが最初の思いでした。
── 前回の公演映像を拝見しましたが、自らの意思でもうすぐ死んでいくことがわかっている状況の中で、登場人物たちが「結婚したい」など未来の願望やポジティブなことを明るく語ったりするのが、とても切なく感じました。
悲しいですよね。目的が集団自殺だったとしても、その時偶然集まった人達で何を話すか考えた時に、おそらく他愛もない話をするんだろうな、と。「実はこんなことが辛くて…」みたいな話をする必要もないし、逆にポジティブな話や、「こういうことがしたい」という思いを発散するところに行くような気もしていて。なので初演の時から、あまり自分の人生での辛さを振り返ったりはせず、楽しい会話でその場を明るく過ごすといった演出にしています。
『再生』《劇団Ver.》出演者。上段左から・夏目慎也、佐山和泉、原田つむぎ、松﨑義邦 下段左から・岡田智代、波佐谷聡、田中美希恵
── この作品では同じシーンが3回繰り返され、その名の通り“再生”されますが、2回でも4回でもなく、3回という回数にされたのは?
気になりますよね。なぜ3回なんだろう?って。1回目は、おそらく何が起きてるのかよくわからないまま終わるんですよね。何か騒いでる人達がいて楽しそうにしてるなぁ…と思ったら死んでしまう。2回目からは、種明かしのように死ぬことがわかっている前提で観ると、また見え方が変わってくる。ただ騒いでいるように見えた姿が、ちょっと悲しそうに見えたりだとか。そして3回目になると、お客さんが能動的に発見していく。例えば、「この人、汗がすごいな」「この動きがもう1回出来るのはすごいな」など、いろいろ見るところが変わってくる。
でも一番注目していくのは、恐らく身体の変化なんですよね。明らかに演者の身体が変わるので。そうなった時に、死んでいくことをやっているけれど、今この人達が生きていること、生きている身体の力強さや輝きを、すごくキャッチしてもらえるんじゃないかな、と思っています。おそらく4回目以降は、だんだん疲れてひどくなって、もう何も出来なくなる50回目みたいなものも楽しめるとは思いますが、演劇の公演として考えた時に、3回で90分ないしは100分ぐらいが一番効果的なんじゃないかと。
── 全力で歌いながら踊ったりするシーンが多いので、出演者の皆さんは体力的にかなり大変そうですね。
大変ですね、これは本当に。最初にこの作品を創り始めた時はあまり運動量も多くなく、普通に繰り返せてしまう感じだったんですが、そうするとつまらなくて。もうちょっと再現しにくいことをやらなきゃいけない。同じことをやっていても、やはり変化がないと面白くならないんですよ。再演作で、今は3回繰り返すことをわかって観に来てくれているお客さんが多いので、「3回やるとは聞いていたけど、これをもう1回やるの!」と思わせたい。そのために、運動量が必要になてくるんです。
── 同じことを観ているはずなのに飽きるという感じにはならなくて、個々のセリフや情報量なども絶妙で、とても面白く拝見しました。
これはおそらく演劇特有かもしれませんね。映画などだともう少しフォーカスされているし、映画は映像なのであまり変わらないから同じものを同じように観ている感覚になりますが、演劇の場合は毎周どこを見るかが変わるので、発見もあります。だから普段、1周しか観ない演劇作品って、相当見逃してると思うんです。一般的には同じ作品をあまり何回も観ないですからね。
今はオンラインで配信上演されたりすると、途中で映像を止めたり進めたりできてしまいますが、演劇は基本的には劇場に集まって、ほとんどその時にしか観られないものです。リアルタイムでしか観られないという行動の中で、何をどう楽しむか。そう考えると『再生』はとても演劇的な作品で、映像で繰り返し観るものとは違う体験になると思います。
『再生』《三重Ver.》稽古風景より
── 選曲もとても素敵でしたが、これは初演の頃から同じ曲を?
初演と2017年の再演ではだいぶ変わっていますね。5年前の再演ぐらいから出演する人達の年代によってその世代の話や、どういう時代を生きてきたか、みたいなことを入れているので今回もだいぶ変わると思います。
── 劇中でかかる曲は、登場人物がお一人ずつ選曲している、という設定ですものね。
そうですね。例えば、先日まで滞在制作していた《北九州Ver.》は全員30歳以下で、《劇団Ver.》は28歳~60代までいるんです。世代が異なるメンバーなので、かかる曲も全く違いました。稽古をしながら出演者に、子どもの頃にどんな曲を聴いていたか、高校時代はどんなだったかなど、いろいろ話を聞いたりして決めていきます。やはりその人達が盛り上がれる曲の方が身体の反応がいいので、出演者に合った曲を探しながら創っていますね。
── 今回の《三重Ver.》は、応募数34人から書類選考を通過した28人がオーディションに参加し、そこで合格した8人が出演されるということですが、選考基準はどんな感じだったのでしょうか。
今回の《三重Ver.》は女性だけで、人数も《劇団Ver.》より1人多くなっています。世代は幅広くて、20歳~36歳くらい。こういう作品なので、オーディションでも踊った時の身体のバリエーションや、身体のボキャブラリーを気にしていました。ほかに、シェイクスピアのセリフを話してもらったのですが、そうすることでこれまでの演劇環境や、僕と感覚が近いかどうか、といったことがわかります。創作期間も短いので、僕と感覚が近い方がよい反面、感覚が遠い方もいると、僕の知らないことや全然思いもつかないことをやってくれたりするので、自分と文脈が近いか遠いか、その辺りのバランスも考えて選考しました。
── 女性8人は意図的に、ということではなく結果的なものだったんですね。
いろいろな組み合わせのパズルの段階では男性も候補に挙がっていましたが、結果女性8人が一番しっくりきて、面白くなりそうだなと思いました。役があってオーディションをしているわけではないので、組み合わせとして一番良かった印象です。今回は三重や名古屋のほか、関西チームも受けに来てくれたので、出身地や活動地域のバリエーションも出て、面白いメンツになったと思います。
── これまでも女性だけ、男性だけ、という組み合わせはあったのでしょうか?
今回が初めてですね。稽古初日にあまりの違いに衝撃を受けて。こんなに見え方が変わるのか!と。
── 個々のセリフは前回と同じで?
変わりますね。今回のメンバー達の話す感じで内容も変わっていくと思います。
── 音楽も今回は、20歳~30代半ばくらいの方が聴いてきたような曲で構成されるんですね。
そうですね。令和になって音楽の聴き方がだいぶ変わってしまったので、最近の曲は趣味が細分化していて聴いてる/聴いてないが人によって極端ですが、逆に80年代…例えば松田聖子だと全員知ってるなど、そういうことも起きています。だからブルーハーツは、「運動会でかかってました」「親が聴いてました」といったように、若い子も知っています。今回、曲のアンケートを取った時に、すごく若い子からユニコーンやBOØWYも出てきました。
『再生』《三重Ver.》稽古風景より
── 現地Ver.の場合は、その土地や出演者によってセリフを変えていかれるんですね。今回も《劇団Ver.》と《三重Ver.》でセリフも流れる曲も異なる、別物の作品のような感じで。
同じグラウンドで違うチームが試合してる、みたいな感じですね。
── 映像で拝見した公演は、舞台からかなり近い場所に客席があって、実際の劇場では作品世界に没入できるような臨場感があったのではないかと思います。今回の「三重県文化会館 小ホール」では、どんな感じになりそうですか。
感染症対策として舞台から客席まで2mは取っていますが、臨場感はあります。僕は演劇は近くで観た方がより面白いと思っているので、出来るだけ近くで、大迫力で観てもらいたいなと思います。
── 近くで観劇すると、部屋の中に配置された一つひとつの物にも目が行って、この作品では時間経過と共にそれらが変化していったりする様も、観客の心情に影響を与えているのではないかな、と感じました。
基本的には畳の部屋で鍋を囲んで宴会をしている、という状況ですが、今回から舞台美術に登場人物達の人生に登場してきたであろう物…小さい頃から使っていたおもちゃや、ぬいぐるみ、ゲーム機、ランドセルなどもインスタレーションのように配置しています。具体的な設定のある舞台美術ではありませんが、たまに小道具としても使ったり、昭和、平成、令和のモノ達が何か彼女彼らの人生の舞台のように見えると面白いかな、と思っています。
── この作品は、今後も継続して上演されていくご予定ですか。
そうですね。来年の2月に長久手公演があって、そのオーディションはこれからなので、三重公演をご覧になった方が受けに来ていただけたら。
── 《劇団Ver.》の方も、再演のたびに出演者が変わられるんでしょうか。
劇団のメンバーでその時出られる人が出て、たいていの場合は客演の俳優さんを何人か呼んで、という感じです。夏目(慎也)君だけ、2006年の初演から全部出ているのかな。2011年に韓国で日韓バージョンも上演していますが、そちらにも出演していますね。
── 今回のツアーは2週間の滞在制作ということですが、稽古のお時間としては足りている感じですか?
もうこれでやるしかない、という感じで。以前の現地Ver.はもっと短かったんですよ。月曜に小屋入りして土日で公演、といった具合だったので、それに比べたら随分時間はありますね。30分創れば90分出来るという構造にはなっているので、コスパはいいんです(笑)。セリフもそんなにないので動きを覚えてしまえば早いですが、30分出来たからといって、それをどう繰り返すかの配分は必要になってきますね。それでも通常の90分の作品を創るよりは、もう少し短時間で創作できます。
── シーンを繰り返すことについては、俳優の皆さんにはどのように指示されているんでしょうか。
基本的には「再現する」っていうモチベーションは常に持ち続けてください、と言ってます。やろうとするからこそ、出来なくても感動出来るんじゃないかと思うので。疲れているのも辛そうなのもわかっているんだけど、動きが弱くなったり出来ない人を見てもあまり面白くない。でも本当に疲れちゃうと出来なくなってしまうので、そこをどう見せるかも俳優さんの匙加減です。なので、演出的にもちゃんと休むところは作ったりします。1分間ただジャンプし続けてもあまり人は感動しなくて、間に2回ぐらい休みを入れて、辛いけど跳ぶ、みたいな感じを入れるとすごく伝わるんです。
── 具体的に人が疲れていく様や、俳優の身体が変化していく様子を目の当たりにすることは、観る側も「生」を意識することになるので、そういう見せ方はすごく面白いですね。
生きているからこそ疲れていく、ということなので、そこも注目してもらうといいですね。
取材・文=望月勝美
公演情報
東京デスロック『再生』劇団+三重バージョン
■作・演出:多田淳之介
■出演:劇団ver./夏目慎也、佐山和泉、原田つむぎ、松﨑義邦(以上、東京デスロック)、岡田智代、波佐谷聡、田中美希恵 三重ver. /岡本理沙、川上珠来、日下七海(安住の地)、重実紗果、谷川蒼、雛野あき(安住の地)、藤島えり子(room16)、森菜摘(演劇ユニット『あやとり』)
北九州劇術劇場×三重県文化会館×長久手市文化の家
東京デスロック『再生』劇団+現地バージョンツアー
《北九州》 2022年7月9日(土)、10日(日) 北九州芸術劇場(公演終了)
《津》 2022年7月23日(土)、24 日(日) 三重県文化会館
《長久手》 2023年2月25日(土)、26日(日) 長久手市文化の家
《津》 公演詳細
■会場:三重県文化会館 小ホール(三重県津市一身田上津部田1234)
■料金:三重Ver./一般1,000円 22歳以下500円 劇団Ver./一般3,000円 22歳以下1,500円 セット券/一般3,500円 22歳以下1,800円 ※前売・当日共通、22歳以下は当日受付で身分証を提示
■アクセス:近鉄名古屋線・JR紀勢本線・伊勢鉄道「津」駅西口から徒歩約25分、または三重交通バスで約5分
■問い合わせ:
三重県文化会館
WEB
■公式サイト:
三重県文化会館 https://www.center-mie.or.jp/bunka/
東京デスロック http://deathlock.specters.net