建築家と演出家がタッグを組んだ『建築/家』演出・あごうさとしに聞く。「建築の面白さと課題を、実際の建築家の対話から浮き彫りに」
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あごうさとし×中西義照『建築/家』ビジュアルイメージ。 [宣伝美術]黒木結
京都の小劇場[THEATRE E9 KYOTO(以下E9)]には、2階にいろんなジャンルのビジネスマンが所属するコワーキングスペースがある。E9芸術監督で、演出家のあごうさとしは、彼らを観劇に誘うだけでなく、演劇講座を開講した上で作品を発表するなど、いろんな形で表現の世界に巻き込んでいる所だ。その一環として、一つの職業にスポットを当てた「働く大人と演劇」シリーズの2作目となる『建築/家』が、2022年7月29日(金)~31日(日)、上演される。
2021年に、フリーアナウンサーの能政夕介が作・出演した『フリー/アナウンサー』から始まったこのシリーズ。『フリー……』では、アナウンスの歴史や能政のアナウンサー哲学を盛り込んだ、一人芝居のような舞台を通じて「アナウンサーという仕事とは?」に、多角的に切り込んでいった。今回は[一級建築士事務所FORMA]代表の建築士・中西義照と、「住まい方アドバイザー」としてサポートをしている妻・中西千恵とともに、あごうらしいやり方で「建築家」の仕事を考えていく。
『建築/家』に出演する中西千恵(左)と中西義照(右)。[THEATRE E9 KYOTO]2022年度年間プログラム記者発表会より。 [撮影]吉永美和子
本作が生まれたのは、あごうが昨年自分の家を造ったことがきっかけだった。「本気で二級建築士の試験を受けようと思ったほど、建築にハマってしまいました(笑)」と語るあごうは、この家造りに関わった中西夫婦とともに、「建築の面白さ」と「日本の建築が抱える問題」を舞台化することを考えたという。
「建築っていうと、間取りやデザインがどうこうというのもありますが、地球環境問題と結構ダイレクトにつながっていて、社会課題が凝縮された分野でもあるのが面白いです。たとえば日本の家の建築水準は、省エネルギーの面で言うと、世界の最低水準を大きく下回っていて、多くの国々では違法状態だとか。それって建築業界そのもの課題が浮き彫りになっているし、ひいては社会問題みたいなことにも大きく関与しているんです。
そういうハード面だけではなく、施主の家族がどんな暮らしを実現したいか? そのために、どういうレイアウトにするのか?……などの、ソフト面も考えなければならない。だから施主と建築家の、あるいは施主の家族間でも、コミュニケーションが非常に大事な仕事でもあるんです。そんな風に、建築から見える様々な問題と、人間のコミュニケーションのあり方を、中西さん夫婦の会話を基本に探っていきます」。
演出のあごうさとし。[THEATRE E9 KYOTO]2022年度年間プログラム記者発表会より。 [撮影]吉永美和子
中西夫婦が舞台上で話し合うのは(ちなみに2人とも、これまで演劇の経験はない)、実際に京都近郊に存在する、何十年も空き地となっている60坪の土地の活用法。まもなく子どもが独立し、夫婦二人だけの暮らしを目前とした中西夫婦が、ここにどんな家を建てたいと思うか? という話をするうちに、二人が理想とする「家」の姿が、じょじょに浮かび上がってくる──。
「お互いが作り手であり、施主でもあるという立場で、この土地に対応する家のプランを考えていただき、その過程を演劇にします。土地のデメリットをどう解消するか、低コストでもカッコいい建物が建てられるか、とか。特に中西さんは、究極のエコハウスを考える建築家グループ『パッシブハウス・ジャパン』に所属しているので、省エネの家の設計についても触れています。基本はご夫婦の会話だけなんですが、導かれた家のイメージが実際に、ある方法で舞台に立ち上がっていく様も楽しんでいただけたら」。
なかなか専門的な話も出てきそうなので、建築家向きの芝居では? と思われそうだが、あごうは「何かに住んでいる人なら、どなたでも響く部分があると思う」と言う。
「確かに、実際に建築に携わっていたり、これから家を作ろうとしている人には、ダイレクトに届く部分があると思います。でもいずれにしても人は、何かには住んでますんで(笑)。マンションであれ、ホテルであれ。だから基本的には、対象は『どんな人にでも』っていう所がある作品なのかな、と思います」。
作家の想像だけではどうしても限界のある、実際にその職業のプロとして活躍している人間だから持てる視点と思考。逆に自分の職業を、作家が客観的に眺めるからこそ見つかる、思わぬ発見と課題を、舞台作品の形で融合させる。あごうが挑戦している「働く大人と演劇」シリーズは、一つの職業をテーマに物語を描くこととはまた違う、メタフィクショナルでありつつも強度なリアリティを持つ舞台だ。
「働く大人と演劇」シリーズ一作目となった、あごうさとし× 能政夕介『フリー/アナウンサー』より。 [撮影]金サジ
「普通に働く人たちも、芸術家になってほしい」というコンセプトで、今後も年1・2本のペースで作品を発表していきたいというあごう。まずは誰もが生きている上で、ほぼ切り離すことなどできない「住」というテーマを通して、この演劇の特殊性と「住まうこと」の両方について、考えていただけたらと思う。
(文中敬称略)
取材・文=吉永美和子
公演情報
■演出:あごうさとし
■作・出演:中西義照、中西千恵
■日程:2022年7月29日(金)~31日(日) 29日=19:00~、30・31日=15:00~
※全ステージで、終演後にトークあり。各回の登壇者は公式サイトでご確認を。
■会場:THEATRE E9 KYOTO
■料金:一般=前売3,000円、当日3,500円 25歳以下=各1,000円引 高校生以下=無料
■問い合わせ:075-661-2515(10:00~18:00/火曜休館) info@askyoto.or.jp(THEATRE E9 KYOTO)
■公演サイト:https://askyoto.or.jp/e9/ticket/20220729