アイヌの民芸品多数、自由研究にも使える『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』京都で開催中、もはや作品の世界観にどっぷり浸れる博物館ッ!
-
ポスト -
シェア - 送る
『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』 撮影=川井美波 (c)野田サトル/集英社
連載完結記念 ゴールデンカムイ展 2022.7.9(SAT)〜9.11(SUN) 京都文化博物館
7月19日(火)に完結巻31巻を発売した、漫画『ゴールデンカムイ』(著:野田サトル)。明治末期の北海道の樺太を舞台に、かつてアイヌが埋蔵した金塊を求めて繰り広げられてきたバトルが、連載から多くの加筆修正が施され、ついに完結した……いや、完結してしまった。これを記念し、同作の冒険、歴史、文化、グルメ、狩猟といった魅力を凝縮した展覧会『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』が、7月9日(土)から京都文化博物館にて開催されている。先に実施されていた東京会場では、連日行列をなしていた同展覧会。その京都会場の様子をお届けしよう。
東京会場のレポートはこちら
●作中に登場する武器や衣装のモデルが目の前に●
ひとりずつイラストや資料などとともに紹介されている (c)野田サトル/集英社
まずはメインとなる登場人物のイラストや資料を、野田のコメント付きで紹介。元兵士の杉元佐一と、杉元の相棒で「新しい時代のアイヌの女」であるアシㇼパ、脱獄王の白石由竹をはじめ、土方歳三の一味や、鶴見篤四郎が率いる第七師団などを一人ひとり追っていく。驚いたのはピックアップされているキャラクターの多さ。杉元がアシㇼパと共に金塊を探す旅を続けていく上で、時には仲間に、時には敵となり死闘をくぐり抜けてきた20人以上のキャラクターのパネルなどが展示されている。
桜の皮を巻いた弓(カリンバウンク)が想像以上に大きい! (c)野田サトル/集英社
また、アイヌ民族の資料の多さにも驚かされる。正直なところ、漫画の展覧会で「そんなに文化や狩猟にフォーカスを当てているはずはないだろう」と思っていたが、考えが甘かった。アシㇼパのエリアを観て早々に「これは作品の博覧会だったのか」と察するほかない。
野田サトル所蔵の展示資料「キロランケのマキリ」 (c)野田サトル/集英社
例えば、アイヌの男性が自分で彫って女性に贈り、生活力を示したと言われる手刀の「マキリ」は、狩猟の知識が豊富なアシㇼパはもちろんのこと、老若男女問わずアイヌを名乗る人物のエリアに飾られていた。それも、各キャラクターが持っているマキリのモデルはそれぞれ特徴が異なり、実物の横に並べられている絵を観ると、確かに描き分けられている。作品の中でアイヌの人々が、「キャラ付けとしてのアイヌ民族」ではなく、アイヌ民族として生きていたのは、野田が文化に対する下調べを綿密に行なっていたからなのだと体感し、脱帽した。
状態が良く、鶴見中尉の存在をリアルに感じる…… (c)野田サトル/集英社
アイヌの民芸品だけでなく、杉元の軍帽や鶴見中尉と月島基軍曹の軍服のモデルも展示。その中でも鶴見中尉が着用していた肋骨服は、すぐそばの野田のコメントにもあるように、状態が素晴らしく良い。リアルに鶴見中尉の存在を感じることができ、興奮のあまり、筆者の脳内には鯉登音之進少尉の「キエエエッ!!」という声が響き渡っていた。
●変態の集まり、24人の刺青囚人がズラリ●
網走監獄の入り口、地獄の入り口。 (c)野田サトル/集英社
突き当たりにある網走監獄の入り口を通ると、当たり一面に囚人の顔、顔、顔。看守として監獄に入ったかのようだ。埋蔵金のありかを示す道標、それは網走監獄から脱走した囚人の体に彫られている刺青。そのため、金塊を追い求めるならば誰より早く、ひとりでも多くの囚人に出会い、皮を剥ぐか模様をスケッチしておかなければならなかった。そんな物語の鍵を握る囚人24名が、人相手配書とともに紹介されている。
凶悪な囚人に囲まれるという不思議体験 (c)野田サトル/集英社
手配書の周りには、各自の特徴を現した装飾があしらわれており、同展を制作したスタッフらの愛を感じて仕方がない。ついつい足を止め、各エピソードに思いをふけてしまう。そして脱獄王というだけあって、手配書からも逃げ出している白石。なんともバカで愛おしい。
海賊房太郎のほか、いくつかの囚人にはモデルとなる人物が。 (c)野田サトル/集英社
実在した人物をモチーフにしている囚人もおり、当時の記事を読むとより世界観に浸れるのでしっかり読んでもらいたい。全員が重い罪を犯しているだけあって、サイコパスで変態だらけの囚人たち。キャラの濃さに酔わないよう気をつけて。
●アイヌ民族、ロシア人、そして日本人の生活●
漫画での登場シーンと実物、解説が一度に楽しめる (c)野田サトル/集英社
続いては北海道アイヌを中心に、作中で扱われた民族の生活について迫る。作中のコマを用いた説明パネルには、北海道アイヌの「狩猟」、「採集」、「食(料理)」と書かれ、アシㇼパが披露してきたアイテムや「チタタㇷ゚」などの料理サンプルが並ぶ。食品サンプルが美味しそうで、会場でついついお腹の虫を鳴らしてしまった。作中で民芸品などが紹介されるたびに、漫画と実物を同時に観てみたかったので「コレコレ!! この一画だけでも常設にして!」と強く願った。「このマタギ……スケベ過ぎる!!!」でミームにもなっている、ラッコ鍋回のイラストも展示されているので、お見逃しなく。
日本の文化と可愛い谷垣ニシパ(原作者のお気に入りのキャラ) (c)野田サトル/集英社
北海道アイヌのほかにも、海を渡った先の樺太で生活を営んでいた民族の文化にも触れる。樺太は当時、犬ぞりを使う樺太アイヌや、トナカイの飼育をするウイルタ民族、そして漁労をメインとし、作中では鮭の皮から作られたお菓子「モス」を鯉登少尉たちに振る舞っていたニヴフ民族の居住地だった。自然と共存する3民族の尊い文化のほか、当時すでに写真やサーカス、温泉にロシア式蒸し風呂「バーニャ」など、栄えていた日本とロシアの文化も紹介され、その対比がおもしろい。
筆者は歴史がとにかく苦手で、普段は博物館に行っても頭に入ってこないことが多い。しかし同展で観たものは鮮明に覚えている。漫画を読んでいて予備知識があるからか、スッと腑に落ちる感覚があった。歴史や文化に苦手意識のある読者には、特に足を運んでもらいたい。
●ようやく冒険、戦闘ゾーンへ●
名シーンのイラストがズラリ (c)野田サトル/集英社
ひとつ階をくだると、物語のギアを上げた網走決戦や、札幌大激戦などのイラストが壁面にズラッと並んでいる。ひとつのエピソードにつき、数枚にわたって展開されているので足を止めて読み込むこと間違いない。パネルにプリントされている表情やセリフが華やかに、そして残酷に、イラストを引き立てている。
原画を引き立たせるセリフや表情の数々 (c)野田サトル/集英社
そして杉元と土方、鶴見中尉が使用する銃のモデルも展示されている。コメントで「ここのタイミングで持っていたもの」と書かれているので、スマホで該当する話を確認して感動する。帰りの電車でも余韻に浸ったまま漫画を読み進められたし、心から電子書籍派で良かった。
尾形の三八式歩兵銃(モデル) (c)野田サトル/集英社
ちなみに狙撃の名手、尾形百之助が愛用していた銃のモデルとなった三八式歩兵銃は、第一章に展示されている。銃床側から覗いて尾形目線を楽しむも良し、銃口側からロシアの狙撃手でライバルの頭巾ちゃん(ヴァシリ)気分に浸るのも良し。楽しみ方は無限大だ。
最後はクライマックスに向けてのイラストや、野田直筆のイラストが同展を締める。冒頭でも触れたように、完結巻は連載から大幅に加筆修正されているので、雑誌派の人もぜひコミックスを読んで欲しい。そして最後まで観終えると、野田の谷垣愛に改めて気付かされ、もう一度訪れたくなることだろう。
金塊を巡ってともに旅をし、殺し合い、ふざけあってきた杉元たちの活躍を振り返り、彼らの文化を追体験できる『連載完結記念 ゴールデンカムイ展』。譲れない「愛」を胸に戦った者たちの「行きた証」が確かにそこにあった。
取材・撮影・文=川井美波
イベント情報
会期:2022年7月9日(土)~ 9月11日(日)
休館日:月曜日
開室時間:10:00~18:00 ※金曜日は19:30まで(入場はそれぞれ30分前まで)
会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)
主催:京都府、京都文化博物館、読売新聞社
後援:京都府観光連盟、京都市観光協会、KBS京都、エフエム京都
原作:野田サトル『ゴールデンカムイ』
企画協力:週刊ヤングジャンプ編集部
企画制作:ゴールデンカムイ展製作委員会
お問合せ :075-222-0888(京都文化博物館)
京都会場公式サイト:https://www.bunpaku.or.jp/exhi_special_post/goldenkamuy/
京都会場公式Twitter: @goldenkamuyexKY
※今後の状況によって、会期や開催内容が変更になる場合があります。ご来館の際は、京都文化博物館公式サイトで最新情報をご確認ください。