「あぁ、ミュージカルってすごい」 原作者・坪倉優介とプロデューサーが語る、新作オリジナルミュージカル『COLOR』

2022.8.19
インタビュー
舞台

「もしかして」と思わせた『スリル・ミー』の経験

――井川プロデューサーは、改めて、なぜ本作をミュージカル化しようと思われたのですか?

井川:実は書籍のタイトルを見た瞬間に「もしかして」と思ったんです。読み始めたら「これをミュージカルにしたい」という思いがさらに強くなり、読み終えた直後に企画書を書きました。そう思ったきっかけの一つは『スリル・ミー』を担当させてもらったことだと思います。

『スリル・ミー』は出演者が2人だけの“ミュージカル”。ミュージカルなんですが、栗山民也さんの演出によって、ストレートプレイのようにも感じられる。本当に境界のない作品です。多分その経験があったから、坪倉さんの本を読みながら、その紡がれる言葉を感じたときに「これに音を乗せて届けられたら」と思ったんです。

本や映像作品だと、第三者の物語として見る場合が多い。だけれど、演劇の面白さは、同じ空間で、同じ人間の方が演じていることで、エネルギーが直接届いて、もう一段階入り込めることだと思うんです。だから、もしかしたらこの題材を演劇にすることで、この物語から自分が感じた日常の嬉しさや、原点に戻ることが、もっと多くのお客様に届けられるきっかけになるのかもしれないと思って。自分がミュージカルが好きというのもあって、ミュージカルにしようと思いました。

――その見立てが見事にハマったわけですね。とはいえ、ここまで形にするのも大変だったと想像します。

井川:まず(演出の小山)ゆうなさんにお声がけしました。本を読んでいる段階から、ゆうなさんにお願いしたいなと思っていたんです。そうしたら、本当に二つ返事で「やります」と言ってくださいました。(脚本・歌詞の高橋)知伽江さんも「やってみよう」と。そうして、知伽江さんが(脚本の)第1稿を上げてくださったのが1年半ぐらい前です。

2020年に新型コロナウィルスの感染拡大による緊急事態宣言で『デスノート THE MUSICAL』が途中で終わってしまい、その直後に出会った本だったので、新作としては製作期間が短いです。なので、そこから急ピッチでつくりあげていき、本当にいろいろな打ち合わせを重ねて重ねて、第9稿まで来ました。稽古場でさらに変わっていくと思っています。

――音楽は、植村花菜さんが担当されます。

井川:まず、日本語らしさをそのまま紡ぐには日本人の作曲家の方がいいなと思い考えている中で、植村さんのお顔が浮かびました。耳に残るメロディーラインと言葉が絶妙にリンクして紡がれる世界を体験をしていただきたいです。

この作品は、“いい話だったね”とならないようにしよう、と当初からクリエイターの皆さんと話し、どういう視点を入れるべきか。その点の話し合いは本当に何度も何度も繰り返しました。

キャストの皆さんに初めてお渡しした脚本は第6稿。その時点で1年ぐらい私たちは手掛けていたので、キャストのみなさんの意見がとても客観的で、そこからもう1回リニューアルしたような感覚です。今回は「THEミュージカル」ではなく、芝居なのか、ミュージカルなのかという境目の中で紡ぎたいという思いがあって……本当にゴールがない挑戦なんだなぁと思いながら日々を過ごしています。

――成河さんが以前、SPICEのインタビューで「演劇としても『可哀そうな人が頑張って克服した話』にならないようにしないといけない」と語っておられました。キャストのみなさんからの意見も反映されているのですね。

井川はい。第三者から坪倉さんがどう影響を受けてきたのか、逆に第三者が坪倉さんからどう影響を受けたか。そこが見えたら、この物語が描きたいものがもっと明確になるんじゃないか。「ぼく」の芯となるものは何だろう。など多くの意見をくださいました。稽古中の現在も改稿を重ねています。新作のオリジナルは本当に難しい、と感じながら、でも本作を生み出せたら、もしかしたらまた次につながるのかなという期待もあります。

――坪倉さんは、普段お芝居などはご覧になられるのでしょうか?

坪倉:僕はどちらかというと、こもりきって創作をしているので、決して多くは観ていないです。お仕事の関係で文楽など、和の舞台を観る機会はあるのですが、今回はミュージカルということで、すごく新鮮に感じています。お稽古を間近で見るだけでも、もう楽しくて仕方がないです。

――やはり音楽の力は大きいですよね。

坪倉:うわーっとものすごく入り込んでしまいましたね。どんどん自分が過去に遡る感覚です。本の原稿を書いていたときは、自分としては意識しなかった、自然と流れ過ぎた状況をもう一度思い返すという作業で、絞り出して思い出すことに必死だったんです。でも、今回は、もう形になっていて、自分が逆に思い出させられるような感じがする。本のときと全然違ったので「ああミュージカル、すごい」と思いました。

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