木村文乃・砂田アトム・深田晃司監督が『LOVE LIFE』でヴェネチア国際映画祭に参加 砂田「この作品は“お涙頂戴”といった部分は無かった」
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『LOVE LIFE』ヴェネチア国際映画祭 公式上映後のあいさつ 左から、深田晃司監督、木村文乃、砂田アトム (C)Kazuko Wakayama
現地時間9月5日(月)、イタリアで開催中の第79回ヴェネチア国際映画祭でコンペティション部門に正式出品された映画『LOVE LIFE』の公式上映(ワールドプレミア)が行われた。公式上映前のレッドカーペットには、主演の木村文乃、共演の砂田アトム、メガホンをとった深田晃司監督が登場している。
『LOVE LIFE』(9月9日公開)は、深田晃司監督の最新作にして、9本目の長編映画。構想期間20年を経て完成させた作品で、ミュージシャン・矢野顕子の同名楽曲をモチーフに、「愛」と「人生」に向き合う一組の夫婦の物語として、映画を完成させた。劇中では、愛する夫と愛する息子、幸せな人生を手にしたはずの主人公・妙子に、ある日突然降りかかる悲しい出来事、そこから明らかになる本当の気持ち、彼女が選ぶ人生が描かれる。妙子役で主演をつとめるのは、木村文乃。木村は、深田監督の映画初参加となる本作で、聴者の役ながら、手話による身体表現にも初挑戦している。また、妙子の夫・二郎役で永山絢斗、妙子の元夫・パク役でろう者でもある砂田アトム、二郎の元恋人・山崎役で山崎紘菜、二郎の母・明恵役で神野三鈴、二郎の父・誠役で田口トモロヲが出演している。
妙子(木村文乃)が暮らす部屋からは、集合住宅の中央にある広場が一望できる。向かいの棟には、再婚した夫・二郎(永山絢斗)の両親が住んでいる。小さな問題を抱えつつも、愛する夫と愛する息子・敬太とのかけがえのない幸せな日々。しかし、結婚して1年が経とうとするある日、夫婦を悲しい出来事が襲う。哀しみに打ち沈む妙子の前に一人の男が現れる。失踪した前の夫であり敬太の父親でもあるパク(砂田アトム)だった。再会を機に、ろう者であるパクの身の周りの世話をするようになる妙子。一方、二郎は以前付き合っていた山崎(山崎紘菜)と会っていた。
左から、砂田アトム、深田晃司監督、木村文乃 (C)Kazuko Wakayama
木村文乃 (C)Kazuko Wakayama
砂田アトム (C)Kazuko Wakayama
砂田アトム (C)Kazuko Wakayama
世界最古の映画祭として知られ、ベルリン国際映画祭、カンヌ国際映画祭と並んで、世界三大映画祭の一つに数えられるヴェネチア国際映画祭。これまで『歓待』でプチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞受賞、『ほとりの朔子』でナント三大大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をW受賞、『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞受賞、『本気のしるし』でカンヌ国際映画祭「Official Selection 2020」選出など、海外映画祭に参加してきた深田監督だが、ヴェネチア出品は初。出品されるコンペティション部門には金獅子賞(最優秀作品賞)、銀獅子賞(最優秀監督賞/審査員大賞)、審査員特別賞、最優秀男優賞&女優賞、マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)、最優秀脚本賞などがあり、第79回を迎える今年は、イタリア現地時間の8月31日から9月10日まで行われる。受賞結果は、9月10日に発表される予定だ。
『LOVE LIFE』ヴェネチア国際映画祭 公式上映前 (C)Kazuko Wakayama
『LOVE LIFE』ヴェネチア国際映画祭 公式上映後のあいさつ 左から、深田晃司監督、木村文乃、砂田アトム (C)Kazuko Wakayama
深田監督らは公式上映前に、映画祭公式フォト―コール、プレスカンファレンス(公式記者会見)、レッドカーペットにも参加。記者会見では、深田監督には作品群との共通点や本作の特徴について、キャスト陣には脚本を読んだ際の印象、手話というコミュケーションについての質問が上がった。
記者会見
(C)Kazuko Wakayama
――深田監督の作品は「家族」をメインモチーフにしているとことが多いと思いますが、今作でもそのような部分が見られました。本作に込められた想いについてお聞かせください。
深田監督:私は映画を描くときによく「家族を描いている」と指摘を受けてるんですけど、私にとって「家族」がメインのモチーフではないと思ってます。私は映画を描くときに自分にとって普遍的だと思うことを描きたいと思っております。それは毎回変わるものではありません。言葉に出すと陳腐に聞こえるかもしれませんが、それは「人はいつか必ず死ぬ」ということ。そして「人は誰しも孤独を抱えながら生きている」ということ。ただ、その「孤独」を描こうとしたときに、1人でぽつんといる人を描けば「孤独」を描けるかと言われれば、そうではないと思っています。やはり、わたし達は親しい家族や友人、恋人といても、ふと自分は一人であると思い出してしまう瞬間があります。そういう瞬間を撮りたいと思っているからこそ、その前提である家族や夫婦といったコミュニティを描いています。今作は「LOVE LIFE」という矢野顕子さんの楽曲を聴いて、映画にしたいという思いを抱き、ずっと脚本を書いていたんですけど、コロナの時代が来て、「ソーシャルディスタンス」ということが言われるようになり、人と人が簡単に会えない時代になってしまいました。国と国の行き来もできにくくなった。そんな中で楽曲の「離れていても愛することができる」という歌詞がまた新たな意味を持ったことと思います。そして、この映画は、気がつけば、今作られるべき映画になったと思いますし、皆さまに届けるべき映画になったと思っております。
深田晃司監督 (C)Kazuko Wakayama
――キャスト二人に質問です。脚本を読んだときに、どのように、どういった点が心に響いたのでしょうか?
木村:脚本を読んだとき、小説を読んでいるかのような気持ちになりました。登場人物たちは決して奇をてらったような人物ではなく、ごく当たり前に人間としての生活を送っている人たちです。自分が当たり前に見てる世界、友達が見ている世界。自分の隣にある世界がこの脚本では描かれていると思いました。
木村文乃 (C)Kazuko Wakayama
砂田:台本を読んだときに、まず嬉しかったのは、ろう者の文化、ろう者の生活様式が取り入れられていたことです。というのも、これまでろう者が出る映画やTVというものは、どうしても「ろう者がかわいそう」と見られてしまうことが多いです。このことについては、自分自身としては抵抗がありました。でも、この作品は“お涙頂戴”といった部分は無かったですし、ろう者は耳が聞こえないから「不便だ」「かわいそうだ」だという描き方がされていなかったので、嬉しかったです。
砂田アトム (C)Kazuko Wakayama
――手話についてはいかがですか?
木村:私自身、手話を学んだのは初めてでした。その中で、手話と向き合えば向き合うほど、手話というのは、ただの手の動作やしぐさではなくて、イタリア語や英語と同じように、一つの言語であるということを学ぶことが出来ました。例えば、妙子(木村文乃)と次郎(永山絢斗)は目を合わせずに会話をしますが、妙子とパク(砂田アトム)は目を合わせて会話をします。それは、パクさんがろう者で、目を見て話さなくてはいけない。手話というのは、目と目を合わせて体現して、伝える言語です。だからこそ、ありのままに、自分の気持ちを隠さずにパクさんに届けられるという意味で、閉ざされてしまった妙子の心が、次郎さんではなく、パクさんによって開かれていったんだと思います。
木村文乃 (C)Kazuko Wakayama
『LOVE LIFE』は2022年9月9日(金)TOHOシネマズシャンテほか、全国ロードショー。