尾上菊之助「『ザナルカンドにて』と『素敵だね』は神曲」~『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』インタビュー
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尾上菊之助
2023年春、IHIステージアラウンド東京(豊洲)にて、『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』が上演される。
注目の配役は主人公・ティーダ役を尾上菊之助、ヒロインであり召喚士の少女・ユウナ役を中村米吉が演じる。「伝説のガード」と呼ばれるアーロン役は中村獅童、優秀な召喚士でありグアド族の族長シーモア役を尾上松也、ユウナを妹のように思い支える黒魔導士のルールー役を中村梅枝など、名優たちも出演する。
都内某所にて、企画・演出も手掛けるティーダ役・尾上菊之助の合同取材会が行なわれた。今回は合同取材会とその後の個別インタビューについてお送りする。
ーー今回、新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』(以下、『FFX』)を題材に選ばれた決め手をお願いします。
コロナ禍でゲームの需要が高まっているということを知り、自分の中で一番印象に残っていたゲーム『FFX』を思い出したことがきっかけになります。『FFX』はフルボイスでキャラクターの声が聴けて、まるで映画を観ているような感覚になり、とても興奮したことを覚えています。その時の興奮をもう一度味わいたくて、今回新たに『FFX』を購入し、ステイホーム中にプレイしました。約20年前のゲームとは思えないほど、素晴らしくて色あせないこの物語を「歌舞伎にできないか?」と思いました。決め手になったのは、『FFX』の代表曲「ザナルカンドにて」と「素敵だね」が流れた時に、当時プレイをしていた感動が一気によみがえってきて鳥肌が立ちました。その時に、「絶対に歌舞伎にしたい!」と思いました。コロナ禍で公演中止が重なり、先行きが見えず不安を感じていた時に、『FFX』の物語とキャラクターにたくさん救われました。皆様にも物語を通じて、力をお届けできたらと思っています。
ーー新作歌舞伎を精力的に取り組む原動力は、どこから得ていらっしゃるんですか?
常に「歌舞伎になるものはないかな」と考えています。その原動力は、古典歌舞伎をさせていただいていく時に湧いてきます。古典歌舞伎も、初演した時は、その時、その時代を生きるお客様に、「どのようにしたら、歌舞伎というものが届くか」ということを歌舞伎役者は考えて、作り上げてきたものです。それを演じるだけでなく、その時代の先人たちが考えてきたように、今を生きている私達も新作歌舞伎を作るということが、恩返しでもあり、未来に残る『古典』を作ることが歌舞伎に対して自分のできることだと思っています。
ーー今回の劇場は、IHIステージアラウンド東京ですね。
360度客席が回転するということに加え、8メートルの巨大スクリーンが特徴的な劇場です。特徴的な舞台であるからこそできる歌舞伎と現代技術の融合を目指して、スクウェア・エニックスさんにご協力いただきながら舞台づくりをしています。(共同演出の)金谷(かほり)さんが一場一場、絵コンテを書いてくださって、必要な映像を精査している最中です。8メートルの巨大スクリーンに、そのゲームの映像が映し出されるとどうなるのか、私も楽しみにしています。IHIステージアラウンド東京でしか作ることが出来ない壮大な世界観を存分にお届けしたいと思っています。
尾上菊之助
ーー召喚獣やブリッツボールなど、『FFX』ならでは! のシーンはどのように表現されますか?
ゲームの世界観を損なわないことを前提に、歌舞伎的手法を取り入れることを考えながらシーン作りをしています。例えば、8メートルの巨大スクリーンを使用し、召喚獣を投影したら役者と召喚獣のバランスがゲーム上のキャラクターと同じになるので、まるでゲーム世界にいるような感覚になるのではないか、などと考えています。『FFX』ではブリッツボールをはじめ、水を使った表現が随所にあり、歌舞伎的手法である本水を使うか、もしくは違う演出にするか構想を練っています。ブリッツボールをどういう風に表現するかについては様々な案が出てきています。ボールのモデルがこの前出来上がってきましたが、実際にボールを投げるだけではなく、歌舞伎の手法も使いつつやっていこうと思案しています。
ーー今回、衣裳はどんなイメージで作られていますか?
先日、かつらのフィッティングがありましたが、それぞれのキャラクターを想起させる素晴らしいものが出来上がってきました。ただ、ゲームそのままというわけではなく、ゲームのキャラクターのかつらと衣裳に歌舞伎テイストを加えています。歌舞伎の衣裳は、豪華さも魅力のひとつなので、日本の古典の知恵と、ゲームのキャラクターが融合するとこうなります。ということをお客様に見ていただきたいと思っています。歌舞伎化のひとつの楽しみとして歌舞伎アレンジされた皆の衣装をお楽しみください。
ーーキャスティングに関して、ご紹介ください。
そうですね、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』でもご一緒した米吉さんが、非常に可愛かったので、今回もユウナが楽しみです。中村獅童さんは共演させていただくことがしばらくなく、今回アーロン役で久々の共演になります。アーロンはずっとティーダのことを見守っていてくれる存在なので、一緒にお芝居させていただくのがとても楽しみです。シーモア役の松也さんも「巨悪」の存在で、この間の衣裳合わせでは、非常に迫力のあるシーモアが出来上がったので楽しみにしていただければと思います。
ーー今回、題材がゲームです。ゲームはプレイヤーが主人公になれるものだと思います。けれど、舞台は観客としてみている。新作歌舞伎とするためには、どんな工夫をされていますか?
脚本の八津(弘幸)さんと、ずっとお話しをしています。ゲームは、主人公をプレイヤーが動かしているので、自然と親近感が湧きますよね。ただ、演劇の場合はその親近感を湧かせる「道筋」を作らないといけないと思っています。そこを八津さんが非常に丁寧に考えてくださっていて、ユウナやティーダ、それぞれのキャラクターにお客様が感情移入をしやすいように、丁寧に描くようにしています。
今までは海外文学(『NINAGAWA十二夜』)、インドの神話(『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』)、日本の漫画(『風の谷のナウシカ』)を題材とした歌舞伎をつくってきました。今回の『FFX』はゲームを題材としています。全て異なる分野の作品ではありますが、共通しているのは「普遍的で壮大なテーマ」が根幹にあることです。私はいつも新作歌舞伎をつくる時に、そういったテーマを探しているのですが、『FFX』はまさに当てはまるものでした。
ーーゲームでティーダの声を演じた森田一成さんとお話しされましたか?
第2弾CMスポットで共演させていただきました。森田さんはとても気さくで、まさにティーダのような方でした。驚いたのが、森田さんがティーダの口癖である「~ッス」に対して『「ッス」はカタカナでお願いします。』と言われていた時でした。カタカナなんだ! という驚きと、ティーダの軽やかさが、その”ッス”に表れていてとても感動しました。ティーダの名前は、沖縄の言葉で「太陽」という意味なのですが、実際に森田さんの声を聞いた時に「ティーダってやっぱり太陽なんだ」という印象を改めて受けました。私も底抜けに明るい、みんなを照らす太陽のようなティーダを演じられたらと思いました。
尾上菊之助
ーーユウナはティーダの対になるキャラクターです。印象はいかがですか?
ユウナは自己犠牲をも厭わない意志が強い女性です。可憐さをもちながらも重責に耐えるその姿はゲーム越しでもすごいと感じました。可愛さとカッコよさを併せ持つ女性像を、相手役のティーダとして舞台でみられるのをとても楽しみにしています。
ーー今回、菊之助さんがユウナではなくティーダを演じられますが、正直「ユウナの菊之助さんも見てもたかった!」と思ってしまいます。
ありがとうございます。でも、米吉さんのユウナはとても素晴らしくて、ユウナがゲームから出て来た! と皆様に思っていただけると思います。この間の衣裳合わせでもすごく可憐でしたので、ご期待ください。
ーーでは、最後に、みなさんへメッセージをお願いいたします。
ティーダたちは、決して諦めることなく物事を捉え、受け入れていきます。「困難な壁に立ち向かい、諦めずに前に進んでいく」姿勢は、人生を歩む上で非常に大切な原動力になると感じています。その物語を、昼夜通しの物語として皆様にお楽しみいただけたらと思います。
また、『FFX』のキャラクター達はとても魅力的なので、歌舞伎化することで、よりキャラクター達の深みが増すと思います。私達がキャラクターの深みをさらに掘り下げて演じていけたらと思っています。今の時代だからこそ、皆様にお届けしたい気持ちがたくさんつまった『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーⅩ』にどうぞご期待ください。
取材・文=森 きいこ
公演情報
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