バレエ界に新風!話題の「HOME」を再演、濃厚な男性ダンサー達による新作も。「DAIFUKU」大和雅美&福田圭吾にインタビュー

インタビュー
クラシック
舞台
2022.10.11
HOME(2019年公演より)

HOME(2019年公演より)

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2022年11月2日(水)・3日(木・祝)、「DAIFUKU」8回目の公演「DAIFUKU à la carte」が上演される。「DAIFUKU」はバレエダンサーの大和雅美(元新国立劇場バレエ団)&福田圭吾(新国立劇場バレエ団)の2人が演出・振付を手掛けるユニットで、2016年の結成以来、ジャズやヒューマンビートボックス(Humanbeatbox)とのコラボレーション、360度全方向からのライヴパフォーマンス「360°Nutcracker」、バレエによるミステリードラマ「DAIFU"Q"」などを発表。時にはスタイリッシュに、またあるときはシリアスに、そうかと思えば笑わずにはいられないパフォーマンスで、ファンを魅了し、バレエ界に新風を巻き起こしてきた。さらに普段所属するバレエ団でのイメージとは違った、ダンサーらの別の顔を引き出すことで、新たな「スター」を生み出してもきた。

今回の「DAIFUKU à la carte」では2019年に初演し好評を博した「HOME」を再演するほか、福田の新作「LOVEおっさんず」、さらにダンスの小品2作が発表される予定だ。大和と福田に公演に向けての思いを聞いた。(文章中敬称略)

「DAIFUKU」大和雅美、福田圭吾

「DAIFUKU」大和雅美、福田圭吾


■好評の「HOME」を再演。キャストが変わりの新たな家族に期待

――以前インタビューをさせていただいたときに、「DAIFUKUで再演できる作品を生みだしたい」といったお話を伺っていましたが、福田さん振付「HOME」と大和さん振付「But Not for Me」が今回の「DAIFUKU à la carte」での再演になりますね。

大和 「HOME」初演時にはおかげさまで「面白かった」「楽しかった」という感想をたくさんいただきました。またこれはお客さまには直接関係ないのですが、私たち「DAIFUKU」は、この公演からこれまで協力いただいていた企業さんから独立することになったんです。それで新たなスタートという意味合いと、今後の方向性も考えながら、1時間弱のストーリー物と、圭吾君のストーリー物の新作「LOVEおっさんず」、それとやはりバレエ――踊りの作品もあった方がいいということで、「But Not for Me」のパ・ド・ドゥと、圭吾君と石山蓮君のダンス作品「a day」を上演することにしました。

福田 「HOME」はありがたいことに「面白かった」という評価をたくさんいただき、横浜で初演して大阪で再演し、今回の東京が3回目の上演になります。緊張感はありますが、楽しみだといってくださるお客様の期待に応えられるよう、いいものにしていきたいと思っています。

――今回の「HOME」の見どころは。

大和 キャストが変わるので、新しい家族像が見られるのかなと思います。圭吾君と私、「DAIFUKU」のスターともいえるフクちゃん(小柴富久修)は変わらないのですが、主演の小野絢子さん、菅野英男さん、宇賀大将君、近藤美緒さんが新しく加わってくれます。お父さん役を英男君が踊ってくれるので、後半のお父さんとお母さんの若い時代のシーンなどは見応えがあるものになるんじゃないのかな。

――お父さんとお母さんの若かりし頃のシーンは、それまで大笑いしたりほっこりしたりする中で、心に刺さるものもある現実が感じられて、とても印象的でした。

福田 「HOME」を作るにあたって、元ネタとしてインスパイアされた家族について、いろいろ細かい設定などを調べたんです。そしたらお父さんは大正生まれで、九州から東京に出てきたっていう設定があって。そういった時代に東京に出て、きっとすごく苦労したのだろうなと。そうしたなかでお母さんと出会って一緒に大変な時代を経てつくりあげた家族――HOMEであり、家族の歴史なんだということを表現したかったんです。

――再演にあたり何か振付など手を入れたところはあるのでしょうか?

福田 舞台がこれまでのものとは違うので、それに合わせた照明などの部分に手を入れる感じかな。

大和 新しいキャラクターを加えようかどうしようかという話もありましたが、今回は内容には手を入れませんでした。

――「HOME」はDAIFUKU初のオリジナルストーリー作品として、ターニングポイントになったのではと思います。「HOME」を上演して変わったこと、得たものは。

大和 1時間弱の短い作品ですけど、まとまったストーリー仕立ての、こうした作品が作れるという自信と確信が得られました。バレエで物語を表現するのはなかなか難しいし、またバレエを踊れるダンサーはいても、ナチュラルに演じることができる人がなかなかいないのが大変ですけれど、でもそうしたなかで集まってくれたダンサー達の個々の良さを生かしたドラマを、踊りで魅せていきたいなと思いました。

HOME(2019年公演より)

HOME(2019年公演より)


■個々のダンサーが持つ新たな魅力に光を当てる

――「DAIFUKU」の魅力の一つには、それぞれのダンサーが所属する普段のバレエ団の公演とは違った、新たな顔や魅力が見られる、という楽しみがあります。作品をつくる時に、何か新しい魅力を引き出そうといった狙いをもってつくっていたりするのですか。

福田 新たな魅力を引き出そうというのではなく、そのダンサーが持っている別の側面に光を当てる、という感じです。例えば今回は英男さんが、「HOME」では『サザエさん』の波平さんのカツラをかぶってお父さん役を踊ってくれるほか、もう一つの僕の作品「LOVEおっさんず」では濃厚なボス的役割を演じてくれます。英男さんはどちらかというと真面目でノーブルなイメージのあるダンサーだと思うのですが、実はとても気さくな方なんです。そういうところにライトをあてて、彼の持つ、別の魅力を知ってもらいたいと思いました。

大和 私は新国立劇場バレエ団(新国)にいたとき、同時に小林紀子バレエシアター(小林)にも在籍していたんですが、新国ではコールドバレエ、小林ではキャラクターダンサー的な役割が多かった。それぞれのバレエ団での私のダンサーとしての立ち位置はまったく真逆の役割で、でもそれぞれの場でちゃんと評価もいただいていた。二つの立場と役割があることで表現に幅も出たし息抜きをしながら踊れたし、新たな自分の表現を見つけるチャンスにもつながった。また今回はフリーランスの近藤美緒さんにも参加してもらいますが、ダンサーはとにかく踊る機会があるということが大事。だから場所や役柄が変われば、きっとみんな、さらに表現が広がるんじゃないかなと思うんです。

But Not for Me

But Not for Me


■濃厚なおっさんたちの純愛ドラマ。新進気鋭の若手と踊る新作も

――福田さんの「LOVEおっさんず」、とても個性的なダンサーのお名前が並んでいますが、ずばりテーマは。

福田 おっさん同士の純愛です(笑) これはドラマ「おっさんずラブ」にヒントを得たものなのですが、ドラマの田中圭さんと宇賀君の、2人の雰囲気が似ているな、と思ったところからいろいろとイメージがふくらんでいきました。ジェンダーレスな味わいもあり、コメディでもありと、作品の密度もかなり濃厚になっていったので、これは僕が信頼するベテランの、百戦錬磨な方々に出ていただくしかないということで、この人選になりました。ずっと温めていた作品でもあるので、ぜひ楽しんでいただければと思います。

――「a day」は石山さんとのデュエットになりますね。

福田 実は新国では僕が一番長く在籍するダンサーになったのですが、そうしたこともあって、最近若いダンサーを育ててみたいと思いが強くなってきたんです。僕は石山君の踊りがすごく好きなので、それで今回一緒に組んで踊ってみたいと思い作品をつくり、「DAIFUKU」にも出てもらうことにしました。
 

■切磋琢磨して表現を広げたい。お客さまにはリラックスして楽しめるバレエを

――先ほど新たな「DAIFUKU」のスタートというお話がありました。今後目指すものは。

大和 再演作品を動かしつつ、新作を加えていきたいですね。1時間規模のストーリー物と小作品の組み合わせで、そのための作品を今後も増やして行ければなと思います。

福田 いわゆるバレエ団以外の公演――例えば夏のガラ公演などではどうしてもパ・ド・ドゥなどが多くなるなかで、こうした1時間規模の作品がもっと増えれば、ダンサー同士が切磋琢磨しながら新たな表現を模索したり、新たなチャレンジをしたりといった機会にも繋がるんじゃないかなと考えています。

大和 あと「DAIFUKU」には、真面目だけれど、お客さまが声を出して笑える舞台も期待されている。そういう方向――バレエ鑑賞はかしこまったものではなく、リラックスして、笑っていいんだなと思っていただけるのも大事だと思っています。

劇場の規模的としては、やっぱりあまり大きなところではなく、小規模なところが合っている。私たちの舞台は、やっぱりお客さまとの距離が近くないと伝わりづらいのではないかと。

――360度の舞台のライヴ感は「DAIFUKU」ならではの面白さと一体感がありました。今後また見られるでしょうか。

大和 考えていきたいと思っています。ダンサー泣かせではあるのですが(笑)

――ありがとうございました。楽しみにしています。

HOME(2019年公演より)

HOME(2019年公演より)


 

■若手に発表の機会を。「ICHIGO DAIFUKU」も新たに始動!

「DAIFUKU à la carte」と並行して、2022年11月3日(木・祝)、若手振付家とダンサーによる公演「ICHIGO DAIFUKU」が上演される。これは振付家に作品を発表する機会をと企画されたもので、今枝亜利沙、岡本壮太、松平紫月、本吉由実、森 加奈に大和も加わり、コンテンポラリーダンスを中心とした作品が披露される。踊るのは大和が教える若いダンサーたち。現在スターダンサーズ・バレエ団や昭和女子大学バレエコースで指導に当たる大和が育てるダンサー達は、これまでも「DAIFUKU」公演にしばしば登場し、その実力のほどを披露してきた。本公演とともに楽しみたい。

取材・文=西原朋未

公演情報

DAIFUKU à la carte
 
■日時:2022年11月2日(水)・3日(木・祝)19:00~
■会場:板橋区民文化会館小ホール
■演出・振付:大和雅美、福田圭吾
■演目・出演
「HOME」
小野絢子、近藤美緒、菅野英男、小柴富久修、宇賀大将、大和雅美、福田圭吾
「LOVEおっさんず」
菅野英男、清水裕三郎、原健太、小柴富久修、宇賀大将
「But Not for Me」
近藤美緒、原健太
「a day」
福田圭吾、石山蓮

 

公演情報

ICHIGO DAIFUKU

■日時:2022年11月3日(木・祝)13:30~
■会場:板橋区民文化会館小ホール
■振付:今枝亜利沙、岡本壮太、松平紫月、本吉由実、森 加奈、大和雅美
■公式Instagram:ichigo_daifuku_k5.m3
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