師との“真剣勝負”で伝えたいこととは ヴァイオリニスト岡本誠司インタビュー

インタビュー
クラシック
2022.10.24
(C)Yuji Ueno

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昨年、ミュンヘン国際音楽コンクールで見事、第一位を獲得したヴァイオリニストの岡本誠司。ヴァイオリニストにとっても最も栄誉あるタイトルの一つだ。すでにその日からほぼ一年が経ち、岡本は新たなる展望を抱きつつ、意欲的に活動を展開している。2022年11月30日(水)には東京の浜離宮朝日ホールで、自身が尊敬してやまない師匠アンティエ・ヴァイトハース女史を迎え、知られざるヴァイオリン・デュオの名曲が散りばめられたコンサートを開催する。岡本自身、長らく待ち望んでいた師匠とのデュオコンサートが実現した今、その意気込みを聞いた。

師匠とだからこそできる、ヴァイオリン二本の挑戦

——ヴァイオリン・デュオ、加えて、無伴奏でのコンサート、そして師匠と弟子のデュオコンビでのコンサート開催というのは大変珍しい試みですね。

まさにその通りだと思います。今回、浜離宮朝日ホールさんでのコンサート開催が決定した際、昨年から同ホールですでに続行中の僕自身の三年間におよぶ全5回のリサイタルシリーズを加味した上で、プログラムを検討しはじめたのですが、そこで、大変にタイミング良く、ドイツで師事しているアンティエ・ヴァイトハース先生が、11月26・27日に東京交響楽団さんとの4年半ぶりの共演で来日されると耳にしました。先生とは「いつかヴァイオリンのデュオコンサートが実現したらいいね」と以前から話していましたので、「今回がそのタイミングかもしれない!」と、ダメ元で来日前後の日程を打診しましたら、「前後数日であれば」ということで快諾をいただけました。

先生はヨーロッパ内での活動だけでも大変お忙しい方ですので、タイミングに恵まれた、というのが今回のコンサート実現の一番の理由です。コロナ禍でいまだ来日できない演奏家も多い中で、こんなに早い時期に一つの夢が実現するとは思わず、僕としてもとても驚いています。

アンティエ・ヴァイトハース(C)Giorgia Bertazzi

アンティエ・ヴァイトハース(C)Giorgia Bertazzi

——ヴァイトハース先生との共演において、ストイックにヴァイオリニスト二人のみの編成としたのはなぜでしょうか?

ヴァイオリニスト二人を含んだ室内楽編成には、もちろんカルテットもありますし、ピアノを入れるだけで編成や選択肢の幅もかなり増えるのですが、岡本誠司というヴァイオリニストを通して、師匠であるアンティエ・ヴァイトハースというヴァイオリニストの音楽観やヴァイオリンへの向き合い方、音楽理念などを聴衆の皆様に一番良いかたちでお伝えでき、かつ、楽しんでいただける編成は何だろうか、といろいろと思いを巡らせました。

そこで、ここはあえて “真剣勝負” と言うのでしょうか、演奏する側としては一切ごまかしの利かないシビアなプログラムが一番良いのではと思い、ピアノすら入れず、ヴァイオリン二人のみのコンサート、すなわち、ヴァイオリン・ソロとヴァイオリン・デュオの作品だけでプログラムを組んでみることにしました。

——ある意味で挑戦でもありますね。

はい、もちろん挑戦という意味合いもありますし、聴衆の皆様にとっては、ヴァイオリンの音だけでどれだけ世界が広がるか、というのを存分に楽しんでいただけるのではとも思っています。

——師匠とのデュオだからこそ、そのようなことが実現できたというのもありますか?

そうですね。僕自身、ベルリンに移って丸5年になりますが、先生のことはそれ以前から存じ上げていましたし、この5年間はレッスン以外にも、いろいろな時間を共有してきました。先生と門下生だけで行く合宿のようなセミナーでは、室内楽の初見大会で大いに盛り上がったり、夜中までお酒を飲み明かしたり、食事しながら他愛もない話をしたりと、先生のクラスは師匠と弟子たちの距離感が近く、むしろ先生自身が師匠という扱いを受けたくないというフラットな雰囲気を作りあげていらっしゃいました。

とある年のヴァイトハース・クラスの合宿にて(岡本提供)

とある年のヴァイトハース・クラスの合宿にて(岡本提供)

音楽的な内容や技術的なことに関しても、この5年間の先生との学びは本当に内容が濃かったなと思っています。僕自身、ベルリンに移った22~23歳の頃というのは、コンクール出場・受賞経験なども経て、僕なりの音楽の表現方法や方向性、そして音楽観というものが少しずつ定まり始めていた頃だったのですが、それらの要素を、実際、技術を用いてどのように音として表現していくかということをはじめ、今までに思いつくことのなかった解釈の可能性やヴァイオリンという楽器自体の表現の更なる可能性など、多岐にわたって最も濃密に吸収できた5年だと感じています。

このように人間としての相互理解も深まり、音楽についてもたくさんのことを共有した二人のデュオという点でも、聴衆の皆さんにお楽しみいただきたいですし、本番のステージ上で師匠と弟子がどのような掛け合いをするのかというのも、見て、聴いて楽しんでいただけたらと思います。

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