役者生活50周年を迎える市村正親 7回目の出演『スクルージ』、節目の年に行う『市村座』にかける想いとは

2022.11.8
インタビュー
舞台

市村正親

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2022年、『ラ・カージュ・オ・フォール』への出演を皮切りに、『ミス・サイゴン』など、自らのライフワークとも言える作品に取り組んできた市村正親。12月7日からは7回目の出演となる『スクルージ~クリスマス・キャロル~』がスタートする。また、役者生活50周年という節目の年となる2023年は『市村座』での幕開けを予定している。公演への意気込みや構想をうかがった。

■この歳になったからこそ、より実感を持って演じられる

ーー今回、『スクルージ~クリスマス・キャロル~』が7回目の公演となります。

最初に公演した時は45、6歳だったんだよね。スクルージが何歳かは分からないけど、あと10年生きるって感じではない。実年齢に近付いて、地でやれるっていうのはある。

長くやっているとやっぱり変わってくるけど、例えば『ミス・サイゴン』(のエンジニア役)は当時43、4歳でやった時のイメージが残ってる。スクルージも、初演の時はすごくパワーがあったと自分でも思うね。キーの高い歌も多いし出ずっぱりだし。体力のいる役だった。ただ、歳をとったからといってパワーダウンしたかと言ったら逆で、実年齢に近いからこそ実感を持ってできるようになった。今回は僕の中でどう展開していくのか楽しみですね。

最初の頃はメイクに1時間半くらいかけていたんです。もちろん今でも頑固なおじいさんっぽさを出すためにメイクはするけど、前ほどガチガチにする必要はないのかなって思う。

ーー実感を持ってという部分を掘り下げてお聞きしたいです。

昔は役を作っていたけど、だんだん作らなくて良くなってきました。変な話、ミュージカル『生きる』なんかは1日3回でもできると思います(笑)。

ただ、スクルージはずっと出ていて飛んだり跳ねたりしますし、最後はサンタクロースになりますから、『生きる』のようにはいかない。ただ、さっきも言った通りメイク時間は少なくなると思います。決めるところだけちゃんと決めて、あとは前ほど作り込まなくてもいいのかなと。あとは、彼が抱える孤独感などは分かるし、今までとは何か違うものが生まれるんじゃないかって気がするね。

4年ほど前、『クリスマス・キャロル』が生まれるまでを描いたディケンズの映画(『Merry Christmas! ロンドンに奇跡を起こした男』)で吹き替えを担当しました。あの映画でスクルージを演じた俳優さん(クリストファー・プラマー)が当時80代。あの方も実感を持って演じられたでしょうから、そういう楽しみが僕にもありますね。

市村正親

■あたたかい気持ちをもらえるのが魅力

ーー何度演じても感じられるこの作品の魅力はどんなところでしょう。

温故知新じゃないけど、自分の過去を振り返って自分のいいところを確かめて、どう生きるか考える。あとは、人は一人では生きていけない、みんなとの繋がりの中で生きていられるというところ。そのことに気付いて、あんなに頑固なスクルージがかわいいおじいちゃんになっていく。ラストは家族と一緒にクリスマスを過ごすんですよ。家庭のあたたかさや人々との交流のあたたかさを感じられて、1年の終わりに観るのにいい題材のお芝居だと思いますね。

この間、(脚本・作曲・作詞の)レスリー・ブリッカスさんが亡くなられたんだよね。アカデミー賞の追悼コーナーで紹介されていて、やっぱり素晴らしい作品を作ってくださったと思ったし、それを伝道師のように7回もやってきたというのはありがたいこと。今年もスクルージ爺さんをどう楽しく、おかしく、切なく、いやらしく、意地汚くやれるかなっていう挑戦です。

僕の父が70歳で亡くなっているのもあって、個人的に70歳ってひとつの区切りだったんです。70歳になるときはちょっと怖かった。でも、一生懸命やっていると今73歳だってことも忘れますね(笑)。そんな僕が実感を持って演じるスクルージ、楽しみにしていただければと思います。

■これまでの歩みを振り返る公演に

ーー続いて、役者生活50周年で行う『市村座』についてもおうかがいしたいです。

50年ってすごいよね(笑)。50年間、よく色んな役をやってきたなと思います。

僕自身が思うのは、『ミス・サイゴン』をやった時に英語が喋れなくてよかったってこと。英語を喋れる方って、海外で演じてるんですよ。そうすると役のイメージがすごくついてしまう。僕は日本でしかやっていないから、ニューヨークに行った時に『ファントム』と『ミス・サイゴン』のポスターの間に立って「両方出た」って写真を撮ったりしました(笑)。

他にも『スウィーニー・トッド』をやったり『屋根の上のヴァイオリン弾き』をやったり。今年なんかはゲイ(『ラ・カージュ・オ・フォール』)で始まってじい(『スクルージ』)で終わるんですよ。振り幅が大きくてバリエーションに富んでいます。

50周年というのは、24歳の時に『イエス・キリスト=スーパースター』(後の『ジーザス・クライスト=スーパースター』)のオーディションに受かったところから数えた年数。その前に西村晃さんの付き人もしていたけど、そこは含めず。『イエス・キリスト=スーパースター』から始まって、新しい作品で言うと『オリバー!』。劇団四季での17年間とその後の33年。間に1年半くらいのブランクがあるけど、当時の色んな裏話を交えて50年を振り返ろうと思っています。

市村正親

■裏話や生歌を交えて楽しく語りたい

『コーラスライン』では演出家から「ポールらしく振る舞え」と言われたからそうしたら「Mr.市村はあまりやる気を感じない」って怒られたとか(笑)、『オペラ座の怪人』のオーディションとか、色々な話があります。僕の著書である「役者ほど素敵な商売はない」に書いたことをうまく挟みながら、生だからこその歌も交えて語ろうと。

『ミス・サイゴン』のオーディションを受けた時の話なんかも。落ちた時は「受けてないよ」としらを切るつもりだった(笑)。あとは、「1本当てただけじゃ駄目だ」とある人に言われて『ラ・カージュ・オ・フォール』をやったら、僕があんまり美しいものだから化粧品セットが送られてきたり(笑)。そういう話をしつつ、歌いながら『オリバー!』までいこうと思ってるんですよ。

実は『オリバー!』は、何年も前から(プロデューサーのキャメロン・)マッキントッシュに「どうしてもやってほしい」と言われていた。でも、あんなに子どもがたくさん出る作品はやれないとずっと決めきれずにいたんです。でも、マッキントッシュが『メリー・ポピンズ』で日本に来て、初日に会っちゃって(笑)。

ーー市村さんのこれまでとともにミュージカルの歴史も学べる公演になりそうですね。

そうだね。『オリバー!』にはフェイギンの「シチュエーション」という曲がある。『ミス・サイゴン』でエンジニアが歌う「アメリカン・ドリーム」は、プレビュー公演中はなかったそうなんです。マッキントッシュが(脚本・作曲のクロード=ミシェル・)シェーンベルクに「フェイギンにはシチュエーションがある。エンジニアにも何か作ってあげなよ」と言ったことで「アメリカン・ドリーム」が生まれたなんて話もありますし、日本のミュージカル史も学べると思います。

一回一回のステージが大事な命の証みたいなものだってことを振り返りながら今までの50年間を見せようと思っています。

■名曲と名作を組み合わせた新たなスタイル

立体落語は最初『文七元結』をやって、この間は『芝浜』。今回は『死神』をやろうと思っています。僕が西村さんの付き人をしていた時代に、西村さんがいずみたくさんと笈田敏夫さんと組んで、ピンキー(今陽子)が死神、西村さんが葬儀屋でミュージカルをやったのでそれを原本に。そして相変わらず大団円の『俵星玄蕃』はおひねり目当てでやろうと(笑)。50周年だから、さぞかしたくさん飛んでくるでしょう(笑)。

市村正親

ーー市村さんにとって主戦場であるミュージカルの作品を、『市村座』で落語などの伝統芸能に落とし込む理由は。

講談は演出の髙平​(哲郎)さんが『マイ・フェア・レディ』の音楽に『たらちね』を乗せたのが始まり。その延長に、『ああ無常』や『二世たちのコーラスライン』がある。あれは僕のアイデアで、ファントムにも実は子供がいたって言うところからできた。やっぱり僕が出演しているミュージカルは名曲が多いから、曲を聞くだけでお客さまはすごくいい気持ちになる。そこに新しい歌詞を乗せるっていう髙平さんの作戦通りうまくいっているかなと。

『たらちね』を終えて、次を考えた時に、『文七元結』をやりたいと思ったんです。西村さんの付き人時代に、三木のり平さんと古今亭志ん朝さん、中村メイコさん、十朱幸代さんの『文七元結』を1ヶ月袖でずっと見ていました。だからその光景が焼き付いていて。

最初は大掛かりなセットを組んで、長屋や遊廓、橋も作って本格的にやったんです。次の『たらちね』はシンプルに立体落語話。立川志の輔さんやみなさん観にきてくれて「いやあ、私らの世界の話をこのような形でやるとは」と言われました(笑)。

やっぱりこっちは役者だから、演じ分けは得意なわけです。『クリスマス・キャロル』はスクルージ以外にも何十役もやってるからね。市村がやる古典落語というのも面白いかなと。名作はたくさんあるから。和もあれば洋もあり、歌もあって……と色々やるのも市村座らしくていいのかなと。最初は髙平さんのおもちゃだったけど、今は僕が髙平さんをおもちゃにしています(笑)。

今回は髙平さんに頼んで、僕の役者生活50周年を歌にしてもらいます。上柴(はじめ)さんに曲を書いてもらい、最後に歌おうと。僕が作るんじゃなく、髙平さんが見てきた市村の人生を詩にしてもらう。楽しみだよね。

■これまで出会わなかった作品とどんどん出会いたい

ーー50周年を迎え、この先挑戦したいことをお聞かせください。

最近はしんどい時もあります(笑)。でも、板に立ってる時は燃えてるよ。50年を過ぎたら、周りを引っ張っていくような役ばかりでなく、引っ張ってほしい気持ちはあるね。

ただ、シェイクスピアでは『リア王』や『テンペスト』が残ってる。この間、屋比久(知奈)を抱っこしたときに「屋比久だったらお姫様抱っこできるから、もし僕がリア王をやるときはコーディリアを頼むぞ」って話をした(笑)。壮大な話はエネルギーが必要だけど、やるなら面白いいい作品をやりたいしね。若い役はもう難しいから、重厚な大人の作品をやりたい。今まで出会えなかったような作品と出会えるのが楽しみかな。この仕事をしている以上、他人の激しい人生を擬似体験したいという気持ちはずっと変わらずある。役に対しては攻撃的に行かないと。保守的な芝居を見たってお客さんは楽しくないからね。

市村正親

取材・文=吉田沙奈    撮影=福岡諒祠

公演情報

ミュージカル『スクルージ~クリスマス・キャロル~』
 
<東京公演>※ツアー公演なし
日程:2022年12月7日(水)~25日(日)
会場:日生劇場
主催:ホリプロ/スポーツニッポン新聞社
上演協力:劇団ひまわり
企画制作:ホリプロ
 
<キャスト>
スクルージ:市村正親
ボブ・クラチット:武田真治
ハリー/若き日のスクルージ:相葉裕樹
ヘレン/イザベル:実咲凜音
ジェイコブ・マーレイ:安崎 求
クラチット夫人/過去のクリスマスの精霊:愛原実花
フェジウィッグ夫人:今 陽子
現在のクリスマスの精霊:今井清隆
 
フェジウィッグ/未来のクリスマスの精霊:阿部 裕
トム・ジェンキンス:神田恭兵
高橋ひろし
中西勝之
さけもとあきら
高木裕和
松岡雅祥
井口大地
 
家塚敦子
伽藍 琳
三木麻衣子
七瀬りりこ
横岡沙季
森田万貴
脇領真央
 
マーサー・クラチット(Wキャスト):設楽乃愛 長谷川愛鈴
ベリンダ・クラチット(Wキャスト):佐々木咲華 若井愛夏
ピーター・クラチット(Wキャスト):越永健太郎 重松俊吾
キャシー・クラチット(Wキャスト):下井明日香 戸張 柚
タイニー・ティム(Wキャスト):奥田奏太 三田一颯
少年スクルージ(Wキャスト):西山遥都 長谷川悠大
街の子ども(Wキャスト):荒井天吾 入内島悠平
 
【スウィング】
西垣秀隆 尾上菜摘
 
<スタッフ>
原作:チャールズ・ディケンズ
脚本・作曲・作詞:レスリー・ブリカッス
演出:井上尊晶
 
訳詞:岩谷時子
音楽監督:鎮守めぐみ
振付:前田清実
美術:横田あつみ
照明:塚本 悟
音響:山本浩一
衣裳:スー・ウィルミントン
衣裳コーディネート:沼田和子
ヘアメイク:佐藤裕子
指揮:森 亮平
演出助手:坂本聖子
舞台監督:中村貴彦
 
<料金>(全席指定・税込)
S席:11,500円
A席:6,500円
Yシート:2,000円※20歳以下対象・当日引換券・要証明書・8月25日より枚数限定発売
※4歳以上入場可(が必要になります)
※膝上でのご観劇はできません。
※本公演のは主催者の同意のない有償譲渡が禁止されています。
※車椅子でご来場のお客様は、 車椅子スペースに限りがございますので、 事前にホリプロセンターまでご連絡ください。
※やむを得えない事情により、 出演者並びにスケジュールが変更になる可能性がございます。 予めご了承ください。
※公演中止の場合を除き、 払い戻し、 他公演へのお振替はいたしかねます。 ご了承のうえ、 お申込みください。
 
公式HP= https://horipro-stage.jp/stage/scrooge2022/
公式Twitter= https://twitter.com/musical_scrooge  #ミュージカルスクルージ

公演情報

市村正親ひとり芝居『市村座』
 
<キャスト>
市村正親
 
<スタッフ>
作・演出:髙平哲郎
音楽:上柴はじめ
声楽指導:古賀義弥
美術:金井勇一郎
照明:塚本 悟
音響:新城昌美
映像:小池敏治 松澤延拓
振付:加藤敬二
衣裳:久保田俊一
ヘアメイク:宮内宏明
舞台監督:高橋春樹
 
<東京公演>
日程:2023年2月26日(日)~2月28日(火)
会場:日生劇場
主催:ホリプロ/東宝
企画・制作:ホリプロ
 
販売スケジュール>
■ホリプロステージプレミアム会員
《先着先行》11月13日(日)9:00~11月27日(日)23:59
■ホリプロステージ無料会員
《先着先行》11月13日(日)12:00~11月27日(日)23:59
 
■一般発売 11月29日(火)11:00
 
■ Yシート(20歳以下限定)
12月6日(火)12:00~12月11日(日)23:59
11月13日(日)9:00~
 
料金>
S席:10,500円(法被付)
S席:9,000円
A席:8,000円(法被付)
A席:6,500円
 
Yシート:2,000円 ※20歳以下対象・当日引換券・要証明書・12月6日より枚数限定販売
https://horipro-stage.jp/ichimuraza2023-ticketinfo/#Link04
 
法被付
https://horipro-stage.jp/ichimuraza2023-ticketinfo/#Link05
販売期間:11月13日(日)9:00~ 枚数限定販売
価格:
S席:10,500円(法被付)
A席:8,000円(法被付)
※予定枚数に達し次第受付終了
 
・受取方法
”特製法被”のお引換は劇場の特典引換所にて、 券面をご提示の上、 お受け取りください。
に済印を押させて頂きます。
※特典は1枚のにつき1つお渡しいたします。
 
【ツアー公演】
<大阪公演>
日程:2023年3月3日(金)18:30
会場:NHK大阪ホール
主催:キョードーマネージメントシステムズ
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(平日・土 11:00~18:00)
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/5376
 
<博多公演>
日程:2023年3月4日(土)・5日(日)
―3月4日(土)19:00
―3月5日(日)12:30
会場:博多座
主催:博多座
お問合せ:博多座電話予約センター:092-263-5555
https://www.hakataza.co.jp/lineup/202303/ichimuraza/index.php
 
<川越公演>
日程:2023年3月8日(水)18:30
会場:ウェスタ川越 大ホール
主催:指定管理者NeCST
お問合せ:ウェスタ川越 049-249-3777(9:00~19:00 点検日等の休館日を除く)
https://www.westa-kawagoe.jp
 
<仙台公演>
日程:2023年3月10日(金)18:30
会場:仙台電力ホール
主催:キョードーマネージメントシステムズ/キョードー東北
お問合せ:キョードー東北 022-217-7788(平日13:00~16:00/土曜日10:00~12:00※祝日を除く)
http://www.kyodo-tohoku.com/main.php
 
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