声明×クラシック、異色の競演 音で紡ぐ「日本の祈り」と「世界の祈り」~九州真言宗教師連合法親会 導師×辻本 玲(チェロ)インタビュー

2022.11.2
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クラシック

チェロ独奏がもつ癒しの力

辻本玲(C)KING RECORDS

――さて、ここからは第二部でチェロを独奏される辻本さんも交えて話をお聞きしたいとおもいます。辻本さんへの質問ですが、演奏される独奏曲の選曲について教えてください。

辻本:今回のテーマ「祈り」を踏まえて、カザルスの「鳥の声」がいいなと思いました。元々、スペイン・カタルーニャの民謡であったこの曲を、カザルスが国連本部での演奏会で弾いたことが契機となって、有名になりました。以来、彼はこの曲を、平和を願う曲としてアンコールなどで演奏してきました。僕も、曲の力をお客さんと共有できる部分の多い作品だと感じてきました。

――次の曲はバッハの「無伴奏チェロ組曲第 1 番」ですね。

辻本:パーソナルなことを強く意識してきたラフマニノフ、人類的なものを意識していたベートーベン。様々なタイプの作曲家がいますが、キリスト教や神を意識し、深い信仰を持っていたバッハの作品には、普遍的な力を強く感じます。今回は、無伴奏のなかでも、特に有名なプレリュードを選曲しました。

――今回のコンサートは、第一部で声明が、第二部ではクラシック音楽が演奏されるとてもめずらしいものだと思います。お二人にお聞きしますが、二つのジャンルを同時に聞くことについてどのようにお考えですか。

堤導師:私たちは、雅楽やイタリアのグレゴリオ聖歌と一緒に演奏会を行なったことがありますが、クラシック音楽の楽器の方とご一緒するのは、今回が初めてです。お坊さんたちも皆、第二部のチェロやオーケストラの演奏をとても楽しみにしています。

辻本:実は、これまで声明を聞いたことがなかったので、声明を聞くこと自体を楽しみにしています。力強い檄を届ける声明に対して、僕は癒しの曲を演奏します。

堤導師:そうですか。チェロの曲が癒し系なのは、ありがたいですね。私たちは檄と気合いで行きますので、そこから段々と癒していただけるっていうのはいいと思います。お客さんもまたそれぞれを違った見方で聴いてくれると期待しています。

辻本:オーケストラと共演する曲(モリコーネ:ガブリエルのオーボエ)もありますが、「鳥の歌」とバッハは、チェロの独奏なので、大きな会場でひとつぽつんとある楽器から音楽が奏でられるというのも面白いと思っています。すごく神秘的な感覚がありますし、檄とは違ったパワーを感じていただけると思います。大勢のお客さんが、一つのところにぐっと集中するというのには特別な感覚があります。そういうコントラストも面白いと思っています。

辻本玲(C)KING RECORDS

九州真言宗教師連合法親会(C)椎原一久

――今回のコンサートのサブタイトルは「Hope for the future」。この時代だからこそ果たせる音楽の役割をお二人はどのように考えていますか。

堤導師:お坊さんの集まりで、「今、私たちに何ができるのか」を話しました。お金や医療を提供することで人を救うことのできる方がいる一方で、坊さんに出来ることは「祈り」しかないという結論に至りました。手を合わせ、心を一つにして祈ること。お坊さんが祈ると聞くと、多くの方は法事をイメージするかもしれません。でも、仏教にしてもキリスト教にしても、「今を元気に」、「今を明るく」ということを祈ってきたのです。だから、今回のコンサートでも、激しく、力強く、心の底から祈りたいと考えています。

辻本:ちょうど2年前、コロナ禍で音楽会がゼロになった時期、「正直、音楽っているのかな?」と感じたことがありました。僕自身は音楽の演奏が好きですが、症状に苦しんでいる人に、クラシック音楽を聞いてもらっても、それで治療ができる訳ではないですから。でも、段々とコンサートが出来るようになって、お客さんが入った演奏会を再開した時、お客さんの期待や雰囲気、終わったときの感動が今までにも増して伝わってきました。音楽会は聞き手がいて初めて成り立ちます。その空間に集った方々が感動や癒しを共有できる音楽の素晴らしさ、偉大さを改めて感じています。

――最後に、公演を楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします。

堤導師:「祈り=パワー=命」なんです。私たちの祈りが心に響いて、パワーに繋がって欲しいと思います。「命」という字は、人の下に「一」と「叩く」という字を書きますが、一と叩くは鼓動の意味です。コンサートを通じて、もう一度、命について考えてもらえれば嬉しいですね。

辻本:ひょっとするとチラシを見て、難しい演奏会かなって思うかもしれません。でも、音楽には、何の知識がなくても、沢山の感じられることがあると思います。第一部でも、第二部でも、パワーを届けたいと思っています。ぜひ、楽しみにしていて下さい。

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声明講座 / 第一回 「声明って?」


取材・文=大野はな恵

公演情報

<真言宗声明>×<クラシック>
HOPE for the future

2022年11月11日(金) 18:30 開演
オーチャードホール (東京都)
 
■出演
九州真言宗教師連合法親会
辻本玲(チェロ)
齋藤友香理(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団
 
■曲目・演目
<第I部>
出演:九州真言宗教師連合法親会
真言宗声明:庭讃/散華/表白/大般若転読/般若心経・不動真言/称名禮
*大般若転読(和太鼓あり)
 
<第II部>
出演:辻本玲(チェロ)/齋藤友香理 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
カザルス:鳥の歌(チェロ独奏)
バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007より「プレリュード」(チェロ独奏)
モリコーネ:ガブリエルのオーボエ
モーツァルト:交響曲第25番 ト短調 K.183
バッハ:G線上のアリア
ジョン・レノン:イマジン
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