中村米吉、合同インタビューレポート「僕にとっては大きな挑戦。名作に恥じないような演技が出来れば」
-
ポスト -
シェア - 送る
中村米吉
2022年12月、2023年1月に愛知・東京にて、舞台『オンディーヌ』が上演される。
『オンディーヌ』は、フランスを代表する劇作家ジャン・ジロドゥの最高傑作。永遠の愛を信じて人間界に入った水の精オンディーヌと、遍歴の騎士ハンスの物語だ。
漁師の夫婦の娘として育てられた水の精オンディーヌは、騎士ハンスと出会い恋に落ちる。彼女はハンスを信じるが……彼女とハンスの恋は悲劇的な結末を迎える。
外部作品の初出演・初主演の歌舞伎俳優中村米吉が、オンディーヌをつとめる。騎士のハンスには小澤亮太/宇野結也。水の精の王(奇術師)市瀬秀和、そして水の精(王妃イゾルデ)役に紫吹淳。豪華なキャストが脇を固める。
今回は、主演の中村米吉への合同インタビューの様子をレポートする。
会見のはじめに中村米吉より「本日はお集まりいただきましてありがとうございます。この度、歌舞伎以外の舞台も初めての挑戦でございますし、またこういった主演という形もある意味では初めてございます。カタカナの役は『風の谷のナウシカ』でナウシカという役を演じさせていただいたことはあるんですけれども、日頃は漢字の役ばかりやっておりますので……(笑)精一杯努めたいと思います。どうぞ皆様よろしくお願い申し上げます」と挨拶があった。
ーーまず、先日公開されたヴィジュアルについてまわりの反応はいかがでしたか?
一番面白かった反響といたしましては、大体20代から30代前半の若手歌舞伎役者のグループLINEというのがあるんですね。そこに突然、(中村)隼人くんが『オンディーヌ』のポスターの写真を載せまして、「この髪型いいね」って言ったんです。それを皮切りに、(二代目坂東)巳之助の兄さんも「よく分かってないんだけど、綺麗だと思う」って言ってくださったりして、数年ぶりにそのLINEが動いたのが、一番面白い反響でした。そのほかにも、Instagramにも載させていただきまして、コメントとか「いいね」とかたくさん頂戴いたしまして、SNSの温かみを感じております。
ーーオンディーヌという作品へのイメージはいかがですか?
原作を読んで、そのうえで台本を読ませていただきました。フランスの古典を、現代的にアレンジをするというわけではなく、原作の持っているシニカルな色を大事にして、演出の星田先生が取捨選択して再構成してくださっている台本になっています。構成としては、まず、オンディーヌが最後に直面する悲劇の暗示があり、リフレインしていくという形で、ある種、劇中劇のような手法で話が進んでいくんですね。もともとの話では、ハンスが浮気者に見え兼ねないというか、現代では感覚的に受け入れらにくい部分があるのですが、そこも大変気を使って再構成してくださっています。今日も星田先生と2時間ほどセッションさせていただきました、またここからブラッシュアップされた状態でお届けできるように頑張ります。
ーーほかのキャストさんたちについてお願いいたします。
まず、事務所の先輩。紫吹淳さんですね。まだ稽古には入っていませんけれど、その場に紫吹さんがいてくださるというだけで大変心強く感じると思います。演じられる王妃役は、人間の汚いところやずるいところが集まっている王宮で、唯一オンディーヌを理解してくれる存在になる方です。その点も、大きな芝居で包み込んでくれるのかなと思っています。
ハンスはWキャストとなっています。お二人いるということは、絶対に演じるプランが変わってくると思いますので、それも楽しみです。
ーー今回、はじめての外部出演、お気持ちをどうぞ。
お話をいただいた6月の終わりのころ、『風の谷のナウシカ』の本番前のお稽古期間でした。正直、すごく悩みました。12月は、歌舞伎界では市川團十郎さんの襲名や京都の顔見世など歌舞伎界でも大きな公演のある月ですし、1月は歌舞伎の公演が1年のうちで最も多い月。それに来年はこれまでも多くの経験を積ませていただいた浅草歌舞伎が3年ぶりに復活します。なので、悩んで、一度持ち帰りさせていただきました。
家で、父(五代目中村歌六)に「オンディーヌをやらないかって話があるんだ」といったら「お前が?!」と大笑いしまして(笑)。実は、父は若いころ劇団四季で研究生のようなことをしていたので、浅利慶太先生がこの作品を大変愛していたことや、「『番町皿屋敷』と『オンディーヌ』が一番人間の愛を美しく描いている」と先生がおっしゃっていたという話を僕も父から何度も聞いていたんですね。そんな父が「面白いね」って言ってくれたので、これもご縁かもしれないと、挑戦する決心をいたしました。
来年3月からは新作歌舞伎『ファイナルファンタジーX』が控えていて、半年間以上古典から離れることになります。ですが、あえてそういった状況下に自分を置き、挑戦する期間にしようと。もしかすると、『ファイナルファンタジーⅩ』が決まっていなかったら、受けることが出来なかったかもしれないです。次に進む場所がある、挑むものがあるという中だからこそ飛び込むことができたのではないかなと感じています。
ーー女方と、今回のオンディーヌのような役柄、何か違いますか?
あ、この写真は本人ですからね!(笑)(ポスターを見ながら)。生まれて初めてドレスを着たんですが、足元がスース―するなぁって思いました。首元からデコルテが出てくるというのが新鮮です、着物って合わせが崩れても鋭角的に出ますから、こういう風に丸く胸元が開くっていうのは基本的にはありえない。
ただ、自分が歌舞伎の女方として培ってきた、華奢に見えるようにどうすればいいのかとか、手をどういう風に使うといいのかとか、勉強してきたことの応用はできるのではないかと感じています。それに、実際、僕には自分の培ってきたものをどうにか活かして演じていくということでしか、この作品に向き合うことはできないなと思っています。あと、普段の女方との一番の違いはつけまつげを付けているところですね、つけまは偉大だ!!
ーーオンディーヌという役のイメージは?
オンディーヌは純粋で無垢で、ストレートに物事を言ってしまうことがよさであるキャラクターです。「私って太ってるでしょ?」って言われたら、普通は「そんなことないわよ!」って言うところを、オンディーヌは「そうね、あなたは太ってる、カバみたいに」って悪意なく言ってしまうんですね。その純粋さを上手に演じないと、毒舌家のようになってしまい、教養がないと王宮の中で追い詰められていくオンディーヌに共感してもらえないのではないか思っています。ハンスに一目ぼれをするときも、清らかな色気でないといけない、下品に見えないようにしないといけない、と感じています。かわいくて、けなげで哀しい、そんな風に感じてもらえないといけない……そう思っております。
ーー今回は海外の古典作品です、日本の古典作品と何か違いや同じ点はありますか?
フランスの古典に詳しいわけではないので、すべてに共通するものかは分からないのですが、風刺があるように感じています。フランスの古典劇というものは、人間が普段は思っているけれど言えないことを芝居で描いているんだなと感じました。歌舞伎で考えれば、武士への不満だったり、庶民の悲しみだったりは描かれているのですが、風刺している印象はあまりないですね。ただ、人間を書くということに対して、共通して古典作品は優れている。だからこそ残ってきたし、演じられ続けてきた、今の時代でも心に残るセリフが絶対にある。それが古典として、同じ点だと思います。
ーー20代最後の年のお気持ち、30代の抱負をお願いします。
僕は歌舞伎を本格的に18歳から歩み始めて、20代からは女役を演じることが増えました。玉三郎兄さんとご一緒したときに「30歳になるまでに女方の基本を身に着けておかなくちゃいけないよ」と教わったんです。「姫だったらこう、娘だったらこう……、その上に役の心を乗せないといけないんだよ」と。
女方だけではなく、歌舞伎はすべてそうなのだと思います。それだから型が残る。その型を、しっかりと20代のうちに勉強しないといけない。つまりは30代からはそれ以上を求められるということです。「若くてきれいでよかったわね」という時代は終わってしまうんです。あ、自分で「若くてきれい」って思ってるわけではないですからね(笑) この約10年で歌舞伎の世界で積み上げてきたことを、『オンディーヌ』という形で問われることになるのではないかなと思っています。
ーー楽しみにされている方にメッセージを
繰り返しになりますが、僕にとっては大きな挑戦になります。しかも3カ月間、自分のホームである歌舞伎から自ら離れ、一からつくりあげる舞台です。いい作品にしなくてはならないし、するために、自分ができることを全力で注ぎ込んでいきます。『オンディーヌ』自体、しばらく上演されてこなかったと聞いています。名作に恥じないような演技が出来ればと思います。応援の程よろしくお願いいたします!
愛知公演は2022年12月23日(金)~25日(日)、ウインクあいち 大ホールにて、東京公演は2023年1月6日(金)~11日(水)、東京芸術劇場 シアターウエストで上演される。
取材:森きいこ
ヘアメイク:北 一騎
写真:山副圭吾