生バンド演奏の鳴り響く「森の石松」 ~大衆演劇の革命作が、12月23日より配信スタート

2022.12.12
インタビュー
舞台

『遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚』メインビジュアル

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大衆演劇の新作芝居『遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚』が、イープラス「Streaming+」でアーカイブ配信される。配信期間は2022年12月23日(金)~12月29日(木)。配信は2,500円~。東京・北区 篠原演芸場の12月12日(月)公演のアーカイブ配信となる。

「大衆演劇に新しい風を吹かせ、新たなファン層を広げる」ことを目的として、2022年から始まった「新風プロジェクト」。『遠州傾キモノ』は、同企画の年内の集大成になる。大衆演劇で最も定番の演目、森の石松を大胆にバージョンアップし、パフォーマンス集団・破天航路(はてんこうろ)によるギター、ドラム、ベースの生バンド演奏が加わる。

森の石松は、約150年前の侠客・清水次郎長一家の子分の一人。明るく愛される人物像で、今も大衆演劇界では大人気のキャラクターだ。今回は、石松の心の内側を、脚本の渡辺和徳(わたなべかずのり)が「ある手法」で掘り下げていくという。渡辺和徳、そして破天航路をそれぞれ取材した。
 

■脚本・渡辺和徳インタビュー

渡辺和徳

――森の石松というキャラクターに見出している魅力は。

なんと言っても、誰にでも愛される、あのキャラクターですよね。「馬鹿は死ななきゃなおらねえ」という台詞が有名ですが、周りを笑顔にしてくれる底抜けの明るさがあります。でも、筋を通すところはちゃんと通す。その生き方がすごく魅力的だなあ、と思っています。同時に、愛されているが故に、語り尽くされたキャラクターであるとも言えます。大衆演劇ファンのお客さんでしたら、石松を題材にしたお芝居は何本も見ていると思いますし…。お客さんそれぞれに好きな石松像があるので、正直に言うと、書き手としては怖くもありますね。

今回、石松を描く上でラストシーンにはとても悩みました。(今作の演出・主演をされる)三咲暁人さんからは、ラストを暗くしたくない、というお話をいただいていました。でも、石松が閻魔堂の前で死んでいくことは決まっているので、どうしてもハッピーエンドにはならないんですよね。

僕自身、近年はハッピーエンドが強く好まれるようになったと感じていました。現実では、もう十分に辛いことがあるんだから、芝居の中でまで暗いものを感じたくない。その気持ちはよく分かります。石松が死ぬ方がいいのか、死なない方がいいのか…それはこの作品の悩みどころでした。

——どちらになるかは...

お楽しみです(笑)。

演出・主演を務める三咲暁人。

――大衆演劇は、観客の反応を見ながら台詞を変えたり、場面を膨らませたり、役を取り替えたりもします。

僕が大衆演劇に脚本家として関わらせていただくようになってから、まだ一年ほどなんですが、暁人さん始め大衆演劇の方々はみんな、「お客さんに楽しんでもらいたい」という気持ちが非常に強いと感じています。お客さんに楽しんでもらいたい、笑ってもらいたいという思いの強さ。それって石松もそうだったんじゃないか、と思い付いたのが、今作を書くキッカケになりました。

――大衆演劇の役者の生き方が、森の石松と重なると。

はい。明るい石松は、周りを幸せにしてくれます。単なる道化になるのではなく、でもみんなを笑顔にしてくれる。そこに役者としての暁人さんの生き様が重なる気がしたんです。タイトルになっている“傾キモノ”というのは、人とはちょっと違った生き方を貫き通す人たち、その生き方に命をかけた人たちのことです。大衆演劇の役者としての暁人さんの生き方と、石松の魅力がうまく重なってくれたらいいな、と思っています。

――昨年、渡辺さんが劇場で初めて大衆演劇を観劇した日に、ツイッターで「惚れた」とつぶやいていました。

はい(笑)。役者さんたちの、お客さんを惹きつけるエネルギーがすごくて。心を掴むのがとにかく上手いんだなと感動しました。まさしく一瞬で惚れましたね。

――『遠州傾キモノ』には、オリジナルキャラクター“虎造”が発表されています。

公式ツイッターで発表されたオリジナルキャラクター。

虎造役:嘉島典俊

名前は浪曲師・二代目広沢虎造から頂いていますが、本人がモデルというわけではありません。語り部を使って石松の内面の葛藤を出したい、という暁人さんのアイディアがありましたので、そこに僕の想像を織り交ぜて創作しました。今作では、語り部である虎造と、物語の中の石松本人がところどころで向かい合います。虎造は現代の浪曲師ですから、当然石松の悲惨なラストを知っています。物語を知る虎造と、物語の中に生きざるを得ない石松。この二人が互いの意地をぶつけ合う中で、石松の内面を描いていけたら面白いんじゃないか…と画策しています。

そして今回は、パフォーマンス集団・破天航路さんが出演されます。生演奏と楽曲によるショーアップで、何より楽しく観られるようにしたいと思います。

――ショーアップによる、目の喜びは大きいですね。渡辺さんの台本は日本語が美しいのが特長なので、耳の喜びもありますか。

僕の恩師であるつかこうへいさんは、言葉にすごくパワーのある人でした。やっぱりその影響は強いですから、グッと言葉で魅せるところは作りたいですね。それに僕は、古い日本語の持つきれいな響きがとても好きなんです。でも、日常会話の中からは、そういう言葉はどんどん無くなっていきますから、せめて台詞の中で使っていきたいんですよね。役者にしてみれば、喋りづらいと思うので申し訳ないですけど…(笑)。でもそういうこだわりを入れていくのも、「新風プロジェクト」として僕が書く意味でもあるのかな、と思っています。

――「新風プロジェクト」は、大衆演劇を初めて観るというお客さんも多いです。

大衆演劇ファンのお客さんでしたら、石松の物語はよくご存じでしょうから、説明せずにポンポン進んでしまった方が面白いと思うんです。でも今回は、なんにも知らない人が観ても分かる、観やすい方向性にしたいと思っています。10月の「新風プロジェクト」では、『寝盗られ宗介』(※)という芝居を篠原演芸場でやったんですが、そのとき、初めて篠原演芸場に来て大衆演劇を観たというお客さんが、たくさんいらっしゃったんです。今回もそういう方たちが来てくれたり、配信を観てくれて、大衆演劇の裾野が広がっていったらいいなと思います。

※寝盗られ宗介…つかこうへい作。2022年10月、渡辺和徳書き下ろしの大衆演劇ver.の脚本に基づいて上演。

渡辺が所属する演劇ユニット「9PROJECT」の高野愛、小川智之も、『遠州傾キモノ』に重要な役で出演する。

お民役:高野愛

七五郎役:小川智之

 

■演奏・破天航路リーダー SADAインタビュー

SADA

劇中で、われわれ破天航路による生演奏を予定しております。僕はベースを担当しています。どうなることか、楽しみでございます。破天航路の楽曲も、何かしらお芝居の中に入れられたら良いなあと思います。

――日本文化の伝統的なものと、バンド演奏を融合した、独特のパフォーマンスです。

殺陣や日本舞踊を専門とするメンバーがいるいっぽうで、「楽器班」、僕のような楽器演奏者が混じっております。今回は楽器班の中から、ギター、ベース、ドラムが出演させていただきます。破天航路は、2016年に結成したグループです。僕は結成時からリーダーをやっておりますが、僕が主体となったというよりは、メンバー全員が自然発生的に集まり「このメンバーで楽しいことができたらいいね」という感じでした。そこで、メンバーが本当に好きなこと、得意なことを組み合わせて、一つのパッケージとしてまとめたら面白いんじゃないかと。そのアイディアで活動するうちに、自ずと今の形になりました。

破天航路で日本舞踊を専門とする花ノ本以津輝は、芸者役で出演する。

殺陣を専門とする小松雅樹は、兼吉役で出演する。

ギター担当の坂田善也。

ドラム担当の遠藤勝彦。

結成当初から、異文化、異言語の方にも楽しんでもらえる、ノンバーバルのエンターテイメントがしたいなという考えがありました。僕はいま、地毛がちょんまげなんですけれど、バンドに入って2年目にちょんまげにいたしました。僕たちをパッと見てくれたときに、「なんだこれは、面白いね」って感じていただける、花火大会のようなエンターテイメントを目指しています。

――「花火大会」的なエンタメと、わかりやすく華やかな大衆演劇は相性抜群です。11月の新潟のイベントで破天航路×大衆演劇の初コラボがあり、『遠州傾キモノ』は2回目のコラボとなります。大衆演劇の印象は。

初コラボのときは、楽しすぎて、時間が過ぎるのが速すぎました!すぐに終わってしまいました。もっともっと、一緒にやっていたいと感じました。大衆演劇を劇場で観たことはありましたが、大きな舞台でご一緒させていただくのが初めてだったので、皆さん、非常に「麗しい」と思いました。一緒に弾いていると、つい目を奪われて、演奏を間違ってしまいそうになります(笑)。なので、見ないようにしなければいけないという自分との戦いがありました(笑)。

取材・文=お萩

配信情報

『遠州傾キモノ 森の石松 閻魔堂奇譚』


■あらすじ:
ヤクザ渡世に憧れていた森町村の石松は、喧嘩の最中に清水の次郎長と出会い、その侠気に惚れて子分となる。それから数年——その腕っぷしの強さと愛嬌で、清水一家の名物男と呼ばれるようになった石松は、次郎長の代理として金毘羅参りを頼まれる。次郎長から三度の飯より好きな酒と喧嘩を固く禁じられ、不満タラタラに出立する石松。だがそれが、次郎長との今生の別れになるとは、誰も思いもよらなかった…。
「馬鹿は死ななきゃ治らねえ…だったら俺ぁ、死んでも馬鹿をやるだけよ…!」
騙し討ちに遭い、敵対する都鳥一家に囲まれた閻魔堂…。次郎長に封じられた脇差を、石松は抜くや、抜かざるや——

 
■脚本:渡辺和徳
■演出:三咲暁人
■出演:
森の石松役:三咲暁人/虎造役:嘉島典俊/次郎長役:三咲春樹/お蝶役:三咲夏樹/大政役:三咲大樹/七五郎役:小川智之/お民役:高野愛/芸者役:花ノ本以津輝/都鳥吉兵衛役:伍代孝雄/常吉役:恋川純弥/梅吉役:恋川純/久六の子分兼吉役:小松雅樹/松五郎役:三咲隼人/久松役:三咲龍人
■演奏:破天航路

 
<Streaming+配信>
■配信2,500円~(2022年12月12日販売開始)
■配信期間:2022年12月23日(金)~12月29日(木)
■申込みページ:https://eplus.jp/sf/detail/3665050002
 
■最新情報:
Twitter:@shinpu_project
■公式サイト:(画像、詳細を公開中)
https://sites.google.com/view/kabukimono12
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