『YUMING MUSEUM』で、ユーミンをもっと好きになる。50年分の名曲で、街と心の風景を見渡す日

2022.12.15
レポート
音楽
アート

『YUMING MUSEUM』

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シンガーソングライター、ユーミンこと松任谷由実の活動50周年を記念した展覧会『YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)』が、六本木ヒルズ森タワー52階の東京シティビューにて開催されている。会期は2023年2月26日(日)まで。

会場エントランスには、グランドピアノと楽譜のモニュメントが。たくさんの音楽が降ってくるようにも、舞い上がっていくようにも見える。

ユーミンの曲でどれが一番好き? と聞かれたら、考えれば考えるほど沼にはまって悩んでしまう……そういう人はきっと多いのではないだろうか。この50年で、オリジナルアルバム39枚を制作、2000回以上のライブステージを踏んできたユーミン。ヒット曲は数知れず、2022年にはシンガーソングライターとして初めて文化功労者に選出された、まさしく日本を代表するアーティストのひとりだ。

ユーミンの書いた作詞メモの拡大複製。けっこう丸文字で可愛い。

この『YUMING MUSEUM』では、ユーミンの50年の足跡である映像やステージ衣装、直筆メモなどが多数展示される。貴重な資料を通じて、その魅力をより深く掘り下げていこう。

イヤホンを持って森ビルへGO

まず本展の大きな特徴は、ユーミン本人による音声ガイドコンテンツが無料で聴ける! というところ。実際に体験した感想から言うと、これはマストです。時間があったら聴こうかな、では勿体無さすぎる! 本展は、この音声コンテンツを含めて楽しむ“聴く展覧会”と言っても過言ではない。ユーミンの思い出のウラ話はクスッと笑えるし、想いを語る言葉は詩的だ。さすがラジオパーソナリティもつとめているだけあって、語りかけるような口調も耳に心地いい。

ガイドはスマホでQRコードを読み取って自身のイヤホンで聴くタイプなので、お出かけの際はイヤホンをお忘れなく。携帯を耳にあてて聴くことも可能だが、没入度が違うので(それに終始「モシモシ」状態になって腕が疲れるので)断然イヤホンがおすすめだ。または会場で音声ガイド機の貸出し(¥300)も実施されているので、そちらを利用するのも良いかもしれない。

展示エリア外周の展望台部分に、特別コンテンツをゆっくり楽しむスペースが用意されている。

さらに太っ腹企画は続く。音声ガイドには展示解説のほかに「私のYUMING STORY」という特別コンテンツも。これは、各界の著名人たちが特に思い入れのあるユーミンの曲をピックアップし、思いを語るというラジオ風企画。計17名分のメッセージとリクエスト曲を聴ける贅沢なコンテンツである。

まずはユーミン本人による展示解説を聞きながら会場を見てまわり、それから、街を眺めつつ特別コンテンツを楽しむのがおすすめだ。

お宝アイテムでルーツを探る

音源と写真、両方の意味でのアルバムの展示。

まずはユーミンがこれまでリリースしてきたレコードやCDと、思い出の写真が並ぶ展示エリア。デビューシングル「返事はいらない」のジャケットに写るユーミンは、当時大学1年生という若さだ。

10代の頃から米軍基地で買い集めていたという、ユーミン愛蔵のレコードコレクションの一部。

ユーミンいわく、本展開催にあたり、八王子にある実家を“ガサ入れ”したのだそう。ここでは、そうして発掘されたユーミン若き日の思い出の一コマや、創作の原点となった多くのアイテムと出会うことができる。

「荒井由実」時代後半〜90年代終わりにかけて愛用していたピアノ。

なんと実家から、若き日のユーミンが作曲に使っていたというグランドピアノまで搬入されている。「中央フリーウェイ」や「春よ、来い」はこの鍵盤から生まれたのだそう。

ユーミン、どうやら文庫本のカバーを外して所蔵する派のよう。

こちらはユーミンの愛蔵書。本棚を見ると、なんとなくその人となりが分かるような気がして面白い。壁やケース内の絵は、美大出身であるユーミンが描いたものだ。これもまた、その人がどうやって世界を解釈しているかが垣間見えるようで面白い。「自分の歌はよく『風景を感じる』と言われるけれど、それはもしかしたら、自分が絵を描いていた人間だからなのかも」と語るユーミンの言葉には深く納得である。

風月堂のゴーフル缶と、ユーミンのウィッグ。

ファンの間では有名だという、ユーミンの偽装用ウィッグも本邦初公開。何を偽装するかというと、ベッドを抜け出して夜遊びに繰り出す際に、人の形に膨らませた布団にこのウィッグを添えて、いい子に寝ている状態を偽装していたのだとか。そんな、マンガみたいなことを……! ユーミンをさらに好きになってしまいそうなエピソードである。その青春の思い出の小道具を、ゴーフルの缶に入れて大事に保管していたというのもまた可愛い。

詩人の言葉を間近で

展示されている歌詞や譜面は60点以上。八王子で見つかったものは本展にて初公開だそう。

続いてのコーナーでは、ユーミン直筆の作詞メモや楽譜を見ることができる。中には、ボツになった歌詞が残っていたり、何度も迷った跡が見られるものも。自分のお気に入りの曲の手書きメモを見つけると、曲の源に触れたようでうれしくなってしまう。

この手稿は3枚目のアルバム『COBALT HOUR』がヒットした後に書かれたとのこと。

改めてユーミンの言葉のセンスに驚くのは、デビュー後3年ほどで書いたというこちらの手稿だ。当時の胸のうちを綴った何気ない文章だが、なかなかにシビれる。「(前略)別に、さほどゴージャスな生活をしてるってわけではないけど、四畳半ひっくりかえしてロマンだのっていうのは好きじゃないんだ。ロマンは、それなりの場所にあると思っている。」という一節は特に格好いい。

手前が「ベルベット・イースター」、奥が「空と海の輝きに向けて」と「マホガニーの部屋」を収めたもの。

八王子の実家から多数発掘された、「荒井由実」時代のオープンリールのテープも。まだ10代の頃のユーミンの歌声を記録する貴重な音源だ。本展ではこの音源から「空と海の輝きに向けて」を1曲、先の音声ガイドのスペシャルコンテンツとして聴くことができる。こちらも展示室をまわった後のお楽しみだ。

「ユーミン」を育んだ時代の風を知る

事務所に保管されていた膨大なスクラップの中から、選りすぐりのものが所狭しと並ぶ。

壁いっぱいに展示されているのは、コンサートのポスターや、メディアの特集記事など。どこから鑑賞しようかと悩んでしまうほどの情報量に圧倒されるが、とにかく何でもいいので目に入ってきた文字を読んでみてほしい。この一角、どこを切っても、滴るほどにバブル期である。

「ユーミン、“宇宙”とコンタクト! 打ち上げの瞬間がエクスタシー」ユーミンの言葉だけでなく、編集部の見出し文句もすごい。見習いたい。

「若さをキープしたいなら、心にゴムパンはかせちゃダメ。やっぱボディコンよ」「恋は炎なの、だけどけっして光じゃない!」など、とにかく名言の嵐だ。近年ではあまり見かけないアグレッシブな言い回しも多く、物質的にも精神的にも豊かだった時代を実感することができる。眺めていると元気が出てくるうえに、カルチャーの記録としても見応えがある展示だ。

艶やかなコンサートの世界へ

その先は、会場内でもひときわ華やかな、コンサートの衣装展示のコーナーだ。コンサート映像も3種類ほど放映されている。

色とりどりのコンサート衣装が29点も!

奥には本物そっくりの象ロボットが。これは2019年の『TIME MACHINE TOUR』で登場したもので、生きている象に乗って登場した1979年のツアー『OLIVE』をセルフオマージュしたものだという。本物の象を出すのも、超リアルなロボットを作って出すのも、どっちも凄い。どこまでも観客を楽しませようとする、エンターテイナーとしてのユーミンを感じることができる展示だ。

映像で「真夏の夜の夢」のイントロが始まった瞬間には、思わずガイドのイヤホンを外して聴き入ってしまった……

1999年から2007年にかけて、3回にわたって上演された『YUMING SPECTACLE SHANGRILA』では、世界各国のパフォーマーやクリエイターと協働して、サーカスありスケートありスイミングありの一大スペクタクルを創り上げたユーミン。ここでは当時の衣装と併せて、共演したサーカスのキャスト・スタッフたちなどから寄せられたメッセージも見ることができる。

リアルなステージを体感

雰囲気は一転、海の底を思わせる静かなエリアへ。

こちらは、2021年〜2022年にかけて開催された最新ツアー『深海の街』で実際に使われたセット。足元のリノリウムも、ユーミンやバンドが踏んだのと同じものだ。セットの後ろに回り込んで見てみると、暗転中の目印である蓄光テープが点々と付いていて、本当にステージにお邪魔したような臨場感がある。

1980年の『SURF & SNOW』のジャケットを思わせるポーズのカップル。直に触れ合えない潜水服同士なのが切ない。

アルバム『深海の街』ジャケットに登場する、幻想的な潜水服の展示も。コロナ禍の最中、自宅のスタジオで制作されたというこのアルバムは、ユーミンにとって特別な思い入れのある一枚になったのだという。なお、これらのアートワークを手掛けた森本千絵氏はユーミンと親交が深く、本展のポスターやオリジナルグッズのビジュアルも担当している。

展示されている私物には、アートにまつわるものが多いのが印象的だ。

最後のコーナーでは、ユーミン自宅のデスクまわりの品々が並べられている。いわば、リアルに創作の現場にいるスタメンたちである。ちなみに、写真左手の金属片がたくさんくっついた水泳帽のようなモノは「インスピレーションを呼ぶ帽子」(※アメリカで購入、効能はユーミン談)だそう。ここで音声ガイドの解説パートは終了。すぐ隣の展望台エリアへと移動しよう。

そして、空と海の輝きに向けて

地上52階から街を見渡す。

会場の表示に従い、特別コンテンツの一曲「空と海の輝きに向けて」をスタートさせながら歩いて行くと、一気に視界が開け、空と街が目に飛び込んでくる。東京シティビューという場所にぴったりのニクイ演出に、目が潤んでしまうくらい打たれた。

ベンチのあちこちに置かれたキューブは「私のYUMING STORY」のキャプションとなっている。本企画に参加しているのは、JUJU、鈴木敏夫、玉ノ井親方(元大関・栃東)、徳永英明、羽生結弦、林原めぐみ、ビートたけし、堀江翔太、山内マリコ、YOU、YUKI、YOASOBI、リリー・フランキー……といった豪華なメンバー。ぜひたっぷりと時間を取って、人の想いと音楽のコラボを味わってみてほしい。取材時は快晴だったが、リクエスト曲には曇り空や雨が似合いそうなものもあるので、訪れるタイミングによってまた違う魅力を感じられそうだ。

是非、お誘い合わせのうえ

ユーミンの音楽は好きだけど、全曲聴き込んでいるわけではない。コンサートにも、まだ行ったことはない。正直、会場へ到着するまでは「これくらいの“好き度”の自分が『YUMING MUSEUM』に行っても大丈夫だろうか?」と少し心配だった。……けれど、何も心配する必要はなかったし、展示を見て“好き度”が急上昇した! もともとユーミンが大好きという人はもちろんのこと、予備知識がない人でもきっと大いに楽しめる展覧会だ。日本を代表するアーティストのデビュー50周年という記念すべきこの機に、改めてユーミンに恋をしてみてはいかがだろうか。

同フロアのレストラン「THE SUN & THE MOON」では、ユーミンの曲をイメージした限定コラボメニューも登場!

『YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)』は、六本木ヒルズ森タワー52階の東京シティビューにて2023年2月26日(日)まで開催中。


写真・文=小杉 美香

展覧会情報

YUMING MUSEUM(ユーミン・ミュージアム)
(英語表記): 50th Anniversary Exhibition of Yumi Matsutoya “YUMING MUSEUM”

◆会期: 2022年12月8日(木)~2023年2月26日(日) ※会期中無休
◆開館時間: 10:00~22:00(最終入館21:00)
◆会場: 東京シティビュー(東京都港区六本木 6-10-1 六本木ヒルズ森タワー52階)
◆主催: 東京シティビュー、朝日新聞社、NHKプロモーション
◆企画協力: 雲母社、ユニバーサルミュージック
◆協力: NHK
◆協賛: Spotify、JTB
◆グラフィック・デザイン: 森本千絵(goen°)
◆会場構成: 阿部真理子(aabbé)
◆入館料: 通常券(12月8日(木)~2023年2月26日(日))
一般2,500円、高校・大学生1,700円、4歳~中学生1,200円、シニア(65歳以上)2,200円
※東京シティビューの入館券ではご入場いただけないエリアがあります。
(追加料金が別途かかります。)
◆公式サイト:
【展覧会公式サイト】 https://yumingmuseum.jp
【東京シティビュー公式サイト】 https://tcv.roppongihills.com/jp/exhibitions/yuming/
◆公式SNS: https://twitter.com/yumingmuseum (@yumingmuseum)
◆問い合わせ: 東京シティビュー 03-6406-6652(受付時間 10:00~20:00)
※本展覧会に関する情報は予告なく変更になる場合があります。
※その他の詳細情報は、順次公開予定です。
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