牧阿佐美バレヱ団冬の風物詩『くるみ割り人形』にニューフェイスも登場、上中穂香&大川航矢ペアにインタビュー

2022.12.22
インタビュー
クラシック
舞台

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バレエ『くるみ割り人形』は、クリスマスのひと時を舞台とした物語。家族全員で楽しめる心温まるファンタジーとして世界中で上演されている人気の演目で、バレエファンのみならず、日本の生活のなかにも彩を添える冬の風物詩となっている。

牧阿佐美バレヱ団では『くるみ割り人形』(以下「くるみ」)を、今年(2022年)は12月24日(土)・25日(日)、それぞれ11時と15時半の2回、合計4公演を上演。1963年以来、改定や変更を行いながら約60年にわたって上演を続けてきた、長い歴史を持つプロダクションで、今回は幾度もこの役を経験しているベテランから初役までの計4組の主演を中心に、華やかな夢の世界が繰り広げられる。今回はそのなかから、昨年昨年主演デビューを飾った金平糖の精役の上中穂香と、王子役としてオデーサ国立歌劇場(ウクライナ)やノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場(ロシア)で活躍し2022年秋からバレヱ団に加わった大川航矢のペアに話を聞いた。(文章中敬称略)


■互いにいい形をつくれた『シンフォニエッタ』。そして「くるみ」へ

――お二人は2022年11月の公演「ダンス・ヴァンドゥ」の演目『シンフォニエッタ』で初めて組まれました。今回の「くるみ」はそれに続く2回目の公演となりますが、まずはそれぞれの印象やその『シンフォニエッタ』での想い出を。

上中 航矢君はロシアなどで活躍されていて、私も名前は知っていました。『シンフォニエッタ』で一緒に踊ることになった時は安心感しかなかったです。『シンフォニエッタ』は部分的に踊ったことはありましたが、全体を通して踊ったことはなかったので、リハーサルはお互い初めての作品ということで試行錯誤しながらでした。でも航矢君はリハーサルも何回も、納得がいくまで付き合ってくれたので、本当に心強かったです。

大川 僕は『シンフォニエッタ』が牧阿佐美バレヱ団に入団して初めての作品になりました。穂香さんとも初めて組みましたが、彼女は本当に素直で、リハーサルを通して着実にコミュニケーションが取れるようになって、お互いにどんどん良くなっていく感じでした。

上中 公演当日、私は超緊張していたんですけれど、終わった後の航矢君の笑顔がとても印象的だったんです。リハーサル中もなんですが、航矢君はいつもとてもニコニコしているので、緊張がほぐれました。

大川 僕はあまり緊張しない性質なんです(笑) いつも(舞台を)楽しもうと思っていて。ただこの前の『シンフォニエッタ』はちょっと抑えた感じで取り組みました。物語のない作品なので、どちらかというとラインの美しさや音楽に乗った流れとかを見せるように心がけていたので、僕のその「ニコニコ」はこの場ではちょっと邪魔になるかなと思って。でもやっぱり滲み出ていたのかもしれないですね(笑)。

――大川さんは「ダンス・ヴァンドゥ」では『シンフォニエッタ』のほかに『誕生日の贈り物』にも出演されていました。入団して数カ月だったと思いますが、ずっと前からバレエ団にいたように、自然に馴染んでいた印象を受けました。

大川 馴染むのは得意なんです。存在感をアピールするのは苦手なのですが、でもこれからは見せ方みたいなものも学んでいかなければならないなと思い、勉強中です。雰囲気の作り方みたいなものがまだまだだなと自分は思っているので。

――自然体という感じですね。

大川 自分のやりたいことに正直なのかもしれません。我慢とか周囲に気を使ったりするのが苦手で(笑) 幸せなことに今、とてもやりたいバレエが生活の中に最優先事項として組み込まれているので、それが自然体につながっているのかもしれません。

――なるほど。お互いのいいところなど、印象などは。

大川 穂香さんのいいところは、まず安定したテクニック。スタイルもいいし、月並みな言い方になりますが優しくて、接していて楽しい。ただ腰がとても低くて、僕の方がバレヱ団では後輩なのに、先輩っぽくないというか(笑) それが彼女の性格の良さかもしれないですが、僕としては「そこはかしこまらなくていいから」って、言いたいです(笑)。

上中 え、でも航矢君もすごく優しいし、もっといろいろ言ってくれていいです(笑)
航矢君は技術があるのはもちろんなのですが、その見せ方というのかな、例えば回転した後もスマートなんです。見せびらかす感じではないのに、カッコイイ。品があるっていうのかな。でもそれなのにどこかちょっと抜けてるところもあって親しみやすいんです(笑)。

撮影・山廣康夫


■子役として「くるみ」に出演した大川。「牧阿佐美バレヱ団に入ることはとても自然だった」

――大川さんは「ダンス・ヴァンドゥ」の前に行われたバレヱ団のインスタライヴで、「日本に帰国して入団するなら、牧阿佐美バレヱ団だと思っていた」といったことをお話されていましたが、そのあたりの理由をもう少しお伺いしてもいいですか。

大川 子どもの頃に「くるみ」のフリッツ役など、子役として出演したことがあり、牧阿佐美バレヱ団は日本で一番お世話になった、僕にとってなじみのあるバレエ団でした。プロになってからは『飛鳥』(2018年)にも出演させていただいたというご縁もあり、今回の入団はとても自然な成り行きで、特に理由らしい理由もないっていう感じです。あと『リーズの結婚』を踊ってみたいというのもありました。僕がロシアで所属していたバレエ団でもレパートリーとして持っていたんですが。

ロシアでの滞在年数は留学から数えて15年になりますが、これからは日本のお客様に踊りを見てもらえる機会が増えることを素直にうれしく思っています。今まで積み重ねた経験を日本の仲間とともに生かしていければいいなと思います。

撮影・山廣康夫

――牧阿佐美バレヱ団の「くるみ」には、クララやフリッツ役を経験した子達が、牧阿佐美バレヱ団や日本のほかのバレエ団で活躍するといった、登竜門的な伝統もありますが、大川さんもその1人だったわけですね。
ロシアでももう何度も「くるみ」を踊られてきたかと思いますが、牧阿佐美バレヱ団の「くるみ」という作品についての印象は。

大川 「くるみ」の王子役は、2014年にウクライナのオデーサ国立歌劇場にいたときに踊って以来なので、今回は本当に久しぶりです。牧阿佐美バレヱ団の「くるみ」は子役時代に客席で見たことはあったと思うのですが、すごく音楽的で、動きの流れが見ていて心地よかったということが印象に残っています。

――バレヱ団の印象は。

大川 ダンサーも先生方も、皆さん誠実にバレエに向き合っていて、精力的に取り組んで一つひとつ、本当に細かいところまで試行錯誤しながら公演を作り上げている。そういうのを間近で見て本当にすごいなと思いましたし、尊敬できるところだなと感じました。

撮影:鹿摩隆司


■上中の主演の第一歩を飾った「金平糖」。「自信をつけるためには稽古をするのみ」

――上中さんは昨年2021年に牧阿佐美バレヱ塾の卒業生の、初の主演ダンサーとして金平糖の精を踊りました。初めて踊った時の思い出は。

上中 去年はとにかく踊るだけでいっぱいいっぱいで、ただひたすらリハーサルに取り組みこなしていく、という感じでした。ですから今年はもう少し余裕を持ってやっていきたい。お客様との距離感や、自分自身の表現をもっと深めるなどして、研究していきたいと思っています。

私の考える金平糖は、かわいらしいというよりは、オーラを放ち威厳や品格をたたえた、でもだからといって近寄りがたい女王というわけではない、というイメージです。それを表現するには、自信など自分の内面的なところにもつながってくると思うので、もっと堂々と見せられる踊りを研究していきたいです。そういう自分なりの表現を出すというところで、私はまだ苦手な部分があって、枠にはまったコマコマした踊りになってしまうところがある。様々なバレエ団のいろいろな方の金平糖の踊りを見て、研究したり真似てみたりしながら、自分にしっくり来たものを取り込んで、自分の形にして出せていけたらいいなと思います。

――上中さんは主演などを踊る機会が増えてきて、踊りや日々のお稽古などで変わったことなどはありますか?

上中 今まで以上にストーリーを考えるようになりました。自分がどういう立ち位置で、どう表現して周りを引っ張っていくのかという、そういう存在の意味や責任感だとかですね。毎日のお稽古にもそういうところを意識するようになりました。先ほど航矢君が「腰が低い」って言われましたが、そういう自信というのかな。普段の生活も通して、もっと自信を持てるように、普段のお稽古や技術面とかを、もっと磨いていかなければならないなと思います。

撮影・山廣康夫


 

■パ・ド・ドゥをしっかりと合わせていきたい

――いよいよ本番直前というところですが、どのようなところを重点的に取り組み、仕上げていこうと思っていますか。

大川 デュエットの部分をちゃんとすり合わせていきたいです。やはり踊りはデュエットが大事なので、2人がもっと良く見えるように、しっかり合わせていきたいなと。

上中 あとお互い時間があるときに、できるだけコミュニケーションを取っていこうと。今回は4公演といつもより回数が多いので、1回のリハーサルにかけられる時間が去年に比べてだいぶ少ない。だから隙間時間を利用してどんどんリハーサルをしていかないと、あっという間に本番になっちゃうなっていう危機感があって。やっぱり練習を積んだだけ、本番は安心して踊れるんじゃないかと。

――忙しい日々が続きますが、リラックスの方法は。

上中 時間があったら映画を見たり岩盤浴に行ったり、お風呂とかにも行きたいです。

大川 僕はもっぱら子供との時間ですね。今、僕の実家のある青森で奥さんが11月に子供を産んで子育てをしているんですが、週末などには青森に帰って、奥さんと子供と、あと猫と、癒しの時間を過ごしているという感じです。この時期の赤ちゃんが見られるのは今だけなので。

撮影:鹿摩隆司


 

■「見に来てよかった」と思える幸せな舞台を

――最後になりますが、お客様にはどういったところを楽しんでほしいと思っていらっしゃいますか。

大川 クリスマスの物語を家族で、お子さんを連れてきて見に来てくださる方がたくさんいると思うので、「見に来てよかったな」と思っていただけるような舞台になればいいなと思います。

実は昔とだいぶ気持ちも変わってきていて、「感動させる」っていうのはおこがましいかな、と思っていて。昔は「人を感動させるダンサーになりたい」って思っていたこともありましたが、自分ができることしかできない、自分の持っている力以上のものは出せないので、頑張りすぎないという感じです。
また「くるみ」は主役2人が先導していくような作品ではない。物語を先導するのはクララで、王子や金平糖の精はそのくくりのひとつ。周りがつくり上げてきた盛り上がりの一部として自分の役割を演じ、公演自体の成功に少しでも貢献できればなと思っています。

上中 今年の出演日はクリスマスの当日の午前11時という早い時間なので、私達の公演をご覧になっていただいて、そのあと楽しい気持ちをお家に持って帰ってもらい、クリスマスの一日を過ごしていただければと思います。

――ありがとうございました。

撮影:鹿摩隆司

取材・文=西原朋未

公演情報

牧阿佐美バレヱ団「くるみ割り人形」(全幕)

■日時:2022年12月24日(土)・25日(日)
 いずれも11:00、15:30の2回、全4回公演
■会場:なかのZERO 大ホール
■指揮:御法川 雄矢
■演奏:東京オーケストラMIRAI
■演出・改訂振付:三谷恭三(プティパ・イワノフ版による)
■音楽:P.I.チャイコフスキー
■出演
●2022年12月24日(土)11:00
今村のぞみ(金平糖の精)、清瀧千晴(王子)、茂田絵美子(雪の女王)
●2022年12月24日(土)15:30
光永百花(金平糖の精)、近藤悠歩(王子)、久保茉莉恵(雪の女王)
●2022年12月25日(日)11:00
上中穂香(金平糖の精)、大川航矢(王子)、西山珠里(雪の女王)
●2022年12月25日(日)15:30
阿部裕恵(金平糖の精)、水井駿介(王子)、高橋万由梨(雪の女王)
■牧阿佐美バレヱ団公式サイト:https://www.ambt.jp/pf-the-nutcracker2022/
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