松下優也×立石俊樹、『黒執事』で同じ執事役を演じたからこそ「分かり合えることがたくさんある」ーー初共演作『太平洋序曲』の魅力も
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右から松下優也、立石俊樹 撮影=大橋祐希
3月8日(水)~29日(水)に東京・日生劇場、4月8日(土)~16日(日)に大阪・梅田芸術劇場メインホールにて、ミュージカル『太平洋序曲』が上演される。梅田芸術劇場とイギリスのメニエール・チョコレート・ファクトリー劇場による共同制作第1弾。ミュージカルの巨匠スティーヴン・ソンドハイムによる音楽にのせて、鎖国から西洋化へと向かう江戸時代末期の日本の物語を、マシュー・ホワイト演出で描き出す。同作で狂言回しを演じる松下優也と、ジョン万次郎役の立石俊樹にインタビュー。初共演となる2人だが、過去には共通の役を演じた経験を持つ。掲載しきれないほどの「あるある」エピソードが飛び出し、深く共感し合う対談となった。
松下優也
――現時点で、作品に対してどのような印象をお持ちでしょうか?
松下:あのソンドハイム氏が日本を描いたミュージカルという時点で、すでに興味深い作品ですよね。海外のクリエイターが日本を題材にする場合、要素を表面的に捉えているものが多いですが、この作品は本質に迫っている。あの時代の日本を海外の方が描き、それをマシューさん演出のもと、日本人の僕らが演じていくという構図がすごく魅力的です。
立石:約150年前の話ですけど、個人的にはそれほど遠い過去のことじゃないなと感じました。時代背景について色々と調べたのですが、近代化に向かう明治への移り変わりが、意外と今の時代に似ていたのです。だからこそ、現代に生きる人たちそれぞれに受け取るものがある作品になる予感がしています。
松下:今まで鎖国されていたところに、西洋のものが次々に入ってきたじゃない? 世界が移り変わっていくのは、どういう感覚だったんだろうね。
立石:想像できないですよね。僕らでいうと、スマホが出始めた頃……とか?
松下:たぶん、もっとすごいよ。『決起集会』の時にどなたかが仰ってたけど、UFOが現れた感覚なんじゃないかな。まったく知らないところから未知の生命体が来たような……その時に入ってきた西洋の文化がこうして今、当たり前のように僕らの生活に根差している。じゃあ、日本のアイデンティティはいったいなんだろうと。何をもって日本人とするのかを、僕らもお客さんも考えるきっかけになるかもしれないですね。
立石俊樹 054
――その感覚を、誰よりも先に味わっていたのが、立石さん演じるジョン万次郎ですね。
立石:海外に出たら死罪になってしまうあの時代では、考えられない生き方をした人。未開の地に新しいものがやってくるきっかけを与える人物です。『太平洋序曲』で描かれるのは日本に帰国してからの彼ですが、その前段階もしっかり読み解いてから稽古に臨んでいきたいですね。
――松下さん演じる狂言回しは特に難しい役どころになりそうですが、役者としてこういった役のやりがいは?
松下:めちゃくちゃ楽しみです。分量的には大変でしょうけど、やりがいはすでに感じています。ただ演じるだけではなく、お客さんに向けて語って訴えかけることも、また、誰か人物として場面に立ち会うこともある。劇場という空間をコントロールする役割があると思うと、すごく楽しみですね。難しい役や作品をどうやっていこうかと考えるのは、とても好きな時間。自分が出ていない作品でも、観劇に行くと作品に集中している自分の他に、あれこれ分析する別の思考をする自分がいるんですよ。お客さんにも同じ感覚を、ぜひこの作品で味わってみてほしいです。
――現在、Spotifyではブロードウェイ初演版の英語歌唱が配信されています。楽曲について、どんな感想を持たれましたか?
松下:キャッチーな楽曲とは決して思わなかったです。ただ、聴けば聴くほど、歌えば歌うほど徐々に自分の中に入り込んでくる不思議な魔力を持っている。めちゃくちゃ難しい楽曲が多くなりそうですね。英語でもこんなに難しいのに、これを日本語で歌うとなると……。
立石:「ここが聴きどころだ!」というのが掴みにくい気がします。まだ役の情報が自分に入っていない段階にあるからか、音楽としての難しさを感じているのかは正直わかりません。『エリザベート』でご一緒している原(慎一郎)さんが「オケ合わせの時に初めてソンドハイムの楽曲は完成する」と仰っていたのがすごく印象的でした。
松下:難解な部分や覚えにくい部分はきっとあるだろうけれど、そこには必ず意図があるはず。そこはきちんと見つけていきたいよね。
松下優也
――おふたりは本作が初共演ですが、ミュージカル『黒執事』でセバスチャン・ミカエリスを演じたという共通点があります。かつて同じ役を演じた役者との共演は、どんな感覚ですか?
松下:感慨深いものはありますね。僕、初めて舞台に立ったのが『音楽舞闘会「黒執事」-その執事、友好-』(2009年)だったんですよ。
立石:えっ、そうだったんですか!?
松下:そこから『地に燃えるリコリス』(2014年)までの4作に出演しました。(『太平洋序曲』で香山弥左衛門役の)廣瀬(友祐)くんともその時以来、久しぶりの共演なので楽しみです。僕はもう卒業という形になりましたが、立石くんが3代目として演じているのはもちろん知っていました。今回の共演を楽しみにしていましたし、分かり合えることがたくさんあると思います。
立石:3代目セバスチャンを演じるにあたって、松下さんが演じられた作品も観ていたので……松下さん、初舞台だったんですか?
松下:うん、何もわからない状態で立ってた。『黒執事』は当時からずっと人気で、今もなお愛され続けている作品。プレッシャーを感じないわけがないし、立石くんも闘ってきただろうし。その点においては、初代でよかったな(笑)。初代、2代目と受け継ぐのは大変やったと思う。
立石:いえいえ! 初代には初代ならではのご苦労があったと思います。
松下:うん、立石くんと話してるうちに思い出してきた。初演の頃は「2.5次元」という言葉がなかったくらい、アニメや漫画原作のミュージカルが少なかったんだよね。もちろん漫画やアニメからヒントを得ていたんだけど、現実には存在しない世界観をどこまでリアルに落とし込もうかってことをひたすら話し合って。再現度だけじゃなく「セバスチャンにとってシエルは何人目の契約なのか」、「この死神は何歳か?」と、(『千の魂と堕ちた死神』(2013年)の)再演のときに演出の福山桜子さんとメソッドのような形でやったんだけど、その時にやっと役が落ちてきた気がする。
立石俊樹
――『ミュージカル「黒執事」~寄宿学校の秘密~』(2021年)は、立石さんにとって初主演作でした。
松下:そうなんや。大変やったやろ?
立石:カンパニーの軸を担う責任だけでなく、初代と2代目がいらしたことも大きかったです。最初のうちは作品への理解度がまだ低かったし、お客さんよりも僕自身が「生執事」(ミュージカル『黒執事』の愛称)を知らないからこそ、できていないことがたくさんありました。前の役者さんとは顔も違うし、声も違うし、演じ方も違うから「前のセバスチャンがいい」と思うはずだし……自分にとっては何重ものプレッシャーがあって、気にしないようにはしていましたが、やっぱり気にしてしまっていました。セバスチャンは、カッコ良いじゃないですか。
松下:そう。全部が完璧じゃないといけないから、ミスがひとつも許されないんだよね。ちょっとコミカルな部分も含めて完璧なキャラクター。「あくまで執事」やし。
立石:カッコ良いキャラクターだからこそ、演じるうえではかなりシビアでしたね。僕、結構ミスしてしまいました。武器のナイフを落としたこともあります。
松下:ああー! わかる、俺もペーパーナイフで手紙を切るとき、一回落としたことある。マジで焦ったんだけど、その後はミスったバージョンのセリフを自分の中で用意してた。
立石:え!
松下:当時は10代でまだキャリアも浅かったし、急にアドリブで対応ができるかわからなかったから。もしこれからまたセバスチャンを演じる機会があるとしたら、初代として唯一アドバイスできるのはこれかも(笑)。
立石:ハハハ(笑)。セバスチャンを演じている期間中は、かなり姿勢も良くなってましたね。
松下:わかる! 所作が無駄なく完璧やから。あと、最初はだいたいシエルを起こすところから始まるやんか? あそこで靴を履かせるの、めっちゃ苦労した。人にジャケットやコート着せるコツも『黒執事』で学んだな……あかん、どんどん「セバスチャンあるある」が出てくる(笑)。
立石:これほど完璧で、しかも人外の存在というキャラクターを演じるのはたしかに大変でしたけど、そのおかげでいろんなものに立ち向かえた。演じられてよかったです。
松下:もしまた立石くんがセバスチャン演じることがあるなら、次こそ観に行きたい。
立石:ぜひぜひ! 僕もまたやりたいです。
松下優也
――かつて同じ役を演じ、今回の『太平洋序曲』ではかなり異なる役どころ。役者としては、お互いにどう映っていますか?
立石:僕としては、一方的にずっと知っていた方。役者としても、グループ活動でも活躍されていてカッコ良いなと憧れていました。同じ役を演じられたことは光栄でしたし、今度はこうして同じ作品にキャスティングしていただけて……うまく言えないんですけど、認めてもらえたような気持ちなんです。
松下:共通点はなんとなく感じています。音楽グループでの活動経験とか、似た境遇もあると思う。立石くん、すごく男らしいよね。
立石:嬉しい! ありがとうございます。
松下:一緒に作っていけるのが嬉しいよ。稽古場でまた会えるのが楽しみだね。
立石俊樹
――最後に、意気込みとメッセージをお願いします。
松下:今作はWキャストということで、役者の組み合わせによってもまた見え方が違ってくる作品です。ぜひ、いろんなパターンで見ていただきたい。現代日本に至る大きなきっかけになった出来事を、劇場で感じ取ってください。
立石:いちミュージカルファンとして、ソンドハイムさんの楽曲を歌えるのは嬉しいですし、日本のミュージカル界でずっと活躍されてきたキャストの方々と初めてご一緒できるのも楽しみ。僕が新しい景色を感じるように、見てくれる皆さんにも何か新しいものが届けられるはず。新しい挑戦を楽しみにしていてください。
右から松下優也、立石俊樹
取材・文=潮田茗 撮影=大橋祐希
公演情報
【大阪】4月8日(土)〜16日(日)梅田芸術劇場メインホール
ジョン万次郎:ウエンツ瑛士・立石俊樹(Wキャスト)
将軍/女将:朝海ひかる
A席:9,500円
脚本:ジョン・ワイドマン
演出:マシュー・ホワイト
翻訳・訳詞:市川洋二郎
音楽監督:キャサリン・ジェイズ
美術:ポール・ファーンズワース
照明:吉枝康幸
音響:山本浩一
衣裳:前田文子
ヘアメイク:中原雅子
音楽監督補:小澤時史
指揮:小林恵子
歌唱指導:やまぐちあきこ
歌唱指導助手:横山達夫
稽古ピアノ:久野飛鳥
オーケストラコーディネート:新音楽協会
振付通訳・リサーチ:服部有吉
通訳:天沼蓉子 吉田英美
美術助手:岩本三玲
演出助手:河合範子
舞台監督:藤崎遊