cali≠gari V系とエイトビートの美学を継承、“原点回帰”な多面的なポップセンスが露わになった新作と未来を語る

2023.1.6
インタビュー
音楽

──タイトルを“まちびと”と読むんだなと思うとわかりやすいですよね。そしてラストは石井さんが担当された「燃えろよ燃えろ」。先ほど、“聴き方によっては元気づけられる人もいるかも”とおっしゃってましたが、こういうある種の大団円的な曲って、これまでは青さんが担当されることが多かった気がします。

桜井:そうですね。

石井:たぶん、そういう曲順だから大団円的に聴こえるんでしょうね。俺のイメージ的にはアルバムの1曲目でいいやって感じのもので、突然“ドコドコドコドコ! 燃えろ!”って始まったらおもしろいなと思ってたんですよね。フリっぽい感じで。

──“いきなりどうしたんですか?”って感じもありますけどね(笑)。

石井:“どうしたんですか?”っていうのは毎回思われてるから大丈夫です(笑)。

桜井:もうね、世良(公則)かと思いましたよ。

──(笑)先に青さん、研次郎さんの曲があったうえでのこの曲調なんですか?

石井:いや、違いますね。青さんが作ってるときと一緒ぐらいに作ったんで。

──では、特にバランスは考えずに。

石井:逆にバランスは取ったつもりだったんです。青さんがああいう感じの曲だったんで、俺は少し明るい感じのものにしようって。今回は予告版にすることが決まってたんで、カップリングとかじゃなくて、もう全部リードみたいな曲がいいのかなと思ってたら、青さんが“原点回帰”だとか“初期の頃を”ってことを言ってきて、もう遅いっていう(笑)。

──ちなみに、その原点回帰という意識は、『16』のほうには……。

桜井:入ってます。

──アルバムでは、石井さんと研次郎さんにも原点回帰で作ってもらおうかなっていう?

桜井:まあ、“暗め”とかそこまで気にしなくていいし、自由に作ってもらったらいいんだけど……そういうふうに考えて作ってもらうと発想を狭めちゃいそうで怖いから、頭の片隅にでもちょっと置いといてよって。こないだもちょっと話したんですけど、cali≠gariにおける原点回帰って、3人それぞれできっと違うんですよ。例えば僕が原点回帰って言ったら、やっぱり「嘔吐」とか「発狂チャンネル」ができたあたりなんです。こういう曲、他にないよなっていう。で、石井さんが入ってからのcali≠gariの原点回帰っていうとやっぱり「エロトピア」だったり、エログロみたいなああいう感じですよね。復活してからだと「─踏─」とかのイメージが強いし、僕のなかでは。

村井研次郎(Ba)

俺がcali≠gariに入ったときは青さん迷走してて。新宿の人が無理に下北へ行ってみようとしてた時期。(村井)

──ちなみに、研次郎さんは原点回帰って言われるとどのあたりを思い出しますか?

村井:うーん、俺は地理オタなんで、土地に例えて言うなら新宿とか下北とか。俺がcali≠gariに入ったときは青さん迷走してて、“ちょっと下北とかでやってみようかしら”とか言ってて。そこが原点かもしれないですね。新宿の人が無理に下北へ行ってみようとしてた時期。

石井:俺、その当時は青さんとの交流はなかったけど、響いてましたよ。俺も知ってましたもん、そういう活動してるのは。軍モノっぽい感じの時期ですよね?

村井:そうそうそう。ミリタリーっぽい格好だったり、なんとかしようとしてる感じ。

桜井:ただ、結果的にそういったもののなかからなぜか火が点いたんですよ。ときはまさに『Break Out』の時代で、メイクがすごく薄くなって、夢や希望があるようなV(系)が増えた時期なんです。そんななか、うちみたいな白塗りでスキンヘッドのボーカルがいて、血まみれで、みたいなバンドが受け入れられるわけがないんですよ。異端中の異端だったんですけど、でもそういったものが好きな人たちはやっぱり一定層いて、そこから口コミで、なぜか熱狂的に求められはじめたんですよね。特に『第3実験室』を出してから、倍々ゲームのようにお客が増えていったんですよ。あれはびっくりしました。

──いったん寄り道したものの、そこから本来の路線でリリースしはじめたらリスナーが増えたっていう。

村井:電車移動ならほんとに微々たる距離なんですけどね。JRか京王かで迷走してた(笑)。

桜井:その迷走してるなかで出来上がった曲っていうのはやっぱり、思い出深いんですよね。「嘔吐」だったりね。

──では、時代としては青さんと研次郎さんは合ってるんですね。石井さんはどうです?

石井:ま、「エロトピア」とかっていうところですね。

──そこも先ほどの青さんのお話通りなんですね。とはいえ、『16』にそのあたりが反映されるかはわからないってことでしょうか。

桜井:ただ、「狂う鐫る芥」はリフ発信でやってるから、「エロトピア」だったり「-踏-」だったりの系譜は感じますよね。あとは「都市人」と「燃えろよ燃えろ」はエイトビートじゃないですか。いま、こんなエイトビートのビートパンクをやるバンドって少ないですよね?

──そうですね。cali≠gariにはこれまでにもそういう曲がありましたけど。

桜井:うちはあえてやってるんですよ。だって、どんどんなくなってくんですもん。例えばBOφWYだったり、初期のBUCK-TICKだったり、PERSONZだったり、ああいうかっこいいエイトビートっていまホントにないじゃないですか。あれは文化としてなくしちゃだめだと思うんですよ。ロックを知った多感な頃を殆どエイトビートで過ごして、エイトビートの産湯につかって産まれたような今の自分にとって、ビートロックをやり続けるのは最早使命ですよね(笑)。

──そういったルーツ的な意味での原点回帰も含めて、今後どういう“原点”が出てくるかわからない感じですね。

桜井:現時点で出してる曲は、テーマ的に暗めの曲ばっかりですけどね。前作のときにも話しましたけど、50越えてからは終活、死についてずっと考えていて。前は、“死って何があるかわかんないし怖い”“空虚”“未知のものに対する畏怖”みたいな感覚だったのが、いまは、もうどうせ死ぬし、アトラクションみたいに捉えてるところがあるというか、“次のステージへの旅立ちだよね”っていうふうに思えてきて。ワクワクまではいかないけれど、少しだけ死に対しての希望を考えてみようかなって思うんですよ。

──生きるということは死に向かう行為であって、そういうことを書いてこられたのが石井さんだと思うんですけど、先ほどの話だと、そのあたりの石井さんの表現が最近心配だってことなんですか?

桜井:それもありますね(笑)。

──今回なら「燃えろよ燃えろ」とか。

石井:それも、どっちにも捉えられるんですよ。ライブフロアのお客さんに対して、“もっと盛り上がって、熱くなっていこうぜ”っていうような、そう捉えてもらってもいいし。

桜井:“燃えろ!”って言ったらみんなでジャンプしてもらいたいですね。

石井:結構そういうイメージはあるんですよ。だから1回、シンコペーションが入って、キメがあったりして。

──そういうライブでの機能もありつつ、結構投げやりじゃないですけど、もう生きてやれみたいな雰囲気もありますよね。そのあたりも、先ほどの表現の仕方が変わったからっていう?

石井:そうですね。上っ面ではホントにいろんなことを言ってきたんで、いまはもう、内側から出てくるものだったらおんなじ表現だとしてもいいと思うんですよ。ずーっと同じこと言ってるんだってなっても、自然とそうなるんだったらそれで構わないと思うんですよね。

──では、『16』でも燃えてるかもしれないですね。

石井:そうですね(笑)。何て言うんだろうな? cali≠gariだからそういうタイトルになるってところもあるじゃないですか。cali≠gariってバンドの特異性に、俺のそういう表現が引き出されてる感じがあるんですよ。普通のバンドでやってたら絶対そんなふうにはならないですけど、cali≠gariをやってると“燃えろ!”って言いたくなるんですよ。

桜井:(笑)。

石井:ただ、世良の“燃えろ!”と俺の“燃えろ!”は意味合いが全然違うんですよね。かといって悟りを開いちゃったわけでもなくて(笑)、そういうのとはもっと違う。俺がcali≠gariで言ってる“燃えろ!”(のニュアンスについて)はお客さんも慣れっこだろうし、普通に刺さるんじゃないですかね。

──“燃えろ!”に対するお客さんの反応が楽しみですね。『16予告版』のリリース後には東名阪ツアーも控えていますが、どういうライブにしたいですか?

桜井:ストイックなライブをやりたいです。最近はMCにも結構長く時間を取ってましたけど、そういうものではなく、曲はきっちりやっていながらも“え、もう終わりなの?”って感じるような、ギュッと凝縮されたライブ。本来のバンドの姿というかね、かっこいいcali≠gariを見せたいです。今回の3曲にこれまでのどういった曲を足していけばストイックな、かっこいいcali≠gariになるのか、セットリストを組み立てていくのも楽しみですね。


取材・文=土田真弓 撮影=菊池貴裕

 

リリース情報

「狂う鐫る芥(Busy ver.)」
作詞・作曲・編曲:桜井青
12月1日(木)配信開始
 
EP『16 予告版』
【良心盤】2023年1月18日(水)発売

良心盤


初回限定盤 CD+DVD
通常盤 CD

 
<収録内容>全4トラック収録
1. カリ≠ガリのコマーシャル〝16〟
2. 狂う鐫る芥
3. 都市人
4. 燃えろよ燃えろ

【Bonus Track(後日配信コンテンツ)】
5. 狂う鐫る芥 
6. 都市人
7. 燃えろよ燃えろ
TOUR 16 -The Case of the Invisible Crime-
2023年2月10日(金) 恵比寿LIQUID ROOM 収録
※Bonus Track収録内容は未来の音源なので予告無しに変更する場合がございます

アルバム『16 予告版』
【狂信盤】 <ライヴ会場/通販>
5,000円(税込) 品番:MSNA-138
【CD+DVD / スリーブ+写真解説書付】
【CD+DVD / スリーブ+写真解説書付】

<収録内容>全6トラック収録
【disc1 CD】
1. カリ≠ガリのコマーシャル〝16〟
2. 狂う鐫る芥
3. 都市人
4. 燃えろよ燃えろ
-bonus track-
5. 狂う鐫る芥 (うたごえ喫茶篇)
6. 狂う鐫る芥 (Cruel Act MIX remix by Shuji Ishii)
【disc2 DVD】
1. 狂う鐫る芥(MV)
2. 狂う鐫る芥(MV_Busy ver.)

ライブ情報

cali≠gari TOUR 16 -The Case of the Invisible Crime-
■2023年1月21日(土)
梅田バナナホール
[OPEN/START] 16:30/17:00
INFO.夢番地大阪 TEL 06-6341-3525

■2023年1月22日(日)
名古屋ElectricLadyLand
[OPEN/START] 16:30/17:00
INFO.サンデーフォークプロモーション TEL 052-320-9100(全日12:00〜18:00)

■2023年2月10日(金)
恵比寿LIQUIDROOM
[OPEN/START] 18:30/19:00
INFO.ディスクガレージ TEL 050-5533-0888(平日12:00~15:00)
※詳細はhttps://www.diskgarage.com/にてご確認下さい。

イベント情報

<インストアイベント決定>
2023年1月20日(金)大阪某所
2023年2月11日(土・祝日)東京某所
  • イープラス
  • cali≠gari
  • cali≠gari V系とエイトビートの美学を継承、“原点回帰”な多面的なポップセンスが露わになった新作と未来を語る