作・山谷典子×演出・藤井ごうインタビュー「他人事ではなく自分事として考える作品にしたい」~Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』
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Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』 写真左から藤井ごう、山谷典子
2023年1月18日(水)~22日(日)座・高円寺1にて、演劇集団Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』が上演される。
演劇集団Ring-Bongは、文学座出身の山谷典子が台本を手掛ける演劇ユニットで、日本が持つ忘れてはならない歴史や今も抱え続ける問題に焦点を当てた作品を上演してきた。今作では中学校の保健室を舞台に、社会問題にもなっている“ヤングケアラー”や、親の言いなりになってしまい自分の人生を自分で決められず、生きづらさを抱えている生徒たちの姿を描いている。
今作を上演するにあたっての思いを、台本を手掛けた山谷と、2016年の第6回公演以降、Ring-Bongの演出を手掛け続けている藤井ごうに聞いた。
■文学座の先輩たちに個人的に取材をしたのが劇作家になるきっかけ
――まずは演劇集団Ring-Bongの成り立ちからうかがいます。山谷さんは文学座の座員として俳優活動をする中で、初めて書いた戯曲『二つの空』が文学座自主企画公演で上演されたことが劇作家としての第一歩だったそうですが、戯曲を書くことになったきっかけを教えてください。
山谷 元々歴史が好きで、文学座に入ったら「私は戦時中は○○だったのよ」という話をしている人が周りにたくさんいる環境だったので、これは今聞いておかないといけないんじゃないか、と思って個人的にいろんな方に取材というかお話しを聞くようになりました。最初はまず加藤武さんや戌井市郎先生にうかがって、そこから人を紹介してもらったりして30人ぐらいに聞き取りをしたのですが、そうしたら今回の出演者の一人でもある文学座同期の鬼頭さんが「そんなに調べたのなら、書いたら?」って言ったんです。自分には書くという発想がなかったので、そう言われたことで「そうか、書くか」と思ったのが始まりでした。
Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』 山谷典子
藤井 鬼頭さんは、山谷さんが書くことになった発端でもあるから、その責任を取る立場としてRing-Bongに出演し続けてるところもあるんじゃない(笑)?
山谷 鬼頭さんにこの話をすると「全然覚えてない」とか言うんですけどね(笑)。いろんな方から聞いた話を元に書いてみて、自主企画でリーディング公演をやってみたら、思った以上にお客様の反応がよかったので、これはちゃんとした芝居にもしてみたいと思いました。文学座の先輩の加納朋之さんたちが自主企画をやる団体「H.H.G.」を立ち上げていたので、加納さんにいろいろ教えてもらいながら自分で立ち上げたのが演劇集団Ring-Bongです。文学座にいながら自分の団体を立ち上げるなんて、先輩たちがやっていなかったらできななかったと思うので感謝しています。
――2011年に文学座に所属しながらRing-Bongを立ち上げましたが、昨年文学座を退座されました。辞めたきっかけは何だったのでしょうか。
山谷 自分は演劇をやる中では俳優として関わることが一番好きだと思い込んでいたのですが、本を書き始めてから、俳優としてよりも書くことの方に頭を使っている時間が圧倒的に長くなったことに気がつき始めたんです。そして、やっぱり子どもが生まれたことが大きくて、子どもが生まれた途端に出演欲が一切なくなってしまって。でも、私が死んだ後もこの子たちの世代に作品を残したい、という思いは強くなって、書くことは絶対やり続けたいと思ったんです。
Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』 藤井ごう
■子どもが生まれて書きたいテーマが変わってきた
――Ring-Bongは旗揚げから公演ごとに様々な演出家が参加してきましたが、第6回公演からは藤井さんが続けて演出を手掛けています。藤井さんが参加することになったきっかけを教えてください。
山谷 ごうさんが作・演出を手掛けていた劇団の公演を見に行ったらものすごく面白くて、それ以来ずっとごうさんの存在は心の中に残っていたんです。それで第6回公演の演出を誰にお願いしようかというときに、一番初めに浮かんだのがごうさんだったんです。
藤井 僕も、先ほど話に出た加納さんが大好きで自分の作品に主演してもらったり、H.H.G.にもよく顔を出していたので、その頃から山谷さんはなんとなく身近にいる存在ではありました。
――藤井さんは、山谷さんの作品を演出したときの印象はいかがでしたか。
藤井 最初の頃は山谷さんも出演していたのですが、稽古に入る前とか稽古初期の頃は本の意図などを説明してくれるんですけど、ある時から山谷さんと僕の立場が逆転するんです。例えば「この人物はこうなんじゃないか」と僕の解釈を話すと、書いた本人が「なるほどそうなんですね!」って感心してるんですよ(笑)。
山谷 アハハ! そうでしたね(笑)。
藤井 作家さんの中には「私のイメージでやってください!」って方もいらっしゃるんですけど、山谷さんの場合は自分が書いた物語を演出家に手渡して、その状況を楽しんでるというんでしょうか。僕もどちらかというと、最初から僕が決めるというよりは、俳優さんにガイドを渡しながら、それによって作られた世界をどうやって一番いい状態で客席と出会わせるか、ということにすごく時間をかけているんですね。だから最初の本読みをした後に、俳優たちにも思ったことを言ってもらうためにディスカッションをするんですけど、山谷さんはそこで言われたことを受け止めて作品に反映させたりするので、そういうところが普遍的になっていく要因なんじゃないかなと思います。
Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』 藤井ごう
――山谷さんはこれまで満州や過去の日本の歴史の話を書いてきましたが、前回は児童虐待、今回はヤングケアラーや貧困をテーマにされています。前回からそれまでとは違ったテーマにシフトチェンジされた理由は何だったのでしょうか。
山谷 間違いなく、子どもが生まれたからですね。どうしても「この人たちの未来どうなるんだ」ということを考えてしまうので、今問いたい、今自分が考えたいテーマを取り上げて書いているというのが大きいです。だから今後、息子の成長と共に描きたいものも変化していくんだろうな、という気がすごくします(笑)。
藤井 書く内容が、ちょっと未来を見つめる感じになりましたよね。内容を提示するだけじゃなくて、その先がどうなるかということに対してより自覚的になってきてるんじゃないかな、と僕は勝手に思っていて、そこにちゃんと俳優さんの血肉を乗せられるか、かつそれが説教くさくならずにできたらいいな、と思いながら作っています。
――前回「こういうテーマで書きたい」ということは、山谷さんから藤井さんにご相談されたのでしょうか。
山谷 はい。「これで行きたいです」って言ったら、「あぁ」って言われました(笑)。
藤井 山谷さんは最初の頃は、歴史の持つ時代的なダイナミズムを使わないと、うまく問題提起ができなかったのかもしれないなという気がします。今はそこが変わってきて、ご自身がどこまで自覚してるかわからないですけど、歴史の力を借りずに人間ドラマとして構築しようという方向になっているんだろうな、という感じがあります。僕が個人的に一番面白いのは、山谷さんが社会のあり方とかに対して思うところも含めて本を書いている中で、「男の人ってさぁ」っていう部分が必ずあるんですね。その内容が、僕が家で妻や娘たちに言われることと同じだから、俳優さんに説明しながら身につまされるというか(笑)。でもだからこそ逆に、文句を言われている側の男性が演出をすることで、自分に刺さりながらそれを噛み砕いて作ってるみたいなところが面白いのかもしれないなと思います。
山谷 でも、男性の演出家だったら誰でもうまくいくかといったら、そうじゃないんだと思います。多分ごうさんみたいに、グサグサ刺さって痛いなと思いながら共感してくれる人じゃないと、私の「ここを言いたいんだよね」という部分に気づいてもらえない気がします。
Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』 山谷典子
■社会の縮図の人間ドラマが展開していくところを見て欲しい
――今回テーマになっているヤングケアラーの問題は、近年ニュース等でも見聞きするようになりましたが、それを演劇で見せるとなったときに、どう見せるのかというバランスが非常に繊細なところだと思います。
藤井 当事者の方がいらっしゃるものなので、そこに対する怖さとか、当事者への尊敬というんでしょうか、そういう気持ちを持ってやっていかないといけないなと思っています。
山谷 例えばジャーナリズムにおけるヤングケアラーの取り上げられ方が、どうしても悲惨な出来事として扱われていることが多くて、でも私はそうやって「特別な人」になってしまうのは避けたいと思っています。全然特別なことなんかじゃなくて、実際に周りにたくさんいるんですよ。他人事じゃなく自分事としてみんなで考える作品にしたい、というのは書く動機としてとても大きいです。
Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』 藤井ごう
――山谷さんとしては今後も心を動かされたものを題材に書いていくことになりそうでしょうか。
山谷 多分そうなる気はしてます。例えば、いわさきちひろさんはお子さんが大きくなるにつれて描いている子どもの年齢も上がっていったように、芸術は自分が一番描きたいものはこれだ、という気持ちに素直にやっていいんじゃないのかなという気持ちもあります。
藤井 作家さんはテーマを依頼されて書くのも一つですけど、そうやって自分の中にあるものを育てて書くというのも大事なことなんじゃないかなと思いますね。
――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
山谷 演劇は、同じ空間で物語をのぞき見しているような感覚になれるところが私は好きなんです。今回は中学校が舞台なので、「ああいう先生いたな」とか「自分の先生はああだったな」とか、お客様はいろいろ思い出しながらちょっとのぞき見をしているような、不思議な感覚になるような気がしています。あと、自分たちの時代と現代はこんなにいろいろ違うんだ、ということも話の中に盛り込んであるので、この作品を通して自分たちの暮らしを考えるきっかけになったら嬉しいです。
藤井 自分と似てる誰かがこの作品の中にいて、それが子どもなのかもしれないし、保護者なのかもしれないし、先生なのかもしれないですが、そんな視点で興味を持っていただければ、観終えた後に見える風景が多分少し変わるんじゃないかな、というふうに思っています。あまり高らかに何かを訴えるということではなく、社会の縮図の人間ドラマが展開していくところが見どころだと思うので、そこをぜひご覧ください。
Ring-Bong第10回公演『さなぎになりたい子どもたち』 山谷典子
取材・文・撮影=久田絢子
公演情報
『さなぎになりたい子どもたち』
辻本健太(スターダス・21neu)、久保まり菜(スターダス・21)、乙木みほり(シンクバンク)
<アフタートークゲスト>
19日(木) 19時…前川喜平さん(元文部科学事務次官)
21日(土) 18時…澤田美和さん(元養護教諭)、松田千里さん(養護教諭)
聞き手…山谷典子 司会…辻輝猛
*未就学児入場不可