古代メキシコ文明の謎めいた魅力に迫る 特別展『古代メキシコ』報道発表会レポート

2023.2.10
レポート
アート

特別展『古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン』報道発表会にて 右:杉山三郎教授、左:井出浩正研究員

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特別展『古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン』が、2023年6月16日(金)から9月3日(日)まで、上野・東京国立博物館にて開催される。

紀元前15世紀から紀元後16世紀までの3000年以上にわたり、独自の文明を発展させてきたメキシコ。時代や地域によって様々な国家や王朝が繁栄していたが、本展ではその中でも代表的な「テオティワカン文明」「マヤ文明」「アステカ文明」の3つに焦点を当て、古代メキシコの奥深さに迫っていく。

特別展『古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン』報道発表会より

展示されるのは、メキシコ国内の主要博物館から来日する約140件もの“至宝”たち。とりわけ本邦初公開となる、マヤ文明の遺物《赤の女王のマスク》には期待が高まる。さらに会場では、世界遺産にも指定されている古代遺跡を体感できるような、臨場感ある映像や再現展示が用意されるという。それでは、開催に先駆けて実施された報道発表会の様子とともに、本展の見どころを少しだけ先取りしてレポートしていこう。

開催によせて

東京国立博物館 副館長 富田淳氏

はじめに、東京国立博物館 副館長の富田淳氏が登壇し、本展開催にあたっての挨拶を述べた。東京国立博物館でメキシコ関連の展覧会が開催されるのは1955年の『メキシコ美術展』以来で、意外にも68年ぶりのことだという。富田氏は「この展覧会をきっかけに、ぜひ多くの人に古代メキシコの魅力を知ってほしい」と力強く語ったのち、メキシコ文化省、メキシコ国立人類学歴史研究所への篤い感謝の言葉で挨拶を締めくくった。

メキシコ国立人類学歴史研究所の博物館・展覧会事務局長 フアン・マヌエル・ガリバイ氏

メキシコ国立人類学歴史研究所の博物館・展覧会事務局長のフアン・マヌエル・ガリバイ氏からの、展覧会開催を祝すVTRメッセージも披露された。

古代メキシコ文明に通底する、4つのキーワード

続いて、スライドを使った展示紹介のパートへ。本展の監修・ゲストキュレーターを務める杉山三郎教授(岡山大学 文明動態学研究所特任教授、アリゾナ州立大学研究教授)と、本展担当の井出浩正研究員(東京国立博物館 学芸研究部調査研究科考古室長)がマイクを持って見どころを語ってくれた。その一部を紹介しよう。

展覧会は全4章で構成される。第1章「古代メキシコへのいざない」では、3000年を超える歩みの中でも超初期、紀元前1500年ごろに形成された「オルメカ文明」の石偶(せきぐう・石でできた人形)が登場する。いわば古代オブ古代の作品だ。そのあとに続く多彩な文明のルーツを感じさせるという。その姿は、ジャガーと人間の赤ちゃんを混ぜ合わせたような、半身半獣の姿である。熱帯雨林最強の獣であるジャガーと人間の融合した図像は、王権のシンボルとして多く制作されたのだという。会場で、その顔つきをじっくりと眺めてみてほしい。

岡山大学 文明動態学研究所特任教授、アリゾナ州立大学研究教授 杉山三郎氏

また、第1章では古代メキシコ文明を紐解く4つのキーワード「トウモロコシ」「天体と暦」「球技」「人身供犠」がそれぞれ解説される。古代メキシコでゴムボールを使った球技が大いに盛んだったと聞くと親近感が湧くが、人身供犠も盛んだったと聞くとヒエッとなる。多様な自然の中で生き抜いてきた彼らの世界観や哲学を理解する上で、この4つの解説は重要な道しるべとなるだろう。

テオティワカンの知られざるロマン

第2章「テオティワカン 神々の都」では、紀元前100年ごろ〜紀元後550年ごろ(日本で言うと弥生〜古墳時代ごろ)にかけて花開いた「テオティワカン文明」が紹介される。テオティワカン、とは現地の言葉で“神々の座所”という意味。マヤ、アステカに比べるとだいぶ耳慣れない名前だが、テオティワカンは未だに解明されていない部分が大きい、謎多き文明なのだそう。

太陽のピラミッド

会場ではテオティワカンにあった3つのピラミッドとその出土品が、再現展示によって紹介される予定だ。エジプトのピラミッドが王の墓であるのに対して、古代メキシコでのピラミッドは王権の象徴であると同時に、様々な儀式のステージ、いわばイベント会場的な役割を担っていたという。近年の発掘ではピラミッドの下に地下トンネルの存在も明らかになったというから、ますます興味深い。

《死のディスク石彫》テオティワカン文明、300〜550年 テオティワカン、太陽のピラミッド、太陽の広場出土 メキシコ国立人類学博物館蔵

《死のディスク石彫(せきちょう)》は、「太陽のピラミッド」前の広場で発掘されたもので、地面の下に沈んだ、夜の太陽の姿を表したものだと考えられている。テオティワカンの人々は、太陽は日々、死と再生を繰り返すものと捉えていたのだそう。なるほど死んでいる状態の太陽だから、ガイコツの姿なのだろう。大きく舌を出した表情がちょっとユーモラスだ。

《嵐の神の壁画》テオティワカン文明、350〜550年 テオティワカン、サクアラ出土 メキシコ人類学博物館蔵

テオティワカンの街では、赤を基調とした色鮮やかな壁画が多くの建物を彩っていた。この壁画は今から1500年以上前に描かれたものだが、古代メキシコ人の豊かな色彩感覚を伝えてくれる。描かれているのは嵐(雨)の神様で、手に持っているのはトウモロコシ。水の恵みが食料をもたらす、という祈りを込めた図案だと考えられる。

太平洋を越えてやってきた、赤の女王

そして第3章「マヤ 都市国家の興亡」では、ついに本展の目玉である《赤の女王のマスク》が登場する。こちらはメキシコ本国、アメリカ以外では初の公開となる逸品だ。

《赤の女王のマスク・冠・首飾り》マヤ文明、7世紀後半 パレンケ、13号神殿出土 アルベルト・ルス・ルイリエ パレンケ遺跡博物館蔵

なんと、赤くない。むしろ緑だ! マラカイト(孔雀石)をベースに、目の部分には黒曜石と白ヒスイが使われている。ではなぜ、このマスクと共に埋葬されていた女性が“赤の女王”と呼ばれているのだろうか。

碑文の神殿と13号神殿

その由来は、出土した時の様子にある。女性は全身を辰砂(しんしゃ・顔料や防腐剤として広く利用される鉱物)の真っ赤な粉末に覆われた状態で発見されたのだ。王墓の隣にある墓から見つかったこと、そして王との血縁関係ナシというDNA鑑定の結果を踏まえて、彼女は王妃である可能性が高いと考えられている。

本展ではマスクや首飾りのほか、全身の装飾具も組み合わせることで、埋葬時にできるだけ近づけた姿での展示となりそうだ。マヤ文明の黄金期を生きた“赤の女王”の華やかな姿を、会場で実際に目にするのが非常に楽しみである。

国宝級のお宝も

最終章である第4章「アステカ テノチティトランの大神殿」では、古代メキシコ文明の最終章とも言える、14〜16世紀(日本ではだいたい室町〜安土桃山時代ごろ)に築かれた「アステカ文明」に迫る。

テンプロ・マヨール

アステカ王国の首都・テノチティトランは湖に浮かぶ水上都市で、その中心には巨大な神殿が佇んでいた。そう聞くとまるで物語やゲームのようなファンタジックな雰囲気だが、実はテノチティトランは現在のメキシコの首都、メキシコシティにあたる。巨大な神殿「テンプロ・マヨール」の遺跡は今も首都の真ん中にあり、日々発掘調査が進められているのだという。

《鷲の戦士像》アステカ文明、1469年〜86年 テンプロ・マヨール、鷲の家出土 テンプロ・マヨール博物館蔵

注目は、「テンプロ・マヨール」の北側で発見された《鷲の戦士像》だ。鷲は天空で最も強い存在ということから太陽の象徴とされ、アステカの人々にとって重要なモチーフだった。本作はアステカ文明を代表する傑作で、杉山教授曰く「日本で言うなら国宝に匹敵するような文化遺産」とのこと。写真では分からないが、実物は戦士の等身大とみられる大きさだという。展覧会のクライマックスにふさわしい、インパクトのある展示となるだろう。

このほか第4章では、現在進行形の発掘調査の成果として、近年「テンプロ・マヨール」から出土した精巧な金製品の数々も展示されるので、そちらもお見逃しなく。

テンションを上げて続報を待つ!

開催概要やイベントなどについては、新しい情報が確定しだい、展覧会公式サイトやSNS等にて告知予定とのこと。東京会場はちょうど夏休みシーズンの開催となる。本展の広報担当氏からは「大人だけでなく子供も楽しめるようなプランを計画中ですので、ご期待ください!」とのコメントもあり、今後のリリースが楽しみだ。

特別展『古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン』は、2023年6月16日(金)から9月3日(日)まで、上野の東京国立博物館にて開催。その後、福岡、大阪へ巡回予定。

東京国立博物館

古代メキシコ文明の謎めいた魅力をたっぷりと味わい、最先端の研究成果にも触れられるこの特別展『古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン』は、私たちにとって刺激的な“夏の出会い”となることだろう。知的好奇心を研ぎ澄ませて、開幕を待とう!

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文・写真=小杉美香 写真 (一部)=オフィシャル提供

展覧会情報

特別展『古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン』
会期:2023年6月16日(金)~9月3日(日)
会場:東京国立博物館 平成館
開館時間:午前9時30分~午後5時
休館日:月曜日、7月18日(火) ※ただし、7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館
主催:東京国立博物館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
協賛:NISSHA
後援:メキシコ大使館
企画協力:メキシコ文化省、メキシコ国立人類学歴史研究所
お問合せ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
※作品はすべて通期での展示を予定しています。
※入館方法、観覧料金等の情報は、確定し次第、展覧会公式サイト等でお知らせします。
※展示作品、会期、展示期間、開館時間、休館日等については、今後の諸事情により変更する場合があります。最新情報は展覧会公式サイト等でご確認ください。
 
巡回情報
福岡会場:2023年10月3日(火)~12月10日(日) 九州国立博物館
大阪会場:2024年2月6日(火)~5月6日(月・休) 国立国際美術館
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