亀田佳明インタビュー~舞台『ブレイキング・ザ・コード』主演で、アラン・チューリング役に挑む思い
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亀田佳明 (撮影:岩間辰徳)
舞台『ブレイキング・ザ・コード』(作:ヒュー・ホワイトモア、翻訳:小田島創志、演出:稲葉賀恵、音楽:阿部海太郎)が、2023年4月1日(土)〜4月23日(日) 東京・シアタートラムにて、上演される。主催はゴーチ・ブラザーズ。出演は、亀田佳明、水田航生、岡本玲、加藤敬二、田中亨、中村まこと、保坂知寿、堀部圭亮、という豊かな顔ぶれが勢揃い。
今作は、イギリスの数学者でコンピューターを発明した実在の人物、アラン・チューリングの生涯を描いた物語だ。2014年にベネディクト・カンバーバッチがチューリングを演じた映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』が公開されて話題になるなど、チューリングは現在において高い評価を受けている人物だが、第二次世界大戦中、ナチスの暗号「エニグマ」を解読し多くの命を救ったという彼の功績が長年軍事機密とされてきたこと、また当時のイギリスでは同性愛が犯罪とされていたため、彼自身のセクシャリティゆえに逮捕・有罪となり名誉をはく奪されたことから、正当な評価を得られないまま41歳で悲運の死を遂げている。
今作の上演は、1988年に劇団四季で日本初演された後、最後に上演された1990年以来33年ぶりとなる。主役のアラン・チューリングを演じる亀田佳明に、今作へ挑む思いを聞いた。
■あと300年ぐらい生きてこの先を見てみたい
――今作の企画が立ち上がったとき、アラン・チューリングをぜひ亀田さんに演じてもらいたい、とプロデューサーが熱望したことでご出演が決まったとうかがいました。
素晴らしい企画に呼んでいただけて、感謝ばかりです。こんな機会はなかなかありませんからね。チューリングは、とてつもない天才でイギリスに対する貢献も大きいのに、なかったことにされている期間が長かったうえに、悲しい最期を迎えてしまうところが心をつかまされます。
――今回は実在した人物を演じるということで、何かプレッシャーに感じる部分はあるのでしょうか。
最初は確かに少しプレッシャーかな、と思いましたが、今作はアンドリュー・ホッジスが書いたチューリングの伝記本を原作にしていて、そこにはチューリングに対する描写がいろいろ載っています。性格描写も、大人のようで子どもっぽいとか、短気だけど気長なところもあるとか、神経質だけど思慮深いとか、一つにまとめ上げられない性格として書かれているんです。ただそれも、結局はホッジスの目線からのチューリングであって、ホッジス以外の人から見たらまた全然違っていたかもしれない。謎の多い人物でもありますし、そう思うと実在の人物でもそうではなくても、そこはあまり関係ないというか、あまり意識しなくていいのかなと思いました。
――台本を読んで、非常によくできた本だと思いました。実在の人物を基にしたドラマの中に、演劇的な仕掛けもありつつ、学術的な話も出てきます。
演劇というのは、たとえば400年ぐらい前にシェイクスピアが書いたことを、今でも普遍的であると上演するじゃないですか。それはやはり人間の不鮮明な心の深層が、400年前と変わらず今もあるからやれるんですよね。チューリングが目指したような、心を科学技術で形にするということがもし現実になって「心とは何か」「脳とは何か」ということが鮮明なものとして表されたとき、演劇はどうなってしまうんでしょうね。人間とは何だろう、という不鮮明な問いをずっと続けてきたものがなくなったときに、世界はどうなってしまうんだろう、と思います。きっと芸術表現も形が大きく変わるんでしょうね。だって心の中が全部分析されてしまうわけですから。
――確かにAI技術も進化し続けていますし、人間の行き着く先はどこなんだろう、と考えてしまいます。
今作の中には「2000年までには知性を備えたコンピューターが現実的になる」というようなチューリングのセリフも出てきます。その予測はほぼ当たっていますよね。チューリングの時代から70年ほどでここまで科学が進化しているわけだから、この先300年くらい経ったらどれだけすごいことになるのか、それともここからはそんなに先には進まないのか、想像すると面白いですよね。あと300年ぐらい生きてみて、この先どうなるのかを見てみたいな、とか思っちゃいますね(笑)。
■稲葉さんは人間に対しての興味や好奇心が非常に強い演出家
――今作の演出は稲葉賀恵さんということで、亀田さんと同じく文学座の所属です。でも、舞台作品で稲葉さんとご一緒するのは今回が初めてですよね。
ホームページ上で、谷崎潤⼀郎の「刺青」という作品を僕が朗読して、今作の音楽担当でもある阿部海太郎さんがサウンドデザインを手掛けて、稲葉さんが演出をしたオーディオドラマを作ったことはありますが、彼女の演出の舞台に出演したことはありません。彼女が劇団に入ったばかりのときに、僕が出演した舞台で彼女が小道具を担当したのですが、彼女はいろんな人に話しかけてコミュニケーションを取っていくタイプで、僕ともその頃からいろいろなことを話す間柄になりました。実はこれまで舞台のオファーをもらったこともあったのですが、今まではタイミングが合わなくて、今回やっと満を持して、という形で実現することができました。
――演出家としての稲葉さんへの印象はいかがでしょうか。
ビジュアルをとても意識して作ると同時に、彼女自身が人間に対しての興味や好奇心が非常に強いので、それが演出するときに彼女自身こだわっている部分でもあり、舞台にもにじみ出ているように思います。
――共演者がこれまた強力なメンバーがそろいました。『森フォレ』(21年)で共演した岡本玲さん以外の方は、皆さん初顔合わせになるそうですね。
玲ちゃんは本当にひたむきで、演劇に対しての向き合い方が誠実でストレートな方だな、と共演したときに思いました。他の方たちとの共演は初めてになりますが、皆さん舞台で拝見してきた方ばかりです。先日1回読み合わせをしましたが、読んでみただけでもすごく豊かな声がいっぱい出てきて面白かったので、稽古、そして本番の舞台へと進んでいくことが本当に楽しみです。
――先ほどお名前が出た音楽の阿部海太郎さん、そして翻訳が小田島創志さん、とスタッフ陣もワクワクするメンバーが集結しています。
キャストもスタッフも皆さんとても頼もしくて、肩に力が入らず気兼ねなく稽古に挑めるな、と思います。とにかく僕のセリフの分量が膨大なので、できるだけ硬くならずに、みんなに寄りかかりながらやっていきたいですし、それができるメンバーだな、という感じです。
――亀田さんはこれまでの舞台でも数々の長セリフを経験されていますが、いつも見事にこなしていらっしゃる印象です。
いや、自分としてはいつもドキドキで、汗だくになっていますよ(笑)。今回は数学的な箇所が難関で、どういうふうにお客様と共有していけばいいのか、というところがなかなか難しいなとは思っています。意味を伝えれば成立する、というものでもありませんから。そこは演出家としっかりもんでいきたいと思います。
■どんな役でも共感できるポイントを見つける
――文学座に所属しながら劇団内外問わず数々の舞台に出演してきた亀田さんですが、『ガラスの動物園』『タージマハルの衛兵』の演技で紀伊國屋演劇賞・個人賞を受賞された2019年は、一つターニングポイントだったと思います。この年は、文学座では『いずれおとらぬトトントトン』『ガラスの動物園』『一銭陶貨~七億分の一の奇跡~』の3本に出演、外部では『イザ ぼくの運命のひと/PICTURES OF YOUR TRUE LOVE』(リーディング公演)、そして『タージマハルの衛兵』で小川絵梨子さん演出のもと、成河さんとの二人芝居に挑みました。
小川絵梨子さんと最初にご一緒したのが2017年の『マリアの首-幻に長崎を想う曲-』でしたが、自分の感覚に非常にマッチする演出家で、「またご一緒したいな」と思っていたら『タージマハルの衛兵』のお話しをいただけて、僕にとって小川さんとの出会いがまず一つ大きな財産だと思っています。
――『タージマハルの衛兵』では、成河さんという同年代の俳優と二人芝居でがっつり向き合ったことも貴重な経験だったと思います。
彼との出会いも、とても刺激的でした。人間としても俳優としても、誰もが惚れるような魅力を持った人ですよね。やはりすごく濃厚な二人芝居でご一緒したというのは大きかったのかもしれません。違う作品で違う形での共演だったら、もしかしたらまた違う関係性になっていたかもしれないな、と思います。
――最初、どちらの役をやるか決めずに稽古を始めたとうかがいました。
キャスティングが意外だったというお声もいただきましたね。僕と成河くんの役が逆という印象があったみたいで、でも確かに自由奔放なバーブルが成河くんで、規律をしっかり守るフマーユーンが僕、とイメージされる方が多かったんじゃないかな、と思います。最初の読み合わせのときに、交互上演をやろうか、なんて話もしていたんですよ。でも実際稽古に入ってみたら、交互上演なんてとんでもない、絶対無理でしたね。
――亀田さんは舞台上で役を演じているときに、役に共感して同化しながら演じているのか、それとも役から一歩引いたところで俯瞰しながら演じているのか、その辺りは意識されていますか。
どんな役でも共感できるところを見つけるようにしていますね。でも、それがうまくいかなかったこともありました。そのときはいろいろな条件が重なってしまった結果、役に共感できなかったのですが、演じていてもどこか苦しいというか、つらかったですね。だから僕の場合は、共感できるポイントをまずは見つけるという感じです。同時に、どうせその役そのものにはなれない、という気持ちもあるので、そういう点ではちょっと俯瞰という感覚もあるのかもしれません。
■人との出会いがあったからこそ舞台をやり続けている
――個人的な話で恐縮ですが、亀田さんのことは舞台デビュー作となった文学座の『モンテ・クリスト伯』(2004年)から拝見しているので、今作で主演されることがとても感慨深いです。
懐かしいですね。ほとんどセリフがない役で7役くらいやっていましたが、演出の高瀬久男さんにたくさん怒られました(笑)。
――2006年の文学座本公演の『アラビアン・ナイト』も高瀬さん演出でしたが、亀田さんの躍動感が未だに忘れられません。
ぴょんぴょん跳ねて、ものすごく動き回っていましたもんね(笑)。高瀬さんには劇団に入ったばかりの頃からよく使っていただきました。厳しく鍛えられましたが、愛情もいっぱいいただきましたし、語り尽くせないほどの思い出がある演出家です。
――亀田さんは作品中で鮮烈に目に焼き付く忘れられない瞬間というのを作れる俳優なので、そのお芝居をたくさんのお客様に見てもらえる機会が増えた今のご活躍ぶりを非常に嬉しく思っています。
やはり様々な出会いがあったからこそですね。これまで出会った人との繋がりのおかげで、ここまで舞台をやり続けてこられたと思っているので、僕は恵まれているんだなと思います。今作も、プロデューサーが僕の出演作を見てくれていて、そこから出会ってこうして主演することになりました。本当に人との出会いには感謝したいですし、これからも大切にしていきたいです。
写真撮影=岩間辰徳
公演情報
【東京公演】
2023年4月1日(土)〜4月23日(日) シアタートラム
■作:ヒュー・ホワイトモア
■翻訳:小田島創志
■演出:稲葉賀恵
■音楽:阿部海太郎
■出演:
亀田佳明、水田航生、岡本玲、加藤敬二、田中亨、中村まこと、保坂知寿、堀部圭亮
■スタッフ:
美術・衣裳=山本貴愛
照明=吉本有輝子
音響=池田野歩
ヘアメイク=谷口ユリエ
演出助手=田丸一宏
舞台監督=川除学 鈴木章友
宣伝美術=山下浩介
宣伝写真=杉能信介
宣伝ヘアメイク=高村マドカ
WEB制作=三澤一弥
宣伝協力=吉田プロモーション
プロデューサー=笹岡征矢
主催=ゴーチ・ブラザーズ
■公式サイト:https://www.breakingthecode2023.com/