樋口達哉(テノール)若くてロマンティックなロドルフォお聴かせします
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樋口達哉(テノール)
若くてロマンティックなロドルフォをお聴かせします
日本のオペラ界の最前線をひた走る樋口達哉。1998年にハンガリーでプッチーニ《ラ・ボエーム》のロドルフォ役を歌って欧州デビュー、ミラノ・スカラ座では合唱団員&ソリストとして活動するなど華やかなキャリアの持ち主である。11月のリサイタルは満員となり、この1月には横須賀と東京で《ラ・ボエーム》のロドルフォ役を歌う。人気テノールの情熱のありかを探ってみた。
「よこすか芸術劇場ではオーケストラと一緒に本格的な舞台で歌わせていただきます。一方、サントリーホールのブルーローズではピアノ伴奏での全曲上演ですが、どちらもサントリーホール オペラ・アカデミーの公演なんですよ。僕はそこの2期生(94年度)でして、指揮のジュゼッペ・サッバティーニさんともこのアカデミーで巡り合いました」
若手との共演
「今回共演する歌手たちは自分より少し年下の世代ですが、彼らに負けず、ステージで若々しく動きまわり、歌います。ロドルフォ役には名アリア〈冷たい手を〉がありますが、第1幕や第4幕での男4人のどこかやんちゃなアンサンブルも楽しい見どころですね。実際、女性よりも男の方がロマンティストかな。たとえば、コンクールの副賞で綺麗なガラスの器をいただいて、男の自分は『宝物を入れたいな!』と真っ先に思ったときに、女性は『ピクルスを漬けるのにちょうどいいわ!』と言うし(笑)。今回は、若手の皆さんの現場に、先輩というよりも同志として加わって、新しい刺激を受けたいです!」
“字幕なし”で楽しむ
なお、この2公演で特徴的なのは「字幕なし」の上演であること。朝岡聡(ナビゲーター)の解説も用意される。
「ステージから客席は案外近くて、字幕があると、ここぞというフレーズを歌っている時ほど、前の方のお客様の視線が動くのが見えたりします(笑)。でも、字幕なしの今回なら皆様も集中して舞台をご覧いただけるはずです。若者6人の歌声が次々と飛び交うオペラなので、名場面は逃さずにご覧いただければと。すでに、何回か歌い通す音楽稽古をしていますが、それがかなりハードでして、こんなの久し振りというぐらい、連続4日間全力で歌いました。サッバティーニさんからのアドヴァイスも細かくて、課題が厳しいんですよ。『ロドルフォは若くてロマンティックだからもっと甘美さとレガートが必要だ』と指導されました」
今だから語れる歌手人生の一大転機
プッチーニの音楽は甘くて美しいが、《ラ・ボエーム》のドラマは青春の喜びと挫折を織り交ぜたもの。樋口自身にも苦闘の日々はあった?
「ミラノに留学していた頃、資金が底をついて食事も満足に摂れず、でもレッスンは受けねばと思って観光会社のアルバイトをした時期が一年ありました。『歌のためにイタリアに来ているのに!』と思うとやるせなかったですが、ある日、先生から『明日、スカラ座でテノールの合唱団員のオーディションがある』と知らされ、それに合格してからは歌手人生が一気に動き始めました…。今の自分が心がけるのは、ホールの広さに関係なく、声の出し方や歌い方は常に同じに保ち、ペースを崩さないということ。劇場はうまくできていて、無理をせずに良い響きで歌うと遠くまできちんと届くんです。ご来場の皆様が熱心に舞台を見つめて下さるよう、頑張ります!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ + Danza inside 2016年1月号から)
プッチーニ:オペラ《ラ・ボエーム》
2016.1/17(日)15:00 よこすか芸術劇場
問合せ:横須賀芸術劇場046-823-9999
http://www.yokosuka-arts.or.jp
2016.1/21(木)18:30 サントリーホール ブルーローズ(小)
問合せ:サントリーホール
http://suntory.jp/HALL
※サントリーホール公演はピアノ伴奏上演