「裏『ラ・ラ・ランド』かも?」[Alexandros]川上洋平、デイミアン・チャゼルの賛否両論作『バビロン』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

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2023.2.22
撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は『ラ・ラ・ランド』で知られるデイミアン・チャゼルがゴージャスでクレイジーな1920年代のハリウッドを舞台に、夢と音楽のエンターテインメントを描いた『バビロン』について語ります。

『バビロン』

『バビロン』

──『バビロン』はどうでした?

破茶滅茶でしたね(笑)。爽快でした。アカデミー賞にノミネートされている『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』に近い振り回し感もありつつ、3時間8分ずっと遊園地にいた気分になりました。ジェットコースターというか遊園地そのもの。感想としてはね。

──過剰ですよね。

そう。でも良い過剰。ちょうど気持ち良い振り回しでした。チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』は誰もが好きになるような映画だったけど、『バビロン』はその裏をいくような雰囲気でしたね。夢を目指す者の悲劇と喜劇を描くという部分では通じるんだけど、悲劇の部分が強調されているところが『ラ・ラ・ランド』より好きでした。登場人物も多いけど、誰かしらには共感できて、その中でも「誰に一番近いかな」って考える楽しみがあった。目まぐるしい展開の中で、すとんと落ちる瞬間がありましたね。

──ストーリーとしては、1920年代のハリウッドを舞台に、ブラッド・ピット演じるサイレント映画の大スター、ジャック・コンラッドと、マーゴット・ロビー演じるスターを目指す新人俳優ネリーと、ディエゴ・カルバ演じる映画製作を夢見る青年マニーという3人の夢がどうなっていくか、ということが主軸なわけですけど。

僕はマニーとジャックにすごく共感しましたね。夢を目指すまだ何者でもない青年。そして苦境に立たされる世紀の大スター。この2人の描写はくるものがありましたね。でも、本当に目まぐるしいから「俺、何の映画観てるんだろう?」ってなった瞬間が何度かあった(笑)。

──トビー・マグワイアが出てきたとことか。

そう、そこらへん。あそこは一番闇の部分だよね。1920年代のハリウッドはサイレント映画が盛り上がっていて、トーキー映画に移行していく中で落ちぶれていくスターもいて。それが例えばジャックなわけですけど。現代の映画業界はそういうことの反復の上に成り立っているんだよ、というメッセージを受け取りました。夢のある華やかな世界の根底にはすごく深い闇があって。それこそこの連載の前回の話に出た『逆転のトライアングル』とウエストランドのネタが通じるって話に近いかもしれないですけど、人を楽しませたり、笑わせるには毒づくという要素が少なからず生じる。「残念ながら人間ってこんなもん。でも映画って、エンタメって素敵だよね」と語りかけてくるような映画でした。劇中でも、「映画は高尚なエンタメとは違ってポップコーンを片手に誰でも観に行ける。映画で夢を与えるのが俺たちの仕事なんだ」みたいなセリフがありましたけど、本当そうだなと思う。裏には人間の汚い部分があるのも事実だけど、それがエンタメです、という意味合いに個人的には捉えました。それは『バビロン』ってタイトルからも伝わってきますよね。

『バビロン』より

『バビロン』より

■チャゼル監督の作品の中で一番好きかもしれない

──サイレント映画は音がないので、同じ場所で同時に何作品もの撮影が並行して行われていましたけど、音がない故にカメラが映ってないところは無法地帯のような感じで。でもトーキー映画になるとそうもいかなくなります。

だから、サイレント映画は量産して稼ぐみたいなところもあったのかなと思うんですが、一方で芸術性や作家性は無視されがちなところも垣間見えて。そういうところは、今僕が生きてるエンタメ業界にも通じるなと思いました。稼ぐことと芸術性のバランスみたいなものが生む侘しさは、ジャンルは違えど『ラ・ラ・ランド』にも『セッション』にも含まれてる要素で。『バビロン』はそれをおとぎ話的な様相をまといながらも非情なまでに現実的な視点で描いていると思いました。

──史実を参考にした点でもそうですよね。

そうですね。そして、単にハリウッドの歴史を描くっていうのではなく、「エンタメとは?」「人間とは?」みたいなことも描かれてるし。昔と今とこれからの。それで、いろんなことが駆け巡るように展開されていくんですけど。予告やポスターのビジュアルから想像するとド派手な映画なんだろうなと思うかもしれないし、それはそれで合ってるんだけど、そんな単純な映画じゃないっていうか。『裏ラ・ラ・ランド』みたいな(笑)。

──確かに(笑)。

『ラ・ラ・ランド』って現代の話で、夢を目指す人たちを描いたハッピーエンドだと思うんですよ。

──そうですね。主人公のふたりは別れるけど、お互い夢は叶えて。

でも『バビロン』はハッピーエンドっていうかどうなんだろう……って感じじゃないですか。『バビロン』の時代が土台にあって、『ラ・ラ・ランド』みたいな世界があるということを描きたかったのかなって。だから『ラ・ラ・ランド』を改めて観ると、より面白いかもしれない。でも、『バビロン』は何せ長いんで。試写が始まる前に3時間8分って言われて隣の紳士が絶句してました(笑)。

──3時間超えは長いですよね(笑)。

ただ、個人的には3時間ぐらいの映画は好きなんですよ(笑)。でも体感としてはあっという間だった気がします。久々にかなりの満足度を得たっていうか。チャゼル監督の作品の中で一番好きかもしれない。

──川上さん、『セッション』すごく好きですけど、それよりも?

『セッション』ももちろんカリスマ映画だし、僕は『セッション』からチャゼル監督のファンになったけど、『バビロン』は一番監督のパーソナルな部分が出てる気がして。15年前から構想してたっていうのも納得できるほど、全部が詰まってる感じがする。チャゼル監督はほぼ同世代なんですよね。それもあって、物事の見方や通ってきたエンタメの捉え方に共感を覚えますね。どこまでの熱意を持って夢を目指すかっていうこととか。例えば、『セッション』で主人公がカリスマ教師に対してリスペクトはしつつも歯向かっていく感じとか、なんかわかるんですよね。微妙に世代で違うじゃないですか? その対処法というか(笑)。

『バビロン』より

『バビロン』より

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