生きるための葛藤を重ねて~市川染五郎×當真あみ×柚香光×石黒賢、舞台『ハムレット』座談会

インタビュー
舞台
19:00
(左から)柚香光、當真あみ、市川染五郎、石黒賢

(左から)柚香光、當真あみ、市川染五郎、石黒賢

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市川染五郎が、2026年5月に日生劇場で開幕する舞台『ハムレット』に挑む。歌舞伎の名門、高麗屋に生まれ、2歳で初お目見得。幼少期より舞台に立つ染五郎だが、ストレートプレイの舞台は本作が初。祖父の松本白鸚、父の松本幸四郎も演じたこのシェイクスピア劇に、向き合う今の思いとは?

今回が舞台初挑戦となる恋人オフィーリア役の當真あみ、母ガートルード役の柚香光、叔父であり宿敵となるクローディアス役の石黒賢とともに、公演への期待を語った。会見でのコメントとともにお届けする。

■高麗屋三代、染五郎が挑むハムレット

ーー染五郎さんが演じるのは、デンマークの王子ハムレットです。

市川染五郎(以下、染五郎):ハムレットは、祖父も父も勤めた役です。高麗屋(こうらいや)にとって大切な作品への第一歩を踏み出せることが、とても嬉しいです。右手の指輪は、祖父がハムレットを演じた時に着けていたものです。お守りのように、本番でも身につけたいと思っています。

市川染五郎

市川染五郎

ーーお二方から、何かアドバイスなどはありましたか?

染五郎:物語の終盤の剣の試合のシーンのために、祖父も父も、フェンシングを習ったそうです。今回、ふたりから「フェンシングをやらなきゃね」と言われました。歌舞伎以外の仕事では、あまりアドバイスをされることがないのですが、祖父はシェイクスピアの四大悲劇のすべてに出演しています。稽古が始まってから、何か話を聞くこともあるかと思います。

ーーハムレットの恋人・オフィーリア役は、當真あみさんです。

當真あみ(以下、當真):1年半ほど前にお話をいただき、それからは1日1回は『ハムレット』のことを頭に浮かべていました。舞台は初めてなので緊張もありますが、今は楽しみの方が強いです。染五郎さんとは、今日が初対面ですが、映像作品や一度歌舞伎も拝見しました。歌舞伎という一つの事を続けながら、それを柔軟に変えていかれる姿が素晴らしいなと感じました。

ーー初舞台に向けて、どなたかからアドバイスは?

當真:上白石萌音さんにお話したところ、「緊張もすると思うけれど、そんな空気も含めてすごく楽しいと思う。ガチガチに固まらず、色々試して柔軟に受け止めて楽しんで」と言っていただきました。

當真あみ

當真あみ

ーーハムレットの叔父・クローディアス役は、石黒賢さんです。

石黒賢(以下、石黒):人生は分からないもので、私がシェイクスピアの作品に出演することになるなんて、想像もしませんでした。シェイクスピア劇も、ここにいる皆さんとの共演も、今回が初めてです。どのようなことになるか分かりませんが、がんばります。

ーーハムレットの母・ガートルード役は、柚香光さんです。

柚香光(以下、柚香):初めてのストレートプレイです。2024年5月に宝塚歌劇団を卒業し、「いつかは」と思っていましたが、こんなにも早く挑戦させていただけるとは思いませんでした。卒業後は剣をふるう役が多かったのですが、今回はガラッと雰囲気も変わります。背筋がピンと伸びるような舞台、身をひきしめて挑みたいです。

■緊張8割、でも早く始まってほしい

ーーそれぞれに「挑戦」のある舞台。今の心境のドキドキとワクワクの割合は?

石黒: 50:50かな。

染五郎: 僕も半々です。

柚香:ドキドキ120%、ワクワクも120%です(一同笑)。

當真:私は演劇という初めての世界に踏み込むことへの緊張が大きいので、緊張が8割、ワクワクが2割。稽古初日がだんだん近づいてくる……という今の状況が緊張をかきたてるので、早く始まってくれたら、と思っています。

石黒:染五郎さんと當真さんは、20歳前後なんですよね。僕は先日60歳になりました。でも、稽古場では年齢もキャリアも関係ありません。お互いに開いた状態で、この限られた期間に「皆で良いものを作るんだ!」と向かっていければいいですよね。

(一同、うなずく)

(左から)柚香光、當真あみ、市川染五郎、石黒賢

(左から)柚香光、當真あみ、市川染五郎、石黒賢

石黒:それを邪魔をするものがあるとしたら、先入観や、俳優のエゴだと思っています。俳優にとって信条は大事だけれど、「強すぎるこだわり」はさほど大事ではありません。演出家が俳優を必ずちゃんと見ていてくれるんですから……なんて言うと、染五郎さんがやりづらくなっちゃうか(笑)。

染五郎:いえいえ! 今回に限らず、なるべく柔軟でいたいなと思っているので。歌舞伎の場合、初めての役はまず先輩から教えていただきます。「自分はこうしたい」ではなく、先輩の言葉を柔軟に受け止めて、教わったままをやってみることを大事にしています。今回も、(演出のデヴィッド・)ルヴォーさんと積極的にコミュニケーションをとりながら、皆さんと解釈を持ち寄り、稽古場で試しあうのを楽しみにしています。

■解釈の“引き出し”を増やす楽しさ

ーーお稽古の開始を前に、それぞれどのような準備をされていますか?

染五郎:松岡(和子)さんの訳に加え、他の翻訳を読んだり、過去の舞台映像を観たりしています。この舞台が決まってから、実際にデンマークを訪ね、劇中のお城のモデルになったクロンボー城にも行きました。時代やシチュエーションの空気感を、感じることができました。中庭の井戸のそばには、つくり物の髑髏が置いてあったりもして。誰もが手にとれるものなのですが、あまりにもさり気なく置かれていて誰も気づいていなかったので、少し目立つところに、置き直しておきました(一同笑)。多くの解釈のある作品です。知識を蓄え、引き出しを増やすために、色々なハムレットに触れていきたいです。

當真:私も、まず松岡さんが翻訳された本を読みました。実は以前、舞台を参考に観た時に「真似をするわけではないから。頭の片隅においておくだけでいい」と言われたことや、ルヴォーさんに一度お会いした時に、「オフィーリアをどう思う?」といった質問をしていただいたことが記憶に残っていて。それまでシェイクスピアの作品には、かたい決まりがあるのかなと構えていたのですが、きっとルヴォーさんや皆さんと、一つずつ探りながら稽古を通して作っていけるんだな、と今は感じています。

石黒:僕も文献を読んだり、過去作を観たりしていますね。

柚香: 台本を読み込んでいますが、あまりにも豊かな言葉の数々。読み込むほどに理解に苦戦するところも出てきます。それでもルヴォーさんの演出を楽しみに、今は先入観なく、できるだけまっすぐ本に向かうことを心がけています。染五郎さんのキービジュアルを拝見した時は驚き、ワクワクとドキドキが広がりました。新たな『ハムレット』の世界観の中で、どんなクローディアスやガートルードが作られるのか。今あるヒントを手がかりに、想像を膨らませています。

キービジュアル衣裳デザイン・フォトグラフィー(市川染五郎):中里唯馬

キービジュアル衣裳デザイン・フォトグラフィー(市川染五郎):中里唯馬

キービジュアル衣裳デザイン・フォトグラフィー(市川染五郎):中里唯馬

キービジュアル衣裳デザイン・フォトグラフィー(市川染五郎):中里唯馬

ーー手がかりを集め、引き出しを増やす作業が大切なのですね。

石黒:以前イギリスへ行った時、職業を聞かれて俳優だと答えたら、「では、シェイクスピアだと何が好きか」と聞かれたんです。イギリスで生まれ育った彼らには、シェイクスピアがそれほど身近なものであり、その歴史的・文化的な厚みに、我々はどうしたって敵いませんよね。それでもやる以上は、少しでも理解の手がかりが欲しいわけです。今回、僕があらためて観た中では、サー・ケネス・ブラナーが監督・主演した映画『ハムレット』が面白かった。それは、どんな風に演じるかではなく、彼らがハムレットをどう捉え、どう作っていくかの創作プロセスを興味深く観ることができる作品だったから。當真さんがおっしゃるように、真似をするわけではない。しかし、手がかりの数は多いに越したことはありません。

石黒賢

石黒賢

■自分の宿命を、どう生きるか

ーー実際に台詞を声に出してみて、何か気づきはありましたか?

染五郎:松岡先生の訳は、現代の感覚でも分かりやすく書かれていますが、やはり僕らの日常会話の言葉づかいとは違います。詩のような台詞もありますが、そういった台詞も様式でやるのではなく、一つひとつの言葉に立ち止まり、言葉に意味を乗せる。その上で感情を乗せる作業をしています。

ーーハムレットという人物には、どのような印象をもたれましたでしょうか。

當真:強い正義感と、自分の考えをしっかりと持つ人物ですね。私が同じ状況なら、流されてしまうだろうな、とも考えました。「こういう人間でありたい」と惹かれるところのある、現代にも通じる人物像だと思います。

柚香:ハムレットが、悩み、行動できず右往左往するさまは、自分自身にも思い当たるところがあります。葛藤、迷い、家族との軋轢など、共感というよりも、つきつけてくるような存在だと感じました。

ーークローディアスやガートルードはいかがでしょうか?

石黒:クローディアスは、とんでもなく悪いことをした奴です。でも400年前の倫理観なら、決して“ない話”ではなかったはず。そこから400年で社会通念は変わったかもしれませんが、人間の本質的なところはそう変わっていないと思うんです。ですからクローディアスを、絵に描いたような悪役でやる気はありません。もしかしたらガートルードに対しても、もともと心底惚れていたのに、兄貴に奪われたのかもしれない。独白の台詞は、どこまで本心で懺悔をしているのか。腑に落ちるデプス(深度)はどのくらいか探っているところです。実にたくさんのやり方があり、何が正解かわからないのがまた面白いです。

柚香:ガートルードは、謎がとても多い人物なんですよね。盃が毒入りだと知っていたのか。オフィーリアの最期を見ていたのか。クローディアスとの関係性にどんな思いがあったのか。あらゆるバックグラウンドの積み上げ方次第で、演じ方はまるで変わってきます。劇中の設定ですと、ハムレットは30歳前後になるそうですね。今の私の実年齢に重なります。その母親となるガートルードを演じることも、私にとっては挑戦です。

柚香光

柚香光

染五郎:柚香さんのおっしゃるように、ハムレットは30歳前後だと言われています。若者の苦悩の物語と受け取られることも多いですが、僕は『ハムレット』を、デンマークの王子として生まれ落ちた宿命の中で、どう生きるかに悩み、葛藤する男の話だと考えています。ですから様々に翻訳される「To be, or not to be,」も、「生きるべきか死ぬべきか」という選択より、デンマーク王の子として生まれた自分が「どう生きるべきか」の問いかけではないかと、今の段階では考えています。実際にどう解釈したかは言葉で説明するのではなく、舞台で演じる姿から感じていただけたら嬉しいのですが。

ーーそんなハムレットに、共感する部分はありますか?

染五郎:僕は歌舞伎の家に生まれ、生まれたときから歌舞伎があり、物心がついた頃には歌舞伎をしていました。宿命のようなものの中で、悩むことも、行き詰まることもあります。でも、それを簡単には表に出せず、自分の心を解決するために、自分の中で戦わなければならない。そういったところで、ハムレットに共感します。ただ、あくまでもハムレットはハムレットで、自分は自分なので、演技に個人の感情や経験を反映するつもりはありません。それでも無意識のうちに滲み出てくる部分があれば、それを大事に、新しいハムレットを作っていきたいです。

ーー最後に読者の皆様へ一言を。

柚香:柚香にガートルードをさせて良かったと、皆さまに思っていただけるよう努めてまいります。応援のほどよろしくお願いいたします。

石黒:芝居は、お客さんが時間とお金をつかい、足を運んできてくださるもの。その誠意に応えなくては、と思っています。死ぬ気でがんばります。

當真:今日皆さんとお会いして、いよいよハムレットという作品が動き出すんだ、と強く感じています。とてもワクワクしています。劇場にお越しくださる皆さまにも、そういう気持ちを沢山お届けしたいです。

染五郎:ルヴォーさんの演出のもと、ハムレットという人物を心の部分から一段一段きっちり積み上げて作り上げていきたいです。そして皆さんと一緒に、生きた演劇、現代に生きるハムレットを目指します。

(左から)柚香光、當真あみ、市川染五郎、石黒賢

(左から)柚香光、當真あみ、市川染五郎、石黒賢

取材・文=塚田史香     撮影=中田智章

公演情報

舞台『ハムレット』
 
<キャスト>
市川染五郎
當真あみ
石川凌雅 横山賀三
梶原善
柚香光
石黒賢
 
吉田ウーロン太 竹森千人 
浅野彰一 石原由宇 川原田樹 近藤隼 佐々木優樹 常住富大 伯鞘麗名 前東美菜子 水口早香 森内翔大
(オンステージスウィング)栗原功平 佐々木誠
 
 
<スタッフ>
作:ウィリアム・シェイクスピア
演出:デヴィッド・ルヴォー
翻訳:松岡和子
 
<日程・会場>
【東京】2026年5月9日(土)~30日(土)日生劇場 
料金 S席14,000円 A席9,000円(全席指定・税込) ※未就学児童入場不可
主催:松竹・梅田芸術劇場
 
【大阪】2026年6月5日(金)~14日(日) SkyシアターMBS 
料金 S席14,000円 A席9,000円(全席指定・税込) ※未就学児童入場不可
主催:松竹・梅田芸術劇場
 
【愛知】2026年6月20日(土)~21日(日) 名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール 
料金 全席指定14,000円(税込) ※未就学児童入場不可
主催:メ~テレ・メ~テレ事業
共催:一般財団法人稲沢市文化振興財団


舞台 『ハムレット』 公式サイト https://hamlet2026.jp/
公式Xアカウント @hamlet2026
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