ヒグチアイ×たかはしほのか(リーガルリリー)、クラブチッタ川崎が仕掛けるツーマンシリーズ第三弾は「突然何かになったわけじゃない」積み上げた確かなものをバックボーンに持つリスペクトし合う2人が登場

2023.2.21
インタビュー
音楽

たかはしほのか(リーガルリリー)×ヒグチアイ

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クラブチッタ川崎が2023年1月からスタートさせた新しいツーマン・ライブイベント『MY CITY TOWN』が高評価だ。第一回「堂島孝平×大石昌良」は、エンタテインメント性あふれるジャパニーズポップスの系譜を繋ぐ先輩後輩として。第二回「中田裕二×渡會将士」は、バンドからソロへと転じながら独自の審美眼でロックを深化させる同い年の同志として。そして2月27日に開催される第3回の組み合わせは、初の女性アーティストによる「ヒグチアイ×リーガルリリー」に決まった。「悪魔の子」(TVアニメ『進撃の巨人』The Final Season Part 2 エンディングテーマ)の大ヒットで一躍注目を浴びつつ、ブレない姿勢で情念の歌を叩きつけるヒグチアイ。若くラウドな演奏と繊細な感情描写を兼ね備え、スリーピースの女性ロックバンドの王道をひた走るリーガルリリー。互いにリスペクトしあう二組が生み出す未知の興奮について、その手がかりをヒグチアイとたかはしほのか(Vo&G/リーガルリリー)の対話から読み取ってみよう。

――二人はいつ頃、どこで出会ったのか、覚えていますか。

ヒグチ:最初は、ほのかちゃん、高校生だったよね。

たかはし:はい。友達とライブを見に行って、対バンイベントだったんですけど、そこにヒグチアイさんが出ていて。物販でCDを買って、いろんなお話をしてくれたんです。たぶん、下北沢のBASEMENTBARかな。

ヒグチ:その場面、なんとなく覚えてる。あそこでしゃべったなって。

たかはし:そこから何回かライブに行くようになって、渋谷のLUSHとかに見に行った記憶があります。

ヒグチ:一回、「ワンマンあるから遊びに来て」って連絡したことがあって。その時に、「高校生で、お金がないんです…」と言われたのをすごい覚えてる(笑)。「いや、代いらないよ」って話をしたんだけど。

たかはし:言ったかもしれないです…(笑)。

ヒグチ:そういうことをはっきり言える人なんだと思った。お金がなくても、「その日ちょっと予定があって…」とか、のらりくらりするんじゃなくて。あれ、何年前だろう。

たかはし:8〜9年前とかかもしれないです。私、まだバンドをやってなかったかもしれない。弾き語りでやってた時期だと思います。

ヒグチ:当時、今から行きそう(売れそう)みたいな人たちを集めたイベント、けっこうあったの。クセ強めのイベントが。私は、そこに出れば何か変わるんじゃないか?と思ってやってた。ビーハプ(Beat Happening!)とか。

たかはし:私も、そのあとに出ていました。

ヒグチ:ほかにも、主催の人が何者かわからないけど、何か上の人と繋がってそうだから、ここでやってれば芽が出るかもみたいなイベントって、いっぱいあったんで。でもあの時期、苦しかったな…。

たかはし:私は、バンドメンバーを探そうと思って弾き語りをしていて、そこでイベンターさんやライブハウスの人にいろんなことを言われるんですけど、うまく飲み込みつつも、自分の一番信じている部分は大切にしようということを学べた気がします。そういうイベントに出ることによって。

――たとえばどんな言葉ですか。言われたことって。

たかはし:音楽以外のところでは、人間関係だったり、対バンの人への礼儀とか。あと、集客ができなかったら怒られたりしてました。

ヒグチ:厳しいね。

たかはし:いろんなライブハウスに出ていたので、いろんな人が感想を言ってくれて、気づくことはありました。そこで、みんな言うことが同じだったことがあって、それが“歌詞がわかりにくい”と“声が高すぎる”で、みんなそれを言うから、もしかしたらそれが私の強みかもしれないって、逆に思ったりして。

ヒグチ:それいい。それで変えよう、みたいな感じじゃなかったんだね。

たかはし:みんな言うぐらいなら、何か理由があるはずだって。

ヒグチ:みんな言うのは、特別だから言うんだろうね。人と違うから。

ヒグチアイ

――ヒグチさんもそういう時代、そういう経験がありましたか。

ヒグチ:私はもう、絶対にインディーズの弾き語り業界には帰りたくない(笑)。ほのかちゃんがいた場所と私がいた場所は、またちょっと違う気がしていて、女性の弾き語りの人しか出てないイベントだと、 (観客に)写真撮られるのは当たり前とか、終わったあとにオフ会みたいな感じで、お客さんと乾杯するとか。旅行行ったりとか。

たかはし:旅行!?

ヒグチ:それでお金稼いでたりとか、水着の写真集出してたりとか、本当にいろんな人がいて。お客さんもそういうことが当たり前だと思ってる中に、自分がいるのが合わなくて、だけどこういう場所にしか出られないとか、お金が稼げないとか、そういう状況だったから。ライブハウスで弾き語りをやると、基本は持ち出しだけど、弾き語りのハコに出てると、()1枚目からハーフバックで、50%バックされるから、10人呼べば1万円とか1万5千円とか、それぐらい稼げるから、じゃあ稼げるほうに行くのか、それとも、稼げなくてもライブハウスに出ておいたほうが自分の尊厳を保てるのか、そういうことを考えながらやってた時期が、ほのかちゃんと会った頃だったんで。でも、しんどかったけど、今はそこを通過してきてよかったなという気持ちがあって、そこを知っておいたから、ライブハウスをいくらで借りられるのか?とか、自分でイベントを組むことができるから。最悪、いろんなものがなくなっても、一人で音楽で食ってくことができるかも、みたいなところは保険になってるよね(笑)。

たかはし:どこでも歌える、というのはありますね。どんな場所でも歌える自信にはなったと思います。あの頃の経験で。

ヒグチ:ほのかちゃんも私も、突然何かになったわけじゃないから。下積みがあって、全部の流れでここまで来てるので、それはいいことかも。ほのかちゃんは、なんでバンドやりたかったの?

たかはし:私の場合、音楽のルーツは父親の影響があって、父親は若い時にライブハウスでライブをするような人生を送っていたので、それは大きいと思います。だけどなんでバンドをやってるか?というと、一人だと無限に正解がみつからないんですけど、人と関わることによって題名を付けることができるというか、曲作りにおいてもすごく助けられているから、形を大切にしようと思ってバンドをやっている気がします。もし一人でやっていたら、無限に正解を出せないし、作曲も終わらないと思うので。

ヒグチ:ずーっとやり続けちゃう。

たかはし:そうなんです。1曲が一生かかっちゃう(笑)。そういうものにも憧れがあって、一人だけで存分に1曲を作り続けたい気持ちもあるんですけど、今の段階ではバンド3人の命みたいなものを大切にしてます。

ヒグチ:そこに確かに答えが出るというか、点だけじゃなくて、繋がってると、一人よりも方向性がまとまりやすいというのはあるかもしれない。

たかはし:あります。バンドを始めてから、言えることも変わってきました。バンドメンバーが私を支えてくれていて、言葉もその支えの上で生まれるものなので。一人では言えないようなことも、バンドメンバーのおかげで言えてる、みたいなことがかなりあって、 “これはみんなのおかげで出てきた言葉なんだな”というのはあらためて感じます。

ヒグチ:強くなってるなって感じ?

たかはし:はい。一人ではなかなか口にはできなかったこととか、言えるようになったので。

ヒグチ:いいなぁ。めっちゃいいなぁ。

たかはしほのか(リーガルリリー)

――ヒグチさんも、ライブではバンド形態ですよね。3人の場合や、5人の場合や。それを踏まえて、歌詞が変わってきたりはしますか。

ヒグチ:いや、変わらないですね。音源を作る時に自由になれるというのはありますけど、やっぱりメンバーじゃないから、いつもいる人じゃないから、そこに頼ってると、スケジュールとかで出てくれない時に“なんで?”ってなっちゃうし。だからバンドとして絶対にそこにいて、頼っていいみたいな安心感に憧れはありますけど、でも“裏切られるんじゃないか”みたいな気持ちがずっとあるので、そういう人間はバンドをやらないほうがいいなと思います(笑)。

たかはし:あはは。

ヒグチ:何があった?って感じですけど、何にもないんですけど、人に何かを任せるのが苦手なんだと思う。

たかはし:私は自分の気持ちとか考えていることを全部言うようにしていて、メンバーに。

ヒグチ:へえー!

たかはし:“…という気持ちなんだけど”って。でもみんな、けっこう軽く考えてくれていて、“あー、そうなっちゃうよね!”みたいな感じで、メンバーの優しさを感じます。私の気持ちを軽く流してくれるので、そういうものにも支えられてるという気がします。

ヒグチ:いいメンバーなんだね。バンドっていろいろ聞くじゃん? 実は仲悪いとか、そういう話を聞くと、そりゃそうだよねって。同じメンバーでやり続けて、うまくいったらいったで、印税は一人にしか入らないとか(笑)。え、ボーカルだけバイトやってないの?とか。

たかはし:あはは。

ヒグチ:そういうのを聞いてると、仲良くやってるバンドって本当に稀なんだなって思う。だから、すごく幸せな気持ちになる。その感じが、リーガルリリーは出てる気がする。

たかはし:ほんとですか。うれしいな。

ヒグチ:いいバランス感なんだなって思う。

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