湖月わたる 新境地へ挑むーー元タカラジェンヌによる連載『早花まこの、「２STEP、できますか？」』

宇月颯へのインタビューから始まった、早花まこによる連載『早花まこの、「２STEP、できますか？」』。宝塚歌劇OGでライターとして活躍する早花が、GANMI×宝塚歌劇 OG DANCE LIVE 『2STEP』に向けて出演者の様子をお届けしていく。第二回目は同公演スペシャルゲストの湖月わたるに話を訊いた。「湖月わたるスタイル」の基盤とは。

宝塚歌劇団を卒業後、湖月さんは「誰も自分を知らない環境」での挑戦を続けてきた。ヒップホップ、アルゼンチンタンゴ、フラメンコ公演で外国人ダンサーとコラボ。『CHICAGO』のヴェルマ役を全編英語で演じるために英語発音を猛特訓した。その実力が認められ、2015年にはアメリカンカンパニーの『CHICAGO』来日公演の際に限定出演を果たしている。

元タカラヅカのトップスターという華々しい経歴に甘えず、いつも新しい目標に向かって進む湖月さん。先が見通せない時もあるはずだが、そんな不安にどうやって打ち勝っているのか。これは、私がどうしても訊ねたかった問いだった。

「へ？　私、どうしてるんだろうか……」

呆然とした表情で呟く湖月さんに、答えを期待していた私と森脇さん（タカラヅカ・ライブ・ネクスト、元雪組男役スター真地佑果）は大笑いしてしまった。湖月さんご自身も表情を緩めながら気を取り直して出した答えは、「自分の中に、止められない思いがあったから」。

「あの時、無謀だろうと、どうしてもヴェルマ役のオーディションを受けたかったの。そういう「何がなんでもやってみたい！」という強い気持ちになれる時は、人生の中でたくさんあるわけじゃないと思うんですよ。だから、とても大きな「波」がきた時は、不安があっても挑みたい」

彼女にとって「大きな波」のひとつが、『２STEP』の振付だという。

初めて挑む本格的な振付は、スムーズには出来ないだろうと、湖月さんは覚悟している。そう本音をさらけ出せるのは、自分が試行錯誤する姿をダンサーの皆さんに見てもらうことにも意義があると信じているからだ。

これまで共演したダンサーの方々がたゆまぬ努力を続け、自分自身と闘って踊る姿を見て、湖月さんは大いに刺激を受けてきた。だから、「自分も不器用さを隠さずダンスと向き合って、ダンサーさんと一緒に作品を作っていきたい」と思うのだという。

「素晴らしいダンサーでも、違う分野の人とのコラボレーションは、楽しくも緊張するものです」

その言葉には、宝塚を卒業してから幅広いジャンルのダンスを学んできた湖月さんの実感が込められていた。「みんなの不安を吹き飛ばして、背中を押せるようなお稽古がしたい」と、彼女は明るい笑顔を浮かべた。

湖月さんが『２STEP』の舞台で目指すダンスは？

「音楽と、仲間と一体になれるような、ダンス。幸せな気持ちで踊るみんなの姿が観られるように、私は精一杯頑張ります」

それはきっと、お客様に楽しんでいただける舞台になるはずだから！　そう、彼女は言葉を続けた。「振付師」湖月わたるさんの心は、もう走り出している。

取材・文＝早花まこ

湖月わたる（こづき・わたる）
埼玉県出身。
1989年宝塚歌劇団入団。星組男役トップお披露目公演『王家に捧ぐ歌』が文化庁芸術祭優秀賞受賞。宝塚退団後、NYダンスカンパニーTHE MOVEMENT初来日公演、CHICAGOアメリカカンパニー来日公演等、ダンス、ミュージカルと幅広く活躍している。今秋、ZUKA IN JAZZ SONG & DANCE with NAOKO TERAI Quartet『ALL THAT ZZJA ALL THAT ZZKA』出演予定。