『人形劇 寿歌』で人形操演を担当した、ゆみだてさとこが【第7回俳優A賞】を受賞〜発表&授賞式レポート
【第7回俳優A賞】を受賞した、ゆみだてさとこ
“舞台俳優を応援する賞”として、〈日本劇作家東海支部〉が2015年に創設した【俳優A賞】。年齢や経歴、役の大小を問わず、劇団・ユニット単位でエントリーすることができ、毎年9月~12月に東海三県(愛知・岐阜・三重)で上演される公演であれば、全国各地どこからでも応募可能な賞だ。
その【第7回俳優A賞】に、『人形劇 寿歌』(作:北村想/演出:ニノキノコスター)でキョウコ役の人形操演を担当したゆみだてさとこ(Puppet Theater ゆめみトランク)が選ばれ、2023年3月11日(土)に愛知の「長久手市文化の家 風のホール」にて、最終発表と審査員による講評及び授賞式が行われた。
【第7回俳優A賞】最終発表&授賞式
この【俳優A賞】、従来は〈日本劇作家東海支部〉がプロデュースする短編演劇のコンペティション『劇王』などのイベント(毎年1月~2月頃に愛知県内で開催)に於いて最終発表及び授賞式が行われてきたが、【劇王】は2020年以降、隔年開催となることが決定。本年2023年は開催年ではなないため、今回は「長久手市文化の家」が実施しているアートスクール講座のひとつ、《戯曲セミナー》(講師は劇作家・演出家のはせひろいち)の「優秀短編上演会」の中で開催されることとなった。
【第7回俳優A賞】は、2022年6月1日~7月31日の応募期間中にエントリーのあった11団体が審査対象となり、審査員は、初代東海支部長のはせひろいち(劇作家・演出家・劇団ジャブジャブサーキット主宰)、二代目支部長の佃典彦(劇作家・演出家・俳優・劇団B級遊撃隊主宰)、安住恭子(演劇評論家)、小原健太(中日新聞文化芸能部記者)、加藤智宏(演出家・perky pat presents主宰)、木村繁(演出家)、ノグチミカ(演劇ファン)、筆者(編集者・ライター)の8名が担当。
全てのエントリー団体の公演が終了した昨年末に各審査員が推薦俳優を3名ずつ挙げ、まず第一次審査をオンラインで実施した。この時点でノミネート俳優7名が決定し、選出された俳優の出演作を公演期間中に観られなかった審査員は、第二次審査までの間にエントリー団体から提供していただいた公演映像を鑑賞した。そして年明け1月初旬に第二次審査会を行い、長時間にわたって議論を重ね、ノミネート俳優7名の中から【第7回俳優A賞】受賞者を決定した。
【第7回 俳優A賞】ノミネート俳優※五十音順敬称略( )内は所属団体名、◇出演団体と出演作品
空沢しんか(劇団ジャブジャブサーキット)
◇劇団ジャブジャブサーキット『シヴァ氏の幕間』
◇東海ラジオプロデュース『不思議の国のアリス ALICE Win Under ground』
古場ペンチ(Pinchi 番地)
◇第7回とよた演劇祭『宿る舞台』
荘加真美(劇団ジャブジャブサーキット)
◇劇団ジャブジャブサーキット『シヴァ氏の幕間』
◇愛知人形劇センター Presents『人形劇 寿歌』
常住奈緒(みきなお計画)
◇みきなお計画『ただ闇雲に喋るな』
中原和宏(ストレイドッグプロモーション)
◇リードワン/Nana Produce/Harvest Time『まるは食堂』
八代将弥(16号室/room16)
◇16号室『THE BEE』
ゆみだてさとこ(Puppet Theater ゆめみトランク)
◇愛知人形劇センター Presents『人形劇 寿歌』
3月11日の最終発表及び授賞式当日は、上記ノミネート俳優7名のうち、5名が登壇した(2名は都合により欠席)。審査員を代表して佃典彦が司会進行を担当し、それぞれの舞台写真がスクリーンに映し出される中、7名の名前と出演作を紹介。続いて俳優1名に対して審査員2名ずつから講評が述べられ(都合により欠席した審査員3名の講評も佃、はせが代読)、最後に受賞者・ゆみだてさとこの名が発表された。ゆみだての講評を担当した審査員2名のコメントは以下の通りだ。
「今回の【俳優A賞】は人形劇がエントリーされたということで、どう考えるべきか、ということを審査会で時間を割いて議論してきました。今回演じられたキョウコ(声/荘加真美 人形操演/ゆみだてさとこ)もゲサク(声/北村想 人形操演/桑原博之、Chang)も素晴らしくて、それはヨコヤマ茂未さんが作った人形もそうですし、操演と声と人形が三位一体になっているんだな、と思いました。中でも僕が注目したのはゆみだてさんで、操演の時の姿勢がすごく美しかったんですね。先ほど皆さんも舞台写真をご覧になったと思いますが、人形に対するゆみだてさんの眼差しが強烈に伝わってきました。視線が常に人形に向けられていて、主に人形を後ろで操っているので、その視線が人形の後頭部を突き抜けて客席の方に伝わってくるような印象を持って、これは生身の俳優が自分自身の身体をコントロールしながら演技をしたりするところにも通じるし、人形自体も操演者も含めて「俳優」として捉えていいのかな、と思うようになっていきました。その三位一体になっている中で、もちろん声も人形も素晴らしかったですが、その中核を担っていたゆみだてさんを推しました」(加藤)
「ゆみだてさんは、先ほど講評を述べさせていただいた荘加さんと同じキョウコ役の操演を担当されましたが、舞台を拝見した瞬間に目が釘づけになりました。加藤さんも仰ったように、眼差しの強さや姿勢の美しさもそうですし、人形を遣う一挙手一投足がとても繊細であまりにも卓越していて、人形劇というのは人形を見るべきものなのかもしれませんが、ついゆみだてさんの方に視線が行ってしまう、という感じでした。この作品の出演者は皆さん素晴らしい技術や魅力を持った方ばかりでしたが、キョウコはとりわけ、本当に命が宿っているかのように見える瞬間もあって、強く惹きつけられました。ゆみだてさんの操演と、荘加さんの声、ヨコヤマ茂未さんの人形美術の三位一体が高度なレベルで結実していて、私の中では三者を切り離して考えることができず、本当に素晴らしかったです」(望月)
賞状とトロフィー、賞金を授与されるゆみだてさとこ(右手奥)と、キョウコの人形、人形美術のヨコヤマ茂未(手前)
受賞したゆみだてには、審査員を代表して佃典彦より賞状とトロフィー、賞金5万円が贈られ、一緒に登壇した人形のキョウコと人形美術を担当したヨコヤマ茂未と共にそれらを受け取った。受賞コメントは以下の通り。
<ゆみだてさとこ受賞コメント>
この度はこんな立派な賞をいただきまして、全ての皆様にお礼を申し上げたいです。人形遣いは、舞台に上がる時には俳優と呼ばれることはあまりなくて、「人形遣い」とか「人形操演」と言われることが多いです。今回の『人形劇 寿歌』では、荘加真美さんの声とヨコヤマ茂未さんの人形があって初めて私が舞台に上がることができたということで、それにも関わらず「俳優」という名のついた賞をいただけるというのは、これは人形劇にとって大きな前進だなぁと本当に心から思っております。これをきっかけに、人形劇がますます拡がっていくといいなと思っておりますので、これからもぜひ応援していただけると大変ありがたいです。本当にありがとうございました。
また、授賞式後に改めて受賞の感想を尋ねると、
「ちょっと複雑な気持ちではあるんですよ。人形劇の舞台上では人形を遣っている方が目立つのは良しとはしないので、私の方が目立っちゃったのかなぁと(笑)。この作品は美術のパワーが凄くて、人形の目の形や色とか本番直前まで調整がどんどん加わっていったので、とにかく人形のキャラクターを生き生きして見せるようにしよう、と思っていました。キョウコの人形と自分の目線を常にリンクさせて、彼女が何を考えているのか、という点を途切れないようにしつつ、私自身もキョウコになってキョウコが2人になってしまうのは違うので、人形であるキョウコそのものが生きる、というバランスをはかりながらやっていました。人形劇は、日本ではまだ子ども向けのものだと思われがちですけど、一般の大人の方にももっと観て欲しいですし、演劇をやられている方も人形劇の手法や考え方もどんどん取り入れて、別の新しい人形劇も生まれてくるといいなぁと思います」
と、喜びと共に人形劇の未来の展望についての想いも述べた。
尚、2023年6月からは【第8回俳優A賞】のエントリー募集も始まる。前述のとおり、9月~12月に愛知・岐阜・三重で行われる公演であれば、東海エリアの団体のみならず、この時期に当地へツアー公演で訪れる団体も全国からエントリー可能につき、詳細については〈日本劇作家協会東海支部〉の公式サイト(http://jpatokai.php.xdomain.jp)等で後日発表される応募要項を参照の上、ぜひふるってご応募を。
【俳優A賞】歴代受賞者
※2020年度は、新型コロナウイルスの影響により開催中止
◆第1回(2015年度)/八代将弥(room16)※えのもとぐりむプロデュース『えのもとぐりむのやわらかいパン』、日本演出者協会プロデュース 劇作家VS演出者『木村さんと鈴木さん』にて受賞 ◆第2回(2016年度)/岡本理沙(星の女子さん)
※七ツ寺共同スタジオプロジェクト「往還Ⅱ~原初の岬から~」 第一夜:『尿意』(諏訪哲史短編集『領土』より)にて受賞 ◆第3回(2017年度)/佃典彦(劇団B級遊撃隊)
※劇団B級遊撃隊『不都合な王子』にて受賞 ◆第4回(2018年度)/大野ナツコ
※perky pat presents 「うみべのいきもの」(『とねりこの実』に出演)、劇団さよなら『はやくいかなくちゃ』にて受賞 ◆第5回(2019年度)/荘加真美(劇団ジャブジャブサーキット)
※なごや芝居の広場『片づけたい女たち』にて受賞 ◆第6回(2021年度)/藤本伸江(劇団うりんこ)
※劇団うりんこ『わたしとわたし、ぼくとぼく』にて受賞