ドミコ、時速36km、bokula.ら気鋭バンドが雨の野音で競演、夏に向けて想いをつなげた『RUSH BALL☆R』レポート
『RUSH BALL☆R』 写真=オフィシャル提供(撮影:松本いづみ)
『RUSH BALL☆R』2023.5.6(SAT)大阪・大阪城音楽堂
今年も『RUSH BALL☆R』の季節がやってきた。5月6日(土)に春の大阪城音楽堂で行われた本公演は、毎年破格の値段で(今年は827円!)若手バンドのライブが観れるとあって大人気のイベントだ。この日の出演者はbokula.、Newspeak、Subway Daydream、映秀。、時速36km、ドミコ、ペルシカリアの7組。『RUSH BALL☆R』の開催と同時に、夏に開催される野外ロックイベント『RUSH BALL』第1弾出演アーティストも発表されるのが恒例の流れ。25周年を迎える今年は8月26日(土)・27日(日)・9月2日(土)の3日間、泉大津フェニックスで開催される。『RUSH BALL☆R』の出演者からは、bokula.と時速36kmがO.Aとして登場することが決定した。今回は夏へ向けての布石となった、熱狂の1日の模様をレポートする。
前日まで雨予報が心配されていたが、当日は見事に晴れ! 最高気温27℃の蒸し暑い天候だった。しかし夕方には雨が降り出した野音。会場に集まったオーディエンスは、雨が降っても大丈夫なようにめいめい準備をしてライブに臨んでいた。
FM802 DJ 大抜卓人
定刻の13:30になり、FM802 DJの大抜卓人がステージに登場。注意事項を述べてから、『RUSH BALL』と『RUSH BALL☆R』のつながりを振り返る。「これまでを思い出すと、[Alexandros]が[Champagne]で出てた時ももちろん見てたし、土砂降りの雨の中でBIGMAMAがトリをつとめた『R』も見てた。2014年はSHISHAMOとgo!go!vanillasがやってましたし、2015年のトリはWANIMAでした。(中略)『RUSH BALL』25周年のラインナップに欠かせないアーティストもみんな、実はここから始まっています。今日もまさしくこれからにおける大事な物語を紡ぐアーティストがたくさん出てくるので、目一杯新しい音楽との出会いも楽しんでください!」と、長年両イベントの歴史を見守ってきた大抜だからこそのコメントで『RUSH BALL』への愛を伝え、トップバッターへバトンをつなぐ。
Subway Daydream
Subway Daydream
1番手は2020年に大阪で結成されたSubway Daydream。「立って盛り上げられますか?」との大抜の言葉で客席は総立ちに。SEが流れると双子の藤島裕斗(Gt.)と藤島雅斗(Gt.Vo)、Kana(Dr)、たまみ(Vo)とサポートベースが元気にステージに走り込んだ。「こんにちはー!『RUSH BALL☆R』スタート!」とたまみが声高らかに叫び、「Freeway」からポップに音を弾き出す。ポジティブな空気を振り撒いてダイナミックに演奏する様子からは、何よりもメンバー全員が楽しんでいることが伝わってきた。
「Timeless Melody」「ケサランパサラン」「Stand By Me」と明るい楽曲の連投でがっつり客席の心を掴み、MCでは雅斗が「野音でライブをやるのが僕たちの1つの目標だったので、素敵なイベントに呼んでもらって、しかもトップバッター。マジで嬉しい、ほんとに嬉しい!」と無邪気な笑顔で和ませる。
中盤の「Canna」ではシューゲイズなギターと柔らかい歌声をゆったり奏でて五感を喜ばせ、後半は再びポップに。「新生活を送る人たちの背中を押す、前向きな応援歌」と紹介した新曲「New Day Rising」をライブ初披露。疾走感のあるギターリフとパワフルなドラムに乗って、フレッシュなボーカルが迫ってくる。
ラストは「皆と私たちの心をつなげたいです。心の周波数を私たちに合わせて!I wanna be your Radio Star!」と叫び「Radio Star」で締め括る。サビでは一斉に拳が上がる。渾身&全力&気合いたっぷりの堂々たるライブで初野音を終えたSubway Daydreamだった。
映秀。
映秀。
2番手の映秀。はサポートメンバーに杉村謙心(Gt)、榎本響(Key)、山本修也(Ba)、山近拓音(Dr)、市川豪人(Per)を迎えた6人編成で登場した。サウンドチェックを終えた板付状態で「失敗は間違いじゃない」から軽やかにライブスタート。映秀。はハンドマイクでくるくるとステージを動きながら歌声を響かせ、「晴れて良かったー!」と気持ち良さそうに笑顔を浮かべる。続けて「今日から脱せ!」と叫び、FM802のヘビーローテーションにも選ばれていた、リスナーにはお馴染みの「脱せ」を投下。ハンズアップで一体になった会場と共に「星の国から」でタオルを回し、全身からはみ出んばかりのエネルギーで歌を届けていく。
MCでは「声出しOKなんですよね? 初めましての人どのくらいいるかな? 楽しんでもらえてますか?」とニコニコしながら客席とコミュニケーションを取る。軽快な前半から一転、中盤では大人っぽい一面を見せる。「残響」では市川もギターを持ってサウンドに厚みを加える。ピアノソロも美しく、映秀。が情緒豊かにフェイクをきかせると客席は釘付けに。野音を吹き抜ける強い風が、楽曲の切なさを盛り上げる。
そして「大阪のノリってこんなもんでしたっけ?」とクラップを煽って「My Friend」で低音ボーカルのミディアムナンバーを攻めていく。メロウでブルージーで気持ちが良い。バンドとの息もぴったりだ。ラストは「よるおきてあさねむる」。「この曲だけ撮影OKです。良かったら思い出に持って帰ってください」と特別なプレゼント。アーバンな空気で満たしながら、呼びかけるように丁寧に言葉を紡いでいく。力強さと芯の強さを提示しつつ、皆が楽しめるように盛り上げ所を熟知しているステージングは、一度見ただけで好きになってしまう魅力がある。満足そうな笑顔を浮かべた映秀。は、大歓声で見送られてステージを後にした。
Newspeak
Newspeak
転換中に雨が降り始め、オーディエンスはみんなカッパ姿に変身。続いてはRei(Vo.Gt)、Steven(Dr)、Yohey(Ba)からなるNewspeak。サポートギターにTAKE(ex.Attractions)を迎えた編成で、1曲目の「Blinding Lights」を美しく演奏する。Reiの流暢な英詞とパワフルサウンドが心地良い。結構な横殴りの雨だが、それすらも演出のようにバンドの雰囲気を高めていった。Reiが「皆さん調子はどうですか! 今日は暑いから雨も気持ち良いよね!」とポジティブに叫んでシンセリフが近未来的な「Media」へ。
激しくも上品さを感じるパワープレイは往年のロックスターの風格だ。<ウォーオオオオ!>というシンギングから始まった「Wide Bright Eyes」ではYoheyのベースが大活躍。別世界に連れて行かれるように無心で踊らされる。何て渋さだ。Reiは「こんなにキーボードが滑らかにすべったことないわ!(笑)もう足元トゥルトゥル! 皆さんもトゥルトゥルで楽しみましょう!」と雨の激しさを楽しんでいる様子。演奏中とMCのギャップも魅力的だ。
Honda FIT e:HEVのCMソングになった「Leviathan」では、最高の疾走感でスケールの大きな景色を浮かび上がらせる。続いて「雨止んできたね! 夏の曲を」と軽快な「Lake」を思い切り響かせて、Reiのカリスマ性を見事に知らしめる。そして新曲「Clockwise」を披露。メロディ展開とドラムの包容感が気持ち良く、体が勝手に動き出す。「みんな雨大丈夫?」とYoheyがオーディエンスを気遣う場面もありつつ、最後の「Bonfire」へ。会場をクラップでひとつにし、晴れやかな空気で満たしてフィニッシュした。ライブ開始時に雨が降り、終盤に上がるという自然の演出も味方につけて、最高のサウンドスケープを描き出した。
ペルシカリア
ペルシカリア
再び晴れ間が差した折り返し地点で登場したのは、埼玉発のペルシカリア。この日は中村達也(Dr)が学業専念のためにライブ活動を一時休止する前の関西での最後のライブ。サウンドチェックからファンを盛り上げ、そのままの勢いで「さよならロングヘアー」を皮切りに、「恋心納品日」「死ぬほどどうでもいい」など心情を吐露する楽曲を荒々しく叩き込んでいく。矢口結生(Vo.Gt)のマイクスタンドにコンビニ袋がかけられていたが、Twitterを見るに二日酔い対策だったそうだ。矢口の命を燃やすようなボーカル、中村と中垣(Ba)のリズム隊、フルギヤ(Gt)のギターソロが炸裂。開始8分で早くも熱狂を作り出し「俺らのこと好きにさせるまで帰さねえからな!」と「ビビって」を投下する。
またも泣き出した空を見上げた矢口は、「雨、持ちこたえてほしかったですね〜。雨降ってた方が好都合ですね。だって、あんたが泣いてたってわかんないからね!」と起伏の激しいMCを挟んで「離愁」へ。畳み掛けるようなエネルギッシュな展開に、会場の一体感も加速。不安定な歌い方に込められた情熱と勢いに引っ張られる。「最初の晩餐」では「俺にも意地ってものがあるぞ。かかってこい! おめえと同じ人間だ!」と訴え、「追っかけてみたら『RUSH BALL☆R』でしたね! あんがとね!」とがなるように叫ぶ。矢口の長めの前髪が乱れて本気の顔が露わになり、「今日ここにいる以上、同じ音楽好きとして与えられた35分やりきって帰るだけです!」と覚悟を見せる。
最初から最後まで全力で挑みかかり、それに食らいつくオーディエンス。人の気持ちが人を動かす。ライブが始まった時よりも、確実に手の上がる数が増えていた。若さと反骨心とモラトリアムがないまぜになったような衝動を突き動かすライブ。メンバーはやり切ったように気持ち良さそうに笑顔を見せ、大歓声に包まれて深々とお辞儀をし、ステージを後にした。
bokula.
bokula.
bokula.もサウンドチェックから爆音で盛り上げる。ELLEGARDENの「The Autumn Song」をSEにえい(Vo.Gt)、かじ(Gt)、さとぴー(Ba)、ふじいしゅんすけさん(Dr)が登場し、「広島県bokula.、でっかいライブハウス作ります!」とえいが叫び「HOPE」を疾走感たっぷりにドロップ。のっけから手が挙がり、素晴らしい一体感で満たしてゆく。間髪入れず「バイマイフレンド」へ。「少し雨が降ってますけど、犯人は間違いなく俺たちだと思ってます。雨バンドです」と自白して、会場の空気を緩ませる。
『RUSH BALL☆R』の出演は昨年に引き続き2度目の彼ら。MCではえいが「1年前と比べて今日はどんな日になるのかと考えてたんですけど、WANIMAやKEYTALKのタオル、Saucy DogのTシャツだったり、今日出てない人のグッズを身につけてる人もいっぱいいるんですよね。このイベントを愛してくれてるっていう証拠でしょ?ってことは、今日出た俺らも一緒に愛してくれるってことだと思うんですけど大丈夫ですか?誠心誠意楽しませに来ました!」と述べて「夏の迷惑」で一気に加速!
続けざまに「足りない二人」と「溢れる、溢れる」を疾走感たっぷりに聞かせる。「今日雨降るってわかってた人どのくらいいます?」と問うと8割強の手が上がり、「音楽が好きっていう一心で来てくれてありがとう!」と感謝を述べて「でっかいイベント出てるとさ、色んな大人の方がいるのね。ほんとに色んな人たちが俺たちを輝かせてくれるわけですね。俺たちはそういう背景を見てるからこそ、そして2回目だからこそ、責任持って歌わなきゃなと。あなたを楽しませるために全力でやんなきゃなと思いました。これからもカッコ良くい続けます」と「FUSION」を決意を込めるように響かせる。そして熱を帯びつつ爽やかに「少年少女」を披露して、最後の「愛すべきミュージック」へ。グッドメロディと「音楽が好き」という共通言語が自然と体を踊らせる。彼らの実直さと『RUSH BALL』への愛がしっかり伝わった素敵なライブだった。
時速36km
時速36km
暗く落ち込んだ空が雨を降らす。本格的に雨天となった。仲川慎之介(Vo.Gt)が「大変な中見てくださってマジで嬉しいっすわ。ありがとうございます。みんなが大変な中言うのもあれなんですけど、俺、雨の野音ちょっと憧れてたんすよ。嬉しいっすわ」と述べて「stars」を歌い始める。声を発しただけで空気を揺るがす力のある仲川のボーカル。生々しい歌声と歪んだバンドサウンドから伝わるエモーション。
1曲目から早くもクライマックスのようなステージングを繰り広げる。続く「ムーンサルト」のサビでは一斉に客席の拳が上がるが、その熱量が半端なく高い。重たい湿気も楽曲を引き立てるエッセンスとなり、オーディエンスを夢中にさせる。石井開(Gt.Cho)とオギノテツ(Ba.Throat)によるコーラスワークもどこか野性的で、全身に突き刺さるようだ。
MCでは仲川が「8月27目のO.Aとして大きいステージに立たせてもらえることが決まりましたので、マジで嬉しいっす」と話しつつ、雨に濡れたオーディエンスを気遣って「どこにいても届くように一生懸命歌うつもりですので、お互い楽しみましょう」と話し、「ここからギアを上げていきます!」との宣言通り「鮮烈に」を投下。出だしから圧倒的ながなり声と力強いアンサンブルで会場全体を巻き込んでゆく。
松本ヒデアキ(Dr.Cho) のビートから石井と仲川のギターセッション、さらにオギノのベースがジョインしたパワフルな「動物的な暮らし」、作詞を手がけたオギノもボーカルに参加した「ハロー」を経て、初期の楽曲でルーツも詰め込まれた「夢を見ている」を一心不乱でプレイ。胸を打つほどの熱狂とエモーショナルを作り出してライブを終えた。彼らが『RUSH BALL 2023』2日目の幕を開ける姿を楽しみにしていよう。
ドミコ
ドミコ
夜が近づき、天気も手伝ってすっかり暗くなった大阪城音楽堂。雨が止む気配はない。トリを飾るのはドミコ。SEが流れ、真っ赤に染まるステージにはバンドロゴのネオン管が光る。長谷川啓太(Dr.)、さかしたひかる(Vo.Gt)の順で登場すると、「ドミコですよろしくお願いします! 大阪〜!」とさかしたが咆哮し、「びりびりしびれる」から早速独自の世界に導いてゆく。いつも思うが、ギターとドラムだけでこれだけの迫力が出せることに本当に脱帽する。絡みつくようなさかしたの歌声とギター、躍動感と鋭さを兼ね備えた長谷川のドラムは何度見ても虜になってしまう。
「united pancake」に続いては3月にリリースされた1年7ヶ月ぶりの新曲「なんて日々だっけ?」をドロップ。超絶テクニックが詰め込まれた一筋縄ではいかない構成の楽曲は唯一無二。客席も音に身を任せて狂ったように踊りまくる。高らかに「セーンキュー!」とさかしたが叫び、雨足が強まる中で「まどろまない」を披露。ドミコのライブはMCなしでシームレスに駆け抜ける。ルーパーを多用をした変幻自在な2人のセッションが痺れるほどにカッコ良い。ギターリフとリズムごとに左右でスイッチする照明も楽曲の世界観を引き立てる。さかしたの歌声が高く激しくなるにつれて客席の熱も高まり、野音はダンスフロアに大変化した。
ノイジーでサイケなインスト曲「ばける」から「化けよ」に移行した後半、ステージに焚かれたスモークが雨で湿気を帯び、ぞくぞくする色気を醸し出す。2人が楽器を持つと何が起こるかわからないワクワク感がたまらない。どっぷりドミコワールドに浸っていると、あっという間にラストチューン。最近のイベントやフェスでは定番となっている「ペーパーロールスター」だ。この曲は後半のロングセッションが見もの。
さかしたと長谷川が1対1で向き合って繰り出す音がとにかく痺れるのだ。グッと長谷川に近づき、煽るさかした。と、ふいに水の入ったペットボトルを手にしてドラムセットに乗ったと思えば、長谷川の頭から水をぶっかけた! そして残った水を自分にもかける! この様子にオーディエンスは熱狂! 客席だけずぶ濡れなのはフェアじゃないと思ったのだろうか。持ち時間ギリギリいっぱいまで続くセッションを経て再び楽曲に戻り、最高潮の盛り上がりでステージを終えた。キャリア12年目を迎えた彼らの存在感と実力の高さを見せつけた、堂々たる35分だった。
DJの大抜卓人は「雨の日ならではのセッションが、この日だけの時間が流れました! そして何より雨の中最後までの熱狂ありがとう皆!この続きは8月の『RUSH BALL』3days開催に向けて気持ちを高めていただいて。風邪ひかないようにくれぐれも気をつけてください! 夏に向けて最高の25周年、皆と共に作りたいのでよろしくお願いします!」とアーティストとオーディエンスに感謝を述べた。
こうして今年も『RUSH BALL 2023』への道筋が作られた。FM802では夏に向けての特番や取り組みが続々と登場する予定。25周年の夏を楽しむ準備を整えよう。
取材・文=久保田瑛里 写真=オフィシャル提供(撮影:松本いづみ)
セットリスト
2023年5月6日(土)大阪・大阪城音楽堂
イベント情報
https://www.greens-corp.co.jp/