「特に好きだったシーンはブラーの『テンダー』が流れるところ」[Alexandros]川上洋平、父娘ならではの関係を描き、多数の映画賞を受賞した『aftersun/アフターサン』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

2023.5.22
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撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=坂手マキ(vicca)

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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は、父親と過ごした夏休みを20年後当時の父と同じ年齢になった娘の視点から綴ったヒューマンドラマであり、父役を演じたポール・メスカルが第95回アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたことでも知られる『aftersun/アフターサン』を語ります。

『aftersun/アフターサン』

──『aftersun/アフターサン』はどうでしたか?

ため息が漏れるぐらい素敵過ぎました。すぐにもう一回観たくなりましたね。「ここはどう捉えればいいんだろう」と考えながら観てしまったりはしたけど。

──人それぞれの観方がある映画ですよね。

結構委ねられますよね。何かしらの問題を抱えている父親・カラムと娘・ソフィの幸せそうな描写があって。でもバックグラウンドが直接的には描かれてないから妙な緊張感と不穏感が終始漂ってる。

──ストーリーは31歳になったソフィが、11歳の時に父・カラムとトルコのリゾート地に旅行した時に撮影したビデオテープの映像を観て、父のことに想いを馳せるという内容なわけですが。

ロードムービー的な雰囲気もあったりするけど、実はぼんやり観るような映画ではなかったよね。大枠では「11歳の女の子」の視点から描かれてるんだけど、それは現在の父親と同じ年齢になった自分の記憶やビデオカメラの映像で、11歳当時は感じていなかった父親の苦悩が映ってたりして。家庭用ビデオカメラ特有の映像を通して、「あの時、父親はこんな想いだったのか……」という風に思いを寄せていく。当時父親はおそらくメンタルヘルスの問題を抱えていて、みたいな示唆が織り交ぜられてるわけやね。

──そうですよね。本棚にメンタルヘルス関連の本が並んでいたりして、伏線は張られています。

暗にね。カラムがベランダで手を思いっきり広げて立ってるシーンとか、「美しいなあ」って思いながらも、「死のうとしていたのかもな……」って思ってしまったりするし。父親がその後どうなったかは31歳になった時のソフィの表情とかにも出てましたよね。

──確かに。随所に挟み込まれる自然の景色だったり、光や音の演出だったりも示唆的ですよね。

ですよね。クラブで踊ってるシーンで映し出されるストロボの瞬間の表情で読み取れました。設定としては、どうしてもソフィア・コッポラの『SOMEWHERE』が思い起こされるよね。離婚して離れて暮らす娘と父親が一時的に一緒に過ごすっていう。ただ、全然違った。『aftersun』はどこか絶望をまとってるし、ほんわかしてるようにみえて、全く真逆。

『aftersun/アフターサン』より

■自分と父親の関係を俯瞰で見られるようになる映画

──物語が進むにつれて、どんどん「これは悲しい結末なんじゃないか」っていう風に予感していきますよね。

今回全くなんの予備知識も入れないで観たので、まさにそんな感じでした。あと、僕が自分の父親に抱く感情とは、娘が父親に抱く感情はまた違うんだろうなって思いました。しかも離婚してるわけだから、「私が奥さんの代わりにならなきゃ」みたいな感情も少し芽生えてたりするのかな。息子って父親に対して、大なり小なり「俺はこの人を追いかけるんだ」っていう気持ちが本能的にあるものだと思うんですけど。

──ある種のライバル的な。

そう。でも、『aftersun』のソフィは11歳ではあるんだけど、どこかお父さんを優しく包みこんであげようみたいな感じがあるっていうか。

──なるほど。

そこに違いを感じましたけどね。いやあ、それにしてもこの映画、前回のこの連載で発表した2022年のカワカミー賞を決める前に観ておきたかったですね! 超好きな映画でした。カワカミー賞でベストムービーに入れた『コンパートメントNo.6』にもちょっと通じるものがあるっていうか、絶妙なんですよね。『aftersun』を観て「セピアの色は人それぞれだな」と感じた部分はすごくありました。

──そうですよね。

ずっと自分の目線で過ごしていた人生を、父親の死後、自分と父親の関係を俯瞰で見られるようになる映画っていうか。まあ、そういう状況に置かれてしまったっていう言い方もできるけど。僕はソフィとは同じ境遇ではないので完全には共感できないはずなのに、何かグッとくるものがありましたね。監督のシャーロット・ウェルズさんは『aftersun』が初の長編監督作品なわけですが、素晴らしいなと思いました。

『aftersun/アフターサン』より

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