実録、これが2023年春『デザインフェスタvol.57』の一端だ 怒涛の4時間半体験レポート
『デザインフェスタvol.57』
アジア最大規模のアートイベント『デザインフェスタvol.57』(以下、デザフェス)が、2023年5月20日(土)、21日(日)の2日間、東京ビッグサイトにて開催された。
この記事では、筆者(30代女性・運動不足気味)が会場を4時間半に渡りどう泳ぎ回ったか、具体的なレポートをお届けしたいと思う。少しでも「デザフェスに行ってみたいな」と思う方の背中を押し、今後の冒険の参考になれば幸いである。
東京湾に、アートのガラパゴスがありました。
11:20頃の西エリア1階。中央のステージではさっそくトップバッターの演技も始まっている。
ビッグサイトを訪れたのは2日目のオープン時刻(11:00)の10分前。入場待機列に並び、実際に会場を歩き始めたのは11:20頃だった。エスカレーターから1階を見渡すと、すでにかなりの賑わい!
『デザインフェスタvol.57』会場マップ(公式HPより)
デザフェス探訪2回目の筆者が、待機中に立てた作戦はこうだ。
・何かワークショップを体験してみたいので、早めにエントリーする
・「ぐるっと回って後でまた来よう」は不可能なので、ピンと来たら心に従う
声を大にしてもう一度言いたい。デザフェスはとにかく広大&膨大。後でまた来ようというのは難しいので、ご注意を!
デザフェスの華であるライブペイント、そして……パン
momoさんのブース
ステージを囲むように配されたライブペイントのエリアを歩いて行くと、早速気になるブースを発見。まばゆい色彩の中の、聖母子像……? 準備中のアーティストから「このあとまた描き始めます」と教えてもらったので、近くを歩いてスタートを待つことにする。
「ぱんタージャ工房 キキの家」のブースより
こんがり焼けた美味しそうなパン! 「ぱんタージャ工房 キキの家」で見つけた、本物のパンをコーティングして作ったマグネットに心を奪われ、筆者の財布もここで開幕した。ちなみに所持金は5,000円程度。もっと下ろしてくるべきだったか……と後悔しつつ、ブースによっては電子マネーも使えるし、エントランス付近にATMを確認しているので、いざとなれば下ろしに来られる、と楽観。これが悲劇の始まりだった。
ライブペイント中のmomoさん
ブースに戻ると、画面に深いブルーが足されていくところだった。頃合いを見て、話を聞かせてもらう。
日頃はアクリル絵の具で人物画を描いたりするというmomoさんは、デザフェスへの参加は5回目ほどだそう。ライブペイントでは下書きするとうまくいかないことが多いので、その場・その瞬間ごとに描きたいものを捉まえることにしているのだという。たくさんの人の動きや、すぐ隣のステージから溢れる音楽からも影響を受けて、作品は生き物のように変化していく。
販売コーナーには、ボードに描かれた鮮やかなミニサイズ原画が並ぶ。アーティストから直に原画を購入できるのはデザフェスの醍醐味!
今回は“人と人とのつながりや、慈しみのようなもの”を描きたいというmomoさん。「あ、やっぱり聖母子像のイメージですか?」と尋ねると、人物のストーリーは特定していないけれど、他の来場者の方々からもそう言われることがあったのだそう。「そうやって、自分が考えてた以上のことを見る人に受け取ってもらえたり、その感想を聞けたりするのがすごく面白いです」と笑顔で語る。私たちを取り囲む強い刺激・情報の渦の中にある、大切な人との繋がりを強く感じさせてくれるライブペイントだった。
「なんじゃこりゃ、かわいい!」
もっとライブペイントを見たいなと歩き回っていると、新たな出会いが。花色の風が吹き抜けるような、キュートな女の子の絵だ。さっそくお話を聞いてみた。
UguisuAnnさんのライブペイント
今回は自身のトレードマークのピンク色を使って、この季節らしいフレッシュな作品を意識したそう。見る人の気持ちを明るくできたら……という試みは、かなりの大成功といえそうだ。普段はデジタルイラストレーションの制作が主というUguisuAnnさんは、これまで販売のみでデザフェスに参戦していたそう。他のアーティストたちのライブペイントを見ているうちに「楽しそう!」との憧れの想いが募り、今回はライブペイント枠での参加を決めたのだという。
話の中で、ライブで描いた作品は、フェス終了後には処分されるものだと聞いてハッとした。これっきりの、ここでしか出会えないアート。それがライブペイントなのだ。
UguisuAnnさんのブース
イラスト本は、初日で見事完売とのこと(ちょっと残念)! やっぱりこの美少女、多くの人のハートを掴んだようだ。
福留茜さんのライブペイント
ちなみに、アーティストにも当然ながらいろいろなスタンスの人がいる。いつでも気軽に声掛けてください、というタイプの作家から「描いてる時に話しかけたら殺す」という作家まで。うーん、まさにガラパゴス。デザフェスの大きな特徴は“無審査である”というポイントだ。公式サイトには「デザインフェスタは全ての人の気持ち・表現を決して批評しません」という非常に志の高い一文が記されていて泣ける。ここは多様な価値観や美的センスがぎゅぎゅっと凝縮され、共存できる楽園なのだ。
書道とポスカ
恐ろしいことに、イラストのエリアでポストカードなどを求めていたら、すでに時刻は13時を大きく回っていた。人をかき分け、ワークショップのエリアへ移動! お目当ての「立体書道ワークショップ(がしゅう庵)」のブースへ。名前からして気になっていたのだ。
「立体書道ワークショップ(がしゅう庵)」のブースより
立体書道とは、2つの文字を見る角度によって異なるように組み合わせた書道。店主が見守る中、恐る恐る筆を持つ。組み合わせる文字は、SPICEにちなんで「香辛」とした。あとは、この字をPCに取り込んでもらい、立体書道データが出来上がるのを待つばかり。こんなヘロヘロの文字で大丈夫だろうか……。
書道未経験なのにやってしまいました。お目汚し申し訳ありません。
数十年ぶりに筆を持ちましたと告白すると「そういう方が多いんですよ」とのこと。以前は立体書道オブジェの販売で参加していたがしゅう庵さんは、今回初めてワークショップに挑戦したのだという。そんなにみんな立体書道やりたいかな……? と内心不安だったものの、意外とニッチな需要があってうれしい驚きだという。そういうマニアックな需要と供給が出会えることも、これまたデザフェスの醍醐味である。
データが出来上がるまで小一時間ほど、同じ西エリアを散策することに。なお、会場には自販機やベンチが用意されているので、こまめな水分補給を忘れずに。
Toshiko Aimiさんのブース。テーブルには大量のポスカが。
通りすがりに、気になるアーティストを発見。常にユニポスカでイラスト制作するというToshiko Aimiさんは、元々前職で販促のポップを描くことが多かったそう。手元の大量のポスカを活用すべくイラストを描き始め、会社員として働く傍ら、下北沢などのショップでグッズ販売を行っているという。
制作中の作品のアップ
写真を元に描くToshikoさんのイラストは、カッコよくてほんのりシュール。「いや〜ユニポスカって本当にいいんですよ〜!」と情熱的に語ってもらったが、メーカーの回し者ではないとのこと(笑)。ポスカの発色の良さもさることながら、描き手の空間構成やデフォルメ力に惹かれて、思わず立ち止まった瞬間だった。
運命の出会いは暗がりにありました
デザフェスの全17エリアには一箇所だけ「暗いエリア」があり、映像や照明グッズ、幻想系グッズがジャンルを越えて集まっている。そろそろ時刻は14時過ぎ。ここで、夜店のような一味変わったムードの「暗いエリア」に潜入してみよう。
「すてき製作所」の透明きゃんどる。そっと触れると、ゼリーのようにムニムニした触感。
そして見つけました、心に刺さる素敵アイテム! 海や川をそのまま四角く切り取ってきたような、透明度の異常に高いキャンドル。中には本物の小石などが入っていて、表面も水面のように揺れている。さらには、火をつけると海なら「磯の香り」、川なら「木の香り」が漂うという芸の細かさだ。
「すてき製作所」のブースと、快く撮影に応じてくださった作家さんご夫妻
この透明きゃんどるを考案した「すてき製作所」のお二人はデザフェス2回目の出展とのこと。どれにしようかさんざん迷った末に購入した「川の水面キャンドル(大)」は、今も筆者のデスク上でテンションを上げてくれている。
「kokoiro」のブースより
こちらは同じく「暗いエリア」で見つけた、オーガンジー素材を使った「kokoiro」のアクセサリー。後から「やっぱり買っておけばよかったぁ」とじわじわ後悔しているので、次回に向けた備忘を兼ねてご紹介しておきたい。
さて、そうこうするうちに、ついに立体書道「香辛」が完成! データをいただき、スマホでぐるぐる回転させてみる。2つの文字が見事に合体し、自分の不恰好な書道でも、こうして見るとなかなかサマになっているような気がしてくるから不思議だ。
立体書道「香辛」!
「スパイスなんで、色は赤くしてみました」と微笑むがしゅう庵さん。これからもこの書を胸に、香りと辛みのバランスが取れた文章を目指します。ありがとうございます!
技術と想いを載せた工芸品たち
焦りを感じ始めた14時台後半。探索時間を4時間半も見積もっておいたのに、もうあと1時間ほどしかない……。まだまだ、西エリア上階に見ておきたい雑貨のコーナーがあるのだ。
数ある雑貨ブース中でどうしても紹介したいのは、ひときわ異彩を放つ「たむたむ商会」のブースだ。ここではつい二度見してしまうほどリアルな「エピテーゼ(人工ボディ)」が陳列されている。エピテーゼとは、事故や病気で失われた身体の一部を補い、外見を整えるためのものだそう。日本ではまだあまり知られていないこの技術を多くの人に知ってほしいとの思いから、デザフェスへの初出展を決めたのだという。指や胸のサンプルを実際に手にとってみると、吸い付くような柔らかさと色の繊細さに驚く。
サロン「エピテみやび」を一人で運営されているというMiyabiさん。元々は歯科技工士で、身近な人の病気をきっかけにエピテーゼと出会ったのだと語ってくれた。
Miyabiさんにお話を聞いてみると、人工ボディをイベントで紹介すると目を背けたがる人も多く、残念ながら心無いことを言われてしまうこともあるという。デザフェスには工芸家さんのおすすめで出展したそうだが、「感性が豊かな方が多いからなのか、わりと柔軟に受け止めてもらえているように感じます」と笑顔で語ってくれた。
ブースでは着色実演のほか、胸の形をあしらった小さな「oppai箸置き」などを販売。単なるジョークグッズではなく、実際のエピテーゼと同じ素材で製作されており、柔らかくて水に強いエピテーゼの特徴を体感してもらえるように、との思いが込められている。認知を広める一環として製作されたこれらのグッズが、多くの人の目に留まるといいなと思った。
14:50頃の南エリア1階。左奥に写っているのが「ワンコインランウェイ」のレッドカーペット。
ここで、まだまだ後ろ髪を引かれつつも、南エリアへ移動! アクセサリーやファッション雑貨を求める来場者たちで、南エリアもご覧の通りの大盛況だ。
「GRIZZLY」のブースと、とっても気さくなご店主さんたち
三重県から初出展という「GRIZZLY」のブースには、コーヒーのドリップスタンドやペーパーホルダーなど、鉄管・銅管を利用した男前な雑貨が並んでいる。“なんちゃって”ではないガチのインダストリアルっぷりに惹かれてお話を聞いてみると、なんと作家さんは現役の配管工! 曰く、今どきの配管はもっとスマートになっているそう。せっかく無骨で味のある古い型番のパーツを何かに活用できないものか、と考え、オリジナル雑貨の制作を始めたのだという。
「GRIZZLY」のブースより
中央のロボットのようなフラワーベースが可愛いな、と思ったら「これは、お隣のショップのドライフラワーとのコラボです。今日、花器に直したんです」とのこと! こういったアーティスト同士の交流や化学変化も、これまたまた、デザフェスの醍醐味なのである。
魅惑のアクセサリー市場があぁ〜
ここでアラームにハッとすると、時刻は15:00。えっ……楽しみにとっておいたアクセサリーショッピングタイムが、30分しかない……?! というか、南エリアの写真、西に比べて全然撮れてない……。
でも落ち着いて、ピンチの時ほど落ち着いて……。周囲にアンテナを張りながら、南エリア上階を目指す。会場の中央付近では「ワンコインランウェイ」というイベントが開催されていて、参加料500円でランウェイに登場し、MCさん(プロ声優)から会場全体に自身の存在をアピールしてもらえるという。コスプレイヤーさんやゆるキャラの着ぐるみ、これからパフォーマンスを行うグループなどが参加列に並んでいた。本当ならもっとゆっくり見たかったのだが、無念である。
「創作ツノカチューシャさわわ工房」のブース
通りかかった「創作ツノカチューシャさわわ工房」で見つけたツノカチューシャが可愛いので、思わずパシャリ。南エリアに移動してからチラホラ目についていた“魔族のツノ”をつけた人は、ここのブースで購入していたのだろうか。気軽に試着させてもらえるムードもあってか、女子から親子連れまで、多くの人がツノを生やして嬉しそうに撮影していた。
そして、ついに南エリア上階に到着。実は、過去のデザフェスで心惹かれていたものの買いそびれ、1年半にわたって後悔していたショップが今回も出展していることをチェック済みなのである。色々見てまわりたかったが、もうリミットが近いのでピンポイントで狙い撃ちするしかない。和やかなシニアのご夫婦が迎えてくれる「fini23」のブースへ直行である。
「Fini23」のブースより
ありそうで無い、幾何学的で繊細なデザインに心がときめく。これらはすべてCADデータを超高精細3Dプリンターで出力したもので、カラーは手染めで仕上げているそう。華やかな見た目に反してとても軽いので、耳が痛くなりにくいところも推せるポイントだ。
ところが、お会計時になって問題発生。ここでまさかの現金切れである。
「下ろしてきます!」とブースを離れたものの、スタッフさんにATMの場所を訪ねて、めまいがしそうだった……。なんと、西エリアのエントランス外にしかATMはない! つまり現在地から最も離れた場所である。ワンコインランウェイで「誰か現金貸してくれませんか!」とアピールしようかと一瞬考えたが、さすがにやめて、心を無にして歩き始めた。
おさない・かけない・しゃべらないを守って移動したが、往復でたっぷり20分はかかったことを報告しておく……。こうして怒涛の4時間半(+延長10分)の冒険は、大粒の汗とともにフィナーレを迎えた。
宝物がいっぱい
記事内では紹介しきれなかったけれど、他にも数えきれないほど、素敵なグッズやイラスト、アートとの出会いがあった。また、会場ではフードのコーナーも充実していたので、次回参戦する時にはもっと時間に余裕をみて、デザフェスグルメも楽しんでみたい。
どっさり!
もらってきたショップカードやアーティストたちの名刺を眺めて、しみじみと思う。どれも、あのアートのるつぼの中から自分が選び出した、自信を持って「好き!」と言える作品との出会いだ。手元にある購入してきた品々はもちろんのこと、作り手と受け手が出会ったこの幸せな体験こそが、デザフェスで得た何よりの宝なのではないだろうか。
エントランスのフォトスポットにて。通りすがりの可愛い猫がいたので撮影していいか尋ねたところ、ノリ良くポーズしてくれた。さすがフェスティバル!
現場からは以上である。最高に楽しい『デザインフェスタ』は、次回は2023年11月11日(土)、12日(日)に開催予定。
文・写真=小杉 美香