福岡・海の中道海浜公園で4年ぶり開催『CIRCLE'23』ーートリは電気グルーヴ、奇跡の打ち上げ花火にも祝福された初日レポート
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『CIRCLE'23』
『CIRCLE'23』2023.5.20(SAT)福岡・海の中道海浜公園 野外劇場
コロナ禍で2020年中止、2021年オンライン形式と紆余曲折があった福岡の春フェス『CIRCLE』。去年はマリンメッセ福岡 B館に場所を移して、3年ぶりに有観客形式で開催された。2007年に海の中道海浜公園で初開催され、2012年から毎年定期的に開催されるようになってから、今年は記念すべき10回目を迎える。
去年『CIRCLE』初参加でライブレポートを担当した私は、3日間のイベントを終えた翌日、5月16日に居ても立っても居られ無くなり、一足早く海の中道海浜公園 野外劇場を訪れている。(参照:昨年の様子 ※3日目 https://spice.eplus.jp/articles/303613)当たり前だが、ただただ広い草原と原生林の緑溢れる場所であり、何の設営もされていない。
昨年の『CIRCLE』翌日、海の中道海浜公園に下見に来たライター鈴木
それでもHPで過去の写真を観ながら、CIRCLE STAGE・KOAGARI STAGE・KAKU-UCHI Annexと飲食出店エリアを、脳と心をフル回転させてイマジネーションしたものである。海のすぐそばにあるJR西戸崎駅、西戸崎船渡場から徒歩約20分くらいであり、博多駅から全ての時間込み約60分くらいで、この楽園に辿り着けるというのは、都心ではなかなかありえない。飲食店エリアの飲み物売り場で「楽園解禁」というアルコールドリンクへのキャッチコピーを見かけたが、まさしく今年遂に海の中道海浜公園で開催される『CIRCLE』という「楽園解禁」を4年ぶりに目撃する事が出来た。
畳野彩加 (Homecomings)
5月20日(土)初日。KOAGARI STAGEトップバッターの畳野彩加(Homecomings)、二番手のMikan Hayashi(ゲシュタルト乙女)、CIRCLE STAGEトップバッターのTempalayと初っ端三組が『CIRCLE』初出演というフレッシュさも、この再スタートとなる今回にはとても似合っていた。特に何か前説なども無く、自然と畳野が1曲目「Blue Hour」を歌い始める。観客も芝生に座り、食べたり呑んだりしながら聴いているのも、アコースティックライブの緩やかさにぴったりで心が和む。畳野は「ずっと憧れのフェス」と話していた。
Mikan Hayashi(ゲシュタルト乙女)
台湾から来たHayashiについてはそもそも日本のことが大好きであり、名前も日本語読みや日本アニメにちなんでいるし、今回出演するミュージシャンたちの音楽を高校時代から聴いていたので、「未だに夢かと想うくらいに幸せです」と打ち明ける。大好きな歌として同じステージのトリで出演する向井秀徳の「KIMOCHI」をカバーした。
Tempalay
メインステージの初陣を飾るTempalayの小原綾斗は、その気合いからかリバーブのかかった轟音で「おはようございます!」と叫び、その場の空気を一気に持っていく。しゃぼん玉が飛び交う中、ゆらゆら気持ち良い場を作り上げ、「大東京万博」では<ラッセラーラッセラー>と青森ねぶた祭的な勢いを感じる掛け声と共に盛り上げた。
Tempalay
去年、見学に来た時から感じていたが、CIRCLE STAGEの後方からステージへ向けてのすり鉢の様な傾斜が生み出す見応えは完璧としか言えない。後方、すなわち上からテントエリア、中腹辺りがシートエリア、そしてステージ前がスタンディングエリア。この三重層による住み分けという織り成し具合は素晴らしかった。KOAGARI STAGEで既に感じていた、観客が自由に過ごすという意味でのホスピタリティーとして何の申し分も無い。
そのKOAGARI STAGEで角舘健悟(Yogee New Waves)を観ている時に思わぬものをステージ横に見つけてしまった。畳野のライブ時から下手に、縁側の如く観客が座りながら鑑賞できるスペースには気付いていたが、上手には「立ち呑みテント」という謎のスペースがあることにも気付く。
縁側エリアは視界を遮るものが無いので、腰掛けながらステージを観ることができるが、立ち呑みテントは周りを囲われているため、ステージを観ることができない。だがステージ真横で、それこそ立ち呑みなどしながらライブをくつろいで聴くのは、もしかしたら一番の自由かも知れない。一般的に考えたら無駄と思ってしまうスペースをこしらえる余裕さ緩やかさ、穏やかさに脱帽してしまう。
そんな立ち呑みスペースのほかに、KOAGARI AREAの奥には、SpotifyのPremium会員が利用できるくつろぎスペースも。出演者にインタビューする無料観覧イベントも開かれていた。『CIRCLE』の公式プレイリストでは、当日のセットリストと合わせて出演者のインタビューも公開されている。
角舘健悟(Yogee New Waves)
KOAGARI STAGEでは2日ともに感じたが、いわゆるセットリストが本番で歌い始めないと決まらないミュージシャンがいたことからも、『CIRCLE』が自由なフェスであると再確認できた。角舘は「今日やる曲は、ほとんど新曲というか作りだめている曲」と話した上で、「昨日完成した曲やります」と「Sheeps」を初披露する。
長岡亮介
長岡亮介(ペトロールズ)も「Yukon」「Lounge Lover」など「その内、再販したいんですけど、今はどうやっても手に入らない」というレアな曲を歌った。『CIRCLE』だからこそ、他とは違ったことをやりたいというミュージシャンの粋な心意気を感じる。『CIRCLE』が凄く愛されている事が伝わった。
角張渉(KAKUBARHYTHM)
DJブースのKAKU-UCHI Annexでは、マネージメントやレーベルを手掛けるカクバリズムの角張渉が毎年お馴染みの登場。赤字を続けながらも『CIRCLE』を存続し続けた、主催者に敬意を示すというのも、至ってノーマルなDJブースでは観られない光景であり、愛しか感じない。
SOIL&"PIMP"SESSIONS
CIRCLE STAGEのSOIL&"PIMP"SESSIONSも「こうやって僕たちが音を出せる場所を守ってくれたのは関係者、スタッフ、お客さん!」と喜びを爆発させていたが、みんなの『CIRCLE』への愛の賜物である。自分の出番前である長岡が袖にわざわざ観に来ており、SOILのメンバーがステージに出そうとして大いに沸いていた場面からも、単なるフェスでは無い特別さを受け止めた。
ムーンライダーズ
特別さでいうと、言うならばレジェンド枠であるムーンライダーズも特別でしかない。活動休止を経た上での結成48周年は、普通の周年とは重みが違う……。御本人たちいわく「ゴージャスなサウンドチェックでしたね!」というリハというより本意気な時間からの本番。「福岡にはたくさん世話になった人たちがいる」と話されるし、実際17年ぶりの九州というだけあって、これまた気合いが違う。ヴァイオリン演奏もあったりするので、バンドというか、まるで楽団の様な演奏であるし、最初の「雲の上で楽しんでくれ!」という語り掛けも凄かった。
「岡田徹! かしぶち哲郎! 本当は9人で来たかったけど、何人になっても、また来ます!」
ムーンライダーズ
キーボードの岡田は今年2月、ドラムのかしぶちは2013年に亡くなっている。哀しみを乗り越えてきた師匠方の音は強い。岡田の楽曲をサポートメンバーで参加したスカートこと澤部渡が演奏して歌ったのも印象深かった。ムーンライダーズの息子世代であるスカートの歌は素晴らしき音楽の伝承にすら感じる。音楽の歴史を体感できる『CIRCLE』は本当に稀有な祭だ。
UA
気づくと時間は早いもので17時半。初日も終盤に差し掛かる。1曲目「太陽手に月は心の両手に」をサポートメンバーたちが鳴らし、UAが踊りながら登場。
「みんなバリ好いとっちゃんね!」
UAの御機嫌さが伝わる御当地挨拶。とにかくパワフルなダンスビートが鳴らされ、UAがパワフルにダンサブルに踊って歌う。「明太子パワーだ!」なんていうMCもあったが、この日のUAは普段以上にパワフルで自由さに漲っていた。<きっと涙は>と歌い出すだけで大盛り上がりの「情熱」。「みんなスイートな運命を歩いてますか?」と問いかけての「甘い運命」。とにかくUAの一挙手一投足で、とてつもなく盛り上がるし気持ち良い。「いつまでも、この綺麗な緑を育んでいきたい」と声掛けてからの「プライベートサーファー」のゆったりさも最高だった。
UA
「『CIRCLE』でこうして、また笑顔で逢えて本当に嬉しい。みんなキラッキラしてるよー! みんな約束しよ、また、ここで逢いましょうね。ありがとう『CIRCLE』! 輪になっていこ~! 友達の輪!」
輪のポーズを取りながら嬉しそうに笑うUA。7年ぶりの『CIRCLE』を心から堪能している。
向井秀徳アコースティック&エレクトリック
KOAGARI STAGEトリは向井秀徳アコースティック&エレクトリック。UA終わり、向かうと、まだ本番時間では無いのに、向井は歌っている。言わずもがな地元福岡のミュージシャンであり、既に芝生いっぱいに座っている観客たちから、その期待度がわかる。曲終わり缶ビールを呑み干して、空き缶を放り投げると、次の缶ビールがスタッフから手渡される……、そんな何でもない所為にいちいち痺れてしまう。
向井秀徳アコースティック&エレクトリック
「久方ぶりに海中で行われている『CIRCLE』。みなさんお集まり頂き有難う御座います」
去年開催された会場を福岡サンパレス、都久志会館などとわざと間違えながらも、本来の場所である海の中道海浜公園で開催できた事に本当に嬉しそうな向井。主催の是澤氏、そして運営を行なう福岡のイベンターBEAのスタッフの名前も挙げていく。
「BEAの森裕史に捧げます」
『CIRCLE』を支えたスタッフであり、かつてはNUMBER GIRLのツアーマネージャーも務めたBEA森裕史氏。(※2012年からCIRCLEの運営を担当。今年2月に他界した)
<旅に出よう この世じゃない あの世へ>
その名も「天国」が歌われる。決して湿っぽくない向井らしいさり気ない送り出し。裏方あっての祭、裏方あっての演者……。
「また逢いましょう。また来ます」
何事も無かったかのように去っていく。福岡の祭に来ていると強烈に思えた時間。
電気グルーヴ
19時25分。CIRCLE STAGE。先に石野卓球がステージに登場して、後からピエール瀧がステージに登場する何気ない場面でゾクッとする。それだけでふたりが同じステージにいることの格別さを感じた。「人間大統領」では、その流れでサポートメンバーを牛尾憲輔大統領、吉田サトシ大統領と紹介する。これまた何でもない言葉遊びだが、それだけで興奮してしまう。何はともあれ電気グルーヴを体感していることに、とんでもなく高揚する。それは「Shangri-La feat. Inga Humpe」のイントロが流れてきただけでの大歓声からもわかる。卓球と瀧がステージ中央で歌ったり、瀧が胸を叩いたり、卓球がホイッスルを吹いたり、何をしても、その場はぶちあがる。
電気グルーヴ
「どうだ! かっこいいだろ? 俺たちが電気グルーヴだ!!」
まさしくこの言葉でしかない。電気グルーヴはかっこいい……。そして、テクノは最高、という言葉しか出てこない。すっかり暗くなった中で「Flashback Disco(is Back!)」などで踊り狂う。そして、56歳の瀧が跪いて持つカウベルを、55歳の卓球が叩き鳴らす。最後のふたりハイタッチは美しすぎた。
電気グルーヴ
電気グルーヴ
そこから「N.O.」での<学校ないし 家庭もないし ヒマじゃないし カーテンもないし 花を入れる花ビンもないし>というキラーフレーズに酔いしれながら踊り狂っていると、ステージ左後方に花火が突然打ち上がる。よくあるフェスでの花火はトリが終わった後に打ち上がるものだ。敢えて間違えてライブ中に花火を打ち上げるという演出構成は経験したことがあるが、シンプルにライブ中に打ち上げ花火を体験したことはない。それも最高の曲の最高の場面で……。テクノビートに合わして花火が打ち上がる、何なんだ、この最高の瞬間は……。
「今夜、福岡の若者の全てがここに集まっています」
「レアクティオーン」でのサンプリング音声にも綺麗に合わさって花火が打ち上がる。これ後から聴くと、近くにあるホテルの打ち上げ花火という催し物の時間が偶然重なっただけだという。でも、こんな最高な偶然の奇跡があるだろうか……。「もっている」とは、こんな時にこそ使うべき言葉である。ラストナンバーは「富士山(Techno Disco Fujisan)」。スクリーンではアニメーション化された富士山が跳ね上がった映像が流れている。
<富士山 富士山 高いぞ高いぞ富士山>
電気グルーヴ
瀧も観客も叫びまくって踊り狂うのみ。ただただ楽しかった……。火照りまくった心身を落ち着かせるかの様に、全てが終わった後に高橋幸宏「PRESENT」が流れる。まだ初日だというのに、僕らは素晴らしいプレゼントを贈ってもらえた、『CIRCLE』から。果たして明日はどうなるのか。2日目へと続く。
取材・文=鈴木淳史 写真提供=『CIRCLE'23』(撮影:ハラエリ、勝村祐紀、chiyori)
■『CIRCLE '23』セットリスト&インタビュー公開!
Spotifyにて、各出演者のセットリストと会場でのインタビューを公開中!
ぜひ合わせてチェックしてみよう。(一部配信のない楽曲もあります)
■『CIRCLE '23』LIVE PHOTO
次のページにて、ソロカットなどライブ写真を掲載中