『七月大歌舞伎』が開幕、片岡仁左衛門らの剣闘場面に大興奮「俊寛」、松本幸四郎と市川染五郎の親子共演「吉原狐」2作上演の夜の部
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左から片岡仁左衛門、坂東彌十郎 撮影=福家信哉
『大阪松竹座開場100周年記念 七月大歌舞伎 関西・歌舞伎を愛する会 第三十一回』が7月3日(月)に初日を迎え、同日夜の部で「俊寛(しゅんかん)」(近松門左衛門作)、「吉原狐(よしわらぎつね)」(村上元三作、齋藤雅文補綴・演出)が上演された。
片岡仁左衛門
「俊寛」は俊寛の感情の浮き沈みと剣闘から目が離せない
「俊寛」は主人公である俊寛が味わうさまざまな「浮き沈み」から浮き出る、その人間味がとても魅力的だ。
左から嵐橘三郎、片岡仁左衛門、片岡千之助、松本幸四郎
平治の乱に勝利するなどして権勢を誇るようになった平清盛に対し、「平家打倒」の密議を重ねていたとして南海の孤島・鬼界ヶ島へ配流された、俊寛僧都(片岡仁左衛門)、丹波少将成経(松本幸四郎)、平判官康頼(嵐橘三郎)。浜辺で海藻を拾うなどして命を繋いで3年、ついに赦免状が彼らのもとに届く。ところが清盛に憎まれている俊寛だけは罪が赦されず、さらに島暮らしのなかで成経が出会った恋人・千鳥(片岡千之助)も「連れていくことはできない」と拒否されることに。そして俊寛たちはそれぞれ、決断を迫られる。
「俊寛」
成経が俊寛、康頼に千鳥のことを紹介して夫婦の盃事をおこなうときの祝祭ムード、赦免状が読み上げられる瞬間の「全員が都へ戻ることができる」という喜びの隠しきれなさなど、前半は幸福感で満たされる。しかし前述したように俊寛だけが名前を省かれていて、一気に絶望の淵に立たされる。しかしまたその次には救いの手が差し伸べられ……と運命がめまぐるしく変わっていき、その都度、俊寛の心模様が変化。二転三転する展開から目が離せない。そういった登場人物の喜怒哀楽を、片岡仁左衛門、松本幸四郎、嵐橘三郎らが細かく表現している。
「俊寛」
俊寛と、赦免状を持参する無慈悲な男・瀬尾太郎兼康(坂東彌十郎)の剣闘は緊張感が漂い、どちらに軍配があがるのか、固唾を飲んで見入ってしまうだろう。
松本幸四郎、市川染五郎の親子共演も話題、ずっと笑っぱなしの「吉原狐」
「吉原狐」
「吉原狐」は約1時間25分の上演時間、ずっと爆笑のドタバタ劇となっている。
中村米吉
吉原中万字屋で芸者として働く、おきち(中村米吉)。落ち目の男を見ると狐が憑いたように惚れ込んでしまう恋愛体質で、またどんな物事に関しても早とちりしてしまう性格。そんなおきちは、自分の父親・三五郎(松本幸四郎)と花魁の誰袖(片岡千壽)が良い仲であると勘違い。母を亡くして随分と経つことから、おきちは、三五郎の再婚を後押ししようとする。ところが三五郎には、内緒で付き合っている相手がいた。しかし一度思い込んだら暴走してしまうのが、おきちの厚意。三五郎の恋愛事情などはつゆしらず、どんどん段取りを整えていく。
「吉原狐」
同作のおもしろさは、それぞれのキャラクターの個性の強さだ。人情に厚いがどこか頼りない三五郎、モテ男感を存分に発揮する貝塚采女(市川染五郎)、お気に入りの誰袖が采女と仲良くしているのを見て嫉妬に狂う材木商の越後屋孫之助(中村隼人)、おきちの噂話で盛り上がる芸者たち。濃い面々が揃うなか、やはり主人公のおきちのトラブルメーカーぶりは抜きん出ている。全員を大いに翻弄し、私たち鑑賞者すら振り回していく。
左から市川染五郎、中村米吉、松本幸四郎
また話題となっている松本幸四郎、市川染五郎の親子共演も必見。かつて、生活が行き詰まったことからおきちを中万字屋へ売ってしまったことを激しく後悔し続けている三五郎。そんな父親の気持ちをちゃんと汲み取りながら、明るく働いているおきち。そんなおきち、三五郎を巻き込む形で采女が大騒動を起こす場面で、三五郎は采女に対し「子を想う親の気持ち」をぶつける。幸四郎、染五郎は実生活では親子であるからこそ、この場面のメッセージは強い説得力をもって届けられる。笑いが絶えない物語の中で、ここは特に感動的なワンシーンとなっている。
左から松本幸四郎、中村米吉
両演目は、歌舞伎ファンはもちろんのこと、今まで一度も観たことがないという人も間違いなく大笑いでき、興奮させられ、のめり込むことができるはずだ。
取材・文=田辺ユウキ 撮影=福家信哉
公演情報
関西・歌舞伎を愛する会 第三十一回』
日時:7月3日(月)~25日(火)
夜の部 午後4時~
【休演】10日(月)、18日(火)
※終演予定時間は変更になる可能性があります