蜷川イズムを受け継ぐ演出家 藤田俊太郎が3回震えた、分断と歓びを描くミュージカル『ラグタイム』日本初演 製作発表レポート
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ミュージカル『ラグタイム』製作発表より(左から)藤田俊太郎、井上芳雄、石丸幹二、安蘭けい
ミュージカル『ラグタイム』が、2023年9月に東京・日生劇場でついに日本初上陸を果たす。
本作は1996年にブロードウェイで世界初演、1998年にトニー賞ミュージカル部門13ノミネート、最優秀脚本賞をはじめとする数々の賞を受賞した傑作ミュージカル。20世紀初頭のアメリカ・ニューヨークを舞台に、ユダヤ人・黒人・白人という異なる人種の人々が己のアイデンティティを求めながら生きる姿を、歴史のうねりと共にドラマチックに描き出す。
記念すべき日本初演で演出を務めるのは、近年次々と話題作を手掛け注目を集める演出家・藤田俊太郎。物語の中心を担うキャストには石丸幹二、安蘭けい、井上芳雄ら日本ミュージカル界のスターが顔を揃えた。
この度、都内にて本公演の製作会見が開催された。会見には、移民でユダヤ人のターテ役の石丸幹二、裕福な白人家庭の母親 マザー役の安蘭けい、才能あふれるピアニストで黒人のコールハウス・ウォーカー・Jr.役の井上芳雄、演出の藤田俊太郎ら4名が登壇。終始和やかな雰囲気の中、それぞれの作品への熱い意気込みを語った。
(左から)藤田俊太郎、井上芳雄、石丸幹二、安蘭けい
会見は登壇者の挨拶から始まった。
石丸:作品を観たときから「いつか関わりたい」と思い続けて四半世紀が経ちましたが、 やっと日本で上演することが叶い非常に嬉しく思っています。私なりにどのようなターテが演じられるのか、これから藤田(俊太郎)さんやみなさんの力を借りつつ稽古を進めていくところでございます。どうぞ見守ってください。そして、舞台は必ず素晴らしいものになるはずです。ご期待ください!
石丸幹二
井上:「この作品が日本で上演される日が来るんだ」とすごく興奮して、どんな形でもいいから関わりたいと思い、今ここにいさせてもらっています。僕にとっても初めての役柄なんですけれど、今の日本で僕たちがやる意味もたくさんあるはずですし、これから稽古を通してそれをたくさん見つけ、お客様に伝えて、一緒に共有できたらいいなと思っております。
井上芳雄
安蘭:素晴らしいミュージカルに出会えたなと本当に嬉しく思っております。(石丸)幹二さんや(井上)芳雄くん、素晴らしい共演者と一緒に藤田さんの演出も受けられるということで、とても期待でいっぱいでございます。みなさまに素敵なミュージカルがお届けできるよう、これから稽古して頑張りたいと思います。
安蘭けい
藤田:この日本初演の演出を担えることをとても幸せに思っております。美しくて楽しくて心躍るような音楽に溢れた、そして胸を強く締め付けるような痛みを伴った素晴らしい作品をお客様にお届けできると思うと、今からとても興奮しております。
藤田俊太郎
それぞれが挨拶を終えると、メディアからの質疑応答へと移った。
ーーみなさまへの質問です。本公演のオファーを受けたときの感想と、作品の第一印象についてお聞かせください。
石丸:まず、オファーを受けたときは非常に興奮しました。なぜかと申し上げますと、私は1998年、『ライオンキング』などの名作が上演されているブロードウェイの黄金期にこの作品を観たんですね。自分が浴びたことのないものをどの作品からも浴びるという幸福感の中、唯一『ラグタイム』だけは出てみたいと思ったんですよ。
その理由はやはり音楽でした。アメリカの歴史の物語ですし、いろんな人種によるいろんな出来事が描かれている作品ですが、それを超えてくるのは音楽のパワー。外国人である私たちも、なぜかその音に乗って心が動いていくわけなんです。「これを日本でやったらみなさんどんな反応をするんだろう」と思ったのがそのときの印象でした。日本でも上演されるときがこないかな、と思い続けていた作品です。
井上:僕は作品を観たことはなかったんですけれど、すごくアメリカ的なミュージカルだということは映像等を見て思っていて。そういうものって往々にして日本では上演されないパターンも多いので、難しいかなと思っていたんです。それが今上演できるというニュースはひとりのミュージカルファンとしても幸せなことでしたし、「そこになんとか関わりたい」というのが正直な気持ちでした。
実は今『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』で本番をやっていまして、8月いっぱい上演しているのですが、『ラグタイム』は9月頭に幕が開くという(笑)。『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』も主役はサティーンですし、Wキャストの甲斐翔真くんも若いからちょっと多めにやってくれるよう頼めるかなとか、『ラグタイム』も3つの人種にパートが分かれている話なので、1/3なら何とかなるんじゃないかという甘い考えで突入したら、どちらもありがたいことにすごく重要な役回りで(笑)。この夏はもう燃え尽きるんじゃないかなという想いで、でも幸せな夏だなと思いながら本番と稽古をやらせてもらっています。
(左から)藤田俊太郎、井上芳雄、石丸幹二、安蘭けい
安蘭:私も『ラグタイム』が上演されている時期にニューヨークにはいたんですけれど、『ライオンキング』など他の作品に興味がいってしまって観ていなかったんです。英語がわからないと話についていけないミュージカルなのかなと、ちょっと敬遠していたんですね。なので「観ておけばよかったな」と今は本当に思っています。
素晴らしい音楽とお話だということにもとても興味が湧きました。マザーという役はきっと女優なら誰もがやりたいような役なんだろうなと思いましたし、そんな役をやらせていただけるということで飛びつくように「やらせてください」と。共演者には幹二さんや芳雄くんがいらっしゃるということで、これはすごい夢の共演になるんじゃないかなと思いました。演出の藤田さんは蜷川(幸雄)さんの作品に出させていただいたときに演出助手でいらっしゃったのですが、今ではもう立派な演出家になられていて。これまでに藤田さんの演出作は観させてもらっていたので、今回演出を受けられることがとても楽しみです。
藤田:20年以上にわたって演劇やミュージカルに関わっていると、時に震えるような瞬間がやってくるんです。それがこの作品の演出のオファーで、いただいたときは震えるような想いでした。『ラグタイム』の戯曲もスコアも知っていたので、「この作品を自分が演出することができるんだ」という気持ちになり、そしてカンパニーのみなさんが石丸さん、芳雄さん、安蘭さんをはじめとする素晴らしいキャスト、そして素晴らしいスタッフのみなさんとお仕事ができることがわかったときに2回目の震えがありました。実は少しずつ稽古を始めているのですが、その準備に至るまでのスタッフのあまりの熱量にまた震えています。ひとつの作品でこんなに震えることはないので、初日には4回目の震えがやってくるんじゃないかなと。
井上:だいぶ暑い夏なので、震えると丁度いい感じですよね。
藤田:暑い夏に気を引き締めながら、震える想いで臨んでいきたいですね(笑)。
藤田俊太郎
ーーみなさんこれまでお仕事でご一緒されたことはあるかと思いますが、ミュージカルでは初共演だとお聞きしています。共演が決まったときのお気持ちをこれまでの印象も含めてお聞かせください。
安蘭:私は幹二さんとは『スカーレット・ピンパーネル』や『蜘蛛女のキス』でご一緒させていただいています。幹二さんの稽古場でのスタイルややり方をすごく尊敬しておりますし、舞台上でも絶対的な安心感があります。なのでまた共演できるということが本当に嬉しいなあと。この作品は絶対良い作品になるだろうなと個人的に感じていました。芳雄くんとは『漂流劇 ひょっこりひょうたん島』という作品以来。ミュージカルでは初共演なので、どんな風になるのかなととても楽しみにしております。
井上:とうこさん(安蘭さんの愛称)とはそれ以来。今回はそこまで絡みがある役ではないけれど同じシーンもありますし、また再会できて嬉しいなあと。石丸さんは大学の門下の先輩でもありますし、僕は本当に「石丸幹二になるために頑張ってきた」みたいなところがあって。東京藝大に入りましたし、ちょっと劇団の方は追えなかったんですけども(笑)、本当にずっと憧れの人。今もミュージカルだけじゃなくいろんな分野で活躍されているという点でも、本当に背中を追っている先輩なんです。でもなかなかご一緒できた作品が……。
石丸:全くないね!
井上:そうなんですよ。
石丸:誰が仕込んでいるのかね?
井上:そう言いながら、実は石丸さんサイドが断ってるんじゃないかって。
石丸:違うよ(笑)。
井上:それくらい(共演が)なかったんですけれど、やっとここでご一緒できるのが本当に嬉しいです。僕はまだ昨日しか拝見していないのですが、石丸さんの稽古場での居方は他の現場でお会いする石丸さんとはちょっと違うなと。そういうところで勉強させていただくのもすごく楽しみにしています。
(左から)井上芳雄、石丸幹二
石丸:何はともあれこの3人が集まるということが未だかつてなかったので、ここでまさにど・ミュージカルをやるわけですね。どんな効果が生まれ、どんなふうになるのか僕も非常に楽しみです。とうこちゃんとは2作品一緒にやっているので、きっとこんな素敵なシーンが生まれるだろうなというイメージがあって、それが楽しみです。芳雄くんとはコンサートでの共演はあったけれど一度も同じ舞台に乗るということがなかったので、はたしてどんな歌が歌えるんだろうって。でも意外と歌の絡みがないんだよね?
井上:そうですね。「この3人が初共演」と言っている割には、そんなに絡まないっていう(笑)。
石丸:3つの世界が代わる代わるくるという感じなのでね。でも藤田さんの演出によっては、僕は芳雄くんがパフォーマンスしているところにどうやらいるかもしれないんですよ。だから横でこっそり掛け声とかかけながら……。
井上:掛け声をかけてくださるんですか!?(笑)
石丸:何か絡みがあると面白いなあって。
藤田:ターテという役は少し引いた場所からこの作品を見ている、という役割を持っているんです。なのでそういったところでシンクロができたら。台本にはないけれど台本から全然はみ出していない絡みを作るというのも、この作品における僕の仕事ではないかなと。
石丸:藤田流ですからね。
藤田:日本初演版の演出の導きということで、3人のシンクロを作っていけたらなと思っています。
ーー石丸さんに質問です。ブロードウェイで『ラグタイム』を観たときの印象的なシーンや楽曲があれば教えてください。
石丸:やはり冒頭のタイトルソングの「ラグタイム」という曲で、藤田さんじゃないですけれど震えが止まりませんでした。やっぱりミュージカルの勝負は冒頭なんだなと改めて思ったんです。次々といろいろな民族の人たちが出てきて、それが融合する。これは演出でもあるんですけれど、音楽と演技がものすごくマッチしているんですよ。
昨日、音楽監督の江草(啓太)さんが「ラグタイムとは何なのか」というところから分解して説明してくださって。例えば、言葉にあるフレーズがきたときにはそのキャラクターのバックボーンが表れている、というようなお話を受けたんです。それを聞いて私も震えましたよ。とても音楽性の高い楽曲のオンパレードなんです。なおかつ3つの民族によって全く音楽が異なるので、その融合や並びも非常に考えられているなあと。
石丸幹二
ーー既に歌稽古も始まっていらっしゃるということで、楽曲の印象や特徴、歌ってみて感じていることなどを教えてください。
井上:とにかくいい曲が多いなという印象ですね。自分が歌う曲以外にもたくさんの名曲があって、ただそれぞれがいい曲というわけじゃなく、ひとつの信念が貫かれて作品としてまとまっているという意味で名作だと思います。あと、タイトルからして音楽のジャンルの名前がついているというのも大きいなと。僕も江草さんからラグタイムの成り立ちについて聞いたとき、まさにラグタイムがこの作品のテーマであり、僕たち人間が目指したい道へのヒントになるものなのだと。白人のリズムと黒人のリズムを合体させたものがラグタイムだと聞いて、タイトルからしてとても音楽的な作品なんだなと感じました。
石丸:ターテはユダヤ人なので、その音楽的要素が非常に組み込まれたものになっています。だからこそ難解で簡単には歌えない音程感があり、今はそこと向き合って闘っているところです。これがいつしか自分の体に入ったら、ユダヤの人たちの魂の叫びのようなものを入れつつ表現できるんじゃないかなと。
安蘭:私が演じるマザーは白人なのですが、白人の音楽は優雅な三拍子で表されているんです。その三拍子の曲で、最後のフレーズが突然四拍子になることも。これはマザーの気持ちが少しずつターテの方に向いている、ということが音楽的に表現されているんです。そんなふうに音楽を読み解いていくとすごく面白くて、今たくさん発見をしているところです。
安蘭けい
ーー現時点で可能な範囲で、藤田さんの演出プランの構想をお話しいただけますか?
藤田:いろんな演出プランを考えています。特に3つの人種、ユダヤ人・黒人・白人と登場するので、どう表現を仕分けながら融合していくかということが演出のテーマなんです。けれどちょっと観点を変えてみると、石丸さんが演じるターテは切り絵アーティストなんですね。切り絵を繋げてペーパーブックという映画の原型を作り、映画監督になっていくという役なんです。そこから着想を得ました。演出でもうひとつ大事なことは、20世紀初頭のアメリカを生きた人々と、今を生きる俳優のみなさんがどうシンクロしていくかということ。例えばターテが切り絵を切るとします。するとそれが当時の写真になったり、切り絵になったりして舞台上に浮かび上がる。その写真や切り絵が動き出すと、今を生きるこのカンパニーの俳優となって役を演じていく。そんな演出を考えています。
井上:人種の違いを描くことは今回のテーマですよね。本来は肌の色が違う人たちを僕たちは演じることになるけれど、今の世の中の世界的な状況を鑑みて、外見に変化をつけるということはやらないんですよね?
藤田:そうですね。役者の外見の変化はつけません。ただ、衣装をはじめいろいろな仕掛けを使って分けることで、お客様には人種の違いが明確に伝わるようにしていこうと考えています。
石丸:あとは振付ですね。振付師の方がそれぞれのキャラクターによって動きを付けてくれるんです。例えば僕なら「あなたはユダヤらしい動きをつけるからね」と。俳優が出てきたときにその人がその人種の動きをすることで、今どの人種の役を演じているのかが明確にわかるように仕上げていくとうかがっています。
藤田:そうですね。振付、音楽、翻訳、全てのセクションが手を取り合いながら、もちろん役者のみなさんと“今どの人種の役を演じているのか”を明確にしていくことが重要になりますし、それを目指しています。
(左から)藤田俊太郎、井上芳雄、石丸幹二、安蘭けい
ーーこうしてひとつの作品でみなさんが揃ったのは初めてということで、この機会にお互いに質問をし合っていただきたいと思います。まず石丸さんから藤田さんへ質問をお願いします。
石丸:藤田さんと最初に出会ったのは、蜷川さん演出の9時間の大作『コースト・オブ・ユートピア』(2009年)。僕はそのときに蜷川イズムを浴びて、こういう取り組み方で俳優は蜷川さんのパレットに乗って踊るんだ、ということを体感したんです。それを今回の藤田さんにも感じるのですが、藤田さんの中で蜷川イズムはかなり影響があるものなんでしょうか?
藤田:ものすごく影響があると思います。100の蜷川イズムと、でも100の蜷川イズムではないものを自分の中で作りたいと思って臨んでいます。蜷川イズムと僕の中で呼ぶものは、“舞台の構成力”だと思っているんです。だからそれは引き継ぐと言うと大袈裟ですけれども、現場で俳優のみなさんやスタッフのみなさんと対峙していくための自分の中のイズムとして持っています。
ーー井上さんから安蘭さんへ質問をお願いします。
井上:前回ご一緒したときから朗らかな方だなという印象はあったんですけれど、再会したらさらに「人生楽しいぜ!」みたいな印象になっていたので、何かあったのかなあって(笑)。もはや南国みたいなオーラなので、何かきっかけがあったのかなとすごく興味があります。
安蘭:そうですか? 何にもないです。
井上:ないんだ(笑)。
安蘭:特にないです。でも、毎回現場に入るときは本当に真っ白で入ろうと思っています。この時間を楽しもうと思っているので。
井上:そういう感じが前よりさらに出ています。
安蘭:それが積み上がってきた感じかなあ。
井上:やっぱり毎日楽しいですか?
安蘭:楽しい! 稽古場が。でも多分これから辛くなっていくと思うけれど、毎回みんなに会えるのは本当に楽しいし、ものづくりが楽しいなと本当に思います。
石丸:昨日は特に、初めてカンパニー全員が会った日だったからね。なおさら輝いていたよね。
(左から)藤田俊太郎、井上芳雄、石丸幹二、安蘭けい
ーー安蘭さんから石丸さんへ質問をお願いします。
安蘭:私、石丸さんとは何度か共演させていただいているので、多分、結構知っている感じなんですよ。でも本当に知らないことがあって。幹二さんの自宅ってどんな感じですか? 幹二さんは生活臭がしなくて、そういうところが見えないの。だからちょっと見てみたいなあって。
井上:どっちかな気がする。すごい綺麗か、すごい汚いか。その間がない感じがします。
石丸:見なくていいよ〜(笑)。至ってシンプルで、どちらかというと食べ物と飲み物に溢れている家ですよ。冷蔵庫の中に食べ物がいっぱい入っているし、大好きなお酒とかもたくさん。
井上:買い置きするタイプですか?
石丸:買い置きするタイプ。
安蘭:観葉植物とかもあります?
石丸:ありましたね。この暑さで枯れましたけど(笑)。僕の中でひとつ習慣があって、何か作品をやるときにひとつ植物を買うんです。だからどんどん増えていて。今回は何を買おうかなって。
井上:でも結果的にそれが枯れてるってことです?
石丸:そう、枯れてる(笑)。
安蘭:次は強い植物を買ってください。
石丸:そうします。何か紹介してください。
井上:これ何の時間なんですかね? 楽しいけど(笑)。
ーー藤田さんから井上さんへ質問をお願いします。
藤田:『ラグタイム』という作品の中では「夢」という言葉がたくさん出てきます。芳雄さんが最近叶えた「夢」は何ですか?
井上:そうですねえ……夢というか、すっごく良いテレビを買いました(笑)。ちょっと勇気がいるくらいのお値段の、テレビとスピーカーが一緒になっているもの。聞こえ方や見え方が全然違うんですよ。映画やコンサートを見ると、重低音がすごいんです。子どもには「テレビに触るなよ!」と言っています(笑)。見るたびに嬉しくなりますね。そういう意味では夢が叶いました。
井上芳雄
ーー最後に、閉会のご挨拶をおひとりずつお願いします。
安蘭:今は多様化と謳われている時代ですけれども、実はそこにはまだまだ差別や区別みたいなものがあります。この作品を観て、改めて差別とは何なのか、それは区別なのか、そういうことを考え直せる機会になるような作品になればいいなと思います。私が演じるのは正義感が強く、とても個性豊かな母親役です。本当に愛が詰まったお話なので、ぜひたくさんの愛を持ち帰っていただきたいと思っております。どうぞ劇場へお越しください。
井上:演劇の持つ使命のひとつとして、過去に起きたことや自分たちが知らなかった歴史を今のお客様と一緒に共有する、知ってもらう、自分たちも知る、という側面があると思います。そういう意味でとても重要な作品だと思いますし、それをミュージカルでお届けできるということがさらに僕にとっては大事なことだと思います。
僕は井上ひさしさんの作品が好きなのですが、井上さんも作品の中で過去に起きたことをどうやって演劇というエンターテインメントとして届けるかということをやっていて。「劇場はユートピアだから、その一瞬だけでも夢を見るゆりかごだ」と井上さんはおっしゃっていたんです。この作品で最後にターテが見る夢は理想郷かもしれないけれど、そのイメージをしっかり持って進んでいかないと大変なことになるんじゃないかなと僕は思います。とても意味のある大事な素敵な作品だと思いますので、ひとりでも多くの方に観ていただきたいです。
石丸:私の演じるターテという役は、僕にはすごくチャップリンと被るんですね。チャップリンは映画を世の中に普及させていった人。ターテもパラパラのムービーブックから映画作りに入り、映画というものを使いながら世の中に出ていった人。100年くらい前に起きたことですが、すごく身近に感じております。そして今やAIが世の中を席巻してきています。当時の人が新しいものに翻弄されながらそれを乗り越えたように、我々もまた乗り越えなくちゃいけない。どうやって乗り越えるのか、どんな夢を持ってどうやって闘うのか、そんなことをこの作品で提示していくと思うんです。ですから他人事では全然なくて、世の中で起きていることにすごく向き合った作品です。それを今みなさまに投げかける社会派ミュージカルだと思います。その辺りもどうぞご期待ください。
藤田:今日のこの会見での御三方が優しい雰囲気に溢れていて、僕は本当にリスペクトしているんです。たくさんのカンパニーメンバーと一緒に良い作品を作っていきたいと思います。お互いに尊敬し合える、すごく素敵なみなさんと出会うことができました。確かにこの作品は分断というのが大きなテーマです。でもそれ以上に、音楽の歓びや他者とものを作る歓びもある。ターテは映画監督なので、映画の向こう側には観客がいるわけですよね。それが今回の劇場のお客様とシンクロしていくというのが、この作品の最終着地点なんじゃないかなと思っております。分断だけではなく歓びを描いた作品を、このカンパニーで作れることをとても幸せに思いますし、劇場でたくさんの素敵なお客様にお会いできることを待っております。
(左から)藤田俊太郎、井上芳雄、石丸幹二、安蘭けい
東京公演は日生劇場にて9月9日(土)〜9月30日(土)、その後は大阪公演、愛知公演と続き、10月15日(日)に愛知県芸術劇場 大ホールにて大千秋楽を迎える予定だ。
取材・文・撮影=松村 蘭(らんねえ)
公演情報
<東京公演>
日程:2023年9月9日(土)~30日(土)
会場:日生劇場
日程:2023年9月12日(火)
会場:日生劇場(東京都)
開演:17:45~
先着★【手数料0円】<9>座席選択販売
受付期間:2023/7/22(土)11:00~2023/9/12(火)17:45
日程:2023年9月16日(土)
会場:日生劇場(東京都)
開演:12:45~
先着★【手数料0円】<9>座席選択販売
受付期間:2023/7/22(土)11:00~2023/9/16(土)12:45
日程:2023年9月28日(木)
会場:日生劇場(東京都)
開演:12:45~
先着★【手数料0円】<9>座席選択販売
受付期間:2023/7/22(土)11:00~2023/9/28(木)12:45
会場:梅田芸術劇場 メインホール
日程:2023年10月6日(金)
会場:梅田芸術劇場 メインホール(大阪府)
開演:12:30~
先着★【手数料0円・座席選択】一般発売
受付期間:2023/7/22(土)10:00~2023/10/6(金)12:30
日程:2023年10月14日(土)~15日(日)
会場:愛知芸術劇場 大ホール
石丸幹二/ターテ
井上芳雄/コールハウス・ウォーカー・Jr
安蘭けい/マザー
遥海/サラ
川口竜也/ファーザー
東 啓介/ヤンガーブラザー
土井ケイト/エマ・ゴールドマン
綺咲愛里/イヴリン・ネズビット
舘形比呂一/ハリー・フーディーニ
畠中 洋/ヘンリー・フォード&グランドファーザー
EXILE NESMITH/ブッカー・T・ワシントン
新川將人 塚本 直 木暮真一郎
井上一馬、井上真由子、尾関晃輔、小西のりゆき、斎藤准一郎、Sarry、中嶋紗希
原田真絢、般若愛実、藤咲みどり、古川隼大、水島 渓、水野貴以、山野靖博
生田志守葉 嘉村咲良/リトルガール(Wキャスト)
平山正剛 船橋碧士/リトルコールハウス(Wキャスト)
スタッフ
脚本:テレンス・マクナリー
歌詞:リン・アレンズ
音楽:スティーヴン・フラハティ
翻訳:小田島恒志
訳詞:竜 真知子
演出:藤田俊太郎
振付:エイマン・フォーリー
美術:松井るみ
照明:勝柴次朗
衣裳:前田文子
音響:大野美由紀
ヘアメイク:柴崎尚子
映像:横山 翼
指揮:田邉賀一
歌唱指導:YUKA
演出助手:守屋由貴/寺崎秀臣
舞台監督:倉科史典
プロデューサー:小嶋麻倫子/塚田淳一/江尻礼次朗
製作:東宝
公式作品 HP http://tohostage.com/ragtime