台風、地震、飛行機事故からの緊急脱出が体験できる『サバイバル』展開催中ーー気象予報士の片平敦に直撃、防災は「先手を打ったら損はせんて」
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気象予報士/防災士の片平敦
子どもたちに大人気の学習漫画『科学漫画サバイバル』シリーズの世界を体験できるイベント『「科学漫画サバイバル」シリーズ 絶体絶命!? キミたちのサバイバル』が9月3日(日)まで、大阪南港のATCホールにて開催中だ。身近におこりうる災害、ジャングルに果ては宇宙まで、全シリーズから10タイトルの世界観を再現した体験型展示を展開している。7月22日(土)にはイベント開催を記念して、関西テレビ『newsランナー』などのテレビ番組を中心に、気象解説者として活躍する、気象予報士で防災士の片平敦の講演会が開催された。イベントにも登場する「台風」「防災」についてのサバイバル知識はもちろん、気象情報を知ることや防災知識を高めることの大切さなど、会場に集まった子どもたちにわかりやすく丁寧に、ときおり得意のダジャレを交えながら話をしてくれた。講演後、SPICE編集部が片平を突撃取材! 気象予報士/防災士のお仕事について、そしてイベントの楽しみ方について教えてもらった。(小学生の体験レポートはこちら)
――今回の特別講演会では気象予報士/防災士として、関西を中心に過去に発生した天候による災害についての情報や対策法を、わかりやすく解説していただきました。幼稚園から小学生まで、幅広い年齢の子どもたちが集まっていましたが、みんな真剣な表情で聞き入っていましたね。雲はどうやったら発生するのか、目の前で実験を行うと、会場がわっと盛り上がったりして。
1時間の講演会は子どもにとっては長く感じてしまいますし、防災についての話は難しい内容もあるので、興味を持ってもらえるか心配でした。
――被災地の様子など、写真とはいえ実際に目の前にすると怖がってしまう子もいますよね。
怖がらせすぎてもよくないですからね。防災については明るく話を伝えたいし、楽しく勉強もしたい。でも、実際にこういうことが起きたんだよと、締めるところはきちんと締めないといけない。加減が難しいところです。でも、楽しく聞いてもらえたようで安心しました。
炭酸飲料のペットボトルと炭酸キーパー、アルコールで雲を作れる実験
――講演会には「お天気が好きだ」という子どももいました。いつか気象予報士になって、片平さんと一緒に活躍する日が来るかもしれないですね。
将来、関西テレビに来てくれたらいいですね。いま、お昼の番組で天気予報を一緒に担当している浅田(麻実)さんという気象予報士や、関西テレビ新人アナウンサーの橋本(和花子)さんから「小学生の頃から観ていました」、「物心ついたときには片平さんのことをテレビで観ていました」と言われちゃって。「嘘やろー」と思ったんですけど、彼女たちが幼少期の頃には僕は気象予報士としてすでに活動していたんですよね。
――気象予報士として19年以上も活躍されているのですよね。関西に住む人からすると、片平さんは「おなじみの顔」です。子どもたちにとっても、片平さんは「お天気を教えてくれるテレビの人」という印象があるのかなと思います。片平さんは気象予報士としての肩書のほかに、防災士という資格もお持ちですが、それぞれ、どんなお仕事をしているのか、教えていただけますか。
気象予報士は気象庁という国の機関が認めている国家資格のひとつで、天気予報を独自に発表しても良いですよ、というものです。独自で「明日はこんなお天気になります」という情報を人に伝えられるくらいの知識があり、天気について詳しく理解しているというのが気象予報士です。一方防災士は元々は地域の防災リーダーを増やす目的のために作られた民間の資格です。気象予報士は天気予報を駆使して人の命を守る。天気に限らず、地震や火山、いろんな災害があるなかで、自分自身はもちろん、家族や地域の人を守るためにどう行動するのか。それを勉強し、理解していることを認定したものが防災士という資格です。
――気象予報士は合格率が一桁台という、超難関の国家資格ですよね。そんな気象予報士になる夢を幼稚園の頃から抱いていたとか。
ずっと空ばかり見ていましたからね、変な子どもやと思いますよね(笑)。僕の両親に聞いても、「何で空ばっかり見ていたのかわからない」と言われますし、両親が天気にまつわる仕事をしているわけでもない。物心がついたときにはすでに、将来は天気予報のおじさんになるんだと思っていたので、両親からは「大丈夫か?」と言われるくらいでした(笑)。図鑑が好きな子と同じなんですよ。晴れや曇り、いろんな種類の天候があることが面白い。気象予報士になりたいと思った根底は「天気が大好き」ということなのです。あと、しゃべくりが大好き。高校生の頃は天文気象部と放送部を掛け持ちしていたくらいで、気象予報士の仕事は自分にぴったりだったんだと、つくづく思います。
――まさに天職ですね。今回、片平さんが参加された『絶体絶命!? キミたちのサバイバル』のテーマは「サバイバル」。子どもたちに大人気の学習漫画『科学漫画サバイバル』シリーズの世界を体験できるイベントですが、実際に書籍は読まれましたか?
はい。すごく良い本だなと思いました。大人がイメージするサバイバルは、無人島を脱出するような非日常のもの。そんなことはあり得ないよねと思うことが多いかもしれませんが、実は身の回りには命を奪われるかもしれない現象がいくつも転がっているのです。その現象から生き抜くための手段はとても大事なこと。防災に関していうと「地震」であれば、タンスの上に突っ張り棒を設置しようとか、エレベーターに乗っているときに地震に遭ってしまったら、全部の階のボタンを押したらいいとか。ちょっとした知恵で助かることが多いはずです。サバイバルは非日常ではなくて、身近に使えることも多いんじゃないかなと思いますね。
――大人でも参考になる知識や情報がたっぷり詰まっていますよね。国内だけでも1,350万部を超える大ベストセラーで、小学校や学童の図書館にも設置されているそうです。楽しみながら読めるマンガということもあり、シリーズを読破している子どもも多いとか。大人よりもサバイバルの知識が豊富な子もいるかもしれないですね。
僕が参加する防災にまつわる講演会のなかには、子ども向けのイベントもあります。そこで一番大切なのは「楽しむ」こと。このシリーズもそうですが、読みやすかったり、参加しやすかったりすることが大事なんですよ。うちの子どもも、小学校で今回のイベントのチラシが配布されたらしく、クラスのみんなで行こうよと話をしていたらしく「パパ行かない?」とつい先日も誘われました。大人も含め、子どもが行きたい! と思わせることが大事。「防災」という言葉だけを聞くと、勉強をする場所かなと身構えてしまうけど、今回のような人気作品にまつわるイベント、しかも体験型となると、楽しんで行けると思うのです。大人も、子どもと一緒になって楽しみながら命を守るサバイバルや防災の技術や知識を身に着けられる。防災士としてこんなにも嬉しいことはないですね。
「飛行機のサバイバル」の様子(SPICE体験レポートから引用)
――今回のイベントには、全シリーズから10タイトルの世界観を再現した体験型展示が出現しています。片平さんも実際に体験されたのですよね。オススメの展示はありましたか?
個人的には「飛行機のサバイバル」がとても良かったですね。飛行機からの緊急脱出は普段なら絶対に体験できないものだし、遭遇してはいけないですからね。実際に体験できる機会もそうそうないものなので、楽しみながら体験しちゃいました。
――確かに、飛行機からの緊急脱出は実際には体験したくないことですよね。公園の滑り台とは異なる、身を守るための滑り方があるんだと知れるだけでも良い経験になります。
「台風のサバイバル」での強風体験も良かったですね。風速の大きさにはドキっとしますし、実際にどれくらいの風が吹くかは体感によって違ってくる。遊びながらでも、台風は危ない現象なんだということを知り、それがキッカケになって学校の図書室で調べものをしたり、僕がテレビで台風に関するお話をしたときに「あのイベントで聞いたことのある話だな」と、防災について考える第一歩になってくれればと思います。今日の講演会についても、話の中身を全部覚えていなくてもいいんです。片平さんという天気予報のおじさんが喋ってて、イベントが楽しかったなーくらいでいい。それをキッカケにして、一歩二歩と進んでもらえたら嬉しいですね。
片平敦
――会場では体験型展示のほかに、サバイバルや防災にまつわる知識をまとめたパネルや、偉人やヒーローたちのサバイバルエピソードを紹介するエリアなどもあります。大人もためになる展示も数多く、防災袋にまつわる展示ではパズル形式で袋に何をどの順番で入れるかを考えたり。大人でも知らないことが多く、思わず「へー」と唸る展示もありました。
あの展示はとても良かったですね。講演会では、災害から命を守るために「先手を打ったら損はせんて」とダジャレでお話をしていましたが、災害をイメージする力というのが防災においてはすごく大事なことです。大雨のときに「警戒レベル」という言葉をテレビの天気予報などで聞くことがありますよね? 警戒レベル4は「対象地域住民のうち危険な場所にいる人は全員避難」となりますが、自分がどう行動すべきかは、住む場所や家族形態によって人それぞれ。そして、防災袋の中身も人それぞれです。どんな防災袋を準備し、どこに避難するのか、悩むことも多いと思います。今回のイベントはすべて体験型なので、実際に体験することで自分ならどうすべきか、より具体的に動くことができる。事前の体験ができることは防災においてすごく重要なことなんですよ。
――いざというときに身動きひとつ取れない可能性だって十分にあり得ますよね。
実は僕は市民ランナーの端くれでもあるのですが、市民ランナーの方たちの中で「走った距離は嘘をつかない」という言葉があるんです。それは、いっぱい練習すればその分成果がでるという意味と、ちゃんと練習しないとうまく走れないよという、2つの意味があると僕は思っています。防災も同じ。ちゃんと練習しておかないと、練習以上のことはできません。避難訓練や防災袋も、実際に避難所に歩いてみたり、袋を背負って重さを確かめてみることはとても大切なことです。
――子どものうちから体験することも大事ですね。
防災について、きちんと子どもに伝えられる大人は果たしてどれだけいるのでしょうか。会場ではサバイバルにまつわるエピソードや重要な点をまとめたパネルも展示されています。僕自身もそうですけど、イベントに足を運ぶことで大人も勉強になるし、家に帰ってからでも子どもに説明することができる。防災関連のインタビューなどで時折、「片平さんは防災で大事なことは何だと思いますか」という質問をいただきます。それはやっぱり「教育」だと思うのです。今の子どもたちがみんな防災のことを当たり前に考え、親になったときに、また子どもたちに教えることができる。僕たちの世代は、阪神淡路大震災や東日本大震災もあったし、ここ数年では大きな台風や大雨被害もあったけれど、残念ながら防災について子どもに教えられる世代ではありません。カリキュラム的にちゃんと教わってないんですよ。だからこそ、こういうイベントで足りない部分を補う。あと、小学生にとっては夏休みの自由研究にもぴったりだと思います。
「新型ウイルスのサバイバル」の様子(SPICE体験レポートから引用)
――イベントでは「飛行機」「地震」「宇宙」など、10のテーマの体験型展示が楽しめます。自由研究にもってこいのテーマもたくさんありますよね。
自由研究は本を読んでまとめることも大事ですけど、その本に基づいたイベントがあって、それを体験しましたとレポートできるのはとても良い自由研究になると思いますよ。ちょうど、うちの子も自由研究がスタートするので、今回のイベントはぴったりなんです。
――どのテーマを取り上げようか悩むくらい、たくさんの展示がありますね。
このイベントで良いなと思うのが「ちょっと考える」ことの多い展示。防災袋の例えだと、何を入れて、どの順番で袋に入れたらいいのか。誰かに教えてもらうだけじゃない、どれが正解かを子どもに考えさせる流れがうまくできていますよね。
――当日は思いっきり楽しんで、お家に帰ったら家族と話をしたり、自由研究に活かしたり。プラスワンモアがあるイベントになりそうですね。
正直、今回のイベントは子どもにとっては楽しいけれど、親御さんは自宅に帰ってからが大変かもしれません(笑)。「防災袋を作らないと!」「ハザードマップを見せて」とか言われたりするかもしれないですね。
防災袋に関する展示(SPICE体験レポートから引用)
――大人にも宿題がありそうです。
テレビでもお伝えしているのですが、ハザードマップを確認したり、防災袋を作るときはお子さんを巻き込んで行動していただきたいです。子どもが関心を持つと、お父さんやお母さんだけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんも家族一緒になって動くことができます。ハザードマップもインターネットで見ることができますが、出来ることなら紙に出力したものをテーブルに並べて「ここが自宅だね、ここが学校だね」と確認しあう。小学校3年生にもなると地図記号を授業で学ぶようになるし、自分たちが住む街で地図を作ってみるのもオススメです。それが防災の切り口になれば。今回のイベントは防災について改めて考える、キッカケ作りになると思います。
――毎日の天気予報は「明日は洗濯物が干せるかな」「お出かけできるかな」と、気軽に見てしまいがちですが、きちんとした知識や情報を持っていると、いざという時に役立つ。サバイバルできるものなんだと知ることができますね。
実は天気予報の使命は人の命を守ることです。僕は「天気の町医者になりたい」と日頃から言っていて。自分が住む地域、目に見える範囲の近畿地方だけになってしまいますが、そこに住む人たちに災害から命を守ってもらう。普段は町医者として、「通りがかりにダジャレばっかり言う先生や」くらいでいい。でも、いざという時はそこに駆けこんだら命を守ってあげられる役割になれたらいいなと思っています。そのためにも普段から信頼がないといけない。ダジャレは好きで言ってはいるのですが、ダジャレを言うことでみんなに興味を持ってもらえたらと思っています。
片平さん、ダジャレを練りだし中……
――ダジャレも「防災」へのキッカケ作りのひとつなのですね。では最後に、今回のイベントをダジャレを使ってオススメしてください!
う~ん……。一番シンプルなのは「このイベント、天気についての展示もあるので、人生の転機にしてくださいね」というのがまずひとつ。
――まだイケますか!? すごいスピードでダジャレが出てくることに驚きました……!
9年以上、毎日番組でダジャレを言い続けているんでね(笑)。ダジャレがふわっと頭の中に降りてくるんですよ。会場のある「南港」でもイケそうな気がします。……あ!! 「南港に行けば、自由研究の課題はなんこうでもいけますよ」。
――さすがです! ありがとうございました。
片平敦
取材・文=黒田奈保子 撮影=川井美波(SPICE編集部)
イベント情報
会 場:大阪南港ATCホール(大阪市住之江区南港北2-1-10)
開場時間: 9:30〜16:30(最終入場は16:00まで)
主 催:キミたちのサバイバル実行委員会
企画制作:ドリームスタジオ
後 援:大阪市、大阪市教育委員会、堺市教育委員会、大阪市私立保育連盟
特別協力:朝日新聞出版
入 場 料:一般1,800円(1,600円) 3歳〜中学生 900円(700円)
※2歳以下入場無料 ※()内は前売および20名以上の団体料金
※「障がい者手帳のご提示」により、「障がい者ご本人1名様及びその介助者1名の入場料」が当日料金より半額免除されます。
会場の当日券売場にて「身体障がい者手帳」「療育手帳」「精神障がい者保健福祉手帳」のいずれかをご提示ください。