倉持裕×向井理特別インタビューが公開 M&Oplaysプロデュース『リムジン』~2020年の公演中止から上演決定までの「3年間の変化」を語る
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撮影:渡部孝弘
2023年11月3日(金)~11月26日(日)本多劇場にて上演される、M&Oplaysプロデュース『リムジン』。作・演出の倉持裕と主演の向井理の特別インタビューが到着した。
本作は、主人公の男が自己保身のためについた一つの嘘が、次の嘘を呼び、逃げ場のないところまで追い詰められていく恐怖を、ブラックな笑いを交えて描くサスペンスとして、企画された倉持裕の新作。2020年コロナ禍で稽古前に全公演の中止が発表されたが、今回、キャストを変更することなく、満を持しての上演となる。
主演には向井理、ヒロイン役には水川あさみ。共演には小松和重、青木さやか、宍戸美和公、田村健太郎、田口トモロヲらが出演する。
――もとは2020年に上演予定だった本作が、3年の時を経ていよいよ動き出しました。
向井:コロナ禍で出演作品が流れたのは、自分にとってはこの作品が初めての経験でした。でも当時から中止ではなく延期という言葉を使わせていただき、いつかはやるだろうなという思いでいましたね。3年後の今、こうして動き始めたことには何かしらの意味があると思いたいですし、その気持ちをバネにして取り組めたらいいなと思っています。
倉持:そうですね、責任をやっと果たせるというような気持ちですかね。別に自分の都合で放り出したわけじゃないけど(笑)、「始めます」と皆に公言したことをやれなかったのは、やっぱりこの3年間ずっと引っかかっていましたから。と言っても、当時はまだ作品の構想段階にあって、台本の冒頭だけは書いたけれど、なかなか書き進められずにいました。美術の打ち合わせなどは進めていたけれど、はたして今、公演が出来るのか!?みたいな状況でしたからね。もともとの物語の構想は3年経とうが変わってはいないけれど、以前は出来事が目まぐるしく展開する話を考えていて、そこは少々変わったように思います。やっぱりこの3年間は、ささいな、何てことのない出来事が日常を構成していると実感する日々だったので、多くの出来事を積み重ねていくのではなく、一つ一つ、小さなことをじっくり描く作り方になるのではと思っています。
――一つの嘘が次の嘘を呼んで取り返しのつかない事態に発展し、追い詰められていく夫婦を描いたブラックコメディだそうですね。
倉持:魔が差して嘘をついてしまう、そこに至るまでの時間を以前考えていたよりもじっくり書きたいなと。夫がある人に対して謝れない、真相を打ち明けられない時に、奥さんが「早く打ち明けたほうがいいよ」と助言しておきながら、いざとなると奥さんのほうがブレてしまう、みたいなことが序盤で起こります。人の気持ちが揺らいでしまう、その移ろいを時間かけて書きたいと思っていますね。
向井:僕自身、割と日常を描いた物語が好きだというのもあるんですけど、人間ってそんなふうにいろんな面を持っていますよね。倉持さんの作品ってエンタメの極致のようなテイストもあれば、こういった緻密な会話劇で構成する世界もあって、振り幅の大きい劇作家さんであることは存じ上げていました。今回は、日常生活の中でどんな非日常が生まれていくのか、そこがすごく楽しみです。会話劇って、始まってしまえばもう演者に委ねるしかないところがあると思うんですね。そのヒリヒリした感覚というのは日常を描いた劇だからこそ味わえるもので、本多劇場でやる意味もそこにあると思っています。舞台と客席の距離が近い緊密な空間だからこそ、そのヒリヒリ感もお客さんに伝わるんじゃないかなと。毎回毎回を新鮮に、生々しいリアクションを大事にしていけば、お客さんを巻き込んでいける良い作品に出来るのではと思っています。
撮影:渡部孝弘
――今回の企画は、向井さんが倉持さんとの作品づくりを熱望されて始まったと伺っています。
向井:倉持さんの作品をいくつか拝見して来て、本当に真逆の世界観があるなと感じています。鎌塚氏シリーズのようにポップな世界観の中に結構な毒が潜んでいたり、エンタメの中にちゃんとシリアスが含まれていたり、良い人そうに見えてドス黒い部分があったり(笑)。僕は倉持さんの作品の、そういう相反するものが共存しているところが好きなんです。そこは稽古をしていく中で、演者がつかんでいかなければいけない部分だなと。激しいアクションで汗をかくような芝居じゃなくても、どこか冷や汗をかいているような芝居、それを観て面白いと感じるのは、ある意味、演者が傷ついているからなんですよね。やるからには簡単に出来ることはやりたくない、難しいことをやっていきたいので。そういったハードルの高い芝居を倉持さんとやりたい、ずっとそう思っていたんです。
倉持:そんなふうに思っていただけて嬉しいですね。自分でも、本当にバラバラなことをやっているなと自覚していまして。自分はこの色だ!と決めたほうがブランディングとしては正しいんだろうけど、かなり“来るものは拒まず”でやってきてるから(笑)。ま、意識的にやっていることではあるんですけど、俳優さんにそう見てもらえるのはすごく嬉しいです。向井君には、涼しい顔をしながら内側ではものすごく感情が波打っている、心臓が早鐘を打っているといったような、おっしゃるようにヒリヒリした役をやってもらいたかったんですよね。今回は、はっきりと向井君を想定しながら話を作っていきました。
――向井さんを想定して今回のストーリーが生まれたとすると、倉持さんは向井さんにどんな魅力を感じていらっしゃるのか、どんな姿を舞台で見たいと思っていらっしゃるのでしょうか。
倉持:見た目と同様に、演技に関してもすごくスマートだなという印象ですね。向井君が僕の作風に感じたことと似ているんですが、いろんな役をやるじゃないですか。シリアスも、コメディも、時代劇もやるから立ち回りもできるし。何でもソツなくこなす印象があるんですよ。
向井:そんなことないです(笑)。
倉持:そういう見た目も行動もスマートな、ソツなくこなす人間が、実は心臓をバクバクさせている。そんなキャラクターが絶対似合うだろうなと思ったので、実際今回はそういう役を書いています。田舎町を舞台にした話なんですけど、「お前は田舎にいる人間じゃないよね」と周りに思われていて、「そんなことないですよ」って言いながら、周りの期待する人間を、涼しい顔をして演じている。でも内心では反対の気持ちがずっと渦巻いている…、そういう役を書きたくなったんです。
向井:「嘘が嘘を呼ぶ」ってよく言いますけど、一歩進んじゃうともう後戻りできない、嘘をつき続けるしかなくなってきちゃう状況は、すごく理解できます。人間って、よく見せようという欲があるから嘘をつくわけで、それは誰もが持つ感情だから、観る人にとっては痛いんじゃないかなと思いますね。僕自身も幼少の頃は、「なぜあの時、本当のことを言って謝らなかったんだろう」ってことがよくありましたし。それが大人になると、すごく厄介なことになるんですよ。子供の嘘はまだ可愛いものだけど、大人の嘘は可愛いじゃ済まされないので(笑)。僕としても、それは一つの教訓として生きているつもりではありますね。
――妻の役を演じる水川あさみさんの印象や魅力についてお話いただけますか。
倉持:すごく朗らかでサバサバした人ですよね。姉御肌っぽくて強い印象もあるので、今回、向井君の奥さんの役をお願いしました。ようするに「嘘をつくぞ」となった時に夫を引っ張っていくパワーがある、それが似合うなと思いまして。水川さんは覚えていないと思うけど、実は彼女が18歳くらいの時に、あるドラマの台本を僕が書いているんですね。その時からいいなと、心惹かれていました。技巧的に演じるのではなく普段のまんまで演技に入る、そういう人だったので。今回こうしてまた一緒に仕事が出来るのは、感慨深いものがありますね。
向井:水川さんはあのまんま、本当に裏表がないんですよ。分からないことは「分からない」とちゃんと言うし、本当に正直に、役に向き合うというよりも人として向き合う、そういう人ですから。周りをしっかり見る人でもあるので、心強いですし、現場の空気を和ませてくれる人です。一緒にいろいろとクリエイティブなことが出来るんじゃないかなと楽しみにしています。
――最後に、『リムジン』の開幕を待つ観客の皆様へ一言、お願いします!
倉持:とても普通な人たちの“愚かさ”を描いた作品ですので、それを怖がってほしいですし、笑って、楽しんでほしいと思います。ぜひ期待していただきたいですね。
向井:こういう普通の日常を描いた会話劇というのは、僕としては動物園の檻の中にいるような気持ちなんです(笑)。そんなふうに、覗き穴から見るような感覚で見てもらえれば。見てはいけないものを見たい欲求、背徳感の混じった快楽、そんな誰しもが抱く感情を突きつける芝居が出来ればいいなと思っています。