日本映画専門チャンネル presents『×ソーゾーシー』座談会&公演レポート~ソーゾーシー(瀧川鯉八、春風亭昇々、玉川太福、立川吉笑)feat.又吉直樹
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(左から)玉川太福、瀧川鯉八、又吉直樹(ピース)、春風亭昇々、立川吉笑
<世界にはまだ見ていない風景があるはずなんだ>
東京の気温が夏に向かって本気を出し始めた2023年7月13日、瀧川鯉八(落語家)・春風亭昇々(落語家)・玉川太福(浪曲師)・立川吉笑(落語家)の4人による話芸ユニット「ソーゾーシー」と、芥川賞作家でもあるお笑い芸人・又吉直樹(ピース)による特別コラボレーション公演『×ソーゾーシー』が、深川江戸資料館 小劇場で開催された。
ソーゾーシーとは……「新作こそが、スタンダード」をキャッチフレーズに、2017年に結成された創作話芸ユニット。2年連続でクラウドファンディングを成功させて全国ツアーを敢行、ドキュメンタリー映画公開、ファーストCD「ソーゾーシー傑作選1」発売……と、古典を“正統派”とする世界に身を置きながらあえて “新作”にこだわり、めざましい活動で新たな地平を見せつつ、斬新な切り口の表現を更新し続けている集団だ。
今回の特別公演は、又吉がつくった自由律俳句(五・七・五のリズムで季語を使う定型俳句ではなく、自由なリズムで情景や心情を詠む俳句)を、4人が落語化&浪曲化する……というユニークな企画。
この記事では、公演直前に行った「ソーゾーシー」メンバーの座談会と、公演レポートをおくる。
■「×(カケル)」ことで最強のチームに~「ソーゾーシー」座談会
――このインタビューは、特別公演『×ソーゾーシー』開演直前に行っています。この後いよいよ、又吉直樹さんが「そうぞうしい」をテーマにつくった自由律俳句をもとに、皆さんが落語化&浪曲化した新作を作者本人の前で披露するわけですが……現時点での手応えはいかがですか?
鯉八 自由律俳句で新作をつくるなんてもちろん初めてですし、又吉さんの俳句は、すでにそれだけで完成された世界なんです。これをいかに落語で膨らませられるか……難しくもあり、楽しい経験になりそうです。
昇々 鯉八兄さんが言うように、又吉さんの世界を崩したくはないし、ただ取り入れてもつまらない。「×(カケル)」ことで自分の色を出さないと意味がないですもんね。確かにそのバランス感は悩みました。
吉笑 いただいた自由律俳句の1行だけで、すでにネタとして見事に成立しているんですよ。僕もお二人が言うように「少しでも又吉さんのイメージの外側にいけたら」という思いで内容を構想したつもりです。
太福 僕は「まず又吉さんがお好きな漫画とか小説を掘り下げてみよう!」なんて思って、いろいろな資料に手を出し始めてしまったんですよ。そこでかなり時間をロスしてしまって(笑)。今日の12時半に全体が完成しました。
――粘りましたね!
太福 ギリギリグセは良くないですよねぇ。しかも浪曲は三味線との掛け合いで成立させる芸ですから、おかみさん(三味線の玉川みね子)に申し訳なくて……。今日もぶっつけ本番です。まあ15年のパートナーなんで甘えさせてもらっています。ぜひ浪曲の曲師のすごさも感じてください!
――おお、まさにライブセッション。新作ネタ下ろしはいわゆる初演。誕生の瞬間を共有できる観客にとって嬉しい体験ですが、演者にとっては緊張感あるヒリつく日でもあります。
昇々 無事にウケれば自分たちも幸せですけどね〜(笑)。僕は台本を仕上げてから、めちゃくちゃ稽古するタイプなんです。何度も稽古するうちに頭が痛くなるぐらい脳が沸騰してくるんですよ。これはネタ下ろしだけの感覚ですね。
吉笑 僕はネタ下ろしではいつも、大まかな構成と話の分岐点だけを頭に入れて高座に上がるんです。お客さんの前で初めて台詞になっていくので、どう転がっていくかはいつも未知数。高座で喋ってみないとわからないんです。
昇々 天才なんですよ、吉笑君は。僕なんて台本通りにきちんと覚えて、頭で台本をめくりながら喋りますから。
鯉八 台本をつくるなんてね、凡才の仕事ですよ(一同笑)。昇々君は今日までに何回稽古したの?
昇々 20回はやりました!
太福 鯉八兄さんは何回したんですか?
鯉八 ちょっと少なくて44回だね。そりゃ台本もつくるし、超稽古するよ、凡才だから! いつもは“対お客様”に専念するけど、今回は収録もあって、又吉さんもいらして、何重ものプレッシャーじゃないですか。新作を考えている時も、稽古中も、「又吉さんに褒められたい」という邪念が何度もよぎるんです。まずそれを消すまで1週間はかかりました。
太福 現時点でその邪念、消えたんですか?
鯉八 消えました。今日がベストの状態です!(一同笑)
太福 今日のトップバッターは昇々さんじゃないですか? いつも戦場に真っ先に切り込んでくれる頼もしいリーダーですよ。
昇々 いつも自分は「死んでもいい」と思ってやってるんで(一同笑)。でも、独演会で盛り上げられなかったら全部自分の責任だけど、ソーゾーシーは責任も4分割だから。僕もみんなに助けられています。
鯉八 いや、ソーゾーシーは昇々君の情熱に引っ張ってもらっているんだよ。落語家って “カッコつけ”な部分があって、努力するところを隠すじゃない? でも昇々君は「がむしゃらでカッコ悪いところをあえて見せる、それが一番カッコいいんだ」ってスタンスだから。
太福 いわばソーゾーシーの魂ですよね。
昇々 「カッコ悪いことをやることが、カッコいい」っていうのが……僕の自由律俳句なんです。
(メンバーしばし無言で昇々を見つめる)
鯉八 ほらね、カッコ悪いことをカッコ悪くやる人なんですよ。それが周囲にはカッコ悪く映るんです(一同笑)。
太福 なんの補足ですか?(笑)
鯉八 いやいや、ここにこそ昇々くんの美しさがあるんだよ! メンバーそれぞれの戦力チャートがあったらさ、おそらく全員がイビツな形じゃないですか。でも4人を「×(カケル)」ことで、僕たちも「最強の高校野球チーム」になれるんです。
吉笑 高校野球……。
鯉八 今日は大いに「僕たちこそが最前線だ」ってことを示しましょう!
――(笑)では最後に本日トリの吉笑さんから、締めのコメントをお願いします。
吉笑 とにかく又吉さんから受け取った自由律俳句自体が、めちゃくちゃいろんなイメージを想起させる作品になっています。僕たちの新作を楽しんでいただきたいのはもちろんですが、お客様の中で「自分はこの句から、こういうことを想像する」なんて広がりも生まれると思うんですよ。皆さんに、新しい感覚を提供できるような会を目指し、頑張るのみです!
『×(カケル)ソーゾーシー』舞台写真
■自由律俳句と話芸、コトバで広がる新たな世界
『×(カケル)ソーゾーシー』が開催されたのは7月13日、深川江戸資料館。スペシャルな顔合わせに
いよいよ開演。新作ネタ下ろしのもとになるのは又吉が「そうぞうしい」をテーマに詠んだ自由律俳句だ。お互いどんな句をもとにしたかは、最後、又吉を舞台に迎えてのトークで明かされる。つまり観客は俳句の内容を知らずに、まずはまっさらな気持ちで新作を聴く趣向となっている。
『×(カケル)ソーゾーシー』舞台写真
トップバッターは昇々による『一族』。コンプレックスをこじらせ、エキセントリックな言動を繰り広げる男が主人公の物語は、“どうかしてる”が大爆走。狂気みなぎる昇々らしさ炸裂の1席に。冒頭から舞台と客席がすっかり一体化してドライブしていく。
お次に登場したのは太福(&曲師みね子)による『ベランダの母』。手に汗握る任侠物のようなドラマチックな展開、挟まれる深いサウナ愛(太福はサウナ大好き)……高血圧な登場人物が繰り広げる、味が濃い目の浪曲で場内はさらにヒートアップ。
鯉八『いちについて』は村の運動会をモチーフにした、エネルギッシュかつノスタルジックかつダイナミックな一席。得体のしれない奇祭のような、不思議な生命力が横溢する、異才・鯉八ワールドに、客席がギュインギュイン揺れた!
そして最後は、真打トライアルに挑むなど、ますます大躍進中の吉笑による『霊か楼か』。持ち前のワードセンスと発想力で、こちらの想像力もフル回転する新感覚の作品が爆誕。現代的な笑いがふんだんに織り込まれた、新作の会にふさわしいトリネタで締めくくった。
放送で初めてご覧になる方がおられるゆえ、俳句の内容とこれ以上の詳細が書けないのがもどかしいが、4人の挑戦と個性が併走する傑作揃いだったと記しておこう。又吉が詠んだ俳句も、ハッとする情景や心情を独特の洞察力で封じ込め、日常をユーモアある視点で切り取ったものばかり。自由律俳句と話芸、ミニマムな表現がお互いに乱反射して溶け合い、豊かな風景を“創造/想像”させる時間は、真剣に自由に、研ぎ澄まされたコトバと戯れ遊ぶパフォーマーたちによる、絶妙なリレーだった。
又吉を呼び込んでのアフタートークでは、いよいよ各ネタのもとになった俳句を発表。創作秘話で、それぞれの創意工夫を知る答え合わせのような時間も楽しい。M-1敗者復活戦での思い出など、又吉による俳句のバックストーリーも貴重で面白いエピソード満載。作者本人の「全く新しい表現を見る感覚がありましたし、僕自身、刺激をいただきました」というコメントに演者たちも安堵の表情を見せた。
筆者は偶然、2017年の「ソーゾーシー」結成前夜、新作について昇々リーダーにインタビューをしたことがある(「数日後に新しいユニットの初回打ち合わせ」と話していた)。その時に「世の中にすでにあるものを信じちゃうと、新しい表現は生まれないですから」とサラリと語った言葉が、この日、彼らの中に今でもイキイキと息づいているように感じられた。話芸の可能性は無限だし、世界にはまだ見ていない風景があるはずだ――そんな高揚感を胸に、足取り軽く会場をあとにした。
『×(カケル)ソーゾーシー』舞台写真
取材・文=川添史子