ウクライナ国立バレエが年末年始に来日し、日本初演『雪の女王』ほか3演目を披露【記者会見レポート】
(左から)ニキータ・スハルコフ、寺田宜弘、アナスタシア・シェフチェンコ、カテリーナ・ミクルーハ
戦禍にあるウクライナの首都キーウを拠点とするウクライナ国立バレエ(旧称キエフ・バレエ)が来日し2023年12月23日(土)~2024年1月14日(日)全国9都市10箇所で17公演を開催する。上演演目は『雪の女王』『ジゼル』『ドン・キホーテ』という全幕バレエ3作品。さる2023年7月~8月に催された夏の日本ツアーに主演したダンサーたちが冬公演でも各演目に主演する予定だ。8月に行われた記者会見の模様とともに冬公演の見どころを紹介する。
■ウクライナ国立バレエは「平和の日が来ることを祈りながら踊る」
2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、今なお戦争は続く。団員のなかには海外へ逃れた者もいるが、首都キーウに戻った人が多い。長年旧キエフ・バレエで踊り、昨年12月から芸術監督を務める寺田宜弘は、戦禍において監督に就任したことについて「名誉なことでもあり、重いことなんですね。125名の(団員の)人生、命を預かっていかないといけないんです」と語る。「私たちが戦う場所は舞台の上なんですね。素晴らしい芸術の力で1日も早くウクライナに平和の日が来ることを祈りながら私たちは毎日踊っています」と現在の心境を明かす。
寺田宜弘
ニキータ・スハルコフ(プリンシパル)は「毎週空襲警報が鳴り響いていますが、私たちの劇場は通常通りの仕事をして、毎週数回の公演も行っています。それが私たちの使命だと感じています。ウクライナの文化を、バレエを守らなければいけないという使命感です」と述べた。
ニキータ・スハルコフ
アナスタシア・シェフチェンコ(プリンシパル)も「観客に喜びをあたえ、芸術の力で少しでも皆さんの気持ちをよくさせるように一生懸命務めています」と続ける。
アナスタシア・シェフチェンコ
18歳の新星カテリーナ・ミクルーハ(ソリスト)は、「踊っているときは気が晴れて、周りのことを考えずにバレエに集中できます。それが私の支えになっています」と話す。
カテリーナ・ミクルーハ
■2022年夏以降続く"奇跡"の日本公演
戦争開始から約5か月後の昨年2022年7月~8月、ウクライナ国立バレエが戦争開始後初の海外公演を行ったのが日本だった。寺田は「歴史に残る公演だった」と振り返る。それに続く昨年の冬の日本公演には、オーケストラや歌手を含め約180人が来日した。戦争のなかでの来日を「奇跡だと思うんですね」と寺田は述べたが、今年2023年の年末年始にも再び"奇跡"が起こる。
ウクライナ国立バレエ (旧キエフ・バレエ) 「Thanks Gala 2023」ゲネプロ
今回の冬の日本公演には、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団も来日し、バレエ公演の演奏に加えてオーケストラのコンサート(「クリスマス・スペシャル・クラシックス」「第九&運命」)を東京近郊で5公演を開催する。バレエ公演とオーケストラ公演を合わせて計22公演。キーウから来日するのは、バレエ団約50名、指揮者ほか歌手ソリスト含むオーケストラ約60名、そのほかスタッフなども合わせて総勢約130名の大所帯になるという。
ウクライナ国立バレエ (旧キエフ・バレエ) 「Thanks Gala 2023」より『ファイブ・タンゴ』
■待望の日本初演『雪の女王』は、子供も大人も楽しめるファンタジー!
今冬上演される三演目のなかでまず注目されるのが、日本初演の『雪の女王』である。『雪の女王』は、2016年に制作されたウクライナ国立バレエのオリジナル作品で、アンデルセン童話を基に当時の芸術監督で2019年に急逝したアニコ・レフヴィアシヴィリが振付した。音楽はヨハン・シュトラウスほか、グリーグやマスカーニなどの作曲家の楽曲を使用している。三演目すべてに主演するスハルコフは『雪の女王』について「家族みんなで楽しめる演目です」と胸を張る。子供たちだけでなく大人も楽しめる色彩感豊かなファンタジーだ。
ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『雪の女王』
シェフチェンコは『雪の女王』の表題役の初演者。「非常に華やかでカラフルな作品です。ニキータさんがおっしゃったように家族で楽しめる、どの年齢でも楽しめる演目です。演出がとてもおもしろく工夫されています。舞台の飾りがきれいで、そこも見どころです」と紹介する。ちなみにシェフチェンコによれば、ギリシャのアテネで上演した際も大入りで好評だったという。
【3分でわかる!】ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)「雪の女王」あらすじ
ロマンティック・バレエの最高峰と称えられる『ジゼル』も話題だ。ウクライナ国立バレエでは、日本から劇場に贈られた義援金によりジョン・ノイマイヤー振付『スプリング・アンド・フォール』、ハンス・ファン・マーネン振付『ファイブ・タンゴ』という現代作品を新たに導入したのに加え、『ジゼル』を新制作し日本で初披露する。永遠の愛と死の物語をドラマティックに描いた名作を堪能したい。そして、『ドン・キホーテ』は昨冬の日本公演で評判を呼んだため再び上演される運びとなった。スペインを舞台にした陽気な喜劇で、主役や闘牛士らによる華やかな超絶技巧も満載で楽しめる。
ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ジゼル』
『ジゼル』と『ドン・キホーテ』に主演するミクルーハは、注目してもらいたい点を問われ「主役を演じるのはとても責任のあることですが、責任感に負けずに私自身も十分楽しみたいです。日本の観客の皆さんは温かく観てくださっていると感じるので、それに応えたいです。注目してほしいのは演目全体ですが、踊っている私たちのエネルギーや感情がどれだけ伝わるかがポイントだと思います」と応じた。
ウクライナ国立バレエ(旧キエフ・バレエ)『ドン・キホーテ』
■「ウクライナの芸術を、今まで以上に世界へ」寺田宜弘の熱い想い
劇場の未来を聞かれた寺田は、こう述べた。「戦争中ですが、団員一同一つになって素晴らしいウクライナの芸術を今まで以上に世界の人に観ていただくのが今の私の大きな夢でもあります。夏と冬の2回、日本で公演できることは喜ばしく、団員たちにとって夢のようです。日本公演を今まで以上に大事にしていきたい。そして、ウクライナに残っている団員たちは10代、20代と非常に若いですが、自分の国・自分の文化を愛しています。若く素晴らしい団員たちは、ウクライナの芸術を次の世代へと守ってくれる。そう思っています」。
寺田宜弘
困難な状況のなか、国内外で活動を続け、ウクライナの芸術を守り伝えていく――。きたる冬の日本公演では、ウクライナ国立バレエの今が詰まった珠玉のレパートリーに期待したい。
取材・文=高橋森彦 写真提供=光藍社
公演情報
『雪の女王』『ジゼル』『ドン・キホーテ』
■指揮:セルゲイ・ゴルブニチ ほか
■管弦楽:ウクライナ国立歌劇場管弦楽団(12/23、30、1/10、12、13、14公演を除く)、関西フィルハーモニー管弦楽団(1/14のみ)
●2023年12月23日(土)14:00 昌賢学園まえばしホール(前橋市民文化会館)大ホール
オリガ・ゴリッツァ、オレクサンドル・オメリチェンコ
●2023年12月24日(日)12:00 東京国際フォーラム ホールA
イローナ・クラフチェンコ、ニキータ・スハルコフ
●2023年12月26日(火)19:00 東京文化会館 大ホール
イローナ・クラフチェンコ、ニキータ・スハルコフ
●2023年12月27日(水)14:00 東京文化会館 大ホール
オリガ・ゴリッツァ、オレクサンドル・オメリチェンコ
●2023年12月30日(土)16:00 ウェスタ川越 大ホール
イローナ・クラフチェンコ、ニキータ・スハルコフ
●2024年1月6日(土)12:00 東京文化会館 大ホール
●2024年1月6日(土)16:00 東京文化会館 大ホール
●2024年1月3日(水)17:00 東京国際フォーラム ホールA
オリガ・ゴリッツァ&オレクサンドル・オメリチェンコ
■お問い合わせ:光藍社センター TEL 050-3776-6184(12:00~16:00 土日祝・年末年始休)
公演情報
■合唱指揮:清水敬一
●2023年12月30日(土)14:00 東京オペラシティ コンサートホール