「劇場はハレの場」歌舞伎座の支配人・千田学さんに聞くおすすめの歌舞伎座の過ごし方~服装や座席からの見え方も!
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歌舞伎座の正面入口。歌舞伎座の支配人・千田学さんにご案内いただきました。左は「千穐楽の歌舞伎座にいくならどんな服?」のリクエストに応えてくれたイープラス営業Hさん。
劇場やホールは行くけれど、歌舞伎座は一度も行ったことがない。気になる歌舞伎があるけれど、歌舞伎独自のルールが多そうでハードルを感じる。そのような方にも歌舞伎座での“芝居見物”を楽しんでいただけるよう、歌舞伎座の支配人・千田学さんにお話を伺いました。
「歌舞伎座での過ごし方は?」
「席からの見え方は?」
「歌舞伎座に行くときの服装は?」
以上の3点を中心にレポートします。
歌舞伎座で歌舞伎をみる、の基本の基本
歌舞伎座では年12か月、毎月20日間以上、歌舞伎を上演しています。上演作品は毎月変わります。昼夜二部制の月ならば昼と夜で、三部制ならば第一部、第二部、第三部で、それぞれ別の作品を見ることができます。
歌舞伎座の最寄り駅は、東京メトロ日比谷線・都営浅草線 東銀座駅です。3番出口は、歌舞伎座のビルの地下2階「木挽町広場」と直結しています。お弁当や飲みものをここで買っていくのもありです。入場口は、1階の正面にあります。
歌舞伎座の場外(入場前)にあるショッピングエリア。お弁当やお土産を購入できる他、カフェ、コンビニ、軽食を提供する歌舞伎茶屋も。
各階にバリアフリートイレ、自動販売機があり、地下1階、2階、3階にお化粧室があり、コインロッカーは地下1階と3階です。開演5分前に、一度ブザーが鳴ります。余裕をもって着席して開演を待ちます。
1階のバリアフリートイレは、ドリンクコーナーの右手奥。
イヤホンガイドは、お芝居の進行にあわせた同時解説を聞ける音声サービスです。予約なしでもレンタルできますが、事前予約がお得です。
歌舞伎座の公式の観劇マナーは、以下の通りです。場内のアナウンスでは、ビニールのカサカサという音などへの配慮も呼びかけられています。
歌舞伎座での観劇マナー。公式サイト「歌舞伎美人」より。
アガる気持ちは拍手にこめて
歌舞伎では、お芝居にあった絶妙な間合いで「大和屋!」「音羽屋!」といった大向う(おおむこう)がかかります。歌舞伎座の場合、現在も大向うの際はマスク着用を呼びかけているそうです。多くの場合は3階席から、歌舞伎に精通した大向うさんが声をかけ、舞台をいっそう盛り上げます。また客席では、お芝居の途中でも頻繁に拍手が起こります。自然発生的なもので「ここで拍手!」などのルールはありません。初めての方も、お目当ての俳優の登場や見せ場がキマった瞬間など、アガる気持ちを拍手に込めてお芝居を楽しんではいかがでしょうか。
幕間の過ごし方は?
歌舞伎では、休憩時間を「幕間(まくあい)」と呼びます。
「1日二部制の月も、三部制の月も、少なくとも1回は30分程度の幕間があります」(歌舞伎座支配人・千田学さん。以下同じ)
千田さんは1階の大間(エントランスホール)にある、1点の絵をご紹介くださいました。尾形月山の『暫』という昭和初期の作品です。江戸時代の芝居小屋が描かれています。
舞台ではお芝居が進行中。升席にはぎっしりお客様が描かれています。
江戸時代、芝居見物といえば1日がかりの娯楽でした。
「客席のお客様の表情まで大変細かく描かれています。お芝居に集中されている方もいれば、お食事やお酒を楽しまれている方もいます。現在は、お芝居の最中のお食事はご遠慮いただいていますが、やはり歌舞伎座にいらした日は、舞台はもちろん、お食事やお買い物なども含めて楽しんでいただけたらと思います」
「幕の内弁当」の語源は、「歌舞伎の幕と幕の間にいただくお弁当」だと言われています。持ち込みも可能ですし、客席やソファでお召し上がりいただけます。
そして場内にお食事を提供するサービスもあります。
3階日本料理「吉兆」。本店と同じ壁紙、設え。シネマ歌舞伎『廓文章 吉田屋』収録の片岡仁左衛門さんのインタビューはここで撮影されたそうです。
3階のレストラン「花籠」は自然光で明るい店内。観劇日2日前17時までにご予約を。
3階「花籠」のすぐそばに、すべての幕間でご利用いただけるバーカウンターも!
3階には、紅白の白玉入りのたい焼き「めでたい焼」。絶対に食べたい!という方は開場後すぐに3階でご予約を。
また歌舞伎座の中には、上村松園、鏑木清方、伊東深水、小林古径、東山魁夷など、近代の日本画家の作品が飾られています(定期的に絵画展示は入れ替えが行われています)。
「美術鑑賞がお好きな方には、館内の絵画も楽しんでいただけるように思います。“絵だけを見ることはできますか”とお問い合わせいただくこともありますが、お芝居で入場された方だけとさせていただいています。この機会にぜひご覧ください」
2階では、舞台写真のパネルなど、企画展示を行うことも。
歌舞伎座の舞台、どの座席からどう見えるか
「歌舞伎は値段が高そう」とは、よく言われます。「安い席もありますよ」というアドバイスもよく耳にします。実際、お手頃な3階A・B席から特別感のある桟敷席まで、価格にも見え方にも幅があります。ご参考までに、座席からの見え方をご紹介します。
※写真は、背もたれに深く座った状態で身長160㎝の目線の高さから撮影しました。
・1階は1等席、2等席、桟敷席
歌舞伎座 座席表(1階)
1階は、最前列中央の席からスタートします。
最前列の1階1列21番。右から千田支配人、かぶきにゃんたろう。 (C)2023 SANRIO/SHOCHIKU 著作 株式会社サンリオ
「これは近いですね!」と千田支配人。1列22番の三毛猫は、「かぶきにゃんたろう」。歌舞伎公式PR大使「歌舞伎にゃんバサダ―」として、2017年にサンリオのデザインにより誕生しました。
1列目センターはとにかく近いです。花道でのお芝居は、ややふり返った体勢で見ることになります。
①最前列中央(1階1列21番)からみた図。 提供:松竹
一般的に舞台に近く、全体をバランスの良く見渡せるのは、7~9列目辺りと言われています。前から順に、いろはに……と数え「とちり席」と呼ばれます。
②1階9列21番から。 提供:松竹
③1階16列21番。1階の1等席の中では一番後ろの列。 提供:松竹
1階1等席の中でも花道の外側は「花外(はなそと)」と呼ばれます。舞台に対して角度がつくので、正面に背の高い方が座った時にも比較的視野が確保される印象があります。
④1階16列6番。花道にも近くとても見やすい! 提供:松竹
「17列目以降は2等席です。通路を挟み客席が一段高くなっています。見やすい作りになっているんですよ」
⑤1階21列14番。二階席の真下に位置するので、視界にやや天井が入ります。それが気にならなければお得な席です。 提供:松竹
そして東西(左右)の壁側に並ぶのが桟敷席です。2席ごとに区切られた“こあがり”となっています。履き物を脱いで上がり、足をおろして観劇できます。舞台や花道の俳優と目線の高さが近くなるため、最前列センターとはまた違った近さを感じます。もはや舞台上にいるような感覚。1階の桟敷席だけは、事前にお弁当を予約注文しておくと、幕間にあわせて席まで届けてもらえます(公演により異なる場合もあります。お食事を予約する際にはご確認ください)。
⑥1階西10-2 提供:松竹
⑦1階西1-1。1列目とは別の近さがあります。もはや舞台上にいるような感覚です。 提供:松竹
1階の東側には「お土産処木挽町」があります。歌舞伎座オリジナル商品が充実しています。
演目にちなんだ、月替わりの和菓子も見逃せません。
・2階は1等席と2等席
歌舞伎座 座席表 2階
2階席は1列ごとに段差があります。(海外からの)賓客などが観劇される時は、2階席中央の最前列席からご覧になることが多いそうです。全体を見渡せる席です。
⑧2階1列24番より。
⑨2階1列43番。見切れはなく、花道のスッポンも見やすいです。
2階の東西も、桟敷席のように小あがりの仕様で机があります。お弁当を広げてゆっくりお召し上がりいただけます。1列目が1等席、2列目が2等席です。
各月、趣向を凝らしたお弁当が販売されています(ご観劇券にはお弁当は付いていません)。
⑩2階東8-1
⑪2階東1-1
2階東側は、舞台に向かって右側の一部が見切れます(1列目1番の場合、真上から見下ろす角度になります)。花道はよく見えます。
⑫2階東12-2は二等席です。
⑫2階東12-2から花道。
⑬2階8列46番。2階正面の8列目、9列目は2等席です。
・3階AとB、さらに後ろに幕見席
歌舞伎座 座席表 3階
オペラグラスさえあればとてもお得に観劇できそうです!
「宙乗りのある演目では、3階のこの辺り(正面下手側)に俳優さんがやってきます。それをお目当てに、3階席を選ばれる御贔屓の方もいらっしゃいます」
⑭3階2列17番
3階は、1、2階と比べ座席の幅、背もたれの角度や高さが少し変わります。
3階B席(7列18番)に座る千田さん。さらに後ろの手すりの向こうに幕見席があります。
⑮3階A席。西1。下手側や花道は見えませんが、舞台に近いです。
⑯3階A席。東15。花道を見られますが、上手側のお芝居は見切れがあります。
⑰3階B席。7列18番。
⑱3階B席。10列40番。
3階通路には「座・のれん街」というお土産どころがあります。
3階「座・のれん街」
3階B席のさらに後ろに幕見席があります。前日予約、または当日券で販売しています。一幕ごとに
いずれのお席も背もたれから背中を離す(前のめりになる)と、後ろに座る方の視界の妨げになります。ぜひ深く腰をかけて、ゆったりもたれてご観劇ください。
■歌舞伎座にドレスコードはありません
はじめて歌舞伎座に行く時に、服装に迷う方もいるのではないでしょうか。そこで歌舞伎座で働く方や歌舞伎座をよく観る方に、「友だちから、歌舞伎座に行くときの服装を相談されたらどう答えますか?」と聞いてみました。
「大切な人とディナーに行くときの服装」「カジュアルでもフォーマルでも、四つ星以上のホテルのロビーを歩けるくらいの清潔感」「たとえば花火大会って、何を着てもいいけれど浴衣だと気分アガるよね。歌舞伎座も、一番アガるのは着物かな。それだとハードルもアガってしまいそうだから、いつもより少しお洒落。少しアガる服。ちょっと傾(かぶ)いたっていいんです。一番好きなパンクバンドのTシャツだっていいんだから!」「ドレスコードはありませんから、周りに迷惑さえかけなければ何を着ても大丈夫。上級編ですが『口上』のある月なら一門の裃の色、『寺子屋』がかかる月には“松に「雪持」”の衣裳を思わせる色の組み合わせ等など、贔屓の俳優にゆかりの色をとり入れて、推し活を楽しまれる方もいます」
※ライター補足:「周りに迷惑」は、たとえばシャカシャカ音がなる素材の洋服、後ろの方の視界を遮る帽子、お団子やボリュウムのあるヘアスタイルなどが考えられます。舞妓さんのような髪型をしたい方は、桟敷席での観劇がおすすめです。
皆さんが口をそろえるのは「ドレスコードはない」、そして「楽しんでほしい」ということ。
思えば開幕初日や千穐楽の場内は着物姿の方が多く、同じ空間にいるだけで特別な気持ちになります。大間には渋い着物を着こなす方、シックなワンピースの方もいれば、ツーリストらしいラフなスタイルの方もいます。
最後に千田さんは、次のようにアドバイスをくださいました。
「劇場って、ハレの場なんですよね。ドレスコードはありませんので何をお召しになっても自由です。でも、せっかく歌舞伎座にお越しいただくのですから、ご自分の中のちょっとしたお洒落、よそ行きの気持ちで、その日1日のワクワクを楽しんでいただけたうれしいです。ぜひ歌舞伎座で、楽しい時間をお過ごしください」
協力:松竹株式会社、歌舞伎座サービス株式会社
取材・文・撮影:塚田史香
公演情報
『十二月大歌舞伎』
会場:歌舞伎座
【貸切】※幕見席は営業
第一部:15日(金)、24日(日
第一部 午前11時~
石川耕士 補綴・演出
市川猿翁 演出
一、『旅噂岡崎猫(たびのうわさおかざきのねこ)』
おさん実は猫の怪:坂東巳之助
由井民部之助:中村橋之助
お袖:坂東新悟
藤間勘十郎 演出・振付
超歌舞伎 Powered by NTT
二、今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)
中村獅童宙乗り相勤め申し候
初音ミク
佐藤四郎兵衛忠信:中村獅童
美玖姫:初音ミク
陽櫻丸:小川陽喜
夏櫻丸:小川夏幹(獅童次男)初お目見得
初音の前:中村蝶紫
青龍の精:澤村國矢
神女舞鶴姫:中村七之助
朱雀の尊:中村勘九郎
平岩弓枝 脚色
一、爪王(つめおう)
鷹:中村七之助
庄屋:中村橋之助
鷹匠:坂東彦三郎
竹柴潤一 脚本
西森英行 演出
二、俵星玄蕃(たわらぼしげんば)
当り屋十助実は杉野十平次:坂東亀蔵
大石主税:尾上左近
中村藤馬:市川青虎
村松三太夫:中村吉之丞
三村次郎左衛門:市村橘太郎
前原伊助:中村松江
吉田忠左衛門:河原崎権十郎
第三部 午後5時45分~
酒売り:中村種之助
猩々:中村勘九郎
泉 鏡花 作
坂東玉三郎 演出
二、天守物語(てんしゅものがたり)
姫川図書之助:中村虎之介
舌長姥/近江之丞桃六:中村勘九郎
薄:上村吉弥
小田原修理:片岡亀蔵
朱の盤坊:中村獅童
亀姫:坂東玉三郎