リートの星アップルが日本初リサイタル
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2023年11月28日(火)の東京リサイタル『魂の故郷』のプログラムは次の通り。
◇由来
◇場所
◇ひとびと
◇旅にて
(休 憩)
◇憧れ
◇国境を越えて
◇エピローグ
今回はあまり披露されない側面、次回以降に希望を託したいアップルの専門領域は現存作曲家との共同作業を通じたリートの世界の拡張だ。ジェルジ・クルターク、キット・アームストロング、マリアン・インゴルズビー、ニコ・ミューリー、スーザン・オーウェル、マティアス・ピンチャーらがアップルのために新作の声楽作品を作曲した。とりわけクルタークとは「ヘルダーリン・ゲザング(ヘルダーリンの歌)」を数度にわたって共同制作、2020年2月にドルトムントで行った対談形式のコンサートで世界初演した。師フィッシャー=ディースカウ顔負けの幅広い挑戦意欲といえる。
(C)David Ruano
リサイタルのピアノはここ数年の固定パートナー、南アフリカ出身で英国王立音楽院を卒業したジェームズ・ベイリューが担う。歌のピアニストとしてウィグモア・ホールの声楽コンクールなどに携わり、日本人ソプラノの中村恵里とも共演している。アップルとベイリューは2020年に「ALPHA」レーベルと契約、2020年7月にスイスのルガーノで中世から20世紀に至る愛の歌のパノラマ『禁断の果実』、2021年10月にロンドンでシューベルトの「連作歌曲集《冬の旅》」全曲をセッション録音した。リリースの順序は名曲の《冬の旅》が先で、『禁断の果実』は2023年の最新盤として出た。収録曲のリストには唖然とする
折々の曲間にはアップルによる「創世記」からの朗読が入り、エデンの園でアダムとイヴ(エヴァ)が食べてしまった禁断の果実の物語を言葉と音楽史の両面から紡いでいく。
『冬の旅』『禁断の果実』の両アルバムを聴き終えて思ったのは過去数年、アップルの声が急激な成熟を遂げ、さまざまな言語を歌い分け、それぞれの楽曲が描く世界、ほんの数分間のドラマを極限まで描く声色の使い分け、表現の切り込みが格段に巧みとなったことだ。もはやドッペルゲンガーどころか、百面相の域に足を踏み入れている。加えて身長196cmで小顔のモデル体型を維持しているようだから、ピアノ1台とのリートデュオ(歌の二重奏)であっても、オペラに匹敵するドラマの起承転結を視覚面も含め、味わえるに違いない。
文=池田卓夫
※出典:いけたく本舗(https://www.iketakuhonpo.com/post/リートの星アップルが日本初リサイタル)
公演情報
会場:浜離宮朝日ホール
出演:ベンヤミン・アップル(バリトン)、ジェームズ・ベイリュー(ピアノ)