本田礼生×古谷大和、エーステ愛を語り合うーー古谷が演出手掛ける神戸セーラーボーイズの魅力は「役者から溢れるフレッシュさ」
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左から本田礼生、古谷大和 撮影=高村直希
2023年4月に誕⽣した関⻄発の演劇ユニット、神戸セーラーボーイズが11月17日(金)〜26日(日)に挑む定期公演vol.1 『ロミオとジュリアス』『Water me! ~我らが水を求めて~』。戯曲 MANKAI STAGE『A3!』〜SPRING & SUMMER 2018〜の劇中劇を一部脚色したもので、演出を務めるのはMANKAI STAGE『A3!』(以下、エーステ)に出演していた古谷大和。その彼の元を「盟友」で定期公演のアフタートークにゲスト出演する本田礼生が陣中見舞いに訪れた。共に本作に縁の深い二人、期待の本番に向けて語り合った思いとは。
本田礼生、古谷大和
──まずはつい先ほど終えたばかりの通し稽古の感想からお聞かせください。
古谷:そう、通し、どうだった? もちろんまだ完成には遠い段階ではあるのだけど。
本田:今回、通し稽古を観させてもらうにあたっては、前情報は聞かずに、元の形からどうアレンジして上演されるのかなど全く知らない状態でした。でもこれは、やっぱり自分が演じた演目だからなのかなぁ。心が震えるものがね、めちゃめちゃありました。
古谷:ほぉ……。
本田:元々僕らも原作の『A3!』という作品で描かれているものを、必死に追いかけながら演じてきたんですよ。それを今度は神戸セーラーボーイズ(以下、セーラーボーイズ)がまた追いかけながら演じているその背中を見て、どこか自分たちの姿とリンクするような感覚がありました。また、僕らのことも見てくれながら演じているんだろうなぁという気持ちも感じました。
『ロミオとジュリアス』稽古場の様子
──原作を追いかける気持ちの共有プラス、既に演じてきたみなさんのことも追いかけてくれているという思いの重なりですね。
本田:自分の中で溢れるものがたくさんありました。
古谷:今日は礼生が来てくれてめちゃくちゃ心強かったです! 僕、ずっと神戸で、単身で、この身を捧げて。
本田:ハハハ(爆笑)。
──寂しかった?
古谷:とっても楽しく過ごしてたのですけどね(笑)。僕は基本はプレーヤーで、演出家としてまだそんなにたくさんお仕事してきているわけではありませんし、僕だけじゃなく、今回のこの企画そのものが新しいことに挑戦しているので。だからエーステで……いや、そのずっと前から役者として敬愛し続けている本田礼生が、こうして神戸まで来てくれて、劇場での通し稽古を見てくれて、素敵な思いを今こうして言ってくれてることがやっぱりとても心強いですし、励まされる思いです。
本田:うんうん。
古谷:たくさんの人たちと、たくさんたくさん考えてこの一歩を踏み出すわけですけど、まだそこに確かな道があるかもわからないですし、本当に足元を固めながらひとつずつひとつずつ進めているわけですよ。だからこうやって隣に「戦友」と呼べる礼生がいて、今作っている最中のものを観てくれたのは本当に嬉しいです。
『Water me! ~我らが水を求めて~』稽古場の様子
──すでにお話にも出ていますが、『ロミオとジュリアス』と『Water me! ~我らが水を求めて~』は、お二人も出演しているMANKAI STAGE『A3!』シリーズで(春組・シトロン役:古谷/夏組・斑鳩三角役:本田)、劇中劇として上演されている作品です。今回はその2作がエーステから飛び出し、神戸セーラーボーイズのみなさんが自身の公演で演じるという新プロジェクト。しかも演出を古谷さんが手がけるという新たな試み尽くしです。お二人は初めにこの企画を知った際、どんな印象を持ちましたか?
本田:僕は半々の気持ち。ひとつは驚き、そしてもうひとつはすごくワクワクしました。この2作はもともと『A3!』の中で皆木 綴(MANKAIカンパニー春組メンバーであり座付作家)が書いた作品ですよね。ひとつの戯曲があってそれをいろんな人たちが演じていくのは演劇の文化としてはよくあることで、それと同じように『A3!』の中で生まれた戯曲が、さらに『A3!』という世界の外へと飛び出していくという事実には、やはり心が踊りました! あの作品をまた新たな役者たちが演じていく。すごく素敵なことです。
──『A3!』からエーステ版へ、エーステ版からセーラーボーイズ版へと、戯曲が手渡されていって。
本田:僕は大和とはとても長い付き合いで、彼の芝居観、考え方、プレーヤーとしての表現の仕方をずーっと見ています。僕自身もですが、この作品を託していくみんなの中にも確かな信頼感があるんですよね。だから大和自身がこの2作を演出家としてどう表現するのか、どうお客さまに伝えていくのかというのはとても楽しみでした。今日観て「ああ、やっぱり面白い!」と思った。これからさらに稽古を重ねていくことで、劇場に足を運んでくださるお客さまや関わったスタッフさんたちの期待を超える作品になっていくんじゃないのかな。
古谷:僕はこの企画、素直に素敵なことだなと思いました。もちろん、発表の際にはたくさんの人がいろんな感情になるんだろうなぁとは思っていたんですけど。
本田礼生、古谷大和
──劇中劇が飛び出していくという意味では、『A3!』のファンのみなさん、そして、エーステファンのみなさんにとっても大きなサプライズだったと思います。
古谷:はい。そこは前向きに思っています。この2作は、スタッフさんも演者も、関わった人みんなすごく思い入れがあって、素敵だよねと思って作り上げた作品でした。それを観てくれた監督の皆さまにも、とても楽しんでもらっていたんです。
本田:(頷く)。
古谷:だからそれが違う形であっても、『ロミオとジュリアス』と『Water me! ~我らが水を求めて~』を、またお客さまに届けられるということ自体がまず素敵。それに、今回挑戦しているセーラーボーイズの役者陣が旗揚げ公演の時のMANKAIカンパニーのように若々しくって! そこは逆に僕と礼生のようにたくさん芝居をしてきた人には出せないものがあるんじゃないかと思います。エーステでは一度演じた作品なのに、まだ見ぬ世界が広がっていくかもしれないぞというワクワクとか、素敵なイメージもたくさん浮かんで来て……。演出に関しても、「自信があります!」という心持ちではないのですが、託してもらえるくらいには求めていただいてるのだな、「あなたに挑戦してもらいたいんだ」という気持ちなのかなと感じることがあって。なので、前向きな気持ちが大きかったですね。
──エーステと共通のスタッフの方も多いのですよね?
古谷:そうですね。そういうみなさんの気持ちを一身に背負う気持ちと、片や全面的に頼る気持ちとで(笑)、演出に向かいあっていこうと思えるお話もさせてもらうことができました。そこで「よし。僕にやらせてください」という言葉でお返事できたことは今でもしっかりと覚えています。挑戦して、ワクワクして、前向きに、という気持ちは稽古をやってきている今でも変わらずにあります。
稽古場で真剣な表情をみせる古谷大和
──演出として古谷さんがいてくれる事実。古谷さんが持っている作品への確かな解像度は、『A3!』とエーステと神戸セーラーボーイズとを繋ぐ上でまたとない信頼感にもなって。
古谷:もちろん、まっさらなところから関わる演出家さんが手がけることによる良いこともたくさんありますが、出演していた役者が演出することの良さもきっとある。今おっしゃっていただいたように、僕がこれを演じていたからこそ表現できるであろう演劇を、セーラーボーイズのみんなと作れたらいいなと思っています。
──では演出にあたって、何か「核」として決めていることなどはありますか?
古谷:僕は出演もしてますし、エーステという作品が大好きなんですよ! さらに、その奥にある『A3!』という原作も好きで。だからその「好きだ」という気持ちと、「なにが好きでどこがお客さまに届くと良い作品になるだろうか」という意識を大切にしてやりたいなとずっと思いながらここまできています。その気持ちの中に、セーラーボーイズのメンバーそれぞれの魅力とか、彼らがやる意味とかを乗せて、お客さまに届けられたらと。
──そうした古谷さんの思い、本田さんも通し稽古の客席で感じ取っていたことと思います。
本田:まさにそうでしたね。
古谷:え、ほんとにー?(笑)
本田:ホントホント! 今の質問逆の順番で答えたかったくらい(笑)、自分が感じていたことを大和が言っているなぁと思ったし。まさに一言一句、句読点まで同じでした(笑)。
古谷:ハハハ(笑)。
本田:今回は僕らが演じた劇中劇そのままの尺でやるわけではなくて、少し膨らませている部分がある。そこに関しては新しい出会い、未知の世界でした。そこの表現、ひとつひとつのセンテンスの中に大和がすごく細かく……『ロミオとジュリアス』、『Water me! ~我らが水を求めて~』という物語の良さと素敵な部分、伝えたいところを見失わないよう、慎重に稽古してきたんだろうなと感じました。
古谷:へえぇー。
稽古を見守る本田礼生
本田:だから愛のある人が作ったんだなぁというのを、めちゃくちゃ受け取った。僕は多分、これから観てくださるお客さまと同じ目線で今日ここに来てるんですよね。
古谷:そうだよね。「エーステのあの劇中劇が一体どうなってるんだろう?」と思いながら観てくれてた。
本田:そうだね。で、実際に通し稽古を観終わった今は、第一に作品が面白い。『ロミオとジュリアス』も『Water me! ~我らが水を求めて~』も原案のお話がめちゃくちゃ面白い。まぁ、既にご存じだと思いますけどね(笑)。その上でさっき大和も言っていましたが、フレッシュで、これからの未来が楽しみな役者が演じているのは、どこかMANKAIカンパニーにもリンクする部分だったり。ノンフィクションな感覚で受け止められるようになっているから……それはやっぱり僕たちにはない魅力、かなと(笑)。
古谷:ハハハ(笑)。僕らどうしてもフレッシュを「纏って」演じることになるから。
本田:そう! それは例えばシトロンだったり三角に助けられて僕らが表現できているんだけれど、そうじゃなくてセーラーボーイズのみんなは役者本人から溢れるフレッシュさが役者として純粋に……。
最年少中学2年生の髙橋龍ノ介(シンドバッド:大橋⻁ノ介 役)
──天然素材としてそこに「ある」。
本田:僕らも純粋ですよ! 純粋なんですが、真っ白な状態で等身大にぶつかっていく様というのはやっぱり心を震わされる。技術うんぬんじゃないところでの表現は、それこそ演劇ならではのパワーなんじゃないですかね。
古谷:それはもう僕たちはできないからね。というか、出せないんですよ。あれをお芝居じゃない状態で出せと言われても……。
本田:出せない。
古谷:それを出しちゃってるんだよね、彼らは。
本田:そうなんですよ。それをすごく見せつけられました。さっきも舞台上の彼らを観て僕は自然と笑顔になっていたんです。それが本当に素敵なことだと思うんです。僕らはもうあの手この手を尽くして引き出しているのに(笑)。それは今、この時の彼らにしかない魅力なんですよね。
最年少組 崎元リスト(ロレンス神父:崎 フランツ 役)
──そんなピュアなセーラーボーイズたち。稽古場での様子はいかがですか?
古谷:やっぱり新しいプロジェクトだし、みんなも多分プレッシャーを背負っているとは思うんです。でもそれを気丈に振る舞って隠すということもせず、だからと言ってネガティブさもなく、稽古外のところで楽しくおしゃべりしていたり……(笑)。なんかね、僕はそうやってうるさく楽しくしている姿を見ても、「ちゃんとしてない」、「意識が低いのでは?」みたいなマイナスな気持ちは起こらないんですよ。しっかり自分の持つべきものを背負っているのに、みんなでワイワイ楽しく過ごして、稽古には真摯に向き合っている彼らの普段の姿全部が、僕らが最初にMANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018~で踏んだ時の、あの役柄たちと向き合っていた時のような感覚で……似ている、とかじゃないんですよ。
本田:(頷く)。
古谷:初舞台に向かっていく時の、右も左もわからない人たちが、「なにもなく向かっていって良いわけじゃない」という状態を、彼らが自然体で稽古の中で見せてくれた。それが僕はすごく感動的だった。暗くなるんじゃなく、でもいろいろ試行錯誤しながらも僕が望む表現に近づこうとしている姿が役者としてとっても素敵で。それが、違う形だけど、初舞台に向かっていくMANKAIカンパニーにもあったから。そういうのが少し懐かしくて。この稽古を振り返ると青臭くって素敵だったことがいくらでもあるんですよ。
──大人にとっては青春の追体験、的な。
古谷:そう、もう、32歳にしてハートにアオイハルみたいなものを感じられて……現場では顔にも言葉にも出しませんけど(笑)、「ああ、なんて素敵な稽古期間だろう」と思いながら日々過ごしています。
インタビュー後に「もっとみんなの好きな気持ちを出して!」とアドバイス
──本田さんはセーラーボーイズのみなさんとなにかお話しされましたか?
本田:さっき通しが終わってすぐこのインタビュー場所に移動してきたのでまだなんです。この後、みんなのところに行くので、ぜひ「密」に話をしたいなと。
古谷:おおっ。
本田:今彼らが大和と一緒に目指している方向に当てはまるかはわからないですけど、何か聞いてくれたら答えられることもあるかもしれないし。でもまずは今日の感想をしっかり伝えたいですね。
撮影中も会話が止まらない本田礼生、古谷大和
──ここからはキュッと最後の仕上げにかける時間となります。本番に向け、本作を楽しみにしてくださっている皆さまへもぜひ、メッセージをお願いします。
本田:今日まず思ったのは、この演目に関わってくれているキャストやスタッフさんたちみんな、『A3!』、エーステが好きなんだなぁと感じました。ホントに愛が溢れていった結果、今こういうことになっているんだと。この空間にいて、通し稽古を観ることができて、とても幸せな気持ちになりました。劇場にもたくさんの方に観に来ていただいて、僕たちと同じように、この愛を共有してほしいなとすごく思いました。ここから本番までの時間、まだまだたくさんのことができるでしょうし、さっきも大和が後ろでたっくさんパソコンをカチカチカチとタイプしていたから(笑)、それがまたここから生かされていくんだろうと思うと楽しみです。公演中は僕もトークゲストでお邪魔しますが、出番前にテンションが上がって舞台上に駆け上がってしまわないよう注意しながら(笑)、本番を楽しみに待ちたいと思います。
──演出という大役を担った古谷さんの元に今この段階で駆けつけているという事実は、本田さんご自身の愛情の深さも物語っていますよ!
本田:大好きな人たちがたくさんいるのでね、来てしまいましたよー。それと、僕は今回の大和に対して別に「大役を担った」とは思ってはいないのです。なので特に応援の言葉はないです(笑)。「頑張れ!」と言わなくても彼はちゃんと頑張っているし、僕はもう単純に今日大和に会えて嬉しかった。それだけ! 彼が作っているものを観て、話もできて……ご飯も食べに行きたいなぁ。いろいろ話したい。今日来られて良かった。ありがとう。
古谷:うん、ありがとね(笑)。ホント、今日は二人でいるとずーっと笑ってるもんねぇ。
本田:うんうん。
古谷:では最後に。本番を待ってくださっている皆さま、たくさんいろんな気持ちを抱いていることと思います。『A3!』を好きな人、エーステを好きな人、セーラーボーイズが好きな人、演劇が好きな人、いろんな人が、いろんな気持ちを秘めて劇場に来てくれるでしょう。その思いのまま、この作品を観に来ていただけたら嬉しいです。そして、その先にみなさんの心の中に生まれたものがあったかいものだったらいいなぁと、切に願っています。今しかない、彼ら神戸セーラーボーイズの精一杯の気持ちを込めてこの作品のメッセージを届けます。ぜひ、ご来場、お待ちしております。
本田礼生、古谷大和
取材・文=横澤由香 撮影=高村直希
公演情報
【劇場】AiiA 2.5 Theater Kobe(神戸)
【脚本】松崎史也
【演出】古谷大和
【音楽】Yu(vague)
【アクション】加藤 学
【キャスト】
『ロミオとジュリアス』
ロミオ:中城碧月 役 / 中川月碧 ジュリアス:塚本晴人 役 / 塚木芭琉
マキューシオ:中田颯真 役 / 田中幸真 ティボルト:奥田 頼 役 / 奥村頼斗
ロレンス神父:崎 フランツ 役 / 崎元リスト
アリババ:明石田 侑 役 / 明石侑成 シェヘラザード:摂津士郎 役 / 津山晄士朗
シンドバッド:大橋⻁ノ介 役 / 髙橋龍ノ介 ランプの魔人:石川幸斗 役 / 石原月斗
アラジン:細貝 奏 役 / 細見奏仁
【主催】神戸セーラーボーイズ製作委員会
【オフィシャル先行】2023年9月23日(土)21:00〜
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TEL:050−3185−6683 (10:00〜18:00オペレーター対応)
【公演に関するお問い合わせ】ネルケプランニング https://www.nelke.co.jp/about/contact1.php
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