9年ぶりの再演がスタート 清原果耶、小関裕太らによる 舞台『ジャンヌ・ダルク』公演レポート
-
ポスト -
シェア - 送る
舞台『ジャンヌ・ダルク』
演出・白井晃、脚本・中島かずき(劇団☆新感線座付作家)、音楽・三宅純のタッグで2010年に初演、2014年に再演が行われた舞台『ジャンヌ・ダルク』。イングランドとの百年戦争に疲弊したフランスに現れてめざましい活躍を遂げ、異端として火刑に処されたジャンヌ・ダルクという少女を描いた歴史スペクタクルだ。
9年ぶりの再演となる今回、ジャンヌを演じるのは舞台初出演にして初主演を務める清原果耶。さらに、小関裕太、福士誠治、島村龍乃介、深水元基、山崎紘菜、坪倉由幸(我が家) 、野坂弘、ワタナベケイスケ、粟野史浩、りょう、神保悟志、岡田浩暉、榎木孝明と、オール新キャストで若手からベテランまで多彩なキャストが集結した。
2023年11月28日(火)に初日を迎えた公演の様子をレポートする。
フランスの田舎・ドムレミ村で育った少女、ジャンヌ・ダルク(清原果耶)。イングランド兵の襲撃に遭った彼女は、「フランスを救え」という啓示を受け、王太子・シャルル(小関裕太)の戴冠式を実現するために行動し始める。
傭兵レイモン(坪倉由幸)とケヴィン(島村龍乃介)の助けや民衆の支持も得て、ジャンヌはシャルルへの謁見を果たす。ランス大聖堂での戴冠式を約束した彼女は、自ら甲冑をまとって戦に身を投じ、タルボット(福士誠治)率いるイングランド軍に占拠されていたオルレアンを奪還した。神の声に導かれるように勝利を収める彼女に鼓舞され、勢いを増すフランス軍。だが、ジャンヌの奇跡は長続きしなかった――。
清原は舞台初出演・初主演らしいピュアさと、初舞台とは思えないほど堂々とした佇まいで抜群の存在感を発揮する。素朴な少女の見た目と力強い声、可憐さと猛々しさのギャップに惹きつけられ、ただの村娘である彼女がどんな活躍を見せてくれるのかワクワクしてしまう。そして、“神の声”が聞こえなくなってからの不安、それでも困難に毅然と立ち向かう強さなど、ジャンヌという人間の生き様に胸を打たれる。射抜くような強さを持つ瞳、落ち着いたよく通る声が印象的で、この先様々な舞台作品で清原が活躍する姿を見てみたいと感じさせてくれた。
もう一人の主人公とも言えるシャルルを演じる小関は、鬱屈した思いを抱える青年の胸の内を丁寧に見せる。シャルルの悩みや苦しみとその背景がしっかりと描かれることで、ジャンヌが自分を見つけたことへの喜び、宣言通りに戴冠式への道を切り開いたジャンヌへの想い、王としての葛藤も伝わってくる。時代に翻弄されながらも王として成長していくシャルルの物語も魅力的だ。
シャルルを挟んで対立するヨランド(りょう)とラ・トレムイユ卿(神保悟志)の腹の探り合いなど、愚直なまでにまっすぐなジャンヌとは真逆の静かながら緊張感に満ちた戦いも見応え抜群。そんな中、懸命にシャルルを支えようとする王妃マリー(山崎紘菜)の愛らしさと健気さが清涼剤となっている。
また、エキストラを含めて総勢110名を超えるキャストが参加している本作。客席も使い、フランス軍・イングランド軍の戦力差や勢いを、臨場感を持って見せている。ジャンヌによって士気を高めたフランス軍の、劇場全体を揺るがすような熱気に圧倒された。ステージに傾斜がついていて奥行きが見えることもあり、多くのキャストが一堂に会する戦場や戴冠式のスケールが一見してわかる。
厳かさや不穏さを効果的に演出する音楽をはじめ、衣装や美術、照明といったクリエイティブも見逃せない。王や貴族は煌びやかな衣服に身を包み、大柄な兵士たちも多くいる。その中で、質素な衣服を着た小柄な少女が凛と立つ様子は異彩を放っている。総合芸術としての演劇の魅力、舞台では滅多にない大人数のキャストで作り上げる大スペクタクルの魅力を存分に堪能することができた。
作中でも度々言われるが、ジャンヌは猪突猛進に行動しているだけ。それでも仲間が奮い立ち、彼女の奇跡に懐疑的だったり反発していたりする者たちも味方につけ、敵国イングランドや教会に危険と判断される理由が、一つひとつのセリフやキャラクターたちの表情からも理解できた。
一番近くでジャンヌを支えるレイモンとケヴィン、共に戦うアランソン公(深水元基)たちフランス軍とのやりとりは、緊迫した戦時下でもどこかあたたかくホッとさせてくれる。
また、優秀な兵士だからこそジャンヌの躍進に戸惑うタルボット、プライドを持ってジャンヌを異端審問にかけるコーション司教(榎木孝明)、イングランドの権力者だがジャンヌの姿に感銘を受けるベッドフォード公(岡田浩暉)など、敵として描かれる人々にも人間味があり、単なる悪とは切り捨てられない。戦争の残酷さや人間の愚かさがリアルに描かれつつ、一人ひとりが魅力的な人間として存在していた。
計算などなく、信じるものに突き進むジャンヌの姿は眩しくも危うい。コロナ禍での混乱や各国で起きている痛ましい戦いといった出来事を目の当たりにしている現代人にも、彼女の純粋さやリーダーシップは羨望や畏怖の念を抱かせるのではないだろうか。約600年前の出来事をもとにした物語でありながら、今を生きる私たちにも多くのメッセージを与え、様々なことを考えさせてくれる。
ひたすら前に進んでいくジャンヌを取り巻くたくさんの思惑。フランスとイングランドの宮廷や軍人、教会、それぞれの立場と正義がぶつかり合い、大きな渦となっていく様子と、その中で自分を貫いた少女の生き様を、ぜひ劇場で体感してほしい。本作は12月17日(日)まで東京建物 Brillia HALLにて上演された後、12月23日(土)~26日(火)まで大阪・オリックス劇場でも公演が行われる。
取材・文=吉田沙奈 撮影=田中亜紀